「………………ここは?」
「あら、目が覚めたのね」
マダム・ポンフリーがこちらに振り返る。
「貴女、箒にのってる途中で気絶したのよ。マダム・フーチが申し訳ないって言ってたわ」
「そうですか……」
一人頷いていると、遠くからパタパタと足音が聞こえた。
「ダンブルドア先生!」
「あぁ、ラーニャ、はじめまして。母親そっくりじゃの」
「よく言われます」
「で、いま、その母親からフクロウ便がきたんじゃ。見なさい」
手紙を受け取って眺めると、懐かしい細く整った文字が綴られていた。
「そこに書かれているように、君は特別に飛行訓練をしないこととする。ぎりぎりで初めての授業に間に合わんかったようじゃがな」
「はぁ。でも、そんなことして大丈夫なんですか?」
「かまわんよ、なにせわしが校長なんじゃ」
そういって、校長はいたずらっぽく笑った。
「君のトラウマについては聞かせてもらったよ、ラーニャ。今は休みなさい」
校長が去った後、私は眠ってしまった。
◆ ◆ ◆ ◆
六歳のころ、初めて舞踏会に行った。
楽しかったけれど、少し疲れてしまって、体が火照って熱かった。
だから、涼むために外に出て、テラスで夜風にあたっているところで。
いきなり、突き落とされた。
突き落とされた、というよりは、放り投げられた、というほうが正しいかもしれない。
一度抱えあげられてから、外に投げられた、と。
痛くはなかった。
ただ熱かった。
それからは何か月も寝たきりで、なかなか治らなくて、そもそも治るかどうかが分からなくて。
何もする気にならなかった。
みんなが私に気を使ってくれるのが、余計しんどかった。
私を突き落した男はたまたまそばを通りかかった男で、小者の殺人者だったらしい。
理由はとくになかったそうだ。
まもなく死刑にされたらしいが、私にとってそんなことはどうでもよかった。
動かない体を見ながら、死んだほうがましだと思い続けていた。
「………ん。すみません、寝ちゃったみたいで」
「いいのよ。幸い外傷はなかったみたいだけど、立てるかしら?」
「はい、もう平気です。ありがとうございました」
寮に戻ると、ロザリーがベッドの上で口いっぱいにお菓子を詰め込んでいた。
生半可ではない、もうそれはむしろえげつないと言えるような、常人には理解しがたいほどに甘ったるそうな菓子だった。
「おかえり、ラーニャ。具合はどう?」
「もうだいぶ落ち着いた。ありがとう、ロザリー」
「ういうい。あ、ノート勝手に写しといたけど、こんな感じでオッケイ?」
ぽんと投げてよこされた羊皮紙には、分かりやすくまとまった丸い字が書かれている。
「え……これ、私のために?」
「そうそう、普段からノートあんまし真面目にとってないからあれだけど、ちゃんと分かりやすくなってるっしょ?」
「――――――…………」
「あれ、ごめん、字ィ汚すぎて読めなかった?」
「ロザリー………」
「えっ、ちょっ、うわっ!?」
思わず、ロザリーの小さな体を抱きしめてしまった。
この子が友達でよかったと、心から思う。
「なんだよー、あたし、こんな当たり前のこともしないような奴に見えてたのかよ。ちょっとガッカリー」
「え、あ、ごめ……」
「へへへ、うそうそ。ま、無事に帰ってきてくれてよかったよ」
ロザリーはにぃっと笑った。
感想がちょくちょく書き込まれてて感動です!
ありがとうございます。