テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター33:砂漠の脅威

 朝になり、ロストは宿泊していた部屋を出て昨日皆が集まっていた部屋へとやって来た。

 まだフェルマしか来ていなかったのかマフラーを巻いたフェルマがにかっとした笑顔でロストを出迎える。

 

「ああロスト青年、起きたんだね。君が兄さんを除いて一番乗りだよん」

「…他の奴らは、まだなのか」

 

 ロストが部屋の窓から外を見やると、登りきっていない光が薄く町に差し込んでいる。人の営みはこの様に早い時刻から始まる。

 フェルマは他のメンバーが来るまでに荷物を再確認しようと、リュックの中身を漁っていた。

 

「そう言えば、あんたのお兄さんはどうしたんだ」

 

 この広い部屋には未だロストとフェルマの二人きりで、昨日フェルマと並んでいた青年がいないことに気付いたロストは首を傾げながらフェルマに尋ねた。

 昨日の様子からして兄弟仲は相当良いものだと、双子の妹がいたロストは察している。

 

「んー?ああトロニア兄さんの事?こっちには関わんなくていいよーって言っておいたから。今日は部屋で実験をして出てこないと思うよん」

 

 ロストは知らないが、タール家の人間というものは根本から実験というものが好きだ。フェルマは機械技術に特化している。しかしトロニアはそれに及ばずとも高度な機械技術を考案していた。

 本日、トロニアは急に閃いた機械の設計を書き上げるべく、部屋に篭ってしまっている。だから見送りには来ないとフェルマは笑う。

 

「髪の毛が決まらないーっ!!!」

 

 そんな中突然叫び声が聞こえた。フェルマは一瞬驚いたようだがロストは最早慣れたと言わんばかりにため息をつく。

 そしてドタドタと音が聞こえた直後にララがルンを引きずって部屋に入って来た。

 

「おはようロスト君!……にフェルマ君!」

「ああああもうまだ髪の毛整ってないのにぃ!ララは急ぎすぎっ!」

 

 ルンの髪の毛が乱れているのは一目瞭然。元々癖のつきやすい髪質で、朝から髪の毛を整える為に奮闘しているのは野宿の時でもあった事らしい。

 それに続くようにユア、ユキノが入室したが、メテオスとソルがまだ起きてくる気配がない。心配したロストが様子を見に行こうと扉を開けると、廊下の方からズルズルと何かを引きずるような音と小さな呻き声が聞こえる。

 

「…何してんだ、お前」

 

 それは寝ぼけ眼のソルを引きずりながら歩いてくるメテオスの奮闘の音だった。

 メテオス曰く、夜遅くまで起きてしまっていたせいで朝にきちんと起床する事が出来なかったらしい。心なしか顔色が悪い様に思えたがそれも寝不足のせいだろう。とユアは考え込む。

 

「これから砂漠越えをしなければならないから、あまり身体的に万全でないのは…」

「なら、兄さんが背負ってこうか?兄さんこう見えて力持ちだよん!」

 

 フェルマが「カモン!」と両手を広げてソルに迫る。やんわりと断りたいソル。しかし巫山戯ている様なフェルマの瞳は笑っていない。

 砂漠越えを経験しているせいかソルの状態では満足に砂漠越えが出来ないとフェルマの瞳は語っている。

 

「おね、がい…します」

「うんうん、いい子でよろしいソル少年!」

 

 ソルは素直にフェルマの背中に倒れ込んだ。本当に寝ていないの、とララが苦笑いした。昨夜…早朝に近いが…リズナに動きがあった事はララも感じている。

 ソルが寝不足かもしれない、と今朝心配されるだろうと思ったリズナがララに昨夜あった事をソルがクローンであるという話題には触れずに伝えていたのだ。

 

(リアンは一体、ソルに何をしようとしたんだろう…ソルがクローンなんて事は無いだろうし…きっと、そうだよね?)

