テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター26:忌み子と精霊の教会

 スレディアのフェアロ側にある港町、ディア=エルフィー港に着いたロスト達は、港町にある宿で一息ついていた。

 先の戦闘でソルとララが無茶をしすぎた事と、ルンとセテオスの回復待ちの為だ。

 

「はあっ、せいっ!」

 

 宿に泊まった夜、手持ち無沙汰になってしまったロストは隠れて1人で素振りをしていた。

 己の戦い方に満足出来ず1人で試行錯誤していたのだ。

 そこに影から一つの影が現れる。独特な九つの尾を持った狐のような赤い生き物、チャールだ。

 

『精が出るなあ』

「なんだ、チャールか」

 

 ロストは以前一晩中鍛練をして足を引っ張った事があった為にチャールに見つかると小言の一つは言われるだろうと覚悟した。

 しかしチャールは何も言わずにロストの方を見ていた。

 

「なんだよ、今日は小言の一つも無しか?」

 

 チャールが無言な事が気になったロストはむっとした表情で言葉を投げかけた。彼は真剣な眼差しでロストの鍛練を見ていたようで声をかけられて言葉を発した。

 

『お前、誰に剣術を習った』

「?母さんだけど…もしかして、知ってんのか?」

『だから、そのお前の母さんが誰なのかをボクは知らないんだけど』

 

 チャールに言われてロストは「確かに名前は言った事が無いな」と頭を掻いた。

 これまで母親の事は語っていてもその詳細は言った事が無かったのだ。

 ロストの剣術は母親からの直伝である事もロストは初めて言ったようだなと思っていた。

 

「リノス」

『…は?』

「だから、俺の母さんの名前はリノス・テイリア。5年ほど前に病死した、が…元気で、頼れる母さんだったよ。何も、俺の事なんて教えちゃくれなかったけどさ。村長の名前もテイリアだろ?だから親戚だったんだろうなーとは思ってるんだけどな」

 

 チャールはロストの母親の名前に聞き覚えがあったのか暫く固まっていた。そんなに驚く事なのかとロストは思いながらチャールの隣に座り込んだ。

 

『お前の、父親は…』

「知らない。気づいた時にはいなかった。だから俺はレイナと、母さんと3人で暮らしてた」

 

 チャールは何も返せず、口を開きかけては閉じる事を繰り返し、頭を垂れた。

 ロストはチャールが何か慰めの言葉でも考えているのかと思い「何も言わなくていい」とだけ言い宿の方へと戻って行ってしまった。

 もう鍛練は良いのかとチャールは尋ねようとしたが、呼び止める事はしなかった。

 

(父親か…もし、生きてたら…俺は…)

 

 チャールは去って行ったロストを見て、言葉に出来ない複雑な感情を抱えていた。呆然とその姿を見送る事しかできず、自分もそろそろ寝ないといけない…と宿の方へと戻って行く。

 

『リノス…お前は…』

 

 

 

 

 

「……」

 

 次の朝、起きたロストは隣のベッドで準備をするメテオスを見た。どうやらすっかり回復したようだ。安心したようにロストも自らの準備を始める。

 

「おはよう、の一言くらい無いのかよ」

「…おはよう」

 

 メテオスは寝起きのロストにため息をつき「挨拶は大事だってセテ兄が言ってた」と立ち上がった。もう準備が出来たのだろう。

 

「ロストも準備終わったら早めに来なよ。そもそも、オレが船酔いしたせいで、一晩泊まる羽目になったし」

「お前のせいではないだろう。まあいい。ソルはどうだ」

 

 ロストはソルの寝ていたベッドに目を向けると、ぎこちなく畳まれたシーツが目に入った。ソル自身が畳んだのだろう。シーツが畳まれているとなるとどうやら起きはしたようだ、と思いロストも立ち上がる。

 

「もう、部屋を出てるみたいだな」

「なら俺達も行くぞ」

「お、おい待てよー!」

 

 メテオスは部屋を出ていくロストに慌ててついていく。

 宿屋の外に出ればすっかり回復したルンとソル、ユアとララ、その肩の上に乗ったチャールがいた。

 チャールは昨晩の件を気にしているのかロストを見ると気まずそうに目を逸らした。ロストは何も考えなくていい、と思っていたがチャールは一晩経っても気にしていたようだ。

 

「これからどうエレッタ行きの港に行くんでしたっけ?」

「そうね…スレディアで有名な鍛冶の盛んな村があるわ。そこに寄ってから、ディア=レッタ港に向かうのだけれど…最短コースでは途中でシャドウの祀られている場所を通る必要があるわ」

 

