テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー 作:sinne-きょのり
洞窟については、メテオスがある程度道を知っていたらしい。
メテオスに案内されるようにロスト達は洞窟を進んでいた。途中で出てくるモンスターは適当にあしらう程度の強さでしかなかったため、余裕で進む事が出来ていたのだが…。
『何なんだよこれはあああああああ!!』
「知らん!チャールお前がなにかしたんじゃないのか!?」
途中で大岩に追いかけられる羽目に遭ってしまっていた。メテオスは無言で着いてくるのに必死になり、ユアとルンは余裕そうに、ララは少しはあはあと息を切らしていた。
「メテオス!あんたが余計な事したんじゃないの!」
「オレっじゃっねえよっ!」
ルンに怒鳴られてメテオスは掠れた声を出した。
かなり辛そうに走っている為、ユアは抱えようかと思ったが彼の心象を考えて何も言わなかった。
「みんな、こっち!」
誰が大岩の装置を触ったかなどと言い合いをする暇もないので、ララは大岩が通れない大きさの物陰を発見し、全員に伝えた。
ララの声に無言で頷き、全員は大岩から逃れる。ロストは大岩が通り過ぎた事を確認し、全員に目配せをした。物陰から出ても良い、という意味なのだろう。
「道に迷ったりしてないだろうな」
「大岩の、設置されてた…場所は、把握、してた、から。だいじょ、うぶ」
ロストはメテオスに確認した。メテオスはある程度洞窟の中身を理解しているらしく、周囲を見ながら言った。
まだ息切れしているようで、ロストは自分より体力の無い者を見るのは珍しいと思っていた。
「…大丈夫か?」
「大丈夫、だっ!オレは機械いじりの方が…得意、なんだよ…」
メテオスはゴホゴホと咳き込んだ後「もう大丈夫だ」と言った。
ロストはもう少し休もうかと思ったが、メテオスはそれをよしとせず「ソルが危ない目に遭ってるんだ」と頑なだった。
本人がそこまで言うならばとロスト達はメテオスに更にレティウスのいる場所までの案内を頼んだ。
「…そろそろ、レティ兄のいる所の近くのはず…。ソルは大丈夫かなあ」
メテオスはそうやってずっとソルの事を気にしていた。自分のせいでソルがレティウスに捕まったと自らを責めているのだ。
「…早く行くぞ」
「すぐそこ、よね?」
ロストは洞窟の少し開けたところを見つけた。
ユアは緊張したようにメテオスに尋ねる。メテオスは頷いて、ララは物陰からそっと覗いた。
そこには、長い黒髪の少年…ソルを踏みつける痩せ型の青年…レティウスだった。
ソルには痛々しいほどの暴行の跡があり、レティウスは後ろを向いていてロスト達側からは分からないが。
レティウスはソルを痛めつける事に愉悦感を感じている様子だった。
「ソルっ…!」
「レティ兄…」
ララは大切な弟が酷い目に遭っている場面を実際に見て憤りを見せた。
メテオスは偽物だとわかってはいても、レティウスがソルを痛めつけている事が相当ショックだったのか目を見開いて肩を震わせた。
今にも飛び出しそうなララを見てチャールはロストとユアに目配せをした。恐らく、ララは我慢出来ないと言いたいのだろう。
「…真っ向から行くしかないか」
「ロスト?まちなさっ」
ユアの止める声も聞かずにロストは先陣を切って飛び出して行った。ルンは突然飛び出したロストに「何してんの馬鹿っ!」と叫ぶ。
当然その声はレティウスとソル双方に届いている。
「あぁ?誰だァ?」
「…」
レティウスはゆっくりと振り向いた。ソルは体が自由に動かないのか身じろぎだけをして反応を示す。
「アンタに名乗る名は生憎だが持ち合わせてない」
「っああ?なんだぁ?その蹴りはぁ」
