テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター14:チャールの疑惑

「…」

 

 チャールに無理矢理引っ張られていたロストは、チャールと共に宿屋へと向かっていた。とは言ってもチャールがロストの肩に乗って宿屋を探しているだけだが。

 しかし、探すという程でもなく、宿屋は見えてきた。

 王都についてからチャールの様子がどこかおかしいと思ったロストはそのままチャールについてる事にしたが、チャールについての疑問は膨れ上がるばかりだった。

 

「なあ、何故俺を連れて来たんだ」

『お前がちょうど良さそうだったから』

「ララでも良かっただろ?わざわざ何で俺なんだよ」

 

 チャールはそう言われて考え込むように尻尾でロストの頬を軽く叩く。ロストは「はあ」と呆れたようにため息をついた。不機嫌なように見えるのはロストはそれほどまでに騎士団本部が気になっていたのだろう。

 

『…早く行くぞ』

「え、あ、ああ…」

 

 ロストは街を行く人からの視線に何かを感じたがチャールの言う通りに進むので精一杯なくらいに、ロストにとって王都というものは広かった。

 

「ここが宿屋か?」

『そうだな、じゃあ3人分宿をとるか』

「1人部屋と2人部屋な。もうあんなのはごめんだ」

 

 ピーアでの事を思い出しながらロストは苦い表情を浮かべて言う。チャールもロストの心中を察したのか『あー……』と同情気味に言った。

 

『まあ、そうだよな…普通そんなんだよな…大丈夫だ。あんな事考えるのはきっとララくらいだ』

「だといいが…。それにしても、先程からどことなく視線を感じるんだが…何でだ?」

 

 ロストがふと発した言葉にチャールは何も言わず頭を垂れた。

 街行く人からのロストへの視線はただ旅人へ向けるような視線ではなかった。人の視線は驚くようなものであったためであろう。

 

「お前がこの王都の事を妙に知っているのも気になるところだが、わざわざララでなく俺を連れてきた事にはやっぱり意味があるのか?お前は俺の事を何か知ってるのか?」

 

 更にロストは質問を加速させた。だが、やはりチャールからは返事が無い。そのままチャールの返答がない事を確認したロストはまあいいか、と宿の受付を済ませる事にした。本当は問い詰めたいところだが、今はその時ではないとロストは判断したのかもしれない。

 

「宿をとるのはいいがそれからどうすればいい?」

 

 受付を済ませたロストは取り敢えず宿のロビーの椅子に座っていたが、何をしよう悩んでいた。チャールも『そうだなあ』と目を泳がせていた。

 

『宿屋にいることしかできないだ…ろ…………』

「チャール?おい、どうしたんだ?」

 

 突然言葉を発しなくなったチャールにロストは声を掛けるがチャールは固まって動かない、チャールの視線の先を見つめると、そこには女性がいた。

 

「レイナ…?いや、違うか…」

 

 その女性はレイナにとても似ていた。違うと言えば瞳の色や髪の毛に黒いメッシュが入ってるくらいであろう。

 それだけその女性はレイナに似ていた。

 女性は宿の受付をしていた人物と話している。だが宿をとる、という雰囲気ではなさそうだ。ロストがついその女性を見つめていると、向こう側はロストとチャールの存在に気づいたようだ。

 

「あら、あなたが…ロスト・テイリアね」

「えっどうして俺の名前を…」

 

 女性に見つめていたことがばれたのと、相手が自分のことを知っていたことでロストは一瞬混乱するが、女性の胸元に見覚えのある紋章があった。

 

「私はフェアロ・ドーネ騎士団副団長。ユア・メウルシーよ。話はルンから聞いたわ。大変だったわね」

「…はい…あの、ユアさん、は…」

 

 ユアにしっかりと見つめられ、ロストは言葉に詰まる。あまりにもレイナに似すぎていることに疑問しかわかないのだ。

 

「実は、貴方達が来るのを待っていたのよ。ちょうど良かったわ」

「えっそうなんですか?」

「ええ。まあ、本題は本部に向かったルンの方が話すみたいね。それにしても、その肩に乗ったペット…かしら?」

 

 ユアの視線はロストの肩に乗っているチャールに向いた。チャールはユアの視線から逃げるように動き回った。明らかにチャールはユアを知っている素振りだ。

 

「お、おいチャール!」

「あらあら、やんちゃなのね…」

 

ユアは逃げるチャールを目で追いかけながら笑った。その表情はかつてのレイナを思い起こさせる、とロストはユアを見つめた。

 

「本当は、もっと生意気な奴なんですけどね…あの、俺…貴方にどこかで会った事ありますか?」

「突然どうして?」

「見た事のある顔…だったんで」

 