 

 全員が揃ったところで、フェルマは荷物を持って「よし、行くぞー!」と笑う。ソルを抱えて更に荷物を持っているフェルマの表情に苦しさどころが気楽さしか見えない。

 初めてまともに頼りがいのある男性が仲間になったのではないかとユアはロスト、メテオス、ソルを見ながら一人頷いた。

 

「ここから一旦オアシスのある集落で休憩を取って、この国の中心であるエッティスに行こうと思う。砂漠は結構広いからねー気をつけるんだよん」

「オアシス?ここの砂漠にオアシスなんてあったのね」

「まあ、そうは言ってもここ数年水不足気味なんだけどねー。ウンディーネが消えた影響が出てるって話」

 

 ソルを背におぶったまま、先頭を歩いて街を出るフェルマ。

 ウンディーネが世界から消えた、という事はロストは知っていた。しかし今の世界はどうやって維持されているのだろうか。水不足が起こる事は想像に容易いが、急に世界中か水が無くなるという事はなかった。

 

「それなら、何故極端な影響が出ないんだ?」

『それはボクが説明しよう!』

 

 暖かい、というより熱いと言った方が正しい砂漠という気候の中で元気な様子のチャールがララの肩からロストの頭に飛び乗って来て答えた。

 その頃ルンは暑さに既に倦怠感を示しているがユアはあっさりとした様子である。メテオスは口に砂が入らないようにと口にスカーフを巻いている。

 

『ウンディーネが消えたのは5年前って話だったよな。この5年の間、このメモルイアの水のマナを調整していたのは水の微精霊達なんだ』

「流石一応精霊のチャール君、詳しいねえ」

 

 フェルマがそう言ってチャールの頭を撫でようとするとロストの首あたりに逃げ、ロストが小さく「ぐえっ」と呻き声をあげた。

 

「精霊!?チャールって精霊だったの!?」

『ま、まあ…そうなる、な』

「ララはこれまで犬のようなものだか狐のようなものだかしか言ってなかったな、そういや」

 

 そもそも精霊というのは生物そのものがマナとなっていて、人間やエルフとも違う、世界の管理者である。

 リズナの様に人の姿をとる者もいるが、実際は人前に精霊が現れることは殆どない。だからこそララは気付いていなかったようだ。

 

『それにしてもよく気付いたな、ボクが精霊だって』

「まーお兄さん、マナの研究もしたりしてるからね。それに?なんたって天才お兄さんだし」

 

 えっへん、とフェルマは胸を張った。背負われているソルが「ふぐっ」と声をあげたが突然揺れて吃驚しただけなのだろう。

 

『まあとにかく、ここ数年で微精霊の力だけじゃ世界を管理しきれなくなってるな。そろそろガタが来る』

「時期の水の大精霊は、何故未だ力の継承が成されていないのですか?」

 

 我ながら白々しい、とユキノは心の中で自虐した。ウンディーネの候補は目の前にいるロストである事をユキノは知っている。しかし今はまだそれを伝えるわけにはいかない。

 本当は口を挟むべきではなかったとユキノは後悔した。

 

「そうねえ、ユキノ。大精霊の器に足る魔輝人がいない、若しくは万全な状態ではないからじゃないかしら」

 

 ユアが答えてくれた事にユキノは少し安心した。隠し事をするにはユキノは性格が合わないとユアは分かっていたものの、リズナが彼女にロストの事を明かしてしまったのだから仕方ないとこめかみを押さえる。

 

「やはり、殿下の事が手がかりになるのですね」

「ディアロット殿下の事?それともその御子息の事かしら」

「両方です…ディアロット殿下は既に亡くなられていると騎士団長は仰っていましたが」

 

 現在騎士団の中で最優先項目とされているとも言われる王の子とその孫の件。

 その話題が出た途端にチャールはロストの頭に乗ってそっぽを向いた。毎回騎士団やフェアロ王族の話になると挙動のおかしくなるチャールにロストは疑心を感じてしまった。

 

