テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター20:セテオスの弟

「おかしいわね……」

 

 洞窟の中に入るなりユアは洞窟の中を見渡した。

 モンスターが出てくるとはいえ、落盤していない方の道であるおかげで道自体は綺麗であった。しかし、ユアが一度見に来た時とは違ったのだ。

 

「ユアさん、どうしたんですか?」

「ルンはここに来るのは初めてだったわね。この洞窟、前はこの通路こんなに水に浸っていなかったのよ」

 

 足元を見ると、若干足が水に浸かってしまっている。チャールは落ちないようにとより一層ララの肩にしっかりとしがみついた。

 ロストは気にする事もなく水たまりができている洞窟の中を進む。

 

「おい、早く行くぞ」

「あんたは水に慣れてるでしょうけど私は湿っぽいところ苦手なのよ!」

 

 ルンは叫ぶもロストは「そうか」と言うだけで相手にしない。ユアもそれに続いて行こうとした時、ララの行動が止まる。

 

「ララ?どうしたのかしら」

 

 気づいたユアがララの様子を覗き込もうとすると、ララはなにかぶつぶつ言っているようだった。心ここにあらず、と言うのが適切だろうか。

 

「いる、ここに…」

 

 そうぼそりと言ったララは、そのまま急いで走り出そうとした。ロストは「おい!」とララの手を掴んだ。

 

「あまり急ぎすぎるな、下が湿っているからこけるぞ」

「…あ、ごめん…ありがとう」

 

 ララはロストに引き止められ少し驚いたようにロストを見た。無意識の行動だったのであろう。しかしララはどこか落ち着かない様子だった。

 

「ここに何かあるのか?」

「…わからない、でも…ここに何か…ありそう」

「まあ、ここでうじうじとしてても仕方ないわ、先に進まないとテスフェには行けないわけだもの」

 

 ルンはもう諦めたのか、ゆっくりとできるだけ大きい水たまりを避けながら歩き始めた。ユアはルンのその様子を見て少し呆れたようにするも、まあいいと構わずそれに続く。

 

「…うん、ルンちゃんの言う通りだ。ロスト君も、先に行こう」

「ああ」

 

 

 

 

 暫く洞窟を進むと、モンスターが何体か出てきた。ロスト達は武器を構える。モンスターはじりじりとロスト達と距離を縮めてくる。

 

「スペクタクルズを使うよ!…やっぱりこのあたり、水属性が多いみたい」

「そうか、俺は向こうの2体を相手にする、ユアさんとルンはそっちを」

 

 ララはモンスターに向かってアイテムを使い、敵の能力を解析したララは全員にそう告げる。

 ロストは剣を構えてモンスターを待ち構えた。ユアとルンは頷いて別のモンスターを相手にする。

 

「ファイアボール!ええ、あまり効かないみたいね。わかってたけども」

「火属性以外も使えるんですよね?ユアさん」

 

 ユアは火属性の術を唱えてみるが、あまり効果は無いようだった。ルンは大鎌を握りしめてモンスターを斬りつける。

 

「ええ、行けるわ。風よ、切り裂け…ウィンドカッター!」

「はいっ、たあっ!孤月閃!」

 

 ユアの唱えた風属性の術がモンスターを切り裂く。ルンの大鎌がその後にモンスターに襲い掛かる。完全にモンスターの動きは止まった。

 別のモンスターを相手にしていたロストも、剣を鞘に納めた。

 

「大丈夫?皆怪我とかしてない?」

 

 後方に待機していたララはルンやユア、ロストの様子を見た。どうやら怪我や状態異常は無いようだと確認すると、スピアロッドをしまった。

 

「大丈夫よ、ララ。にしても、属性って言うのも厄介ね」

 

 戦闘が終わり、大鎌をしまった後にルンは腕組みをして言った。

 ここのモンスターは水属性が多く見られるようだった。ユアは火属性以外の術も持っているが、手っ取り早く戦闘を終わらせるためには対抗属性の術が必要なのである。

 

「致命的なほど、という訳では無いから心配は無用よ。先に行きましょう」

 

 ユアは周囲に気を張りながら大剣をしまった。

 

「それにしても、足元びちゃびちゃだわ…こんなんじゃまともに進めやしないじゃないの!」

 

 道中、ルンはすっかり濡れてしまっている足元を見つめて大きな声をあげた。ロスト、ララ、ユア、チャールは一斉にルンの方を向いた。雨靴ではないので皆足元が塗れてしまっているがルンはそれが気持ち悪くてたまらないのだろう。

 

「こんなにも水が張ってるなんて、隣の道が落盤しているとはいえこれは…。まさか、ウンディーネの不在のせいかしら?」

「ウンディーネの不在…。だから異様に変な胸騒ぎがするのか」

 

 ユアの言葉にロストは胸元に手を押さえつけるようにした。

 ウンディーネは水を司る大精霊、ロストは水属性のマナを扱っている事から何かしらの違和感を感じてはいるのだ。

 

『このままウンディーネが現れないと、水属性の微精霊だけではどうにもならなそうだな』

「それって、かなり大変な事なんだよね?チャール」

 

 ララは流石にそれは察したのかチャールに尋ねる。チャールはうなずき、言葉を続ける。

 

『ああ。ボクにはなんとなくマナの全体の流れがわかる。そろそろ、本格的に影響の出てくる地域もあるだろう。異常気象も起こり得る』

 

 チャールの言葉にユアは「予想以上だわ」と小さい声で言う。

 

