守りたいんだ 作:未完
どうしていつも彼はそうなのか。
学校からの帰り道。ある交差点に差しかかる。赤信号なので立ち止まる。辺りは段々と夕日が沈みはじめて。暗くなってきている。いつもはバスで家の近くまで行く。けれど今日は部活が長引いてしまい、次のバスにのっても歩いたのと時間がそんなに変わらなかった。だから今日は歩いて帰っている。車通りがそこそこあるので怪しく危ないわけではないけど人は少ない。そんな町中を歩いていた。鳩の鳴き声のような信号機からでる単調なリズムを聞き流す。今夜の夕飯は何だろなとか、ゲームの進み具合のこととかを考えながら信号が変わるのを待つ。当たり前だが危機感なんか感じている訳がなかった。そんな私の耳に飛び込んできたのはタイヤの甲高いスキール音だった。最初なにか族の車でも来たのかと思った。しかし、そうではなかっった。音につられ振り向いた先には凄まじい速度でこちらに突っ込んでくるトラックだった。
すぐに避けようと走り出すが間に合いそうにない。
(くそっ)
そうしている間にも暴走トラックはこちらへ向かっている。反射的に目を閉じる。もうどうしようもない。
そのとき途端に体が軽くなった。一瞬の浮遊感のあと地面に落ちる擦れる音がした。けれど衝撃はなかった。轢かれたのかと思った私は触れている体温に気づく。
「ってて。おい、大丈夫か?」
温もりが離れていく。ゆっくり目を開ける。生きてる。どうやら助けられたみたいだ。声のした方を向く。そこには私に向かい手を伸ばしている先輩がいた。私が高校で陸上部に入ったきっかけの先輩。それを見て少し止まってしまう私。
「おーい、立てるか?」
「あ、はっ、はい」
手を取り立ち上がる。その掴んだ手は温かく感じた。
また私は先輩の手をつかんでいる。やっぱり先輩は速い。片腕を振っていないのにこの速さ。全力なのに引っ張られる。ポケットからこれでもかという数のピンポン球を投げて奴らを撹乱しながら走る。あっという間にバリケードが見えてきた。そこで彼は私を前に出した。
「先に登れ!投げたら俺も行く!」
有無言わさずにそう言って先輩は奴らに向いてピンポン玉を投げる。バリケードに登った私は先輩に手を伸ばそうとする。怪我のせいで登れないと思ったんだ。けれど、向かってきた先輩は跳躍を利用して片腕だけで人二人分はあるバリケードを登ってしまった。本当この人は…
「で、どうしてこんな無謀な単独行動した?」
場所は生徒会室。胡桃と話をするためにここへ来た。
「その…少し偵察に」
何の話かって、それは当然さっきのことである。
「夜中に単独で未確認の場所に行くのがどういうことかわかるだろ」
「…」
口をつぐむ胡桃。彼女にもわかっているだろう。どれだけ危険なことか。何故そんなことをしたのか。理由によっては少しまずかったりする。
「まさかだと思うが自分から進んで…とかじゃないよな。」
「それは違う!」
即座に否定する胡桃。よかった。これでもしそっち方面の願望があったら精神的な治療がが必要になる。素人にはどうしようもない。
「じゃあ、なんで…」
「偵察」
偵察。事前に物事を把握するために行うもの。条件として偵察が無事に戻ってこなければそれは意味を成さない。
「二階に降りたら何も無さそうだから探索したんだ。それで、油断していたら下から たくさん来た。」
ばつが悪そうに顔をそらす。
「なんで一人で行ったんだ?」
「それは…」
後半になるにつれてゴニョゴニョと口を閉ざしてしまう。
「なんだよ、はっきり言ってくれ。」
「少しでも居住区が安全になるようにしたかったんだ。」
「本当にそれだけか?」
胡桃は頷いた。真意は…
「それで自分が危なくなっちゃ世話ない。」
「…うん。」
目を伏せたままの彼女に言い放った。前々から言いたかったことを。
「無理するな。胡桃。なんなら戦闘するのもやめるんだ。」
「な…!」
個人的にも彼女が危険にあうのは見ていられない。胡桃は身体能力が高く男勝りなところもあるが女の子だ。
「それは、それは駄目だ!」
胡桃が必死そうに言ってくる。
「それじゃ駄目なんだ…」
堪えるように肩を抱く胡桃。様子がおかしい。これは、そうか…
「胡桃。お前何か勘違いしてないか?」
「…何を?」
驚いたように見上げる彼女。その目は何かに怯えたような様子。
「これは私がやらなきゃいけないんだ、とかさ。」
彼女の目がより一層大きく見開かれる。真意を読み取るように数秒間目を合わせる。その後下を向いた彼女は呟いた。
「…そうだよ。だってそうだろ? 今あいつらを倒せるのは私だけ。…皆を守れるのは私だけなんだ。だから私が先頭に立たないと…」
彼女は急かされている。この状況によって生み出されたものに。
「私は…私がやらなきゃいけないんだ。皆に手を汚させはしない。私が皆をあいつらから守らなきゃいけないんだ!」
強い意思の目で見上げてくる胡桃。でもその奥に見えるのは”責任”に押しつぶされそうなか弱い女の子だった。それはお前だけのものじゃない。
「胡桃」
そんな彼女の肩に手をかけて目をあわせる。出来るだけ自分の、おそらく他の皆も同じであろうこの思いを伝えるために。
「胡桃が皆を守りたいように皆もお前を守りたい、胡桃が俺を守りたいように俺もお前を守りたいんだよ」
誰かが傷つくのはもう嫌だ。
「こんな状態で言っても説得力無いかもしれないけど…俺だって皆を守りたい。皆だって多分そうだ。その中にお前だって入ってる。だからもう無理をするな」
俺は真剣に彼女の目を見つめる。彼女は俺を見つめ返してくれた。もう少しだ。この思いが伝わってくれることを祈って。
「お前一人が背負わなくていいんだ」
「うぐっ、うぇ」
胡桃は泣き出した。そしてそのまま俺にもたれ掛かってきた。
「先輩…先輩!」
少し驚いたが俺はそれを受け入れる。いままでそれだけ限界だったったのだろう。一人で戦い続けることの大変さは計り知れない。
「お前は一人じゃない。」
そう言って彼女の頭を撫でた。
エタりませんよ。嘘です半分エタってましたごめんなさい。新作を書き始めたのでよろしければそちらも御覧ください。
どちらも亀更新ですが見てくれてる皆様に感謝の気持ちを。