 ユアが取り出したのはスレディアの地図。現在位置と目的地を確認してそれを荷物の中にしまった。

 ディア=エルフィーでもうやる事はないと荷物を確認し、その足でユアの言う鍛冶の盛んな村へと向かうという事で目の前の目的は決まった。

 

 

 

 

 

 ロスト達の向かう村の名はエルダ=ディア。

 決して大きな村ではないが鍛冶屋が多く武器の調達に最適な村である。村人間も仲が良い、はずであった。

 ユア達は知らないが、この村には一つ問題があった。

 この村の外れにある精霊信仰の教会、それはかつて村人の信仰により栄えていたものの現在は寂れてしまっている。そこに住む1人の少女がいた。

 

 

 

 

「マクスウェル様、教えてください…」

 

 

 

 

「何故、(わたくし)は生まれてきたのですか。何故(わたくし)のような存在を許してしまったのですか」

 

 教会の懺悔室で1人蹲るは修道服を着たハーフエルフの少女、ユキノ=サエリードだった。

 精霊信仰が廃れ、人間を遥かに超える存在であるエルフを信仰するようになったこの村では、人間がエルフと交わるなど禁忌であると決断つけていたのだ。実質ハーフエルフというのはあまり好まれない。

 エルフからも集団から外されるなどハーフエルフは忌み嫌われていた。ユキノは両親を早くに失い1人村の外れの教会へと逃げて来たのだ。

 村の外れの精霊信仰の教会で1人ユキノは今日も懺悔と祈りを捧げる。

 

 彼女自身は何も、悪くないというのに。

 

「ハーフエルフ、いるのか」

「…っ」

 

 そこへやって来たのは1人の人間、エルダ=ディアの村人だ。

 彼は教会の扉を徐ろに開けると懺悔室にいたユキノを探し出す。ユキノは恐る恐る顔を上げ、村人はユキノの胸ぐらを掴む。

 

「今丁度気が立ってんだ。お前なら殴っても誰も文句言わねえだろ?」

「や、め……っ」

 

 ユキノの抵抗も虚しく村人はユキノの頬を殴る。彼女のシスターキャップからちらりと見えるのは、エルフの象徴である尖った耳。しかし彼女の耳は通常のエルフの耳よりも短い。

 それを見ると村人はユキノの耳を引っ張り上げる。

 

「こんな耳さえなけりゃお前もエルフか人間、どちらかの世界で生きていけたんだろうなあ?」

「やめて、くださ…っ痛っ」

「まるで悪魔みたいだな」

「っ」

 

 肌の出ている部分が少ない服のせいか分かりづらいが、ユキノの体には痣や切り傷のようなものがたくさん出来ていた。

 嫌がるユキノを無視して村人はユキノに暴行を加えた。日頃から彼女はエルダ=ディアの人間からそういった扱いを受けて来ていた。

 理由は全て、彼女がハーフエルフであるが故だった。

 

「エルフに見捨てられ、人間からは忌避され、お前…死んだ方がマシなんじゃないか?」

「ひっ……」

 

 死ねたらどんなに楽だろう。

 

 ユキノはそう考えていた。

 ハーフエルフであるユキノは楽に死ぬ事が出来ない。エルフは寿命が人間より長いだけではなく人間よりも体がマナで頑丈に守られている。

 それによって、エルフやハーフエルフは人間のように病気で死んだり、大量出血で死んだりできないのだ。

 これまでにユキノは殴られたり蹴られたりは勿論、様々な欲の発散の捌け口にされたりもしていた。心が死んでいても仕方ないと思えるほどの仕打ちを彼女は受けてきたのだ。

 

 それを知って、この村人は敢えてユキノにそう言っている。

 

 ユキノの存在が気に食わないから。

 

 ハーフエルフの存在が気に食わないから。

 

 ユキノの母親はエルフだった。ユキノの父親は人間だったらしい。

 彼女が住むこの教会のすぐ近くにポツリと彼女の母親の墓がある。エルフは寿命以外で死ぬ事は少ないが、少ないだけで殺す方法はいくつかある。

 ユキノの母親は、ハーフエルフであるユキノを産んだ後、村のエルフ信仰者にある方法で殺されたとも言われている。というのをユキノは聞いたことがあった。

 

(どうして彼らは、(わたくし)を殺さないのでしょう。(わたくし)を殺せば、それで済むというのに)

 

 ユキノはそう思うも、自殺もできずにユキノは生かされ続けている。

 

「おーい!」

 

 ユキノに暴行を加えていた村人の元に、別の人物が駆け寄ってくる。ユキノが「ひっ…」と小さく声をあげたのは、彼もまたユキノに暴行を加えたり罵声を浴びせた事のある村人だからなのであろう。

