テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター8:ララの事情、ロストの悩み

 宿屋、ノームの穴場に来たロスト達は軽く街の人達から歓迎を受けた。

 

「先程はありがとうございました…」

「え、えっと…は、はい…」

 

 ロストはレティウスに攻撃されかけていた人物から謝辞を受けていた。その事については体が勝手に動いただけなんだが、と心中で軽く思ったが危ない状況だったのは確かだった。感謝されるのも当然だろう。

 当の本人は褒められ慣れてないのか恥ずかしそうに頭を掻いていた。

 

「それにしてもあんた、どっかで見た気がする感じの顔だね」

「…それって……」

 

 ロストはもしかしたら、と思っていた。記憶をなくす以前にこの街に来ていたのであれば誰かしらロストの事を知っている人物がいるかもしれないと推測したのだ。

 男性は暫くロストの顔を見ていたが、首を横に振った。

 

「うーん、やっぱ分からないなあ…。すまないね、引き止めてしまって」

「え、あ…」

 

 男性はすぐにそうとだけ言って去ってしまった。ロストはなにかヒントが得られたのかもしれないのにと、少し落胆する。そう簡単には手掛かりはないか、と気持ちを持ち直そうとする。

 ロストがそうしていると、ララはチャールを抱えたままロストの元に来る、彼女もどうやら人と話していたようだ。

 

「じゃあロスト君…だっけ。部屋はもうとったから部屋に行こう」

「ああ…ってん?」

 

 ララはロストの手を引いて部屋へと案内するが、ロストはここでとある事に気付いたようだった。

 宿をとった時の部屋はどうなっているかどうかだ。

 

「なあ、部屋は…」

「ん?一つだけとったよ。ちょうど二人部屋があったからね」

「え、そ、それっていいのか!?」

 

 ロストがそういう理由を理解していないのかララは首をかしげた。チャールはやれやれと首を振る。

 ロストはレイナとさえも違う部屋で寝ていた。そう、彼は女性と同じ部屋で寝た事は無かったのだ。ロストだって一応男だ。ある程度の羞恥心くらいはある。ララにはそれがないのだろうか。

 

「だって、ソル…弟とも同じ部屋で寝てたし。いいかなーって」

「そ、そうか…」

『ララはたまにちょっとずれてるからなあ…』

 

 「ちょっと」なのか、とロストは内心思った。

 何も気にしていない様子のララを見るとこんなにも気にしている自分がおかしいのか?とロストは考えたが(いや、やはり違う)となんとなく自己完結していた。普通この年頃の少女は会ったばかりの男性と同じ部屋で寝ようとはしないだろう。

 宿屋の部屋につくと、ララはベッドに飛び込んでいった。

 

「ふうーっ!疲れたあーっ!」

『おいおいそんな事して…はしたないぞ?』

「別にいいもんー」

 

 そうやってベッドでごろごろするララに、ロストはどこに目をやればいいのか、と目のやり場に困っていた。ララはミニスカートを穿いているため、ベッドでごろごろされると中身が見えそうだった。

 

「あっそっか私について話すんだった」

 

 ララは宿屋についた後何をするか思い出したようでベッドに座り直した。ロストも向かいのベッドに座り、チャールはララの膝に来た。

 

「そうだね、どこから話そうか」

「…お前が旅に出た理由はなんなんだ?」

「私が旅に出た理由…そうだね。私の双子の弟…ソルが家出したの」

「!?」

 

 まるで自分みたいだ。とロストは思っていた。話の続きを待つようにロストは何も言わなかった。

 

「私が住んでた村。フェアロ・エルスはシェルフィールの森の世界樹がある場所の奥にあってね、結構入り組んだ場所にあるの。そこが突然、襲われたの」

「襲われた……?」

「そう、目が覚めたら村が大騒ぎでね。そこで私とソルだけが守ってもらってて…大人達は何人かが死んだ…。敵は、私を狙ってたんだって後で知って…私があそこにいたら、巻き込んでしまうっ!そう思って、私は…でも、私が村を出る前にソルがいなくなったの。私の弟じゃないんだって言って。だから、ソルを探すために。でもロエイスは私のせいじゃないって言って私を必死に止めようとした。だから、無理矢理に飛び出してきたの」

 

 あのままにしておいたら、ロエイスまでもが付いてきてしまいそうだったから。と最後にララは付け足した。

 ロストは自分の村とあまり変わらない。そう感じた。しかしその状況は恐らくリースよりも重いもの。リースでは死者こそは出なかったがエルスでは死者が出てしまっている。

 

「それと私、7年より前の記憶がないの。誘拐事件に巻き込まれて生きて帰ってこれたからまだましだよって村の人達は言ってくれたけど、私の両親はどこにもいない。その上村の人も話してくれない、だから私の出自には何かあるのかなって思ったの」

 

 ララという少女は、ロストとあまり変わらない境遇だ。7年前の事件に巻き込まれ記憶をなくしている。そしてどことなく自分が村の人達に守られているということを感じ取っていたこと。

 しかしララの状況はロストよりも重かった。ロストは母親がいたから良かったものの、ララには両親がいなかったのだ。

 

「…という事は、俺とあまり変わらないんだな…だが、お前の弟というのは…襲撃の時は一緒にいたんだな」

「うん。ロスト君にも、妹さんかなにかいたの?」

 

