テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター10:騎士の少女

「はあっ…はぁっ!!きっ騎士団の人…!どこに、どこにいますかっ!!」

 

 ララは必死に騎士団の人間を探す。早く見つけないと、ロストが危ない。

 

『騎士団が野営をしてるって場所はわからないぞ!?』

 

 チャールが肩に必死に捕まりながら叫ぶ。確かに思い当たる場所などそうそうない。しかしどこか、この山のどこかに騎士団の人間が駐在している。

 

「もしかしたら見回りをしていたりするかもしれない!探さなきゃ」

 

 とは言っても山道は険しい。木の根に足を引っ掛け、転んだりもした。それでもララは騎士団の人間を探さなければならない。

 ロストは今、1人でベアと戦っている。2人でさえも難しいと言われた相手をすることはとても厳しい。それはロストも知っていたはずだ。それなのにロストはララを逃がした。

 

「あなた、どうしたの?」

 

 凛とした、しかし可愛げのある少女の声が聞こえた。

 ララがふと声のした方を振り向くと、小柄な体躯に似合わぬ大きな鎌を持った長い金髪をおさげにした少女がいた。瞳は髪と同じ金色に輝いており、ララにとっては見たことのない服装をしている。その胸元には紋章が存在している。ララは知らないがそれは騎士であることを示すものだ。

 

「たっ!助けて欲しいの!騎士の人がどこにいるか知ってる!?」

「騎士は私よ。急いでるみたいだけど、そこに私を案内してくれる?」

「はっはい!」

 

 ララは少女が騎士だということに困惑しつつも、彼女にくらいしか頼る事ができないと納得し、彼女を急いでロストの元へと連れていくことにした。チャールは少女を見て何かハッとしたようだったが、ララがそれを知ることは無い。

 

(ロスト君、どうか、無事でいて…!)

 

 

 

 彼女と共に駆け抜けていくララは、ひたすらに彼の無事を祈っていた。

 

 

 

 

「魔神剣!でえりゃああ!!」

 

 ロストは1人ベアに立ち向かい、剣を振り上げる。ベアの方にはあまりダメージがない様子でロストの攻撃にもひるまずに仕返しをしてくる。

 ロストには技を出した隙があり、その攻撃を避けることは出来なかった。

 

「ああああ!!まだ、まだだ…!」

 

 それでもロストは倒れるわけにはいかず、立ち上がって再び剣を手に持つ。頬に小さな擦り傷ができている。さきほど倒れた時に擦ったのだろう。

 

(これくらいの怪我!)

「はああっ!せいっ!」

 

 縦に、横に、ロストは我武者羅に振り回さないようにしてベアに適格に剣を降ろす。しかし、ベアにはあまり攻撃が通っていないらしく怯むことが少ない。

 

「まだダメか」

 

 術を唱えようにも一対一。周囲にモンスターがいるかもしれない可能性を考えると術を唱えることはあまり得策ではない。

 

「なら叩くまでだっ!」

 

 睡眠不足のせいか体が思うように動かない。ロストは少しは休んだとはいえまだ万全ではない。

 こんな状況であるというのに閉じそうになってしまう瞼を必死に開けてロストは向かってくるベアの攻撃を受け流して背後から刺した。剣は深く突き刺さる。ロストは確かな手ごたえを感じた。

 

「…っ!はあっ!!」

(くそっ!!まだ動くのか!!)

 

 敵が一体で良かった。その部分だけは運が良かったともいえよう。

 しかしこの状況が続けばロストにとっては不利なのには変わらない。ララが救援を呼んでくれる事に期待するか、自分がここで倒れるか。

 

「うっ」

 

 そうしている間にも、ロストの思考、動きは鈍る。出そうな欠伸を必死に抑え込み、足を踏ん張った。

 

「ぐわああああっ!!」

 

 剣を引き抜こうとしたその時、ベアがロストに向かって爪を立てた。

 通常の男性よりも細身にも思えるその腕に傷が入る。ロストの顔が苦痛に歪む。

 

(ゆっ、油断したっっ!!)

 

 痛みと眠気に襲われ、意識を手放してしまいそうだった。今度こそ駄目かと諦めそうになっていた。

 

「せめて、もの…あがき、だあ!!」

 

 ロストは最後の力を振り絞ってベアにしがみつき、突き刺した剣を引き抜いてまた別の部分に刺した。流石にベアは叫びをあげる。

 だがそれも束の間、ロストの意識は遠のいていく。

 

(ララ…おね、がいだ…)

「…君っ!!!…スト君!!」

 

 最後に聞こえた声で、ロストは完全に安心した。

 

 ララが戻ってきた。

 

 それだけでも今のロストには充分だった。後は任せたと言わんばかりにロストの体は倒れる。その姿は血に染まっており、ララはそれを見て必死に彼の名前を呼んだ。

 