「色々と、今の世界も大変なんだな」

「みたいね…ん?」

「どうしたの?ルンちゃん」

 

 ロストに相槌を打つように同意したルンは、何かの気配に気付き歩みを止める。ララは不思議に思ったがその理由はすぐにわかった。

 

「ここから先は通さない」

 

 投げナイフがルン目掛けて飛んで来る。ルンは当たらないと知ってかそれを避けずにいた。それはルンの背後の壁に突き刺さった。物怖じしなかったルンは冷静に分析を始める。

 

「セテオスと同じナイフ…?でも、セテオスはここには来てないはず……」

「メテオス、君?」

 

 飛んできたナイフを見つめて思案するルンの近くでララがぼそりと言う。ルンはその声が聞こえていたのか「え?」と言う間に何者かに腕を掴まれた。

 

「きゃあっ!」

「ルン!あなたは一体…」

 

 ユアが気づいた時にはルンは既に何者かに腕を掴まれナイフを喉元に突きつけられていた。

 その何者かは少年だったようで、朱色の髪と瞳を持ち、頭にバンダナを巻いている。肩にはついてないが少し長めの髪の毛の隙間からは右から羽の形のピアス、左には黒い飾りのピアスをしている。それはルンやロストにとっても見覚えのあるものと同じのようであった。

 

「セテオスと、同じ…?あんた、何者よ」

「ここから先は通さない。レティウス様からの命令だ」

 

 ルンの声に答えることもなく少年は淡々と言う。どうやらまともな会話は望めないようだとルンは判断する。目は若干虚ろで何を考えているかは読めない。

 

「ルンちゃん、その子メテオス君だよ!セテオス君の弟!」

 

 ララは少年の事を知っていたようでルンに向かってそう呼びかける。ロストとユアは迂闊に動けばルンに危害を加えられるとわかって動きはしない。しかしいつでも動けるように警戒をしていた。

 

「セテオスの…でも様子がおかしいわね。あんたの目的はここを通さないってだけ?」

「オレ、は…くっ」

 

 何が起こったのか、メテオスは突然表情を少し歪めた。メテオスのナイフが少しルンの首元から離れる。ルンはその隙を見てメテオスのナイフを素手で弾き飛ばし、一歩退く。

 

「……っ!」

「あんた、何したいかわかんないけど私達の邪魔だけはしないでよ!」

「ルンちゃん、手!怪我してる!」

 

 ララはナイフを弾き飛ばしたルンの手を見てみたい叫ぶ。ナイフの刃の部分を触ってしまったようで多少の切り傷が生じてしまっていた。

 ララは慌てて術を唱えようとしたがユアが応急手当をする。

 

「この程度の傷はわざわざ術を使うまでもないわ。それよりも彼をどうにかしなければいけないんじゃないの?」

「確かに…メテオス君、我慢して!」

「がっ!」

 

 ララはスピアロッドの杖部分を構えてメテオス目掛けて振り下ろす。メテオスの頭にスピアロッドは直撃し、メテオスは気絶した。何という力技かとルンは感心する。

 

「ふう、これで先に」

「……ララ、安心するのはまだのようだ」

 

 安堵するララの横で周囲を見渡していたロストが言った。

 何人か、人影が近づいてきた。モンスターではない。メテオスと共に操られた人間か、レティウスのようなクローンか。そう考える余裕はロスト達には無かった。

 

「っく!ララ、そいつをどこか安全な場所に移動させろ!」

「わっ、わかった!」

 

 ロストは剣を振るってきた相手に対して剣を抜き応戦する。ララは言われたとおりに気絶しているメテオスを引きずって離れた場所へ向かう。

 

「それにしても、一体なんなのよ!」

「そこで倒れている子がセテオスの弟という事はレティウスの弟でもあるはず…恐らくレティウスの偽物の仕業ね。さっさと片付けるわよ!」

 

 ルンとユアは武器を構えて敵を待ち受ける。

 敵はロストが応戦している相手を除き3人。3人ともルンとユアを目掛けてきている。

ユアは一足先に大剣を地面に突き刺し魔法陣を展開する。

 

「ここから先に通らなければならないのよねえ、炎よ…ファイアボール!ルン、追撃頼むわ」

「了解ですっ!やああっ!!」

 

 ファイアボールを正面から受けた敵は声も出さずに耐えようとする。それをルンが追い討ちをかけるように大鎌で狙いをつける。

 ルンの狙いがつけばあとは簡単だった。

 

「魔神剣!虎牙破斬!…こっちは終わったぞ」

 

 敵を切り伏せたロストは剣を鞘に戻す。倒れた敵は跡形も無く消えてしまった。

 

「この前のレティウスと同じか」

 

 敵が消えた跡を見つめてロストは呟いた。

 

「そうみたいね。ユアさん…」

「そうねえ、あまりもたもたしている暇はないかもしれないかしら」

 

 敵がもういないことを確認したララがメテオスを引きずったまま物陰から出てきた。メテオスはまだ目覚めていないようだが、少し唸っている。じきに目を覚ますだろう。

 

「みんな怪我はない?」

「ああ、大丈夫だ。さて、先に進むか。この先に偽物のレティウスがいることは確かだからな」

「ここに置いていくわけにもいかないわね。この子は私が連れていくわ」

「ありがとうございます。じゃあ、行こうか」

 

 ユアはメテオスを背負い、ララは改めて、と洞窟の先を見つめた。

 

 

続く


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