テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター40:彼は破壊を好む者

 エリッサとレウォードが操縦するアンダンテルス号はあっという間にフェアロからエレッタへと辿り着いた。

 まさか空から来るとは相手も思っていなかったのか迎撃体制が整っておらずセテオスは簡単に施設内に入る事が出来た。

 エリッサとレウォードは念の為アンダンテルス号で待機する事となり、セテオスは単身施設を探索する。

 

「既に隊長達は入った様子っすね。アンリ様も無事だと…いや、ユアさんがいるなら大丈夫っすか」

 

 セテオスは誰も出てこない廊下を歩いて回っていた。警備が杜撰過ぎないかと訝しんだが、ロスト達が通った後なのであれば恐らく警備用のシステムは発動してしまった後なのだろう。

 増援が来るなどとは相手も思ってもいないはずだ。

 

「増援とは言っても、1人なんすけどねえ…」

 

 廊下を通り過ぎていたら、セテオスの背後から金属の壊れる音がした。

 まさか、敵かとセテオスが振り向くと、そこに居たのは茶色の長髪をした青年。

 

「何故我がこのように汚いところを通らねばならぬのか…」

「で…でん、か…?」

 

 セテオスは固まってしまう。セテオスは知っているのだ。目の前の人物を。それが誰なのかを。

 クローンである事は確実だ。今の彼がこの言動をするはずがない。記憶が空っぽになってしまったことで言動が著しく変わってしまっていたのだから。

 

「…セティか」

 

 そう、セテオスを呼ぶ声にセテオスは不意に涙が目に溜まりそうになってしまう。

 彼は、本来ならばセテオスが守るべき要人であった。だが、クローンである事を知りながら彼を「ロステリディア」と呼ぶのは憚られた。

 

「……そうか、殿下本人がああなっているのであれば……」

「我を、殺して欲しい。だが…今、我がオリジナルの元に戻れば、オリジナルがどうなってしまうのかを、考えると…」

「…貴方は、そう、願っているのですね」

「我は要らぬ。だがオリジナルは今、我であった記憶をほぼ持たぬ。逆流した記憶にオリジナルが押しつぶされてしまえば、元も子もない」

 

 セテオスはどうすればいいのか、分からなかった。

 今のロストの為を思えば、確かに何の予告もなしに目の前のクローンを殺すということは良くないかもしれない。それこそ、今のロストにはアイデンティティというものが欠けていると『昔の彼を知る』セテオスは感じているのだ。

 

「罠じゃ、無いっすよね。…貴方のことは、何と呼べばいい…っすか」

「我はクローンナンバー03と呼ばれておる。03と呼んで欲しい。我の本意としては罠にしたくはないが、デイヌがどう考えるか分からぬ。我らクローンは創造者たるデイヌには逆らえぬのでな…基本的には、だが」

 

 デイヌの匙加減次第で、目の前にいる03はセテオスに牙を向くことも辞さない状況となる。

 セテオスとしては彼を保護したいが、するにはデイヌの干渉を無くさなければならない。

 

「でも、今の殿下本人に貴方を見せるというのも、随分ショックを与えるというか…」

「ならば、我を捕縛しても良いのだぞ?貴様なら許そう」

「なんでっすか…」

 

 自分はそこまで彼に好かれていたのだろうか。セテオスは頭を抱える。

 しかし立ち止まっている訳にもいかない。

 

「…仕方ないっすから、腕、縛りますよ」

「構わん」

「あと、絶対に喋らないで下さいっす」

「分かっておる」

 

 本当に大丈夫なのだろうか。

 セテオスは別の意味で心配になって来る。

 

 

 03の腕を縛り、念の為に口に布を噛ませた。

 そのまま歩いているとララ達の待機をしていたロスト達に出会ってしまう。

 

「…セテオス?は?まて、なんだその状況」

 

 フェルマもロストのクローンを連れてくるとは思っていなかったのか「は、ははーん…」と表情を引き攣らせている。

 

「…セテオス?貴方が連れているのは…」

 

 ユアが恐る恐る尋ねると、セテオスは03をちらりと横目に見て喋り始める。

 

「お察しの通りロストのクローンっす。さっきそこで出会いましたんで捕縛しました」

「捕縛したというより、されてるよね?そこの彼」

 

 フェルマのツッコミは03の様子を見てのものである。

 逃げる様子も、警戒している様子もないのだから捕縛した、と言うよりも自らされに来た様子がみてとれるのだ。

 今にも喋りたくてうずうずしているのにセテオスが「喋らなくていいっすから」と止めているくらいだ。

 

