テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター36:クローン実験の詳細

ロスト達が砂漠を歩いていると、段々と緑が見えて来た。

その更に先へ進んでいくと、緑が見えてくるどころか気候は寒くなり、機械的で無機質な白い壁に囲われた王都へ近づくまでには雪は降っていないもののすっかりフェアロでも感じられないくらいの寒い地域となっていた。

 

「ふぇっくし!さ、さむっ!?同じ国でもこんなに気候が違うってどういう事!?」

「エッティスの近くにはセルシウスのいる氷山があるからね、仕方ないと思うよん」

「エレッタは大精霊の加護が偏ってるの忘れてたわ…」

 

マフラーを巻いてコートを着ているフェルマは寒さへの対策は万全で、短い袖にアームカバーをはめている程度のルンは「分かってたなら教えてよ!」と怒っていた。

ユアも半袖ではあるものの寒さをあまり感じないのかなんともないと言った様子でルンの方を心配する。

 

「よくユアさんは大丈夫ですね…」

「セルシウスの氷山が近辺にあるおかげでこの辺の気候は昔からずっとこうなのよ。100年前の時に慣れたわ」

「慣れたで済むものとは思えないんですが」

 

ロストも決して厚着ではない為に寒さを感じてはいるがルンの方は凍えるほどに寒いようでエッティスに着いたら真っ先に彼女に上着を買わないといけないと感じた。

無機質な白い壁に覆われたエッティスという街はこれまでにロスト達が見た街とは雰囲気が大きく違っている。

壁の外回りには大きな門があり、銃を持った門番が2人立っている。その片方がフェルマを視界に入れると気さくに話しかけてきた。どうやら知り合いのようだ。

 

「おや、貴方はタールさんとこの」

「門番のお兄さん、お妃様との約束通り連れてきたよん」

 

門番の男は大柄で高身長であるフェルマも見上げるほどだった。フォルマは軽く挨拶をするとユアの方を見た。

どうやらこの門番もフェルマの仲間のようだ。

 

「こんにちは、私はフェアロ・ドーネ騎士団所属。副団長のユア・メウルシー」

「私は同じくパーフェクティオ隊隊長、ルン・ドーネです」

 

騎士の2人が門番に礼をすると、門番の方も礼を返した。彼女らの胸元に輝く騎士団の紋章が、2人の身分を鮮明に表している。

 

「我々は貴方がたを歓迎します」

 

フェルマの味方である門番は笑顔で門を開ける。ここにフェルマの味方がいるということはこの門の先一帯は妃派の者達が暮らしているということなのだろう。

 

「じゃ、このままエッティスの中へレッツラゴー!」

「ちょっ落ち着きなさいよフェルマ!」

「お、オレも!」

 

門が開くと同時に掛けていくフェルマとそれを追うルンとメテオス。その光景に呆れつつもユアはロスト達に目配せして門の中へと入っていった。

 

エレッタ中心の街であるエッティスは、雪こそは降っていないが暑いか寒いかに分類すると寒い、と評される街だ。

石で舗装された地面に街のあちらこちらにあるのはフェアロにはない蒸気機関。

港で初めてフェルマに出会った時彼が暴走させていたのは恐らく蒸気機関を利用したものである。

 

「さて、兄さんの実家はこっちの方面だよん。本当は妃様と王子様がいるんだけど…おや?」

 

「お前達のせいでこの国はおかしくなったんだ!!」

 

フェルマが家があるだろう方向に行こうとすると、気になる光景が目に入ったようで立ち止まった。

買い出しをしているだろう少年に、店主が怒鳴り込んでいる様だ。少年は萎縮して「そ、そんなこと言われたって…」と震えている。

 

「あー…またかー…」

 

フェルマはそう呟いて少年の方へ歩いていく。先程までのテンションから一転、不機嫌な様子になったフェルマにユキノは「フェルマ様?」と心配を表した。

 

「おーじさま、何やってるんだい?そこの店主のおにーさんも」

「ふぇ、フェルマッ!?暫く空けるんじゃなかったのっ!?」

「あんたか、タールの6男。まったく、目障りだからエレッタ王族を外に出すなと言ってたろうに」

 

フェルマに声を掛けられると【おーじさま】と呼ばれた少年は更に体を震わせる。フェルマは少年を助けに行ったのでは無いかと思われたがフェルマは少年に対し叱るような雰囲気で話しかけている。