ロストはレティウスの顔面めがけて蹴りを入れる。ロストは非力ではあるが流石のレティウスも突撃されては隙が出来てしまう、その隙にララがソルの元へ駆け寄り、回復術を唱えるのだった。
「癒しよ…ファーストエイド!ソルっ、しっかりして!私だよ、ララだよ!」
「ラ……ラ……?どう、して」
ララはソルを抱き締めた。ルンとユアも出てきてレティウスを警戒する。折角の姉弟の再会だ、下手に邪魔をしてもらいたくはない、という事をルンもユアも思っているのだろう。
「ちっ英雄サマのお出ましかァ?」
「あら光栄ね、私の事を知ってるだなんて」
ロストは一旦引き、ユアが代わりに大剣を構えてレティウスの前に出た。レティウスも武器として持っていた斧を投げる体勢に入る。
ルンはララとソルを庇うように立ち、ロストは術を唱えるようとしている。
「ララ、まだレティウスが狙っている。奴を倒すのが先決だ」
「うん…ソル、待っててね。ソルをいじめたヤツをこらしめに行くから!」
「ララ…」
「ソル、オレが不甲斐ないばかりに、ごめんな。ララ、ロスト、後は頼んだぞ」
メテオスがソルを背負って離れた場所へと避難する。チャールもそれを追って行った。
これで戦闘の準備は整った。ララとロストは各々の武器を構える。と同時にルンとユアも一旦レティウスから距離を置いた。
レティウスは舌打ちをして斧を肩に担いだ。相手も完全に臨戦態勢だ。
「レティ兄の見た目してるけど…あいつは偽物だ!!本物のレティ兄がソルにこんな事をするはず無いんだ!コテンパンにやっつけてやれー!」
「分かってるからお前は怪我人抱えてんだ、黙っとけ」
「喋ってんじゃあねえよぉ!」
メテオスと会話をしていたロストを狙ってレティウスは斧を振り下ろす。ルンがロストとレティウスの間に割り込んで大鎌で斧を受け止めた。
「何っよそ見してんのよっロスト!」
「ちっ!!」
ルンは大鎌でレティウスの斧を受け流し、斧に力を込めていたレティウスはバランスを崩す、その隙にララがレティウスの顔面に回し蹴りを打ち込み、スピアロッドで殴った。
「ソルが受けた痛み、返してやるんだから!」
「あんた何前に出てんのよ!」
「だってそうしないと気が済まない!」
ルンに注意されるもララは駄々をこねるようにそう言い張った。大切な弟が暴行を受けていたと知って相当な怒りを目の前にいるレティウスに抱いているらしいのだ。
ユアはやれやれ、と頭を横に振り容赦なく体勢の崩れたレティウスを大剣で薙いだ。
レティウスは壁に勢いよく体を打ち付けた。
「ロスト、今よ!」
「あ、ああ…そろそろ観念しろ、レティウスっ!」
「るっせーぇんだよぉ!」
「ぐあっ!」
ユアに声を掛けられてロストはレティウスに斬りかかろうとしたがレティウスがロストの攻撃を受ける前にレティウスが復帰し腹部を強く蹴った。
ユアは「ロスト!!」と叫びすぐさま駆け寄った。腹部を蹴られた痛みからかロストは身動きが取れなくなっていた。
「…っ、癒せ、ファーストエイド!ルン!」
「分かりました!」
ユアに言われてルンはレティウスに向かって行こうとする。レティウスはユア達の放った言葉を聞き、ロストの姿を確認した。
「……ふん、てめぇがぁ、ロスト・テイリアかぁ」
「やああっ!」
「邪魔だなあ、ガキ」
ルンが飛びかかってレティウスに大鎌を叩きつけようとするがルンが来る事を予期していたレティウスはルンの攻撃を避けた。ルンは当然その勢いのまま地面に大鎌を突き刺してしまう。
「しまっ……!」
「うぜぇぇんだょぉ、消えな」
ユアやララが反応するよりも早く、レティウスは斧をルンに振りかざした。ルンはギリギリにそれを避けるが、斧はルンの背中をかすってしまった。それだけでも彼女の細い体を切り裂くには十分だった。
「ああああああっ!!!」
「ルンちゃん!!」
「くっ……そっレティウス!お前の狙いはどうせ俺なんだろう!」