 しかし彼はユキノに目もくれず話し始めた。

 

「村の方に旅の人が来てるぜ。他の鍛冶師に取られねえように店に立つんだろ!」

「久々の客だなあ!」

 

 つい先程までユキノに暴行と罵声を浴びせていた村人の表情は一変し、にやりと笑みを浮かべる。

 ユキノは彼がこの場からいなくなるという安堵と共に、この生き地獄からの脱出方法を考えていた。

 

(もう(わたくし)には、何も意味が無いというのに)

 

 そんな事など言える訳もなく、村人が教会から出て行くのをユキノは見送るだけだった。

 ユキノはゆっくりともう一度立ち上がり自らの信ずるもの―精霊―へ祈りを捧げた。

 

 

 

 

「エルダ=ディアについたわね。ここで一旦補給を取るわよ」

 

 ユアはエルダ=ディアに着くと所持金を確認し始めた。

 ディア=エルフィーからこの村までは大した距離は無かったものの、武器を買うにはこの村が一番適任だとユアが言っていたのである。

 

「この辺って別に鉱石が取れるわけじゃないですよね?どうして鍛冶が盛んなんですか?」

 

 ルンが言うには、鍛冶が盛んと言うには周囲に何かしら鉱石の産地があると思っていたらしい。

 しかし鉱石の取れそうな場所などルンが地図を見る限りは見つからないのだ。

 

「嬢ちゃんこの村は初めてかい?」

 

 そこへ話しかけてきたのは温和そうな青年だった。いかにも鍛冶師と言った風貌で、ルンは「あ、は、はい…」と突然話しかけられて驚きつつも返事をした。

 ロストは村を見渡してのどかと言うには何か違うな、と零していた。

 

「この村は昔こそは周囲に沢山そういう場所があったんだけどな。今こそは輸入しなけりゃ鉱石が全く取れなくなっちまったのさ」

「そうなんですか…」

「ああ、だから私の記憶とは違ったのね。それにしても私が昔来た時とは少し雰囲気が変わったものね」

 

 ユアが話しかけると青年は「え、英雄様!?」と声をあげて固まった。外国とはいえ、ユアの存在は知れ渡っているらしい。

 

「あら、光栄ね。こんな所でも名前が覚えられてるのね私」

「そりゃ、100年前の大戦争を終わらせた英雄様ですから…あ、あんたらなら、この村がおかしいって気づいてくれるかい?」

 

 青年は突然小声になって、ユア達に話しかけてきた。

 ロストとララ、メテオス、ソルも自分達が数に含まれている事が分かったようで青年の言葉に耳を傾ける。

 青年は周囲を確認しつつ「こっちに来てください」と村の外れの方へ向かって行った。

 

 少し歩けば、木々に囲まれた寂れた教会が視界に入ってくる。

 

「自己紹介し損ねてたな。俺の名前はクロッセ。この村にゃ生まれてからずっと暮らしてんだが…ある少女が生まれてから、おかしくなっちまったんだ」

 

 ロストがよく見ていると、教会の外壁には精霊らしき絵が描かれていた。

 それは、この教会が精霊信仰からなるものだということを表している。

 

「この教会には、ハーフエルフの女の子が暮らしててな。俺は…この女の子の事が嫌いになれねえんだ。でも、村の人達はハーフエルフの忌み子だと嫌って、迫害して…」

「余所者の私達になら、どうにか出来ると思ったのね?」

「俺は毎日人の目を盗んではあの子のところへ行ったり、食べ物を持っていったりしてたんだ」

 

 クロッセはそれでも自分の力が足りなかった、とこぶしを作った。

 青年はまだ大人にはなっていないくらいの年齢らしくら大人達には適わなったと言っている。

 

 やるせない思いが募るばかりだ。

 

 そうクロッセは語った。

 

「どうして、ハーフエルフは嫌われるんだ」

 

 ロストは自分もエルフの血族かもしれない。とクロッセにそう尋ねた。

 エルフという存在はそもそも人里にはあまりいない。稀にレイシのように人を統率し生きている者もいるがエルフにはエルフのみの里があるとロストは母親から聞いていた。

 

「俺にもそこはよく…。ただ、この村は精霊信仰からエルフ信仰に変わって、ハーフエルフを…ユキノを…」

「クロッセ様?」

 

 クロッセが話していると、教会の方から1人の少女が歩いてきた。

 聖職者の衣装に紫色の瞳と髪。髪の毛は肩の辺りで二つ結びに括られている気弱そうな儚さを持った少女がそこにいた。

 

続く


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