守りたいんだ   作:未完

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始まりの日2

私は陸上部に入っていた。走るのは嫌いじゃない。だけど、部に入った理由は割と不純だ。

 

 

 

 

 

 

 

 「はあ、はあ・・・」

「よっす、お疲れ」

走り終わった私に声をかけてくれる人。私のあこがれてる人だ。

「すげぇな、タイム聞いたぞ?また更新したって。」

胸の鼓動が高まる。

「せ、先輩ほどじゃないですよ。」

「いやいや、俺なんか大したことないって。」

その声を聞くだけで緊張してしまうのは何故だろうか。

「それよりいいんですか、勉強しないで。先輩受験生ですよね?」

「えっ、あ、ああ、あれだ気分転換だよ、うん。」

焦った様子で答える先輩。最近気分転換ばかりし過ぎじゃないだろうか。

「なんだか、気分が乗らなくてな~」

「そんなこと言って浪人しないでくださいよ。」

そう、彼は今年でこの学校からいなくなってしまう。

「ひどいこと言うなよ、まあ頑張るさ。胡桃も頑張れよ、今度大会だろ?」

それまでにこの気持ちに答えを出せるのかは・・・わからない。

 

 

 

 

 

 事故があったという道を迂回してきたため、結構遠回りになってしまった。

何事もなく目的地に着いたのはよかったことだ、と母校を見上げる。

・・・もう卒業して約三か月たったのか。

「年取るほど時間の流れが速くなるっていうけど本当かもな。」

まずは顧問に話を通す。俺がいた時と先生が変わっていないので話は簡単に済んだ。

「さてと・・・お、やってるねぇ」

校庭で走ってる陸上部員。がんばってる彼らの姿を見るとなんとなくやる気が出てくる。男子が先に記録を取っていたので、先に男子の方に顔をだすことにする。

どうやら三年生は最後の大会がだんだんと近づいてきたためか、気合が入ってる。

「次は女子か・・・」

女子が記録を取り始めた。

あいつも走るのかなと周りを見渡し探すが、見当たらない。もしかして休みなのか?

そうすると残念だ。他に知り合いを探すか・・・

 

「先輩?そ、(そう)先輩?」

 

背後から、声が聞こえる。それは久々に聞いた、そして、俺が探していた後輩の声だった。

 

 

 

 

 

「胡桃、先輩が来たらしいよ。」

「へっ?」

陸上部の仲の良い女子が私に話してくれた。

「先輩ってどの先輩だ?」

基礎練が終わったので今は休憩時間。ドリンクの栓を抜き口につける。

「それがね・・・なんとあの神崎 颯(かんざき そう)先輩だよ!」

「!!ゴホッゴホッ!」

「ちょっと、大丈夫!?」

驚きのあまりスポーツドリンクかどこか変なところに入った。ちょっと待って今なんて・・・

「神崎先輩だよ!胡桃の大好きな!!」

「違っ!好きとかそんなんじゃ・・・・」

顔がほてる。きっと今傍から見たらゆでダコのように真っ赤だろう。

「ほら、行ってきなよ。今男子の練習見てるってさ。」

「むぅ・・」

どうしてもやっぱり気になったので見に行くことにした。期待半分疑い半分のまま彼の姿を探す。

ちょうど男子の記録が終わったらしい。あたりを見渡して、私服姿の彼を見つけた。その格好を見て少し離れてしまったことに落ち込むが、

今彼はここにいる。私は声をかけた、あこがれの先輩に。

 

 

 

 

 

 

 「オンユアマーク!」

掛け声がかかる。緊張感が高まる。この緊張感はかけがえがない。普通の練習では感じられない。でも、ただでさえ鼓動が速いのにこれ以上加速して大丈夫なのだろうか。・・・先輩に会ったせいだ。

「セット!」

ちゃんと走れるかな・・・?

パァンッ!

