テイルズオブメモリアー君と記憶を探すRPGー   作:sinne-きょのり

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チャプター9:フェリサ・テック恐山

「おはよう…あれ?ロスト君目の下にクマできてる?」

 

 その次の日の朝、案の定ロストは疲労感に苛まれたまま、ララとチャールの起床を待った。

 そうして起きてきたララの第一声がこれである。

 そうか、と言いたいロストであったが、鏡を見るまでもなく自分の表情が悲惨な事になっているというのには気づいていた。

 

(あんたのせいで眠れなかった。なんて言えるわけないからなあ…)

 

 無表情の上に寝不足で目つきが悪くなっているロストは見るからに危険人物と化しているが、ララはそれを気にせずタオルを濡らしてそれをロストに渡した。

 

「これは」

「せめて顔は洗おう?すごい顔してるよ」

「……そうか」

 

 一言だけ言ってロストはタオルを受け取った。

 チャールはロストの寝不足の理由を察したのか、哀れみの目でロストを見ていた。

 

(まあそりゃ、そうだよなあ…)

 

 そんなチャールの心の声はロストにもララにも聞こえはしなかった。2人と1匹は宿屋を出て、多少の買い物を済ませた後にフェアロ・ピーアから出発をした。

 目指すはフェリサ・テック恐山。ここを通る以外のルートだと王都まで行くにはとても遠回りとなる。

 

「それにしても、どうして王都へ向かうんだ?」

 

 そこでロストが抱いた疑問は、何故王都へ向かうのか。という事だった。ララもあまり考えてはいなかったらしく、尋ねられて「あっ、えーとぉ…」と言葉を濁している。

 

『王都には色々情報が集まっているからな。ララに聞き込みをしてもらおうと思っていたんだ。そもそも王都行きを提案したのはボクだからね』

「そうなのか。なら、俺も王都に着いたら情報集めか?」

 

 ロストは話の流れからしてそうであろうと予測して言ったが、チャールはそれを考えていなかったのか、それともロストには別のことをしてもらおうと思っていたのか、そうではないとでも言うように首を横に振った。

 

「あれ?ロスト君には手伝ってもらわないの?」

『い、いや…手伝ってはもらおうと思うんだが…』

 

 チャールはなにか考えるように尻尾で自分の頭を叩くが、考えは思い浮かばないらしい。

 

「まあ、それに関しては着いてから考えるか、ここがフェリサ・テックなんだろう?」

 

 2人と1匹の前に見えてきたのは大きめにそびえ立つ山。中にはいかにもモンスターがいそうな感じがしており、ロストもララも武器の最終チェックをしていた。先ほどフェアロ・ピーアで武器は新しいものにしてある。恐らく大丈夫であろうと2人は踏んだのだ。

 

「っ!ララ、構えろモンスターが来る」

「わかった!チャールは捕まってて」

『了解っと』

 

 ロストは近くの草むらがガサガサいっていることに気がついた。草むらの傍らから見える影は人間ではない。

 

 モンスターだ。

 

「ガアアアアアッ!!!」

「はああっ!!魔神剣!くらえっ」

 

 出てきたモンスターをロストは迎え撃つ。

 ララは後方でスピアロッドを地面に突き刺し詠唱を始め、金色の魔法陣が光る。それを妨害しようとするモンスターに向かってロストは他のモンスターを蹴飛ばした後に突進するように向かっていく。

 

「おらあああ!!」

「あっありがとうロスト君、いくよ!エンジェルリング!」

 

 ララが呪文を唱え、術が発動する。

 ロストは術にかかった相手が倒されたのを確認すると別方向からやって来たマンドラゴラに向かっていく。

 

「ロスト君気をつけて!」

「大丈夫だ。相手にとって不足なし、虎牙破斬!」

『調子に乗りすぎてヘマすんなよー?』

「わかっている」

 

 ロストはマンドラゴラを切り捨てながら悪態をつくチャールにため息をついた。チャールは戦っている間ララの肩にしっかりとつかまって振り落とされないようにしている。

 

「あっあわわ……こっち来てる!ピコハン!蒼流弾!」

 

 別の方向からララの近くにモンスターが来ていることに気づいたララは術を唱える手を安め、スピアロッドを振ってモンスターを迎撃する。ロストが別のモンスターに気を取られている間のことだったため、ロストはそれを横目に見てしまったと内心思っていた。

 

「すまないっ」

「大丈夫大丈夫!そっちで最後っぽい?」

 

 ララは目の前のモンスターを倒し、ロストの方も目の前に対峙していたモンスターに止めを指すと、剣を鞘に収めた。

 

「…みたいだな…」

「ロスト君?!」

 

 そう言い終わると同時にロストはふらついて倒れてしまう。ララは慌ててそれを支える、が自分より背の高い男性を支えるのには精一杯でなんとか近くの木に寄り添わせるようにした。

 

「だから言ったのに…。ここで少し休もう。何なら私がなにか作るから」

「すまない…」

『はあ…お前、自分で抱え込むタイプだろ?』

 

 チャールにそう言われてロストは返すこともできずに目を瞑ってララに言われた通りに休む事にした。とても疲労というものが溜まっていたらしく、すぐに睡魔が襲ってきた。

 

『こいつ…もう寝てやがる。昨晩は何してたんだか……?これは』

 

 寝ているロストの掌をチャールが覗き込むと、その手には豆や傷跡があった。どうやら鍛錬をした後のようだ。とチャールは推測した。

 

(こいつもこいつなりに、ララを守ろうとしてるんだな)

