テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター24:スレディアへ向けての出航

「もう、だめ、だ……」

「ロスト君っ!?え、ソル、返事をして!メテオス君!?」

「ユアさん、どうします?この状況」

「もう、仕方ないから休みましょう」

 

 

 湿ったテス洞窟から出た後、ロスト達は炎天下を渡り歩いた。テス洞窟からの道のりは太陽が輝く真下、日陰もない道ばかりである。そのせいか体力は普段よりも多く削り取られていく。

 ユアが予想したよりもロストやソル、メテオスの体力が無かったようで、港街についた頃にはロストは俯き、ソルは意識を失い、メテオスの目からは光が消えていた。

 流石のララも息は切れていたが男性陣程ではなく、ユアの提案により宿で水分補給を取ることにした。

 チャールはボソリと『ユアの体力馬鹿』呟いた。

 

 

 

 

 

「…ララ、ルン。エレッタがどういう国か、知っているかしら」

 

 1晩経ち、ユアは朝から改めてララとルンに話を始めた。ちなみに男性陣はチャールが体調管理をしていた。ロストはある程度回復したがソルやメテオスはまだ疲れていると夜の内にチャールから連絡が来ている。

 

「ええっと、確かこのフェアロ、スレディア、エレッタの三大陸で三角形に丁度並んでて…エレッタは、機械が盛んな国なんだっけ?」

「そして、エレッタは100年前の三国戦争の戦犯国でもある。というのは私達は知ってる情報です。ユアさんが他に知ってる情報は」

 

 ララとルンがそれぞれ答え、ユアは頷いた。

 エレッタという国へ行くには本来フェアロ、スレディアそれぞれの国の港から直接船が出ている。それぞれが島国である為にそのような移動方法しかないのだ。

 しかし、現在エレッタは不穏な動きが目立つとユアは語る。

 

「エレッタは戦争によって敗戦した国なのは分かっているわよね。それにも関わらず技術を奪われずにいたのはスモラ・タールの功績と言えるわ。大砲塔も当初は壊される予定だったもの。だからメテオスが言ったように今でも機械技術は盛ん。タール家は今でもエレッタの核の一部を担ってるわ」

「でも英雄スモラ・タールって戦争では結果的にエレッタを裏切ったことになりますよね?」

「まあ…そうね。でもあの時は奴がエレッタ王家を操って…国民は……」

 

 ルンの質問にユアは口篭ってしまい、しっかりとした返答をもらえなかった。

 当時を未だ鮮明に覚えているらしいユアには言い難い事があるようでルンはそれ以上は尋ねなかった。

 

「ララ、ルン、ユアさん。少しいいか」

 

 そうやって話していると、男性陣の中ではまだ体力が残っていた方である(とは言ってもララよりは体力が無い)ロストの声が扉越しに聞こえてきた。

 ララは快く「いいよー!」と言ったのでロストが扉を開けて現れた。肩にはチャールも乗っている。

 

「ソルの傷が開きかかっていたんだ。俺が軽く手当をしてきたから大丈夫の筈だが…まあ、あと夜が明けてからチャールと軽く街で聞き込みをして来たんだがどうやら今はエレッタ直通の便が無いらしいんだ」

「凄い、ロスト君いつの間に」

「俺もたまには役に立たないと、だからな。…ユアさん、スレディアからならエレッタへの便が出ているらしい」

「仕方ないわね…。スレディアを経由してエレッタに行くしかないわ」

 

 ロストの聞いた話では、どうやら現在エレッタでは不穏な動きが絶えないという事。  中にはフェアロとの戦争準備であるとも言いだす人がいるらしい。当時を知るエルフなどの種族はいち早くにスレディアへと逃げてしまったものが多いという情報もロストは得ていた。恐らく彼が自身はエルフの英雄レイシ・テイリアの身内だとでも言ったのだろう。

 とおかくエレッタへの直通便が無くなったのはここ数日の話らしく貿易船は混乱を起こし、こちらへ直接帰れなくなっている船もあるらしい。

 

「本格的に、フェアロと断絶をするつもりでしょうか」

「スレディアとは国交を続けるつもりなのかそれとも…分からないわ。現時点では」

 

 王家直属の騎士団の副団長として国同士の会議に護衛として着いたりもするユアにも、エレッタの動きの理由は分からないようだった。

 ルンにとってはロストがそうやって情報収集をした事の方が意外ではあったが、肩に乗っているチャールの存在を思い出し、1人で納得していたようだった。

 

