テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター38:動き始めた破壊作戦

カツリカツリと足音が響く。

1人、長髪の男性が廊下を歩いていた。別に聞き耳を立てていたわけではなかったが、レイナの計画を聞いてしまった。

男性…03は考える。03自身デイヌの事が気に食わない。だからこそ謀反を起こしたいとは思っているものの『クローンは基本デイヌに逆らえない』。それは先日ここへ連れてこられた少年を見て確信している。

 

(ならば、何故彼女は我らを差し置いてあれに逆らう事が出来る?)

 

出来るならば今すぐに自殺して本当の自分へと戻りたい。空っぽの本来の自分を見ていると苦しくなる。

魔輝の保持量が元々多すぎたロステリディアは記憶の殆どを抜かれても残った魔輝で動くことが出来ている。しかし、人格には本来の彼らしさなど1つも残っていない。

 

(それはそうだろう。我がこうして存在するということは…オリジナルには我らしさなど残っておるはずがない)

 

空っぽなのだ。ロスト・テイリアという存在は。そして、今元に戻ってしまえば人格がどのように混ざり合うかなど分かるはずもない。

今考えても詮無いことかと03はため息をついて、思考をレイナの事へと戻した。

 

(あやつは、我と同じのようで違う存在だ。何らかの理由を持って『我』から引き剥がされたと思える。デイヌの指示が効かないことが何よりの証拠でもあろう)

「何やってるんだあんた」

「!な、何奴か…と、お主か」

「カナもいるよー!」

 

03の背後に現れたのはサティスとカナだった。あの部屋から出ないようにとデイヌから言われていたはずだがこの2人がそれを聞くはずがない。何よりリアンが逃がす為に今何かをしている最中なのだろう。

 

「我に話しかけて良いと思ったか?お主ら」

「いや、ぼく達がこれから合流しに行く人間のクローンってどんな奴かと思っただけだ」

「…我に、会いにゆくのだな」

 

レイナは何かしらの理由で2人をロスト達に会わせようとしている。

カナは03に飛びついて03は少しよろけた。突然の事に03は瞬きしてカナを見る。体格差があるからか受け止められないという事はなかった。

 

「な、何をする?」

「えへへ、お兄ちゃん難しそうな顔してたから。カナ難しいこと分からないけど、お兄ちゃんが難しい顔してたらダメなの」

「…そ、そうか…」

「カナ、そろそろ行くぞ。彼らがどうやってここに来るか知らないけど」

 

サティスに促されカナは渋々03から離れる。03は無垢な少女に絆されたのか柔らかな表情を浮かべていた。

 

「…我のオリジナルによろしく頼む」

「あっそ。直接会いに行けばいいのに」

 

それだけ言ってサティスはカナを連れて去って行った。

サティスの言うことは尤もだ、と03はため息をつく。それは分かっている、しかし自分はデイヌに縛られる身であると嘆いていた。

 

そろそろ爆破音が聞こえ、この施設も時期に壊されるだろう。

その時に自分は死ねて、元の場所に戻ることが出来るのだろうか?

その答えは誰にも分からない。

デイヌがどれほど自分を重要視しているかも03自身には分からないのであるから。

 

 

 

03の予想通り、ロスト達はフェルマに言われるがまま施設の目の前へと来ていた。

巨大な建物は草木の少ない街外れに似合っている様子でもある。

 

「あっそーそー。この建物ん中お兄さんのお兄さんがいんのね。デラード兄さんって言うんだけど」

「軽く言うことじゃないわよね!?それ!要するに敵地にいるってことでしょう!?」

 

さらっと言い出したフェルマにルンは叫んだ。どうやらフェルマによると、彼の兄であるデラードがこの施設の中に潜入しているらしい。

 

「だってー、爆破する為には仕掛けなきゃいけないじゃん?だからデラード兄さんが行ってくれるって言ったもんね〜」

「貴方も爆破が好きなのね…」

 

ユアの呆れるような声に「えへへー」と笑うフェルマ。ユアの呆れは伝わっているかどうか怪しい。

 

「『も』?」

 

何気なく言葉を拾ったララにユアは「あー…」とフェルマを見ながら懐かしそうに話す。

 

「スモラの事よ。彼戦争嫌いだったから、戦争に関連するものには全部爆発物仕掛けてたのよね」

「うわっマジお兄さんのご先祖さま物騒過ぎない?」

「フェルマ様は人のことを言えないのでは…?」

 

ユキノに言われた通り、フェルマはこの施設を爆破させようとしているのである。ご先祖さまとやらと同じ事をしようとしているのは明らかなのであった。

しかし施設の扉は内側から固く閉ざされているのか普通には開けられない。どこから潜入するのかをまず考えなくてはならないだろう。普通ならば。

 