 

「ロスト君っ!!!ねえ、ロスト君!!」

 

 ララ達が傍に来た時には、既にロストは倒れていた。

 ベアはロストの側に立っており、今にも巨大な爪をロストに向かって振り下ろそうとしていた。

 ララは慌ててロストの元へ駆け寄ろうとするも、騎士の少女に引き止められる。

 

「あなたが先に行ってはいけないわ…私が先に行ってベアの気を引く。そのうちにあなたは彼にライフボトルを与えて頂戴」

「う、うん…」

 

 騎士の少女は大鎌を構えて、ベアに向かっていった。ベアはルンに気づき、騎士の少女の方へと進む。

 ベアの注意がルンに逸れた。騎士の少女はララに対してサインを送る。ロストの元へと向かってもいい。そのような合図だとララは理解し、こっそりロストのそばへ駆け寄った。

 

「ライフボトルを。それにしても、ひどい怪我…」

『こいつ1人で、頑張ってたんだな…』

 

 ララとチャールはロストの惨状をみて絶句する。

 顔に擦り傷、腕に切り傷。服は当然ボロボロで血も大量に出ている。ララ達の到着があと少し遅れていればロストの命は危うかっただろう。

 

「ごめんね。ごめんね…」

 

(守らなきゃいけない人なのに)

 

「…あ、あれ?」

 

 ララはふと、自分の頭の中に思い浮かんだ言葉に疑問を持つ。

 

『どうしたんだ?』

「え?う、ううん…な、なんでも、ない」

『…歯切れが悪いな。まあとりあえず、ロストの手当も終わったな』

「うん…」

 

(守らなきゃいけない人…それが、私にとってのロスト君?でも、なんで?もしかして、やっぱりロスト君は私の無くした記憶に関係してるの…?)

 

 考えていても答えは出てこない。

 この事については誰にも言わないでおこう。そして、今は騎士の少女の戦いを見守るしかできない。ララはそう思って騎士の少女のいる方を向いた。

 

「やああああっ!!」

 

 騎士の少女は大鎌を地面に突き刺し、軸として回転蹴りをベアに直撃させる。

 ベアからの反撃が飛んでくるも騎士の少女はそれをひらりと躱す。余りの軽やかな動きにララは目が追いつかないようだった。

 

「私は倒れるわけには行かないのよっ!蒼破刃!」

 

 大鎌を構え直した騎士の少女が技を放つ。ベアの巨体はそれを躱すほどの身軽さは持ち合わせていない上に先程のロストとの戦闘の傷があるのか動きが鈍い。

 ベアは騎士の少女の技を真正面から受けた。

 

「動きが鈍いわよっ!」

 

 バチバチと騎士の少女の持つ大鎌に電気が帯びられていく。

 

「エレキチャージ!やあっっっ!!!」

 

 これは騎士の少女の扱う雷のマナを応用した技だ。電気を帯びた大鎌は触れた相手を痺れさせる。

 少女の細い両手で支えられた電気を帯びた大鎌はベアの体を切り裂き、電気がその体中に流れる。

 

「ふう」

 

 ベアは完全に倒れた。騎士の少女はベアを完全に倒したことを確認すると、大鎌に付けられた綺麗な宝石のようなものに向かってなにか喋り出した。

 

「こちらルン。怪我人を発見したわ。直ちにBポイントまで魔物使いを連れてきて頂戴。なに?今魔物使いがいないの…?はあ、どうするのよ…。もういいわ、この場は私が何とかする。ええ、それでいいわ。また何かあったら連絡するから」

「…」

 

 その姿に見とれていたのかそれともただぼうっとしていただけなのかわからないが、ララは気づけば騎士の少女を見つめていた。

 

「すごい…」

 

 ララはそんな言葉を零した。明らかに自分よりも年下の少女がロストとの交戦での傷があったとはいえ凶暴なベアを軽々と倒したのだ。

 

「あっ、えっと…ありがとう、ございます」

「騎士として当然のことをしたまでよ…しかし、何故こんな凶暴なベアがここに?ここはもう少し弱いモンスターばかりだと思っていたのに」

 

 騎士の少女…先程石に向かって喋りかけていた際の言葉から名前は恐らくルンというのだろう…は頭を抱えてぶつぶつと独り言を言う。

 

「あのーそういえば、あなたの名前聞いてなかった」

「あっそうだった!失礼したわ。私はフェアロ・ドーネ騎士団パーフェクティオ隊隊長。ルン・ドーネよ」

 

 ルンと名乗った騎士の少女はララ達に自己紹介をする。

 改めて見ると金髪の長い髪を二つの三つ編みにしており、頭には大きなリボンが二つついている。どこからどう見ても普通の少女である。その手にある大鎌を除けば、だが、身長もララより遥かに小さい(ララの身長が高すぎることもあるのだが)。

 