ピストルの音が鼓膜を震わす。地面をおもいっきり蹴りだす。いいスタートだった。

顔をあげると視界に彼の顔が入った。途端に高揚感に包まれる。

走るんだ、全速力で、見てもらうんだ・・・!

今できる自分の力を最大限まで出し切る。後もう少し!

 

 

 

 

「よっ、お疲れ。」

全力を出し切って座り込んだ私に、ドリンクとタオルを持ってきた彼は、その後私の隣に座った。いっそう鼓動が高まった。

「久しぶり先輩・・・珍しいですね。」

彼は今年度に入ってから一度も部活に顔を出したことがなかった。卒業してしまったのだから当然といえば当然なのだが・・・

「ああ、暇になったんでな、ドライブがてら顔出したんだ。」

先輩はずいぶんかっこいい車を持っている。本人曰く『狭くて不便なんだがな、二人しか乗れないし』だそうだ。二人・・・

「どうした?顔赤いぞ?」

「な、なんでもない!息が整ってないだけだから・・・」

こんなままではいつまでたっても息が整いそうにない。

「そうか?まあ、あれだけ走ったらなぁ・・・また一段と速くなったんじゃないか?」

「そんなことないです、先輩ほどじゃない。」

「俺なんか大したことないって。」

いつかの会話に似ている。久々で懐かしいこの感じ。

「みんな、先輩に見てもらって速くなったって喜んでますよ。」

先輩は人の観察をするのがうまい。

「はは、そりゃ嬉しいね。来たかいがあったってもんだ。」

そう言って微笑む先輩。思はず目が離せなくなる。それほど魅力的だった。

「ん?どうした?」

その時こっちを振り向いて不思議そうな顔をする先輩と目があった。

「な、なんでもない!」

「そ、そうか。」

目が合ちゃった・・・・!

形容のできない感情に胸が押しつぶされそうだ。この思いを私はどうしたいのだろう・・・

「・・・先輩、私ちょっと、行きますね。」

「?まだ休憩時間だけど・・・」

「お手洗いです。」

立ち上がった私はそう言った。

「お、おう。悪い・・・」

気まずそうに頬をかく先輩。

今一緒にいると何か言ってしまいそうだった。

いったいこの気持ちがどうしたら良いのか、誰かに相談できたらいいんだけど・・・

 

 

 

 

 

 

胡桃が行ってしまったので一人になる、どうしたものかね。

「先輩!どうでしたか!」

とその時女子に声をかけられた。彼女は陸上部で胡桃とよく話している子だ。

「どう、って何が?」

「胡桃のことですよ!何か進展ありましたか!?」

目をキラキラさせて聞いてくる。何を期待しているんだか。

「胡桃とはそんなんじゃない。・・・って高校にいる時も言わなかったか?」

デジャブ感。

「そうですけど・・・もう、早くしないと誰かに取られちゃいますよ!」

取られる、か。心の奥底かよくわからない感情が這い出そうとする。俺はそれを抑えこんで平然を装う。

「あ、もう練習始まるみたいなんで行きますね。」

「ああ、がんばれよ」

「胡桃にも言ってあげてくださいねっ!」

そう言い残して彼女は練習の集団に戻っていった。

「はあ・・・」

なんだかどっと疲れた。これが女子高生パワーというやつか、恐るべし。

俺は少しづつ黄金色に染まりつつある空を見上げため息をついた。

「取られるとかそういうんじゃないんだがな・・・」

ボーっとしながらつぶやいた言葉、誰かに言い聞かせるようだった。

疲れたし胡桃が戻ってきたら声かけて帰るか・・・

夕飯はどうするか、カツ丼、は昼食べたし・・・なんて他愛もないことを考えていた。が、

 

 

 

きゃあーーーーー!

 

 

 

耳をつんざくような悲鳴が響き渡った。

 

驚いた俺は慌てて声のした方を見た。見てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そこでは()が、()に食われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の日常がはっきりと非日常へと変わり始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一話を読み直したらあまりにひどかったので少し書き直しました。

感想・批評お待ちしてます。

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