(チャールは、絶対俺達に何かを隠してる)

 

 その話題からルンとユアはすっかり任務について話し始めてしまい、ユキノやメテオスは体力が不安な状態になってきていた。

 ロストもあまり会話をしながら歩く気分ではなく、隣で元気にチャールと会話しているララにロストの男としての尊厳の為どこがとは言わないが「負けた」と感じてしまっている。

 

 オアシスなど見えはしない。

 

 どれだけ歩こうが砂漠は砂漠。仙人掌があちこちに生えていたり岩が見えたりする以外には代わり映えはない。代わり映えのない風景を歩き続ける事は精神面に悪影響を及ぼす。現にユキノの顔が青白くなってきていた。フェルマはそれを見かねて一時休憩を取ろうと提案する。流石にオアシスにまだ辿り着いていないとはいえここで倒れる訳にもいかない。

 「持ってきていてよかった」とフェルマが荷物の中から簡易テントを取り出す。砂漠の中なのでモンスターが出てくる恐れもあるからとユキノやソル、消耗していたメテオス、ロスト、をテントの中に突っ込み、残りのフェルマ達は外を警戒していた。

 

「いやあ、ララお嬢さんが残ってくれて嬉しいけど、本当に休まなくてよかったのかい?」

「私は、私に出来ることをしたいし。ロスト君、最近どこかおかしいんだよね…」

 

 スピアロッドを取り出しながらララは軽く振り回す。ロストが自己について悩んでいる事をララはずっと気にしていた。自分の事が一切分からないから後回しにしているせいでロストに関する事が気になって仕方ない状態になっているとも言える。

 

「ふーん。兄さん君達の事はよくわからないけど……ん」

「えっ」

 

 フェルマは突然ララを背に隠して自らの武器である弓を射る。矢が飛んだ先にはサラマンダーと呼ばれる蜥蜴のようなモンスターが居た。砂漠地帯に存在するモンスターで、ララは当然見た事が無い。

 

「っスペクタクルズ!」

「あれは石化攻撃をしてくるちょいと厄介なモンスターでね…ルン少女に前衛を任せる事になるけど」

 

 ララが急いでアイテムの中からスペクタクルズを探し出す。これさえ使えば敵の属性が分かる。それさえ分かれば弱体属性攻撃で叩くのみ。弱体属性攻撃を持っていなければ物理が全てを語る。

 

 敵が来た事に気付いたユアとルンも参戦し、フェルマはララの肩にいたチャールにテントの中にいる者達は警戒しつつ中で休むようにと伝えていた。

 

「石化攻撃ぃ!?」

「うん、だからルンちゃん、出来るだけ避けてね」

「そんなの……っ!尻尾の針がそれなんでしょ!前から叩けば…孤月閃!」

 

 月の弧を描くように繰り出された閃撃でサラマンダーは一瞬怯むもルンに迫っていこうとする。まだ致命傷には至らないようだ。

 

「他にも来てるわ、注意しなさい」

「分かってますよ、ユアさん!」

 

「…敵が多いなあ」

 

 そうこうしている内にもサラマンダーがわらわらと湧いて出てくる。どこから出て来ているのかは考えたくもない。正直数も数えたくないとルンは唇を噛み締める。

 

「っ!!!」

「ルン少女っ!とと…兄さんも危機ってやつ?」

 

 思考を巡らしていた隙に、ルンにサラマンダーの針が襲い掛かる。石化がルンに掛かっていか。針の刺さった部位から肌が灰色に、固くなっていく。

 自分の体が自分のモノではなくなっていく恐怖がルンを襲う。

 フェルマは敵から距離を取らなければならない武器の為、必死にサラマンダーの群れから逃げている。

 

「ルン!!」

「ユアさんも危ないです!私、どうすれば…」

 

 ユアの周囲にもサラマンダーが溢れてきており、自らも油断出来ない状況へとすり変わっていく。

 