ルンの悲痛な叫びが洞窟内に響く。見ている事しか出来ないメテオスは歯痒そうにソルの肩を支え、ソルはある程度回復しているものの辛そうに見ていた。
ララは慌ててルンの側へ駆け寄った。ロストはまだ痛む腹部を抑えながらレティウスに言い放った。流石に目の前で幼い少女を傷つけられて黙ってはいられないのであろう。
ユアはロストを庇うように立ち上がった。
「ロスト、無茶よ。まだ痛むなら、私が代わりに戦うわよ…!!ロストに手出しさせないわ!!絶対っ絶対に……っ!!」
ユアは険しい表情で言い放つ。
レティウスは少し顔を強ばらせたが「はぁぁ?」と斧を再び持ち上げた。
「もう限界よ!!行くわよ、サンダーソード!!」
「…っこれは、マナの大解放…」
ユアの放った気はとても強大で、ロストは地面にしがみつくように這った。ルンを治療しに行ったララもルンを庇うように回復術の詠唱をしている。
「がああっ!!」
「まだ足りないかしら!!イラプション!」
ユアの放ったロストも見たことないような術はレティウスを貫き、燃やし、術がやんだ頃にはレティウスは黒い粒子となって消えていった。
「はあ……はあ…」
「ユアさん!」
しかし、急にマナを大解放した為かユアの体は崩れ落ちる様にして倒れた。ロストはユアに駆け寄り、その様子を確認した。疲弊はしているようだがどうやらそれ以外には傷も何もなさそうだった。
「よかった、大丈夫みたいだ」
「ああ…、う、や…おねえ、ちゃんは。がんばっ、た…よ」
「ユアさん?」
ユアは意識がハッキリとしていないのかロストを見て穏やかに笑いそのまま瞳を閉じた。暫く寝させておけば時期に目を覚ますだろう、とロストは確認した。
(…ユアさんにも、弟がいたんだろうか。まさか、ユアさんが俺の姉なんてことは…無いか)
ロストはそう思考を巡らせたが、ロストがそう思うのも仕方がなかった。ユアがレイナに似ているということはユアはロスト自身にも似ているということなのだから。
「ロスト君、とりあえず今はこの辺りで暫く休も?ルンちゃんも、ソルもこんな状態だし…」
「そうだな。メテオス、もう出てきて大丈夫だ」
ララに言われてロストが声をかけると、メテオスはソルを肩で支えながらロスト達の元へ来た。ソルは家出した手前ララと顔を合わせるのが気まずいのか俯いている。
「ソル」
「っら、ララ…」
ララに声を掛けられてソルは少しビクリとするも、顔を上げてララを見た。ララは、安心したような、穏やかな表情を浮かべていた。
「良かった。ソルが無事で、よかったッ!」
「…ララ。おこら、ないの?」
「どうしてあの時、出ていったの?そう聞きたいけれど、危険な目に遭ったんだもん。怖かったよね?でも大丈夫。お姉ちゃんがソルの事、助けに来たんだから」
ララはそう言ってソルを抱きしめた。ソルはララの温もりに触れて、そして嗚咽を漏らし、泣き始めた。幼い子供のようにソルは泣き叫んだ。
「ひぐっうう…うわあああ!!!」
「よしよし、怖かったね。私がいるから、大丈夫だよ」
(弟の心配をする姉、か…)
それは兄と妹だったとしても同じなのだろうか。ロストはそう考えた。ララの旅の目的の一つは達成された。そう考えると一休みはしていいだろうとロストはほっとした。まだレイナの事や問題は山積みだが、あまり根を詰めすぎるのも良くないだろう。
「ロスト君?ってわあ!?」
ララの驚いた声を最後にロストの意識は消えた。どうやらロストもまた倒れてしまったらしい。残ったララとソル、メテオス、チャールはやれやれ、とため息をついてルンの手当やユアとロストをちゃんとした体勢に寝かせた。
そして、ララ達もそのままスヤスヤと寝てしまった。チャールだけは周囲に気を張りながら、眠るロスト達を眺めて『微笑ましいな』と呟いた。
続く