「どこから潜入するのかしら?フェルマ」

「んー…ここは正面突破でしょ?」

 

ユアに尋ねられたフェルマは自前の武器である弓矢を手に取る。

何をするつもりかとメテオス以外の皆は一歩引いて見守る。弓矢を引こうとする、という事は前方にいれば危ないということは確実だからだ。メテオスは目を輝かせて動こうとしないのでロストが慌てて引き下がらせた。

 

「マナ解放!行くよ、これが兄さんの全力!」

 

フェルマの弓矢にマナが満ちる。

彼は何かしらの衝撃波を与え、無理矢理扉を壊そうとしているのだ。

 

「無の力よ、その移ろう姿を光に変え、今眼前の障害を破壊せん。光矢六連撃!!」

 

フェルマの弓から放たれた矢は6つの光に変わり、クローン実験施設の扉に連続して叩き込まれる。

ここまで派手な入り方をするとなると敵に気付かれないという甘い考えは捨てた方が良いだろう。大きな煙を立てて崩れる入口の向こう側にはこの異常事態に気付いたクローン達が立ちはだかっているはずだ。

 

「来る」

「あはははっ!また会えたね!オリジナルぅ!」

 

ロストは剣を構える。フェルマの秘奥義《光矢六連撃》により崩れた扉の向こうから真っ先に飛び出して来たのはロストのクローン、04と呼ばれていた個体だ。その後ろにはレティウスのクローンもいる。

飛び出してきた04に相対するようにロストはララ達から1歩遠ざかる。

 

「ロスト君、離れると…!」

「よそみぃしてんじゃぁねぇぞぉっ!」

「きゃああっ!」

 

遠ざかっていくロストの姿を追おうとしたララだが、レティウスのクローンに斧をぶつけられ倒れる。

ルンがいち早く反応しようとしたが施設の方から出てきた蜘蛛型のモンスターに阻まれて動けない。

 

「このモンスター…っほんっと嫌なことするね、流石のお兄さんもおこだかんね!」

「フェルマさん、何かわかったんですか?」

 

施設から出てきたモンスターに何かしらの心当たりがあったのかフェルマは嫌そうな顔をして近寄ってきたモンスターを蹴り倒す。

 

「このモンスター、元はクローンだよ。人間のね」

「…モンスターの実験、やっぱ使ってあったってことね」

 

ユアはスモラの残した実験資料を思い出しながらモンスターを叩き斬る。炭のように消えていく姿はクローンの消えるそれと同じようだ。

術を展開する為にも1度距離を取らねばならないが、そう易々とユアを自由にする訳にはいかないとでも言うように蜘蛛型モンスターがユアを取り囲む。

 

ユアを横目で見た後にロストは自分狙いである04と剣の打ち合いをする。それはほぼ同じ動きで互角とも言える状態だった。

 

「英雄サマの事なんて気にせずこっちを見てよオリジナル!!」

「…っ!くっ、俺のクローンって言う癖になんでお前火属性扱ってんだよ…!」

「さあ?何でだろうね?」

 

ロストにとって気掛かりなのは04が火属性を扱って来ていること。村を燃やしたのもこの04の炎だろう。しかし自身は水属性のマナを潤沢に持っている。本来魔輝人は1つの属性しか有しないはず…とまで考えるが直ぐに思考は中断される。

 

「考え事っしないでよ!!ムカつく!!!」

「…っ」

 

力任せに04がロストの剣を弾き飛ばす。しかし反動で04の持つ剣も共に飛んで行ってしまった。

武器をなくしてしまった04はロストの顔面を左腕で殴った。真正面から、そこそこ整っている方でありイケメンに区分されるかもしれない(04もクローンなので同じ顔なのだが)ロストの顔面を殴ったのだ。

 

「お…っまっ!」

「ロスト君!」

 

ララがロストを案じて声をかけたが術範囲にロストが居らず、その上他のクローンを相手にしていた為回復の術を使えない。

 

「へへーんだ殴り返してみ…っ!」

 

04がロストを煽ろうとした時、突如横から大剣が飛んで来て04の片腕をもぎ取って行った。それはロストを殴った方の腕と同じ左だ。

そして、大剣を使う者はこの場に1人しか居ない。

 

「よかった。ちゃんと当たったわね」

 

そこには顔は微笑んでいるのに目が笑っていないユアがいた。ユアの周囲にいたモンスターは既に叩きふせられている。

ロストを気にかける言動は度々見受けられたが、ロストが直接害されるとこうもなるのか、と非戦闘員であるメテオスと共にいるチャールは悪寒を感じた。

 