店主の方は少年を睨みつけるようにしていた。

 

「…フェルマ、そいつは誰だ」

「ん?あー彼、この国のおーじさま」

 

ロストに尋ねられて答えたフェルマは少年の首根っこを捕まえてロスト達に見せる。

青みがかった銀髪に深い青色の瞳。あまり健康そうには見えない貧相な少年に見える。

少年はロストを見て固まり、フェルマに「お、おい!」と慌てて叫んでいる。

 

「…王子様、という事はこいつが」

「そそ、俺んちで預かってるエレッタの王族さん。ついでに今のおーさまに反発してるってことで。ほら、挨拶しようか」

 

フェルマに促されるまま少年はロスト達の方を見るも「え、あ、う…」と緊張したように口ごもっていた。

 

「…おれは、エイミール・アレクシス・エレッタ。エレッタの第1王子。だけど…父上の突然の暴虐的な政治に反発して、母上と共に城を追い出された」

 

目に涙をためて震えた声で挨拶をしたエイミールは、そそくさとフェルマの後ろに隠れてしまう。どうやらあまり人と話す事が得意では無いようだ。

 

「よしよし、まあこの事については後でお説教だけど…そこの店主さんさあ」

「な、なんだ」

「この子は何も悪くない。王族の子なんて周囲に利用されて流されて、誰かが救わないといけないなんてことけっこーあるんだよね~。今回の件について掴んだ事もあるからさ、ちょっと黙ろっか」

 

フェルマはあくまで笑顔であったが、店主はその意図を汲み取ったのか怯えたように「だ、だが王族は皆同じだっ!」と叫びながらも体を震わせていた。

 

「さて、青年達ー兄さんの家に帰るよー」

 

フェルマはそれを無視して何も無かったかのようにロスト達に促す。エイミールの手を握ったフェルマは優しくもう片方の手で頭を撫でた。

 

「…フェアロは、ここまで当たりがきつい、なんて事は無かったわよね」

「まあそうね。フェアロの王族は大精霊マクスウェルの子孫なんて言われているし、エレッタは前科があるもの」

 

ルンの素朴な疑問にユアがそう答えた。フェアロ王族とエレッタ王族では大前提が違うだろうとメテオスはため息をついた。

 

「お前騎士の癖にそれも考えらんないのかよ」

「そうかもね」

「…やけに素直だな、今日のルンは」

 

いつもなら怒って言い返すものだと思っていたメテオスは、テンションの低い返しに戸惑いを隠せなかった。

メテオスは何か気の利いた事を言って元気づけようと思ったが直ぐにタール家の屋敷に着いてしまった。

メテオスがルンをフォローしようとしたのはロストから彼女の父…リンブロアの親馬鹿具合を聞いていており、あまり落ち込ませたとなると何されるか分からない。と勝手に怯えての事だったが。

 

タール家の屋敷という物は、流石にエレッタでも有名な家ということもあり豪邸と呼ぶに相応しいものだった。そもそも港にある別荘でロスト達が宿泊出来た時点でお察しである。

 

「ここが…フェルマさんの自宅…っ!」

 

着いてそうそう、メテオスは拝むようにタール家の屋敷を見ていた。忘れられかけていたが彼はフェルマ・タールの大ファンだ。

 

「なあフェルマ、あいつ何」

「人を指さすんじゃないよーおーじさま。彼はお兄さんのファンだって」

「おまえの!?」

 

現在同居しているというエイミールにはフェルマに憧れる部分はあるのかとフェルマを睨んだ。

同居しているとどうやら彼の凄い部分というものは分からなくなるようだ。

 

「ささ、早く中に入って入って」

 

フェルマに促されロスト達は豪邸の中へ入っていく。

ララは未だにそわそわしているが、ソルがいなくなって直後ほどの混乱は見せていないようだ。

 

「さて、まずはお妃様にご挨拶…って思ったけど今寝ちゃってるって連絡入ったから」

 

そう言ってフェルマは応接間に皆を連れて来た後にエイミールに何かしら「おつかい」を頼んでいた。

 

「さて、これから話すのはロスト青年やララ少女に関係ある事なんだけど…分かるよね?」

「クローンの、事でしょ。…ソルは、クローンだって」

「…(これが本当ならば、レイナもやはりクローンという事。だが何故レイナとソルは性別の違うクローンとして生まれているんだ?)」

 

