守りたいんだ   作:未完

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そういえばユーザー名を変えました。改めてnismonと申します。

前の話をこそこそ修正してますが、内容は変わっていないので読み直さなくても大丈夫です。


責任の場所3

 「先生いますか?」

入り口から職員室の中を覗く。

「あら、神崎さん。」

先生は自分の席に座ってなにやら資料の整理をしていた。見ると

「どうかしたの?」

「ちょっと相談があるんですが。」

それから若狭と話した事を伝えていった。

「確かに料理はできるといいわね…水と電気は使えるから。」

この学校はしっかり電気と水が使える。浄水施設と発電施設があるからだ。災害時用に作られたものだろうがとても助かっている。学校の外はどうなのかわからないが、恐らくそういったライフラインは働いていない。夜の街は真っ暗だ。

「でも調理室は二階だからまだ無理ね。」

「そうなんですけど、道具だけでも持って来れないですかね。電子レンジとかガスコンロとか。」

ついでに購買でレトルト食品を調達すればそこそこの食事が食べられる。

「そうねえ…後でみんなで話しましょう。」

何かするときはみんなで決める。話し合って綿密に計画を立てないと危険だ。

「おっすめぐねぇ、…っと先輩もいたのか。」

胡桃がドアからにゅっと出てきた。手元にはスコップを持っている。

「恵比寿沢さん、どうかしたの?それとめぐねぇじゃないでしょ。」

「はーい、佐倉先生。」

「もう」

なんだか先生にはプンスカという擬音がしっくりくる。このやり取りも見慣れてきたな。テンプレ化している。先生的にはこの呼び方は威厳がないとか言ってるが、当然それも本気で嫌なわけじゃないだろう。生徒に近い先生ってことで人気が高いのにも納得だ。

「そうそう、何か仕事無いかな?暇なんだけど、特にやることがなくて。」

どうやら暇なのは俺だけじゃないようだった。若狭も園芸に手を出していたので彼女たちは少しずつ余裕ができはじめたのかもしれない。

「特に無いわね。」

バリケードや制圧の作業時間を増やすべきだろうか。でも、余り焦ってもなあ。

「屋上で若狭が作業してたから手伝ってきたらどうだ。」

「りーさんが?そうか…じゃあ行ってくるよ。」

「そうだ、胡桃さん。作業終わったら生徒会室に来てくれない?悠里さんも連れて。話し合いたいことがあるの。」

「ん、わかった。」

そう言って彼女は職員室から出て行った。

「あとは由紀ちゃんね…」

先生の顔が暗くなる。さっき余裕がでてきたといったが皆ではない。全員に当てはまりはしないのだから。

 

 

 

 ここはある教室。そこには涙を流し続けている一人の少女がいた。机と椅子がすべて持ち出されたこの部屋。その殺風景さがその儚さを際立ている気がした。一度声をかけようとして戸惑ってしまう。いけない、気を取り直してもう一度だ。

「由紀ちゃん、ちょっと良いかしら。」

「…めぐねぇ?」

私に呼ばれた彼女は少し急いで目をこする。その後椅子から立ち上がった。私の方に向けられたその目は赤く腫れている。

「どうかしたの?」

「うん、この後皆で話し合うから呼びに来たの。」

彼女はあの日以来、一人の時はずっと泣いている。

「うん、わかった。」

そう言った由紀ちゃんはまた椅子に座ってうつ向いたてしまった。その様を見ているとまるで今にでも折れそうで不安にさせられる。彼女は一番この事態にショックを受けているようだった。最初の頃は安心させるように言葉をかけていた。でもその言葉が彼女の傷ついた心に届くことは無かった。

「ねえ、めぐねぇ。もう、戻れないのかな…」

ぼそりとはき出したその言葉は痛いほど染み渡る。

「ごめん…みんな大変なのに、私だけこんなんじゃだめだよね。」

顔をあげて彼女は微笑んできた。その笑顔がとても儚くて胸が締め付けられる。

「いつか、きっと戻れるわ。だから今はがんばりましょ。」

そういって私は彼女を抱きしめた。

「うん」

彼女のために何かしてあげたい。そう、いつも思う。でも何もできなくて自分の無力さに絶望する。こんなままじゃだめだ。私は彼女の、皆の先生なんだから。

 

 

 

 

