テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー 作:sinne-きょのり
「……ト!!…スト!ロスト!!」
エートは倒れていたロストを見つけ、揺さぶった。
フェアロ・リースを包んでいた炎は現在も降っている雨によって消し止められた。村人の様子は、怪我人はいるものの死人はいないらしい。焼けた建物は多いが、いくつか残っている建物もある。
「え…エート…」
ロストはエートの声に目を開き、ゆっくりと上半身を起こした。ふと目をやったエートが傘を持っていた。この時彼は自身に向かって雨がざあざあと降っていることに気づいた。
「ったく、お前が無事だったからいいもののなんて無茶するんだよ!」
「だが…大丈夫だったろ…」
「お前は案外沸点が低いよな」
エートにそう言われ「は?」と返そうとしたがまだ、その元気がないのかまたふらっと倒れそうになった。
「とりあえずオレが雨のしのげる場所に連れていく。あと、村長達は今運よく燃えなかった村長の家にいるからな」
「そっか…なあ、エート少し話を聞いてくれるか」
エートにおぶわれながらも、ロストはエートに尋ねた。足の怪我は大丈夫かとも尋ねたかったが自分の方が酷い状況なのだろうとそれについては触れなかった。
「聞くのはいいが、お前の家ついてからな。お前の家は2階は大部分が焼けてたが運良くおばさんの部屋があった1階は無事だ」
エートはあまり広くもない村の中を歩いてロストを家まで連れてきた。ロストは「もう大丈夫だから降ろせ」と言ったが、エートはそれを聞かなかった。
「とりあえずベッドに寝て休んどきな。…他になにか気になることは」
エートはロストをロストの母親の部屋のベッドに寝せた。ロストには表立ったケガは見えなかったのでそのまま寝せることにしていた。
「…墓は、大丈夫なのか」
「墓は無事だとさ。で、何か話したいことがあるんだろ?」
ロストは少しためらった後に、口を動かし始めた。
「…レイナが、いなくなった…」
「はあ?」
エートはロストの言葉にそうとしか返せなかった。それほどエートにとっては意外だったのだろう。
「あのレイナが?家出!?」
「…そして、村を襲ったヤツと一緒に、レイナは消えた」
「…そう、か……」
「なあ、7年前ここで何があったんだ」
ロストの突然の言葉に、エートは何かを言いかけたが、その言葉はエートの中に留まった。ロストには言いづらいことだったのだろう。
「あの時…俺は記憶を失った状態でみつかった。エート、お前はそれ以前の俺を知ってるか?」
「し、知らない」
「……?」
「ロストのことは、7年前におばさんと一緒にこの村に来た。ってことしか知らない」
エートは何か誤魔化すような言い草だったものの、ロストにはそれを追求することは出来なかった。
「…俺、自分のこと何も知らないんだなって」
「え?」
ロストは真っ直ぐにエートに向かっていった。エートがロストを見ると、普段は何を考えているかわからないようなロストのその表情には焦り、不安…そのような感情が見て取れる。
「エート、俺……旅に出ようと思うんだ」
「何でだ?」
エートはレイナがいなくなった。という事から理由は薄々と分かっていた。だが、敢えて聞いた。ロスト本人の口から聞きたかったがためである。
「レイナの事が気になる…。そして、この村にいるままじゃ、何も始まらない気がするんだ」
「お前の思うままにやればいいんじゃないか」
エートは笑ってそう返した。その反応に多少安心したのかロストも笑った。
「ああ、そうさせてもらう」
「っとこれ!村長から渡されたヤツ!」
「へ?っとと」
ロストはエートが投げたものを受け取る。袋のようなものだ。ロストは不思議に思いそれの中身を見てみた。その中に入っていたものを見てロストは驚愕の表情を浮かべた。
「お、おい!どういう……」
「村長は分かってたみたいなんだよなあ。お前が旅立とうとするの。だからさ、これは村長からの贈り物だってさ」
ロストが渡された袋の中には、金が入っていた。
恐らく3000程ではあるものの、村で生活してきたロストにとっては大金のようなものだった。
「お前の母さんが残したものもあるらしい。出かける前に、ちゃんと挨拶しとけよ」
「…ありがとうな。エート」
ロストはエートにそうお礼を言った後に立ち上がった。横になっていた時間は少しだけだったものの、ある程度は回復したらしい。
「あ、そうそう一つ」
「なんだ?」
慌てて呼び止めるエートの声。ロストはそれに応えるようにエートの方を向いた。
「昨夜、近くのフェアロ・エルスも襲われたらしい。エルスにはお前の母さんの知り合いの子供がいるはずだ」
「そうなのか」
だからどうした、とロストは言いたかったところだが今のロストにはどことなく引っかかるものがあった。
「その子も、誘拐事件に巻き込まれて帰ってきた子だ。多分お前の昔の記憶にも何か関係があるんじゃないか?」
「俺の記憶に…?」
「その子は双子の弟と一緒に暮らしてるって聞いたぜ。会いに行ってみな」
「あ、ああ……。エート、行ってくる」
「行ってきな。ロスト」
ロストは武器とエートに貰った袋、最低限必要な道具を持って、家を出た。
「……っ」
「エート?」
エートは足を少し抱えていたものの、笑顔でロストを見送った。
森で負った傷はまだ癒えていなかったのだろう。無理をさせてしまったと思ったが、彼はそれを悟らせたくないようだった。