いつもは明るいララも流石に気が滅入っているのかあまりその声に張りがない。ロストは考え込んでしまい頷いただけで他に反応を示さなかった。

 

「その、メテオス様も誘拐に含まれていたのですよね…?あの近辺の子供は皆連れ去られたと聞きますし」

「ん、オレどころかレティ兄まで攫われたんだよなーあの日。セテ兄にすっごい心配かけた自覚はあるし」

 

それはレティウスのクローンがいた時点で察していたとユアはこめかみを抑えた。メテオスのクローンは見た事が無い上に彼の記憶に欠落があるのはあまり分からなかった。先日シャドウに指摘されるまで彼のマナにも問題がある事など誰も気付かなかったであろう。

 

「そうなると、セテオスが攫われなかったことは少し気になるわね。誰かと一緒にいたのかしら」

「セテ兄はそん時、騎士に助けられたんだって。助けてくれた騎士の名前までは聞いてないけどさ。ああ、だからセテ兄は騎士になったんだーって思ったんだよ」

 

そのセテオスを助けた騎士についてはそれ以上会話に出なかったが、チャールは心当たりがあったようで『あいつもちゃんと騎士としての憧れを果たしたんだよな』と悲しそうな声で呟いた。その呟きはチャールを肩に乗せているララ以外には聞こえなかったが、聞いたのがララなので深く追求される事はなかった。

 

「で、クローン実験の資料、実は少しだけお兄さん目を通したんだよねー。すると頭に入る入る!少し頭が痛くなってそれ以上は読まなかったんだけどね」

「徹夜して読んでないよね?それ」

 

ララはフェルマに疑惑の視線を向けたがフェルマは「違うよー」と口を尖らせた。本当に無理している時に読んでいた訳では無いらしい。

 

「おい、フェルマ。持ってきた、どうしておれをそうやってこき使うんだ!別に上から目線でふんぞりかえるわけじゃないし、おれが言うのもどうかと思うけどおれって一応王族なんだよな?」

 

むすっとした表情でエイミールが厚い本を持ってきた。どうやらそれが資料の記された本らしい。

エイミールの主張も尤もだとは思われるが先程のやり取りからして王族はこの辺りでは好ましく思われていないのを知っていたので「あー…」とルンは遠い目をした。

 

「めんごめんご。で、これが資料だよん」

「大分厚いわね。これクローンの以外のもあるのかしら」

「なんか人間とモンスターを融合させる実験とかあったらしいよ。ご先祖さまは研究残しただけだったけどお兄さんの叔父さんがこれ利用して大暴れしたとかあったけど全部揉み消されたんだよねー。もしかしたらどっかにその実験の被害者もいるかもね。まあ今はクローンの話しねーえっと」

「えっ…?」

 

一息で言ってのけたフェルマにユキノが何かを聞きたげに視線を送るも、直ぐにクローンの話へと戻されてしまった。

フォルマは厚い研究書をパラパラと捲りクローン実験のものと思われるページを開いた。

細かい図説や考察が書かれており何ページにも渡って実験の経過が示されている。スモラ・タールが筆まめであった証でもある。

 

「クローン実験。正式名称は魔輝利用による人間複製実験。人間のマナどころかマナを生み出す魔輝そのものを人間から切り出して人間を作る実験だよ。名前長くてめんどいからクローン実験になったんだよねー結局は似たようなもんだし」

「人間複製、なあ…でも、記憶の欠落があるってことは魔輝は本来抜きだしちゃいけないやつじゃないんですか?」

 

研究書を見ていたメテオスがララやロストを見ながら言った。魔輝を抜き出すということは、抜かれた本人はマナを生み出す力が衰え、記憶の欠落を起こすということ。酷い時には死に至るという。

 

「そ、だからこれは封印されるはずだった。緊張状態にあった100年前のエレッタは、兵隊を増やす為にこれを無理矢理利用したらしいけどね」

「ええ、エレッタに利用されて無理矢理人を殺す道具を作らされていて、耐えかねて彼は私達の所へ逃げて来た」

 

スモラは天才であった。だからこそ元凶となるものを生み出し、周囲に利用される事となってしまった。

 

「しかし、何故彼はこの様な実験を生み出したのでしょう」

「…あのさ、クローン実験の最初のページ、被験者の項目…」

 

じっと見ていたメテオスは何かに気付いたようである項目に指をさした。

被験者の項目。そこにはスモラ・タール…自身の名前が記されていた。

 

続く


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