「でも、いつデイヌの洗脳が入るか分からないらしいっす」

「ソルの時と同じということか」

「親玉くんが使ってるの?それ」

 

 フェルマは興味津々に03を見つめる。しかし03が喋ろうとするとセテオスが口止めをするので頷くしかない。

 

「…自分と同じ顔が腕縛られて口轡付けられてるの凄い…こう…複雑なんだが」

「マジで03は刺激が強すぎるっす…いや、他にもキャラの濃いクローンに出会ってるかもしれないっすけど」

「村を燃やしてた04とかいう奴も割と俺とキャラ掛け離れてたからな」

 

 クローンは性格は似ないものなのだろうか…とロストは頭を抱える。

 とてもキラキラした目でロストを見つめる03は流石に無理に喋ろうとはしないがあわよくば話したいという欲が透けて見える。

 ユアは03がどのようなキャラで、ロストの記憶のどの部分を持っているか察したようでセテオスに同情の視線を送る。

 

「それにしても、ずっとここに待機してるんすか?さっき03でも通れる通気口とかあったんすけど」

「…さらに分かれるか?」

「あまり分かれすぎるのも得策ではないと思うのだけれど…このまま待ちぼうけ、というのもね」

「ん、なんすか?03」

 

 相談していると、03がセテオスの服の裾を引っ張る。

 しかし、03が何を言いたいのかセテオスには分からない。03に喋らせる訳にもいかない。主にロストの羞恥心的な意味で。

 

「…」

「…ちょっと布を外してもいいっすから、小声で教えてくださいっす」

 

 ロストの耳に届かない範囲に下がり、03は布を外してセテオスに耳打ちする。

 

「…サティスという少年とカナという少女には会っていないのか?」

「会ってないっす。なんすか、その2人は」

「この施設から逃げようとしている者達だ。我も共に逃げたかったがデイヌの干渉があってな。単独では逃げられないのだ」

 

 こそこそと喋っている状況がどこかおかしいが、ユアはセテオスの意図を察してロストの耳を塞いでいた。当の本人は頭にハテナを浮かべているが。

 

「ララ達が会っている可能性がありそうっすね」

「それで、どうするのん?おにーさんとしては、ここで待ちぼうけしてるよりも…」

 

 発言の途中でフェルマは先程罠のあった通路の方を見る。

 何かを察したのか「…こっち、来てくれる?」と歩き始めた。すると、その先では罠が跡形もなく無くなっていたのだ。

 ララ達がギミックを解除したのかと、ほっと安心をするロストだったが、この先にも罠が無いとは限らない。

 

「ひとまずは先に進めるようだな」

「そうみたいね。ララ達を待つ?」

 

 どうするか、選択権をロストに譲ろうと思ったユアだったが、フェルマが先に進み始める。

 

「そのうちにでも合流は出来そうだけど…面白そうだから先、進んじゃおっか!だいじょーぶ、いざと言う時は小型通信機をメテオス少年に貼り付けてるから!」

「そういうのを盗聴と言うのよ、フェルマ」

 

 ユアの冷静なツッコミにもフェルマはおちゃらけた様子で笑って返す。

 恐らく、フェルマに盲信的な憧れを抱いているメテオスには感心の対象にしかならないかもしれないが。

 フェルマはおちゃらけながらもその先へと進んでいく。03も着いていくしかないと腹を括る。そもそも自殺願望のある彼にはオリジナルの観察が大切だと察したからだ。

 

「んーっと、この辺にはもう罠はないから…」

 

 きょろきょろとフェルマが周囲を見渡すと、視線の先には警備システムのようなものがいた。

 4つ足を大きな音を立てながら移動しているその姿を見て、フェルマはニヤリと笑う。

 

「おい、フェルマどうし…」

 

 フェルマの様子がおかしいことに気付いたロストが声をかけようとするが、フェルマは弓を構えた。

 

「…行くよん、兄さんの全力!みんなは下がってて!」

「あ、貴方馬鹿なの!?こんな所でそれは!!」

 

 これから何が起こるか悟ったユアは必死に抗議の声を上げるがフェルマは聞く耳を持たない。

 そう言っている間にも無属性のマナがフェルマが構える弓にまとわりついていく。

 

「無の力よ、その移ろう姿を光に変え、今眼前の障害を破壊せん。光矢六連撃!!」

 

 6つの光は再びフェルマの目の前に立ちはだかる障害へと向かっていく。この威力ならば確実に警備システムを倒せるが…この周囲が無事で済むかは分からない。

 

「馬鹿なのかあんた!!!」

 

 ロストの叫びも、フェルマの放った矢の光に吸い込まれて行った。


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