「ん、ああ、大丈夫だ。こっちは気にせず行ってこい!」
「……ああ!」
ロストの決意に答えたかのように強かった雨は次第に弱くなっていった。時期に太陽も見えるだろう。
ひとまずロストは母の墓に行く事にした。出発の挨拶をしなければならない。今はもういないが、ロストとレイナを必死に育ててくれた人の故郷を離れるのだから。
******************
「村長。見送らなくてよかったんですか?」
足を引きずりながら、エートは村長の家に来た。
狭い家の中は避難してきた村人で溢れかえり、混雑していた。そんな中エートは村長のいる奥の方へと進んだ。
エートの両親はこの場にいない。それはエートの家は無事だったという事なのだろう。
「なんじゃエートか。ロストには無事にあれは渡せたか?」
「渡しました。しかし村長が自ら渡せばよかったんじゃないんですか?一応血のつながった親戚かなにかなんでしょ?」
エートに言われ、レイシはエートが知っている事が意外だ。とでもういうような反応を示した。
「なんじゃ知っておったのか」
「ファミリーネームが同じでしたからね、なんとなく。それで、オレは今から何すればいいんですか」
エートはせっかく来たのだから、と何かを手伝おうという姿勢に入った。
「だっダメです!エートさんは安静にしててください!」
「フレイヤ…」
それを止めるのは数少ないエートやロストと年齢の近い少女フレイヤ。車椅子に座った彼女は、生まれつき足が悪い。エートの足が決していい状態では無いことを察したのだろう。
「…あの人は、旅に出たんですね」
意外に家の中に響いてしまったフレイヤのその言葉に周囲の人々がざわめく。
何故ロストの旅立ちにそこまで人々がざわめくのだろうか、その理由はエートには少ししかわからない。
「静かにせい。あれが旅に出る事は予め予測していた…。あやつはここに縛り付けるべき者ではない。それは理解するのだ」
「しかしレイシ様…」
村人の一人がなにか不安そうにレイシを見るが、レイシはどこか別の場所を見つめ、何かを呟いていた。
村人達にとっては、ロストは何かしら大切な存在なのであろう。
「頑張れよ。オレは何があってもお前の親友だからな、ロスト」
エートはもう村を出たであろう一人の友人を思い声に出した。自分が怪我さえしてなければ一緒についていけたのだろうか。その後悔は残ったまま、すっかり晴れ渡った空を見つめていた。
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「…ごめんなさい、ごめんなさい……」
私のせいだ。と少女は言った。
ここはフェアロ・リースの近くの村、フェアロ・エルス。
少女を取り囲むようにして人々が並んでおり、一人少年が大人達に紛れていた。
大人達は少女にかける言葉を必死に探している。彼女を傷つけまいと思えば思うほど彼女を傷つけそうで怖いと、誰も口を開かない。
「ねえちゃんのせいじゃない!」そう言おうとした口を少年も慌てて閉じた。村の惨状に少女は目を背けたかった。けれど少女にそれは許されなかった。少女の心がそう叫ぶのだ。全ては自分のせいなのだと。
「ロエイス。私…弟を探しに行くね」
「ねえちゃん!ならオレも…」
「ううん、駄目。これは私が行かなきゃいけないの。それにロエイスはまだ幼いもの。私一人で行く」
ロエイスと呼ばれた少年は泣きそうな目で少女を見つめた。
少女はまっすぐとした優しい水色の瞳に、黒く長い髪を持っていた。ロエイスにとっては数年世話になった姉のような存在だ。少女の肩に乗った小さな生き物は、何本もある暖かい尻尾でロエイスを撫でる。
「ねえちゃん…」
「行ってきます」
少女は笑って、走り去って行った。ロエイスは不安になってその影を追いかける。
「やっぱりダメだ!まって!」
「ロエイス、待ちなさい!」
周囲の大人はロエイスを止めた、しかしロエイスはそれを振り切って少女を追いかける。子供の瞬発力にただでさえ村を襲撃されて疲弊していた大人達はすぐに彼を見失ってしまった。
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「…そういえば、村の外になんて初めて出るな」
母の墓参りを済ませたロストは、シェルフィールの森を抜け、違う街を目指す街道に入っていた。
手に持っているのはフェアロ・リースの周囲以外は白紙の地図。母が残したものの内の一つだ。
「今から自分でこれを埋めるのか」
これから始まるかもしれない冒険に少しだけ心が弾むロストだが、その前にレイナを見つけなければ、と地図をしまう。
すると、モンスターが草影から何匹か出てくる。
「モンスターか…」
腰の剣を手に取り、襲いかかってくるモンスターに向かって横に薙ぎ払うようにして切る。
「はあっ!!とうっやああっ!」
最初に切ったモンスターはまだ生きていたらしく、2番目に出てきたのを倒した後に、もう一度剣を振り下ろした。
「これで終わりだっ!虎牙破斬!」
この攻撃で1番目に出てきたモンスターも倒すことが出来た。
「ふう」と一息ついて剣を鞘に戻した。倒したモンスターがいた場所には、小さな緑色の宝石のようなものが落ちている。
「また、これか」
ロストがそう呟いてそれを拾おうとした時、バタバタと誰かの足音が聞こえた。
村から出る者なんてそうそういないと思ったロストが振り返った先にあったのは…一人の少女の姿だった。
「あっあぶなーい!」
つづく