『というわけで、エレッタ行きに関してはとてつもない遠回りになっちまったわけだ。善は急げとも言うからな、早く船着場へ行くぞ』

「でもチャール、ソルやメテオス君は」

「ララ、俺からもいいか。あいつらはお前の重荷にはなりたくないと言っている」

 

 男には、変な意地って奴があるんだよ。そう微笑んだロストにララは「そっか、なら仕方ないなあ」と立ち上がった。

 ルンは本当にいいのかと思っていたが、急がなければならないというのは真実であるし、ユアも頷いたので準備を始めた。

 

 ロストとチャールは部屋に戻り、女性陣が宿を出た時には既に外に男性陣が揃っていた。ソルはまだ無理をしているような青い顔をしている上に、メテオスはあまり気分が乗らないようだった。

 ララはそれを見て何があったのかとロストに聞こうとすれば、ロストの代わりにチャールが答える。

 

「ねえ、メテオス君とソル…」

『ソルは1度傷口が開いてんのに、無理してるんだ。あまり触れてやらないでくれ。あいつも、足でまといにはなりたくないんだ。メテオスは…船が苦手らしい』

「船が苦手?私、船に乗った事ないから分からないんだけど」

 

 ララはフェアロの外に出たことが無い。フェアロは一つの大陸で、尚且つ島として離れた部分がないために異国へ行かない限りは船に乗ることがないのだ。

 尤も、ララの住んでいた村の近くには湖にボートくらいはあったのだが。

 

「俺も乗ったことない」

「…ねえララ、船って怖い?」

「大丈夫だと思うよ。ユアさん、船着場ってどこですか」

「むこうね、早く行きましょう」

 

 ソルはメテオスが船が苦手と聞いて不安が出てきてしまったようだ。乗った経験のない物を知り合いが苦手だと言っているから余計不安がってしまっている。

 

「あまり過剰反応しなくていいと思うぞ。あいつが苦手なだけだ。合う合わないは人それぞれだからな」

「そう、なんだ…メテオスは苦手でも、僕は大丈夫かもしれないってこと?ロスト」

「俺も合うか合わないか分からない。そんなもんだろ」

 

 ロストはそう言ってソルの頭を撫でた。

 長身なロストからはララより背の低いソルはララよりもか弱く見えたのだろう。

 

(確かに、急に居なくなられれば心配にもなるな)

 

 ロストはララが心配した気持ちがわかるような気がした。

 しかし、そんな彼を追い詰めた【敵】とは何なのだろうか。ロストにはただその疑問が残った。

 レティウスのクローンをけしかけ、ララそっくりの少年を送り込み…そして、レイナを狂わせた。

 

「…」

 

 ロストはソルに残酷な言葉を投げつけたルンの方も心配であった。

 ルンの過去に何があったかも、ロストは知らない。しかしルンもルンなりに何かを抱えているのでは?とロストは思い始めた。

 

(俺よりも弱い存在…守らねば、俺にとって民は…?何か、何か重要なことを、俺は…)

「ロスト?行くわよ?」

「…はい」

 

 考え込んでしまっていた、とロストはユアに言われて船へ乗る手続きを進めた。スレディア行きの船に乗ること自体は簡単であった。

 船に乗ってしまえば怪我のあったソルは船室のベッドに横になり、ルンは船窓から外を見た。

 多少心を落ち着けようとしているのか、考え事をしているのか。

 

「これが船かあ…なんか、地に足着かない感じだね」

「…ああ、そうだな」

「メテオス君は乗った途端にダウンしちゃってさあ。ユアさんは甲板にいるよ」

「そうか。一緒に甲板に行くか?」

 

 ロストはソルとルンを気にするようにしてララにそう尋ねてみた。ララは「あー、どうしよ…」と考えた。ソルを置いていくのは気がかりなのだろう。

 

「…僕も、行く」

 

 ベッドに横になっていたソルが起き上がってララの服の裾を引っ張った。ララのそばに居る方が安心できるのだろう。

 

「大丈夫?ソル」

「僕も甲板に出てみたい」

「え?でも…」

 

 ソルの申し出にララは悩んだ。まだソルは本調子ではない。しかしソル自身は初めての船旅を寝て潰したくは無かったようだ。

 

「ソルの思うようにしてやってくれ、ララ」

 

 ロストはソルの意思を尊重したいのかララにそう促した。ララは心配しすぎだ、とロストは耳打ちする。

 ララの心配も分からなくはないがこのままではソルの精神に負担を与えてしまうとロストは思ったのだろう。

 

