テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー 作:sinne-きょのり
「しかし意外と建物の中、すっからかんだな」
ロストは出てきたクローンを倒しながらそう言う。誰のクローンであるか分からないが、倒すと炭のようなものになって消える以上、彼等は誰かのクローンなのであろう。
ひたすら廊下の続く施設の中、奥に居るはずのデイヌを探して進んでいた。
「うーん、お兄さん的には廃工場をそのまま改造して利用したんだと思うかな。多分向こうの親玉はスモラ・タールが作った設計図そのままにやってるよ。設計図を改良することが出来ないみたいだね」
「よくそんな事が分かるわねあんた…」
「さっすがフェルマさん!」
フェルマが言うには、デイヌはあまり頭の良いトップではないらしい。ユアは複雑な顔をしていたが、フェルマは確信したように頷いている。
メテオスは相変わらずフェルマを尊敬しているようで目を輝かせながらフェルマの話を聞いている。
進んでいると突然ララが「止まって」と静かに言い放った。ビクリとしたロストは確かに止まってララの方を見る。
「どうした?」
「…この先、何かがある。光のマナが乱反射してるみたいで…」
『流石に感じたか、お前は光属性使いだからな。この先に光のマナを利用したトラップのようなものを感じる』
言葉に出来ずにいるララに、チャールが言葉を足した。
廊下の先にある角の向こうから光属性のマナを利用したトラップがあるらしい。
「どうにかして突破できる方法はないのかしら」
トラップそのものがどういうものか分からない以上、迂闊に動く訳にはいかない。
ユアは実際に見てみないと分からないとため息をついた。そこにフェルマが「あっ!」と何かを思い出したように手を叩く。
「そうだ!元々の工場の立地を考えると、ララ少女位の体格なら通れそうな通気口がどこかにあるはずだよん。んーと…あ、あった!ほら!」
フェルマが辺りを見回して駆け出す。フェルマの向かった先には確かに通気口があった。
ララくらいならば通れるとなると、ロストとフェルマは通気口へは入ることが出来ない。
ユアも「私も遠慮しておくわ」と断った。
「じゃあ、私とメテオス君、ルンちゃん、ユキノちゃん、チャールで通気口の方を探検してくるね」
『ボ、ボクも行くのか!?』
「勿論だよ。ほら、入った入った!」
『お、押し込むなー!』
ララがチャールを通気口に押し込み、その後ろについて行く。ルンは小柄な為に楽に入る事が出来、少し不安そうにユキノ、そして最後にメテオスが入って行った。
「メテオス少年の腕はそこそこにいいから、何かしら機械が動かせそうだったらやってみるといいよー!」
「は、はいっ!」
フェルマに言われて緊張したように答えていたが、メテオスはこのメンバーの中では2番目に機械に精通しているため適任とも言えるだろう。
「で、俺達はどうすればいいんだ。ここで待ち続けるのか」
ロスト達は迂闊にここから動けない為、手持ち無沙汰になってしまう。
「トラップが解除される迄…もしくは、増援をここで待つのもいいかもねん」
「増援なんて呼んでいたの?」
ユアは聞いていない、とフェルマを見る。
何を考えているか分からないこの青年はドヤ顔で言い放つ。
「エリッサお姉さんがセテオス青年連れてやってくるよん」
「…はあ!?」
ロストがつい声をあげてしまったのは、出るとは思わなかった人物の名前が出たからであろう。
一方、通気口を使って別の道を模索するララ達は、ほふく前進でララを先頭にして進んでいた。
所々に抜け道のようなものを見つけるも、チャール曰く『先に全体を見た方がいい』との事なので、色々と道を探っていた。
「チャール、いい加減そろそろ普通の通路に出ないの?」
『お前ずっと文句言ってるな…来なくても良かったんだぞ』
「嫌よ。私が着いていかないと誰がメテオスを守るの。部下の大切な弟を預かってんのよ」
一応、騎士として一国民の心配をしてはいるらしい。メテオスは「オレより小さい女の子に守るって言われた…」と勝手に落ち込んでいたが。
「チャール、やっぱり直接トラップを制御してる部屋には繋がってないよ。どこか通路に降りてから探索した方がいいかも」
『そうだな、また道が塞がっていたら通気口に戻るか』
「やっと出れるのね…」
「る、ルン様…」
疲れたように言うルンを見てユキノは苦笑いをする。ユキノ自身も疲れてはいるがルンの方が心配ではあるらしい。
「じゃ、出るよー」
ララが扉を蹴破って通路に降り立つ…が。
「いってぇ!?」
「え、え、ごめんなさい!?」
「さ、サティスお兄ちゃんー!?」
ララが降り立った先には薄緑色の髪の毛をした少年と、水色の髪の毛の少女がいた。
ララはたまたま少年の方を蹴ってしまったらしい。少年は倒れララは少年の上に馬乗りになってしまう。
チャールは呆れたようにため息をついた。
「おまっっっあいつのオリジナルか!!!」
「え、え…君は誰?」
少年は睨むようにしたあと面倒くさそうに上体を起こす。
