テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター35:山積みになる問題

エディルの家へ戻った頃にはララは精神的な疲労のせいか眠ってしまっていた。

ロストはララに何も声をかける事ができず、その上全員黙り込んでしまっている。気まずい空気が流れ込んでいる中、エディルはどうしようかと思っていた。

 

「何が起こったのか、話してくれてもいいだろうに」

 

エディルは怪我人を連れて帰って来たユア達に怪我人をベッドに寝せるよう促したり、家の中で自由にくつろがせた。

短時間で1人がこの場からいなくなったり怪我人が出た事が気になったがそれどころではないユアの雰囲気に気圧されかけた。

 

「貴方が知ったら暴れるわよ」

「何でだ」

「…デイヌが生きていたわ」

 

瞬間、エディルの表情が固まる。そして拳を壁に叩きつけた。ユキノはびっくりして震え上がるが、エディルはそれに気付いていない。

デイヌという人間が生きている事が、それほどエディルにとっては許し難いのだろう。

 

「それは、本当か」

「ええ、恐らく彼がエレッタの王に取り入ったのね」

「ねえねえ、そのデイヌって誰なわけ?それにさっきのソル少年の変貌の仕方が尋常じゃあなかったって…俺は、思うんだけどさ?」

 

フェルマはおちゃらけてもいられなくなったようでユア達にそう切り込む。

ユアにとってもそのデイヌという人物が関わっている時点でこれは皆に伝えておかねばならないだろうと考えたようで「そうね、話しておくわ」と頷いた。

 

「そもそもこれは、100年前に遡る話よ。100年前の三国間で起こった戦争。あれの仕掛け人ってところね。彼がいるならば、クローン技術が使われた事にも合点がいくわ。彼はクローン技術を知っているのだもの」

「…俺やララが巻き込まれた拉致事件ってのも…」

「彼が関わっているわね。きっと」

 

ユアの返答を聞いたロストは「そうか」と頭を抱えた。

ここに来て全ての元凶と鉢合わせる事になるとは思わなかったのだ。こうなればクローン達の親玉もデイヌであるという事なのだから。

 

「彼は100年前もエレッタ王族の側近として潜入して戦争を起こした。その際に奪われた命は数が知れないわ。エレッタ王族は何を学んだのかしら…いや、騙されてるのではなく洗脳されている…?」

「洗脳の可能性は考えられるな。あいつは無属性のマナを持っている。無属性の術には洗脳系のものがあったはずだ」

 

エディルに言われてユアはハッとする。100年前も今も、エレッタ王家はデイヌという1人の人間にいいように使われているのだ。

 

「でも、デイヌって100年前の人間である上に、ユアさん達が…」

「そうよ、ルン。ええ、私達は彼を確実に殺したはず…何故生きているのかしら」

「転生した、とかならありえるか?」

 

エディルの突拍子の無い言葉にルンはそんなわけはないだろうと苦笑いを浮かべるも何か思い当たるものでもあったのかユアは真剣に「ありえるわね」と呟いた。

 

「転生というものは、有り得るのですか?」

「可能性の話だけれど…それ以外に考えられるものがないのよ。スモラならこの辺りを知っていたはずだけれど、結局私達は、彼とデイヌの関係を知る事はなかったし」

「スモラは、あいつの事を大切な弟だと言っていたな」

 

度々出てくるスモラ・タールの話に、フェルマは「それなら」と何かを閃いたかのように手を叩いた。スモラの子孫である彼だから知っている事や思い当たる事もあるのだろうか。

 

「どうせエッティスに向かう予定だったんなら、兄さんの実家に行こう!」

「今タール家は分裂してるのではなかったのか」

 

フェルマの名案、とでも言うような笑顔にロストはそう指摘する。

フェルマの話を聞いていた限りではタール家が分裂している事によりフェルマ達がエルシアにある別荘に住んでいたと思ったからだ。ユアもそう思っていたようで「行けるのかしら?」と尋ねた。

 

「ん?兄さんの実家だから帰れるよん。っていうかお妃様と殿下も保護してるからねえ。対立してる方は王宮にいるよ」

「そういう事だったのか」

「そうそう!」

 

エレッタの妃とその子供を保護しているあたりタール家はやはり影響力が強いのだろうと考えられる。ユアはフェルマが自分達に協力しているのは何か考えあっての事だろうと察した。

 

「ユアさん、なら向こうの王妃様の協力を得られれば…」

「そうね…フェルマ、エレッタの王妃は我々フェアロの者と協力しようとは考えているのかしら?」

「そうだねえ、お妃様にはフェアロの人と接触したら連れて来てーくらいしか聞いてないし…あーでもユア女史がいるなら話は別かもねん」

 

ユアの存在は大きいのだ、とフェルマは言う。

それもそうだ、彼女はエルフでも精霊でもないのに100年前からずっと生きており、戦争を生き抜いて終止符を打った者なのだから。

エディルはその話を聞いて大方理解したようで「なら、俺はツテを使ってスレディアの王族に連絡でもするか」と呟いた。

 