 「というわけでその内、購買部と家庭科室にいろいろ取りに行く。」

場所は生徒会室。現在作戦会議中である。

「そのくらいなら私が一人で行って来た方が良いんじゃないか。」

胡桃からの案。胡桃なら可能なのかもしれないが。

「胡桃には行ってもらうが単独行動は却下だ。二階の状態が全然わからないからな。」

即座に却下する。一人で対処できない可能性がある。三階制圧の時は奴等の処理をほとんど胡桃に任せたが、危うい場面もあった。出来るだけ一人への負担は軽い方が良い。

「でも、そうするとどうするんですか。全員で行くのは…」

全員で行くのは得策じゃ無い。みんなで囲まれたらそれでおじゃんだ。それに丈槍の状態がが心配でもある。

「誰かがまず偵察しにいって、仮のバリケードを作るのよね?」

先生がそう言った。

「そのつもりです。その後みんなで分担して物資を調達する、と思ってるんだけど。皆もそれで良いか?」

若狭が挙手をした。

「質問なんですけど、誰がそのバリケードを設けるんですか?」

「…俺と胡桃で行こうと思う。」

「それこそ却下だ先輩。腕、全然治ってないだろ。」

胡桃がぴしゃりと言い放った。さっきの腹いせも兼ねているのか少しむっとした顔をしている。確かに俺は腕を怪我してるが。それも考慮した上での人員選択だ。

「俺は仮にも男だし、みんなよりは力に余裕があると思うんだが。どうだ。」

「けがが治ってからじゃだめなのかな。」

おずおずという感じで丈槍が聞いてくる。

「それも考えたんだけどな…」

今の状況を踏まえた結果。何も動かないのはよくないと思ったのだ。もし購買部が使えなかった時、食料がないと次の手を打つ時間がなくなる可能性がある。だから物資的な余裕があるうちに動こう、と思うのだけど。

「確かにそうですね。」

「私はそれが良いと思うわ。」

「私も…」

みんな少し迷っているようだったが俺の意見に賛成してくれるようだった。丈槍は頷いても少し微妙な顔をしていて、胡桃は納得していなかったようだが…

「じゃあ計画を立てよう。」

それからはみんなで計画を立てていく。実行は明日の早朝になった。外は段々と暗くなっている。空の雲は重く垂れ込めていた。

 

 

 

 むくりと私は起き上がった。何となく目が覚めてしまった。明日は早いのでしっかり寝たい。もっとも最近はぐっすりと眠れることはなかなか無いのだが。昼間の陽気は夏の気配も感じるけれど、流石に夜は寒かった。私は合宿などで使われるであろう硬いせんべい布団から身を出だした。そしてスコップを持ち、音を立てないように部屋から出て行った。御手洗いへ向かう。本当は単独行動は安全面からしてはいけない。だけどこれくらい問題ないだろう。

 

 鑑の前でタオルを口にくわえながら手を洗う。石けんを泡立てながら私は少し考えてみる。

(どうやったら先輩への危険を減らせるか…)

確かに先輩ほど動ける人は他に居ないけど。でもやっぱり怪我人である。充分過ぎるほど危険だ。 でもきっと言っても先輩は折れないだろうし、実際、私たち二人以外に奴らた相対するのは無理だろう。

やるときに負担がかからないように動くしか無いか…

用を済ませた私はスコップを持ち廊下へと出た。明日は大きな仕事があるから早く寝なければと思う反面、またあの夢が…という気の向かなさもある。しかし、その時寝室である資料室に向かおうとする私の耳に、

ガタッ

という音が聞こえてきたのだった。急いで音のした方を向き、スコップを構えた。暗くて視界が不自由だが何とか目を凝らしてみる。しかし、そちらには何も居なかった。廊下では無くもっと奥、階段の方から聞こえてきた音であるようだ。忍び足でゆっくりとそちらへ近づいていく。近づくとともに気味の悪い吐息のようなものが聞こえてきた。やはり奴らだった。バリケードの前まで来た。その鉄線の貼られたその壁の向う側に一人がいた。

(やるか…)

完璧な単独の行動になってしまう。皆にバレたら文句を言われそうだ。特に先輩あたりにはきつく言われてしまうだろう。でも、一体くらいなら危険もないし大丈夫。誰かに言い訳のようなものをしながら私はバリケードを登っていく。音は立てていないので奴はこちらには気づいていない。寝間着であるジャージのポケットからピンポン球を取り出す。もし何かの時のためにピンポン球を用意していたものだ。それを奴の向こう側へと投げた。奴らは音に過剰に反応する。予想通り私の投げたピンポン球へと奴らの気が向いた。それを確認してすぐにバリケードから飛び降りる。着地音はさすがに消しきれなかった。奴の気がピンポン球から私に移った。けどもう遅い。

「…っは」

軽く息を吐き、勢い良くスコップを振るった。足元をすくって床に倒させる。間髪入れずに奴をを踏みつけ、首元を狙ってスコップを突き刺した。スコップのさじ部が赤く染まった。

「…ふぅ」

また息を吐いた。今度は緊張を解く息だ。それでも周囲の警戒を怠っては居ない。

…あ、やべ。血塗れのスコップをみたら皆に全て悟られるよな。服は気をつけたから汚れてはいないけれど。

屋上に行って流すか。転がっていたピンポン球を拾ってから。私はバリケードの方へ戻ろうとした。

だが、不意に二階へと繋がる階段へと視線を向ける。そこで先輩やみんなの顔が浮かんできた。

 

 

…そうだ、今ならできるんじゃないか。

 

 

後から考えればこの時すぐに戻っていれば良かった。後悔っていうのは先に立たないから後悔なんだろう。


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