 それは実は嘘なのだが、レイナになぜそんなにも似ているのかロストは気になった。レイナに似ているという事は自分にも似ているという事なのだから。

 

「ふふ。さあね…さて、生意気ならあなたも変わってないのね、じゃあルンのところに行かなくては、今はロンドが突然手をあけられなくなったもの。娘に会いたがってたのにねえ。縁があったらまた会いましょう」

 

 ユアはそう言ってこの場から去った。チャールはユアの目の前では一切喋らなかった。

 ロストはそれがどことなく腑に落ちなかったがユアの方はチャールを知っていた様なので何かしらあると思う事にした。

 

(…そして、ユアさんは俺の事も知っている…?)

 

 彼女の見せた思わせぶりな態度。それが何なのかはロストにはわからなかった。

 

『…ふう、行ったか』

「…」

 

 やはり気になっているロストはチャールへの疑問を投げかけようとしたが、先程のように流されると分かっていたので、敢えて聞かなかった。

 しかし、やはりそこにあるのはチャールに対する疑いのみだった。

 

 

 

 

 

 

 一方のララとルンは、ロスト達と別れた後に騎士団本部へ行く道中で店を見たり必要なアイテムの買い足しをしていた。

 

「ねえ、ララ」

「どしたの、ルンちゃん。なんか難しい顔しちゃって」

 

 ルンは必要なアイテムを選んでいるララに問いかけてみた。ルンが尋ねたいのは彼女自身がロストとララに合流してから気になったことだった。

 

「チャールと言ったあの生物…ララは詳細は知らないの?」

「チャールについて詳しい事?うーん、いつの間にか一緒にいたけど、チャールがどこから来て、何者なのかは知らないな」

 

 返ってきたのはルンにとっては何の収穫にもならない返事だった。暫く行動を共にしていたララにすらチャールの正体はわかっていないのだ。

 

「じゃあどうしてチャールは、騎士団本部を避けるようにしたのかしら…?」

「避けた?」

「騎士団本部と宿屋の位置は、割と遠いのよ。騎士団本部には宿舎もあるから宿屋に騎士が行くなんて滅多にないことだし」

「へえー。じゃあチャールは騎士団本部に行きたくないんだ…もしかして知り合いがいたりして?」

 

 ララは完全に自分と出会う前のチャールを知らないので、想像しながら自分の中の例えを挙げてみる。

 ルンは「確かにね」と頷いた。ララは取り敢えず買い物を済ませ、近くのベンチに2人で座った。話しやすくするためだろう。

 

「ねえねえ、もしかしてチャール…あんな見た目だから何かの実験生物とかだったりして…!」

 

 ララなりの精一杯の冗談だったが、ルンは真剣な顔で同意の言葉を続けた。

 

「そうね、確か騎士団には科学班があったもの」

「えっ」

「チャールが誰かに実験台にさせられてた可能性もあるものね、ってララ?」

 

 ルンが顔を上げるとララの表情は固まっていた。ルン自身は割と冗談のつもりだったがララは真に受けてしまったらしい。

 

「ちゃ、チャールが実験台にされちゃう!?」

「じょ、冗談よ…真に受けないでララ」

 

 ルンがきちんと冗談であることを伝えるとララはほっと胸をなでおろした。

 

「なあんだ、冗談かあ…よかったあ」

 

 「そうに決まってるでしょ」とルンは言うものの、ルンの中ではチャールに対する疑いでぐるぐると思考が回っていた。

 

(でも確かにチャールは『本部にいる人間』に会いたくないのかもしれない。チャールについて、もう少し調べてみる必要があるのかも、あまり悪い生物にはみえないし、疑うのも悪い気はするけど…念には念を…)

 

「じゃあもうそろそろ行こうルンちゃん」

「え?ええ、そうね」

 

 ララは立ち上がって背伸びをする。それに続いてルンも立ち上がった。

 

「ほらほら、ルンちゃんが案内してくれないと私迷っちゃうよー!」

「わかってるから先に行かないの!」

 

 ララの言葉にルンはまたふっとチャールの行動を思い出す。

 

(あれ?チャールは王都に慣れていた様子だった。でもララは王都の事を知らない、と言うことはララに会う前にここにいた…?わからない、わからない……)

 

「ルーンちゃーん!」

「ああもうわかったからそこで待ってなさい!」

 

 急かすララにルンは取り敢えずチャールの件は考えない事にした。

 

(今は、考えなくてもいいよね…?)

 

 ルンはララのそばへ行き、そのまま王都の中心近くにある騎士団本部へと向かって行った。

 

続く


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