「分かった。でも、無理はしないでね?」

「うん。しない」

 

 ソルはララに手を引かれて甲板へと向かう。ロストもそれに続き、ロストの肩に乗ったままのチャールはララの肩へと移動した。

 チャールもソルに言いたい事が何かあったのだろうか。

 

「うわーっすごい!」

 

 甲板に出ると、そこには青い海が広がっていた。

 空にはカモメが飛び、他の乗客にも船が初めての人がいるのか甲板から海面を珍しそうに見ていた。ララもチャールが落ちないように気を付けてから海面を覗き込む。

 微かに魚の影が見えており、ララは感嘆の声を上げる。

 

「ねえソルも見てみてよ!」

「う、うん」

「旅してて、よかった。こうやってソルとまた、一緒にいられて」

 

 ララに微笑まれてソルは頷くも、その顔はどこか浮かない顔をしていた。チャールはそんなソルが気になって仕方ないためかソルの肩に飛び移る。

 

(僕だって、本当はララと一緒に…。でも、僕にそれは許されない…)

 

 ソルはふと、ロストを見上げた。出会って間もないが、ソルはララと共に旅をしてくれていたロストには悪い気はしていなかった。

 寧ろ、ララを守れるほど強い、とソルはロストに対して感じたのだ。

 

「ねえロスト」

「なんだ?」

「僕がいなくても、ロストがララを守ってくれるよね?」

「…俺には誰かを守る、なんて力は無い…だが、ソル…お前はもう少し、自分に自信を持ってもいいんじゃないか?」

 

 ロストから言われてソルは「持てたら、いいのにね」と俯いた。

 正直ソルの事をよく知らないロストは、ソルが何に関して悩んでいるのかが分からない。自分の妹…レイナの事でさえ分からなかったのだ。人の弟の事が分かるわけないとロストは拳を握った。

 

「…はあ、あんまり辛気臭い顔だけはすんなよ。折角の船旅だ」

『お前には言われたかないと思うぞこの無表情男』

「そ、そんなに無表情か?」

 

 チャールに思わぬ横槍を入れられてロストは唸った。あまり村ではそのような事は言われていなかったのか…それとも、友人という友人がエートしかいなかった事も理由になるのかもしれない。

 

「それにしても、ルンちゃんはまだ部屋にいるのかな?ダウンしてるメテオス君はともかく、こんな綺麗な景色見ないなんて勿体ないよ」

『それも一理あるな。ロスト、見てきたらどうだ?』

「どうして俺指名なんだ」

 

 チャールが思うにはララとソルには姉弟水入らずで話して貰いたかったかったのかロストの肩に移動して『ほら、行くぞ』とロストを急かす。

 ロストが部屋に戻ると、そこにはベッドにうつ伏せになってるルンの姿があった。

 チャールはルンの状態を察したようで『ああ…』と呆れたように言う。

 

「ルン、大丈夫か?」

「大丈夫に…見えると、思う……?」

『こりゃ重症だな』

 

 ロストは全く思いもしていなかったが、どうやらルンは船酔いする体質だったらしい。

 未だメテオスも船酔いで倒れているが、ルンもまたベッドの上で唸っている。

 

『まあ、こればかりは仕方ないなあ…』

 

 『甲板に戻るぞ』とチャールが言うと、外から轟音が聞こえた。人々の悲鳴も混じっているようだ。

 

「!?」

『何かあったのか…っ!?行くぞ、ロスト!』

「言われなくとも!」

 

 ロストはチャールが肩から落ちないように気をつけながら甲板へと上がった。

 そこには、幾つもの吸盤のついた足を船の先端部に張り付け、人々を恐怖に陥れていると思われる生き物がいた。

 巨大な目玉はぎょろりとロスト達を捉え、ぬるりとした足は乗客を掴もうと動き出す。

 

「あら、残念ね。最初に私を狙うなんて」

 

 しかし、巨大なモンスターが狙った相手はユアであった。彼女は大剣を素早く構え、足を切り落とした。巨大なモンスターは叫びをあげる。

 

「あれはなんなんだっチャール!」

『あれは…稀に海上に現れるというモンスター…イーヴィルクラーケンだ』

 

 チャールの緊張した声に、ロストは焦りを見せかけるが、今は冷静にと自らに言い聞かせる。目の前にいる巨体を倒さねば、ここにいる一般人までもが巻き込まれてしまう。ユアと顔を見合わせ、ロストは頷く。

 

 甲板にいた乗客達は、皆船内へ走っていた。

 

続く


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