「ぼくはサティス。お前、リアンとか呼ばれてたやつのオリジナルだろ」
「カナはカナだよ!」
「えっと、サティス君と…カナちゃん…。あ、私はラリアン・オンリン。ララって呼んで!」
ララが何かしらやらかしたのかとルンから下を確認して通路に降りてくる。
サティスを下敷きにしているララを見てルンは頭を抱えてしまったが。
「うちの仲間がすみません。私はルン・ドーネと言います」
「私はユキノ・サエリードです」
「メテオス・ベリセルアだ。…大丈夫か?」
『……チャールだ』
チャールだけサティスとカナを見つめて少し固まったが誰も気づかなかったようだ。
ララは「本当にごめんね…」と言いながらサティスの上から退いた。
「はあ…ぼくたちはここから逃げようとしてるんだけど、あんたらは何しに来てるわけ」
「私達?ええっと…この施設を爆破しに来ました!」
『素直だな!』
敵か味方かも分からないというのに素直に目的を教えてしまうララにチャールはこめかみを抑えた。
敵だったらどうするんだとルンとユキノ、メテオスも思っただろう。
「ふーん、あんたら面白いことするつもりなんだ」
「カナ達はね、この施設から逃げようとしてるの!」
「逃げる…?なら、退路を先に見つけないとかしら…」
今この施設に自分達が押し入った事で逃げにくくなっていないか不安になったルンだが、どうせ爆破するのであれば共に居た方が安全だとも取れる。
「どうせなら、あんたらと一緒に行ってもいいけど。ぼく、戦えはするし」
サティスは自信満々にそう言うがルンとしては被害者側に位置するサティスを巻き込んでも良いのか考えあぐねている様子だった。
カナも「サティスお兄ちゃんは強いんだよ!」と言うのでララは「いいんじゃないかな」と頷いた。
「話からして、2人はリアンのこと、知ってるんだよね」
「まあな。あいつとあんたが性格似てなくて変な感じがする」
「リアンお兄ちゃん、いつも怒ってる感じなの」
リアンと何度か会っているララはリアンの方しか知らない2人に何だか複雑な心があると同時に、リアンの事が気になっていた。
「ここで、リアンに会えるかな…」
『アイツはララを狙ってんだろ。可能性としてはありえる』
チャールに言われ、確かにとララは頷いた。
しかし、とユキノは少し気になる事があった。
「カナ様は、一緒についてきてもよろしいのですか?」
カナ自身は戦えそうにもない。このままついてきても危険ではないかとユキノは案じているのだ。
「だいじょーぶ!サティスお兄ちゃんが助けてくれるし、カナ逃げれるもん!」
自信満々に言うカナに、サティスはため息をつく。どうやら自信がなさそうだ。
「ぼく、そこまで強くないのになあ…まあ、あんたら急いでんだろ。どこ目指してんだ」
「え、ええっと、トラップの解除方法を探してて」
「それなら、あんたの力を制御装置に直接ぶつければオーバーヒートして壊れるはずだ。こっち、途中でクローンに出会うかもだけどぶちのめせば大丈夫だ」
『その制御装置ってのはどこなんだ?』
「…近くにはあるはずだけどな」
不安そうに言うサティスにルンはどことなく不安を感じたが、今頼れるのはこの施設にいたという2人の証言だけだ。
どこを歩いても場所が分からなくなってしまいそうな廊下を暫く歩いていると、巡回をしていた人物に鉢合わせてしまった。
相手は直ぐに敵意を剥き出し、ララ達へ向かって来る。
「来たわね」
大鎌を構えるルンは1番に突撃していく。サティスもそれに続くように走って向かった。
まずは敵を蹴りあげたサティスは、マナを込めて拳を顎から打ち上げる。それに追い打ちをかけるようにルンは大鎌を首元を目掛けて横薙ぎにした。
「あんた、なかなかやるな」
「一体何者よ…サティス」
「さあ、ぼくも知らん。ぼくも、記憶自体は無いし」
「はあ!?」
「ちょっとルンちゃん、こっちお願いー!」
サティスとルンが会話をしていたらララが声を上げてきた。ララとユキノが敵に囲まれているのだ。
後方でユキノを守るようにララは向かってきた敵…クローンをスピアロッドで串刺しにする。メテオスはカナを必死に守りながらチャールが肩の上で威嚇していた。
「紅蓮の炎よ…我らに害なす者を遮断せよ、ファイアーウォール!」
迫り来る敵を拒むようにユキノの唱えたファイアーウォール…名前通り炎の壁が立ち塞がる。
「今です、ルン様!」
「行くわよっ!!!」
ユキノの掛け声でルンは大鎌で敵を薙ぐ、その背後でサティスは敵をアイアンクローして床に叩きつけていた。
「サティスお兄ちゃん凄いのー!」
「なんなんだよアイツ…」
影に隠れていたメテオスは、自分よりも年下の少年が怪力を発揮しているのを見て自らの無力さに落ち込んでいた。
敵が叩きつけられた床が陥没している。施設の床は柔らかい材質では無いはずだと言うのに。
「一通りいなくなったみたいだな」
サティスは周囲を確認すると、ララに目配せをした。
「う、うん…じゃあこの辺を探索しよっか」
黒く霧散していくクローン達を横目に、新たな仲間を加えてララ達は進むのであった。
続く