「ドーネ…?きし、だん?」

「まさか貴方、フェアロ・ドーネ騎士団を知らないの?あなたフェアロの人間よね?」

 

 ルンの口ぶりからしてフェアロに住む人間であれば知っていて当然、とでも言うようだった。

 チャールはララが通常の人間と同じ教育を受けていたところ見た事がないのでララは恐らく一般常識だと思われることでも知らない可能性があると思った。

 

「そうなんだけど、うん。知らない。あっそうだ、私の名前はララ。ラリアン・オンリンって言うんだけど、ララって呼んで、ルンちゃん!」

「ララ…ラリアン…?ってちゃんっ!?」

 

 ルンは「ちゃん」と言われる事に慣れていないのか少し困惑している様子だった。

 

『いつもの事だからな。放置してていいぞ』

「そうなの…って狐が喋った!?」

『ボクはチャール。で、そこにぶっ倒れてるのがロストだ。あとララはド田舎で育ったから一般常識は知らないと見ていいぞ』

「むー、チャールそれって酷いー」

 

 チャールのいいようにララは不服そうにむくれる。ルンはその光景を見て微笑ましく思ったものの、傷だらけで倒れているロストを見てなんとも言えないような、複雑な表情をしていた。

 彼女が何を思ってその様な表情をしているのかは、ルンの表情すら見ていなかったララとチャールは知るよしもない。

 

(私がもっとちゃんと見回りをしていられたら…!こんな事には、絶対ならなかったッ!!)

 ルンの胸中にあったのは、後悔の念。

 彼女は13歳という若さで騎士団の小隊の一つであるパーフェクティオ隊の隊長をしているのだ。彼女へのプレッシャーは大きいのだろう。

 

『そう言えばお前、ドーネと言っていたよな。リンブロアの娘なのか?』

「?なぜ、父の名を…確かに、そうだけれども」

「チャール、その人って誰?」

『リンブロアは騎士団の団長だ。騎士団長の娘。という事だな』

「ルンちゃん凄いんだ!」

 

 ララの純粋に「凄い」と言う輝かしい瞳に、ルンは不意に目を背けたくなってしまった。ルンは騎士団長の娘という立ち位置であることからなにか思うところでもあるのだろう。

 

「凄いのは父様よ。私はただ偶然、そんな凄い人の娘に生まれたってだけなの…さて、立ち話も何でしょうし、騎士団の野営地に行きましょう」

「そうだね…疲れたし。早くどこかで休みたいよ」

 

 しかしふと、ララは気を失ったままのロストを見る。傷は塞がったものの、まだ彼は目覚めない。

 

「ロスト君、どうやって運ぼうか…」

 

 この場にいるのは小さな少女であるルンと、高身長とはいえララも少女。そしてチャール。誰もロストを運べるとは到底思えないのだ。

 

「うーん、仕方ないわね…ここはセテオスを呼ぶしかないかなあ」

「セテオス?どこかで聞いたことのある名前のような」

 

 ララの零した言葉はルンには聞こえていないようだった。

 

(まあ、ルンちゃんが知ってるって事は騎士の人かな?)

 

 ルンが武器についている石で誰かと連絡を取っているのを待ちながら、ララはふう、と息をついた。

 

(なんだか、遠くまで来た気分だなあ…)

 

 騎士団という聞きなれない王国の組織の人間を前にしてララはふと思っていた。距離自体はそう歩いていないはずだが。

 

「ララ、後もう少しで部下が来るわ。それまでここで休んでいて頂戴」

「ありがとう!ルンちゃんは」

「私は見回りを。少しだけだから、念には念を…一般人を危険な目に遭わせないようにするのが騎士団の勤めだもの…今回は、私が未熟だったせいで…」

「でもルンちゃんは助けてくれたんだよ」

 自責の念に駆られるルンを、ララはそう宥めた。自分に自身が持てないのだろうか…ルンの能力は十分に高いはず。しかしルンはそれに満足していないような寧ろ自分が駄目だと思い込んでしまっているようだった。

 

『面倒なやつだなあ。お前、リンブロアに変に似てやがる』

「面倒とは何よ!それにあなた、父様を知っているようだけれども」

 

 チャールはルンの言葉にどう返せばいいのか、と考えたらしい。確かにチャールが何故騎士団長の名前を知っていたか、それにまるで彼を知っているかのような口ぶり。

 ルンがどことなく疑いをかけるのも仕方ないようである。

 

『それは…。あっそ、そろそろお前の部下とやらが来るんじゃないか?ほらほら』

「そうね…ってはぐらかすんじゃないわよ!」

『うわーにーげろー!』

 2人(?)はそうやって追いかけっこを始めた。

 それを見てララはロストを踏まないで欲しい、元気だ、など言いたい事は沢山あったが、口から出たのはため息だけだった。

 

「はあ」

 

続く


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