『ララお姉ちゃん。今こそ、リズの力を使って』

 

 ララの頭にリズナの声が響く。大精霊が力を貸してくれる。ララは途端に思考の中がクリアになった感覚がした。

 

「闇の大精霊、シャドウよ。契約者、ラリアン・オンリンの名において召喚する、我が眼前の敵を闇へ葬れ!」

『闇、地獄、深淵…我が契約者に仇名した者よ、飲まれるがいい』

 

 ララの詠唱によって召喚されるは大精霊の一角、黒い巨影のシャドウ。シャドウの作り出すブラックホールはサラマンダーのみを吸い込んでいき、それが無くなった頃にはそこにはただの砂漠しか存在していなかった。

 

「ルンちゃんっ!」

 

 シャドウのブラックホールが無くなった後、ララはルンの元へ駆け出す。そこには完全に石化してしまったルンがいた。

 

「ララ少女、リカバーでならルン少女を助けれる。だから慌てなくていいから」

「そうだった、えっと、えっと」

 

 フェルマに言われるもやはりあたふたしてしまうララ。石化など人生で見るのは初めてなのだから、当然とも言える。

 

「…悪しきものを取り除きたまえ…リカバー!」

 

 ララの詠唱によって発光した後、ルンの石化が解かれる。ルンは脱力してしまい、その場にへたり込む。

 

「あ、ありがとう……」

「私じゃなくて、リズナちゃんに言ってくれると助かるかな。私からもありがとう、リズナちゃん」

『我、契約者の命令に従い顕現したのみ。また我の助けが必要ならば馳せ参じる』

「うん、ありがとう」

 

 シャドウはそう言って姿を消した。

 テントの方は大丈夫かと目を向ければ、慌てて出てこようとしたのか倒れ込んでるソルの姿があった。

 

「そ、ソルー!ルンちゃんも休もっ!」

「え?あ、ええ……」

 

 軽く笑ってララはルンの手を引く。

 ルンの体力もあるので、と少し休めばオアシスはあともう少しだと言うフェルマの言葉を信じ、一行は歩き出した。

 

 

 

 それを影で見ていた者がいる。

 リアンと、03と呼ばれたロストのクローン。ロスト達一行の偵察をしていたのだ。

 

「何故我がこのような事をせねばならぬ」

 

 しかし、03はとても不機嫌そうだった。偵察というものが性にあわないとボヤいている。

 

「俺だっててめぇのような箱入り王子サマと偵察なんかしたくねえよ」

「はあ、ラリアンはあんなに可愛いというのに貴様と来たら」

「はあ?ぶっ殺すぞてめぇ」

「そうすると言うのであれば我は心地よく受けるが」

 

 テンションが狂う。リアンは胃の痛みを感じた。リアンはとことんこの03というクローンが気に食わない。

 王子であるという記憶を奪っているが故の行動はリアンにとって面白くもなんともない。その上空っぽである本体を見ているからか違和感が凄まじい。

 

「しかし、ああやって大精霊の力を見せつけられると少し足がすくみそうになるな」

「貴様にもそのような感覚があったのか」

「あの副団長様とやりあった時も感じた」

 

 リアン曰く「あれに喧嘩を売ろうとしている我らがご主人様は変態か」との事。

 ユア・メウルシーという女性は英雄という肩書きからして一般の騎士とも違う事は明らかである。それだというのに更に大精霊まで彼らにつくとなるとこちらは分が悪すぎないかとリアンは溜息をつく。

 

「貴様のオリジナルの話だろうにやけに他人事だな」

「他人事だ…ラリアン・ブラッティーアなど知らない」

「…ブラッティーア、その姓は我も覚えがある」

「そうだろうよ」

 

 リアンは砂漠にずっといる訳にもいかないと帰ろうとする。03はやはりオリジナルに戻りたいという思いが強いせいか何度も振り返ってしまうが、最後はリアンと共に彼の居城へと帰って行った。

続く


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