「ああお願いしていいかな?英雄エディル、お兄さんも一応ツテはあるけどリトゥリアは闘技場に入り浸ってるって話だからねえ…」

「お前のツテが気になるんだがそれは…闘技場に入り浸ってる知り合いとかどうやって知り合ったんだよ」

「え?お見合い。リトゥリアはスレディアの第三王女だし」

「え」

 

何気ないフェルマの言葉にエディルは咄嗟にフェルマの目を見た。今、フェルマなスレディア王家にツテがあると言ったのだ。

ユキノも流石に王家の事は知っていたのか目を丸くしていた。スレディア王家についてはこれまで出て来なかった為に余計驚きが勝るのだろう。

 

「出会って確かにそう経っていないけれど、まさかあそこと繋がっていたとは…」

「だからエレッタの王様には狙われちゃうんだよな〜リトゥリア経由にフェアロに応援を呼ばれちゃうとか思われて…でも、直接そっちから来てくれるとは思わなかったからさー」

 

ユアを見るフェルマはニヤリとそう言った。こいつ、利用する気満々だ、とルンは思ったがフェアロとしても悪くない情報なので乗っかるしかない。

ロストにはこれらの事情はよく分からないがとにかくフェルマは引き続き協力してくれるようだと分かるだけで朗報であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽつり、ぽつり。雨がしとしと降っている。

これは、夢だろうか。夢を介して過去の記憶が流れ込んでいるのだろうか。

寝ている間に見る夢は記憶の整理の際に生まれるという。ララ自身はその仕組みを知らないが、恐らくこれは自分の記憶なのだとララは感知した。

視界が狭いが、部屋に2人の人物がいることが分かる。片方の窓際に座る黒髪の女性は顔こそ見えないが、自分の母親だろうか。もう片方はその傍らで、今の自分と同じくらいの年齢をしたセテオスが控えていた。

 

『はあ、憂鬱だわ、こんな時に雨なんて。ねえセティ』

『雨の降る時期に嫁入りすると良い事が起きるっていう言い伝えもあるっすよ。奥様』

『そう、そうなの。…でも雨は嫌いだわ、ジメジメとして、それにあの女を思い出すから嫌だわ』

『――様になんという言い草してるっすか。奥様、これは――の繁栄の為に必要だと、貴女が仰ったじゃないっすか』

 

所々掠れて言葉か聞こえないのはまだ思い出していない部分だろうか。誰かが嫁入りする直前の話かもしれない。この女性の…と言ってしまうと恐らく彼女はララの母親なので自分に記憶として流れ込んでいる事がおかしくなる。彼女の親類が嫁入りするのだろうか。

 

『どうしてこんな田舎に生まれてしまったのかしら。どうせなら王都の貴族になりたかったわ。ああでもあの人に出会えた事は幸せだと思うわ私。あの人ったらデートの約束を取り付けようとしたら里の方が立て込んでるって言って里に帰ってしまったのよ。ああ悲しいわ、あの人に会いたい、もう全てを投げ捨ててしまいたいわ』

『奥様は、相変わらず旦那様のことが好きっすね』

 

語っている彼女はとても幸せそうで少女のようであった。

肝心の自分はどこにいるのかと思ったが、どうやらこの話を扉の向こうから覗いて聞いているようだ。隙間から2人の姿を伺っている。

 

『――、見てたんすか…。奥様、――が奥様に会いに来たっすよ』

『貴方が相手をしなさいセティ、私この子のことはどうでもいいもの』

 

ララに対する女性の態度は、母親と言うには些か嫌悪しているようにも見えた。なればその女性は自分の母親では無いのだろうか?記憶の中にいるセテオスはララの手を握ると『じゃあ、今から殿下に会いに行こうかっす』と部屋を後にした。

去り際に見た女性は、こちらを睨みつけているようにも見えた。表情は依然として確認出来なかったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?そる、ソルはっ!!!」

「ララ、目が覚めたのか…よかった…」

 

突然ララの意識は浮上した。ソルの名前を呼ぶ辺り本気でソルの事が心配なのだろう。

飛び起きたララに気づいたロストは安堵の表情を浮かべる。ララはそれどころではないと言わんばかりにロストを押しやろうとしたが「一旦落ち着いてくれ」と諭された。

 

「…ソルは、デイヌに連れて行かれた。ソルは、クローン、だったんだ…」

「ソルが、クローン…?でも、村のみんなは、そんな」

 

ララは知らなかった。村の皆がソルの事を伏せていた為でもあろう。ソルの異常に幼い言動は、彼が実質的に幼かったからなのだ。

ソルの場合は記憶を失ったのではなく、そもそも記憶がなかったという事。

 

「…ララ、焦る気持ちは分かる。だが、メテオスも怪我を負ってあまり動けな…」

「誰が動けないって?」

 