 

 チャールはそんなロストの努力の跡をみて感心していた。成り行きとはいえこうやって少女と行動することになったのだ、自分がしっかりしないといけない。そんな意識があったのだろうと思うと、チャールはなんとなくロストの頭を尻尾で撫でずにはいられなかった。

 

「ロスト君サンドイッチできたよーって…あれ、寝ちゃった?」

 

 ララが料理を終えて戻ってくる。その手に持っていたのはサンドイッチだった。この場で作るのにはそれが精一杯だったのだろう。

 

『みたいだ。モンスターがいないかどうか見回りしてくるから、ララもゆっくりしといたらどうだ?』

 

 チャールからそう言われ、ララもロストの横に座り込んだ。

 作ったサンドイッチをどうしようかとも考えていたが、ロストが起きてからでもいいかと自己完結し、持ち物の中にあった水分を口に含んだ。

 

「うん。そだね、ありがとうチャール」

『じゃ、少し見てくるからな』

 

 そう言いつつ、チャールは確かに見回り目的で一人になったが、それ以外にも彼には考えたい事があった。それをララに悟られないようにしながら1匹で山道に消えていった。

 

「…大丈夫かなあ、つい見送っちゃったけど。まあそれでもこんな状態のロスト君置いてくわけにもいかないけど」

 

 当然ララにはそんなチャールの思惑はわかっていない。少し見送った事を後悔しながらもララはため息をついた。

 ララは横に寝ているロストをじっくりと見る。とても疲れていたようでとても無防備な状態で寝息を小さく立てている。先程から微動だにしないことから恐らく寝相はいいのだろう。

 

(それにしても綺麗な顔立ちしてるなあ。本人には言えないけど最初は一瞬女の人かと思っちゃったし)

 

 立っているアホ毛を触りたい衝動に駆られたが、ここはぐっと我慢をした。下手に起こして休みを邪魔してはいけないと判断したのだ。

 

「あっそ、そうだ。なにか採集できそうなのはないかな」

 

 そう言って立ち上がろうとした時、チャールが血相を変えて駆けてきた。

 なにかあったのかもしれないとララはスピアロッドを持ち上げる。

 

「チャール、どうかしたの」

 

 ロストを起こさないようにできるだけ落ち着いて声を上げないようにしてララはチャールに尋ねた。チャールは大声を上げたい気持ちで沢山だったがここは声を抑えた。

 

『近くにベアがいる…、強いモンスターだまともに戦って勝てる相手じゃない』

「そんな…ロスト君をどうにかしないと…」

 

 ララ1人でロストを抱えて逃げることは出来ない。しかし逃げなければベアがこちらに近づいている。チャールからは焦りが見える。

 

「どうすればいいかな」

『…ボクが陽動をする』

「でもそんなことしたらチャールが……」

 

 チャールのそんな申し出にララは戸惑う。しかしチャールはそれ以外の方法が無いと思ったのだ。

 

『だがロストはっ!』

「…俺がどうかした?」

 

 口論をしている間にロストは起きてしまっていたようだ。ララとチャールは顔を見合わせてお互いのせいだ、とまた口論し始めそうな勢いだった。まだ眠気が残っているせいかロストの表情が怖い。

 

「……今さっき起きたばかりだ。状況がよくわからないが、危ないということか?」

 

 小さく欠伸をしたロストの様子を見て、先程までの話は聞かれていなかったとわかったララは、ロストの手を引っ張って立ち上がらせた。

 

「おっおいなにするんだ?」

 

 突然の事でまだ起きたばかりの頭が追いつかないロストではあったが、ただごとではない、そう直感した。

 

「今この近くにすっごい強いモンスターがいるんだって。だから逃げなきゃいけないかもしれない」

 

 そう言ってロストの手をひこうとしたララだったが、ずしんずしんと、重い足音が近づいてきている。確実に、こちらに。

 

『っ!やばいぞ確実にこっちに来てる!』

「ララは逃げろ、ここは俺が」

「ロスト君1人で敵う相手じゃないよ!」

 

 そう言っている間にも足跡は近づいている。

 このままでは埒が明かないと思ったロストは1人で武器を持って足音のする方へ向かおうとする。

 

「だめ!無理しないで!ロスト君が行くんなら私だって」

「だから、お前を逃がす為に俺が行こうとしているんだろうが!ここはおとなしく逃げろ!もしも近くに人がいれば連れてきてくれ」

 

 ロストはララに向かってそう怒鳴り散らした後、引き止めたララの手を振り払って足音のする方―恐らくベアがいる場所―へと走り出す。

 

「この当たりには騎士団が野営をしている場所があると聞いた!騎士団の人間を連れてきてくれ!」

「まっ待って!ロストくっ!」

『ロストの言うとおりにするぞララ!このまんまだったらボク達は一溜りもない!』

 

 ロストを追いかけようとするララを必死に引っ張り、チャールは騎士団の人間を探すように促す。ララは渋々ながらもロストに背を向け、山道を走り出した。

 

(お願いロスト君、無事でいて……!!)

 

 そんな祈りを頭の中で唱えながら、ララは騎士団の野営地を探してチャールと共に厳しい山道を走っていく。

 

「コソコソしないで出てこい。俺はここにいる。襲いたいなら襲うがいい!!」

 

 ロストは武器を構え、大声を張り上げて挑発するように言い放った。

 

(最悪俺はどうなってもいい。だが、ララだけは…)

 

 守ると約束した少女の為に、ロストは剣を握った。

 

続く


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