 ララの言葉にロストは少しうつむき、昨日あたりのことを思い出す。まだそれくらいしか時間が経っていないのだ。レイナがいなくなってあの事件が起こってから。

 

「ああ…双子の妹がな。俺のいた村フェアロ・リースも襲撃にあったんだ。死者こそは出なかったが村は半焼した。そしてその襲撃には…俺の双子の妹が参加していた」

「ロスト君の妹さんが…?ねえ、その人も『オリジナル』って言ってた?」

 

 ララの言葉にロストは記憶を巡らせる。

 あの襲撃の時、自分と同じ顔の人間。そして自分といた時とはまるで別人のように変わってしまっていたレイナ。

 2人が自分の事をなんと呼んでいたか、それはララの言うことと合致していた。

 

「…ああ。一体何なんだ、オリジナルとは」

「それは私にも分からないの…ソルも、どうしていなくなっちゃったんだろう…」

 

 オリジナル。その言葉の意味通りであれば彼等は自分達の写なのだろうか。ならば何故その写というものが自分達を狙うのか、誰がどのような目的でそれを作り出したのか。考えれば考えるほどきりがない。

 

『だからボク達はエルスをでてソルを探す事にしたんだ。ララの記憶探しも兼ねてな』

 

 ロストもララもわからない。そう視線を落としていると、チャールがフォローを入れるようにして会話に入ってきた。このまま2人だけで話していると気が重くなると心配したのだろう。

 ここで考えていても変わらない。チャールのフォローでロストははっとそう思いついた。ララも「前を向いてかなきゃだね」とベッドに寝転がった。

 

「とにかく、今日は疲れたから寝よっか」

「そうだな」

 

 口ではそう言いつつもロストは今寝る気はさらさらなかった。

 年の近い少女と話すことには慣れている。しかしそんな少女と同じ部屋で寝る事には抵抗がある。

 ララが先に寝るのを待ってから、夜風にあたりに外に出る。というのがロストの算段であったのだ。

 

『明日通るところは多分フェリサ・テック恐山。結構モンスターのでる山だから気をつけていかないとな』

「うん、分かった。ふわああ…」

 

 チャールが地図に軽く書き足しながら(前足でペンを握って書いている)次の目的地を簡単に説明した。ララはそれを軽く見た後に欠伸をする。どうやら眠いようだ。

 

「うー…私は寝るね。おやすみー……」

「ああ、おやすみ」

 

 そうしてララはベッドに潜り込みすぐにすやすやと寝息を立て始めた。

 ロストはそれを見ているのが気まずく思えてきた。目の前で寝ているのは年頃の少女。この場にチャールもいるとはいえララの状態は無防備に近い。

 

「…はあ」

 

 慣れない旅の途中。これが効率が良かったとはいえロストにとっては気まずい事この上ない空気である。

 チャールも眠そうにしており、『ボクも寝るからな』とララの頭のそばで寝始めた。

と、とうとう起きているのはロストだけになってしまった。

 

「…」

 

 隣のベッドですやすやと寝息をたてるララとその頭の傍らで丸くなるチャール。

 ここまで無防備だと男として見られていないのか、とロストの男としてのプライドにヒビが入るような気がしたがロストはそれを気にしないようにした。

 

(それにしたって何故会ったばかりの男と同じ部屋で寝ることが出来るんだこの少女は)

 

 そう思いつつ、隣のベッドのララが気になって仕方ないロストは、気を晴らすために外に出た。

 

 勿論、ララやチャールを起こさないようにして。

 

 

 

「はっ……てやあっ!!」

 

 宿の外少し離れた場所で、ロストは1人鍛錬用の木刀を振るう。

 これから先、恐らくララと行動を共にするだろう。そうなるとすればあのロエイスという少年とも約束したように、ロストはララを守らなければならない。それは今のロストが抱える責任なのだろう。

 約束したからにはそれを破るわけにはいかないし、その上ララと自分には何かしら関わりがあるかもしれない。

 だからこそロストは強くならなければならない。

 

「…はあ、はあ…くそっ!どうして、どうしてだ!!」

 

 少し木刀を振っているとすぐに疲労感がロストを襲う。手にしっかりと木刀を握り、また振り上げるが、すぐにその手からは力が抜ける感覚が起きる。汗もダラダラと溢れてきた。

 

「俺には、力が…足りない……。このままだと、俺はララを守れない…」

 

 昼間のレティウスとの戦闘。それはロストの心に刻まれていた。

 あの時、ララへの攻撃を許してしまった。もう少しレティウスを注視しておくべきだったとロストは拳を握りしめる。

 

「あの時はララ自身の術でどうにかなったが、あれがなければどうなっていたか」

 

 ララが咄嗟にバリアーを唱えることが出来なければ、ララは重傷になっていたかもしれない。そう考えるとロストは自らの力不足を痛感するのであった。

 もう木刀を振るのも限界だろうと思ったロストは、宿に戻り部屋のベッドに寝転んだ。

 ある程度疲労があれば寝れるだろうと思ったロストだったがすぐ近くのララの存在がどうしても気になってしまい寝ることが出来ない。

 

 その日、結局ロストは一睡もできなかった。そして一睡もできなかったロストがどうなるのか、それは次の日の話に続くのである。

 

続く


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