「だ…っれだよあんたぁ!ああ、英雄さんかぁ!」

「ロストと同じ顔で変な事言わないで。ロスト、大丈夫?」

「は、はい…」

 

04の切り離された左腕はクローンが消える時と同じように消えて行き、勝ち目がないと悟った04は悔しそうにユアを睨むと建物の中へ逃げ帰った。

 

ユアはロストが無事であると確認するとアップルグミを渡して大剣を拾った。

その内にクローンやモンスターも片付き、ようやくロスト達一行は建物の中へ入る事ができた。

 

 

しかし、この時点で動いているのはロスト達だけではなかった。

 

「…フェアロ・ドーネ騎士団パーフェクティオ隊副隊長、セテオス・ベリセルア。お前に特別任務を与える」

 

フェアロ王国の王都リイルアにて、フェアロ・ドーネ騎士団団長のリンブロア直々にセテオスへ命令が下った。

それは、彼の愛娘であるルンを思っての親馬鹿思考に基づくものだがセテオスにとっては好都合でもあった。

 

「エレッタへ向かう…っすよね」

「上司の言葉は遮るものじゃない。だが、そうだな」

 

だがセテオスには一つ懸念があった。それは移動手段だ。互いに島国であるエレッタとフェアロでは海路を通るしか道がない。

 

「団長…どうやって、向かうっすか?」

「実はパーフェクティオ隊にタール家の者がいてな」

「…は、い…?」

 

セテオスは初耳であった。これはルンも知らない事であるとリンブロアは言う。

 

「エリッサという者がいただろう?奴は既にフェアロで婚姻を結んでいて姓を変えていたんだ。彼女から大切な弟の助けになる為にと今回協力を申し出てきたんだ」

「な、な、なんだってー!?それマジっすか!?」

「つべこべ言わず、エリッサの協力のもとエレッタへ迎え。私が行ってもアレは言う事を聞かん」

 

リンブロアは納得がいかない、という様子でセテオスを睨み付ける。

ルンの事を心配しているのであろうがルンは絶賛反抗期であるからリンブロアの言う事を素直には聞いてくれないのだろう。セテオスはただルンの部下なので八つ当たりになるのだが。

 

「わっかりましたっす。…隊長の事は俺に任せてくださいっす」

「ふん、任せたくはないがな。仕方ない」

 

セテオスは当たりの強いリンブロアに苦笑いしつつも、礼をして退室する。

部屋を出るとエリッサが夫である騎士、レウォードと共に待っていた。彼女の夫も協力してくれるようだ。

 

「副隊長、黙っていて申し訳ありませんでした」

 

エリッサがセテオスに頭を下げながら言う。しかしセテオスとしては彼女を責めるつもりは一切無かった。

 

「そんな、頭下げなくていいんすよ?エリッサはレウォードと結婚して姓が変わっていたから気づかないのも当然っす。それに、騎士団の中でエレッタ出身の者に対する偏見があるのが問題でもあるっすから」

「だが副隊長、俺も知っていて黙っていたんだ」

「あーもう、そーゆーのはなしっす。今はいち早く、隊長やエリッサの家族の為に向かうっすよ」

 

セテオスに言われ、エリッサは「では、こちらです」と、騎士団本部の地下のとある機械を隠した場所へと案内するのであった。

 

「わざわざこんなもん、用意してたんっすか」

 

騎士団本部の地下は、以前ロスト達の向かった資料室以外にもガレージがあったのだ。位置的には恐らく真上は城下町から外れた場所であろうが、まさかこれを発進させる為に開くのだろうか?とセテオスは目を見張る。

 

「私がこの国へ亡命した時に、団長が飛行艇…アンダンテルス号を隠す場所を作ってくれたのです」

「俺はその時のメンバーの1人だったという訳だ」

「なるほど…メテオスが見たら喜びそうっす」

 

メテオスはフェルマ…要するにタール家の機械技術に興味津々なのだ。巨大な飛行艇を見て心が踊るというものが確かに分かる、とセテオスは頷いた。

 

「本当は小さなものだったのですが、フェルマが送り付けて来た追加改造の設計図をレウォードが見て作ったんです」

「隊長や副団長達を乗せる事が出来るようになってると思う。流石はエリッサの兄弟という所だ。さて…時間が惜しい、エレッタまでひとっ飛びしようか」

 

レウォードがそう言うので、セテオスは興奮する気持ちを抑えて飛行艇、アンダンテルス号に搭乗した。

コックピットでエリッサとレウォードが何かしらボタンを動かすとガレージの天井が開いていく。そして、エンジンが掛かり巨大な鉄の塊は空へと向かって飛んで行ったのであった。

 

続く


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