背後から聞こえた声にロストが振り返ると、ピンピンしたメテオスの姿が目に入る。

先程ソルにつけられた傷などどこにも見当たらないようだった。何故傷を治す事が出来たのか…ロストは以前目にした術に思い当たりがあった。

 

「お前、時属性の術を使ったのか?」

「ああ、あれは傷を無かったことにする術だからな。流石に死んだものを戻す事は出来ないけど、オレ自身の怪我は治せない訳じゃなかったし。だからさっさと行こうぜ」

「お前もせっかちだな…」

「ロスト君には言われたくないかな」

 

メテオスとララにじっと見られてロストは心当たりが無かったのか「は?」と呆れたように返す。

しかし2人に先走られても困るので、それを見ていたユアが「何も情報無しに突撃されても困るわ」と冷静に言った。

 

「私だって弟が誘拐されたとかなったら不安で仕方ないけど、今私達にはあいつらについての情報が無い。フェルマの家に一旦行くしかないわ」

「…うっ。ごめんなさい」

「全く、メテオスも勝手に時属性の術を使わないで言い損ねていたわ。確かに万能な術だけれど、もしマナの生成が遅れていたらどうするの。いざと言う時に使えないわよ。貴方も魔輝が欠けてるのでしょう?」

 

流石に英雄であり戦慣れしているユアに言われてしまっては反論も出来ないララとメテオス。まだまだ子供だとユアはその直後に微笑んだ。

 

「じゃあ村長さんお兄さん達はそろそろ出発するねん」

「…お前がタールの子孫だと言うのであれば、恐らくデイヌとは無関係ではない。それは留意しておけ」

「うん。さてと、あまり長居もできない理由ができちゃったし」

 

フェルマに視線を向けられたロストは荷物を確認しながら頷く。もうここを離れなければならない。次に向かうのはエレッタの王都であるエッティス。

 

「分かっている」

 

ここを出ればエッティスまではあともう少しだとフェルマは言う。

 

「おい、イフリート、それとメウルシー」

 

荷物を整理して次々と出ていく中、エディルはユアと、とある人物に声を投げかける。自分と接点はなかったはずだと彼は訝しげにエディルを見上げる。

 

「マクスウェルのジジイから言伝だ。レムの調教が済んだ。これで少しはあのジジイも動けるようになるだろ」

「あら、いつの間にレムを見つけてたの?光の大精霊は候補がいないって言ってなかったかしら」

 

光の大精霊、レム。初めて出てくる精霊の名だが、その存在はマクスウェルがずっと候補者を探していたもので、未だ空いていた座だ。

ユアは定期的にマクスウェルと連絡をとっていた筈だがどうやらレムに関しては知らされていなかった模様。

 

「俺だって最近知った。とにかく、スレディアにある光の大聖堂が今更本稼働するらしい。あの子を連れて、レムと契約を結んでくれ」

「分かったわ。これで、本当にいないのはウンディーネだけになってしまったわね…ああイフリート、貴方はロスト達と合流してていいわ」

 

エディルの話についてきている様子ではなかったイフリートと呼ばれた存在はそう言われるとすぐにエディルの家を出た。

 

「はあ、彼はまだ目覚めて18年なのだから、マクスウェルのことなんてあんまり知らないのよ。ああ、念の為聞いていいかしら?レムは一体誰なの?」

「ブラッティーアのご婦人だ。お前も知ってるだろう」

「…そう」

 

ブラッティーア。その言葉を聞いたユアは察したように目を伏せた。ブラッティーアはフェアロ・エルス領主の一族で、代々精霊と関連を持つ人物が生まれていた。しかしこの一族は過去の襲撃で滅びており、表向きに生き残りはいないとされている。

 

「彼女も、やはり死んでいたのね」

「あんまりなお転婆娘だったもんだし旦那さん亡くなったことで発狂しかけてたからな。マクスウェルが彼女の人格を【精霊として適応できるように】弄り回した。今の状態だったら、娘さんや息子さんにももう少し愛情を注げただろうに」

 

ブラッティーアの婦人であった彼女の性格は酷いもので、夫を愛するあまりに自身の子を蔑ろにしていたらしい。

ユアは面識のある人間の人格を弄くり回すと簡単に言ってのけたエディルに少し引いたが彼はエルフであって人間ではないのだとため息をついた。

 

「マクスウェルも、酷な事をするのね」

「まあな…そろそろ、行かせた方がいいか」

 

外ではロスト達が待っているだろう。

エディルは餞別にとチャームをユアに手渡した。

 

「俺のお下がりだが無いよりはましだろ、じゃあな」

「ええ、また会う時もお互い元気に」

 

最後に、ユアが扉を開けて出て行った。

エディルは100年前、どうやってデイヌを倒したか、スモラ・タールとはどんな人間だったかを改めて思い返していた。

 

「スモラ…あんまりにも似すぎだろ。本当に本人かと思ったぞ」

 

続く


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