「武志、おはよう。今朝も早いね」
「おはよう、姉さん。修行は毎日の積み重ねが大事だからね」
叔父上と修行を始めてから、もう1年が経っていた。
僕は叔父上との修行のため、まだ日が明ける前に起きるのが習慣になっていたので、朝の時間に姉さんと会うのは久しぶりだ。
「姉さんはどうしたの、こんなに朝早くから?」
「弟が頑張っているんだから姉としては、お見送りぐらいしてあげなきゃね」
ニッコリと微笑む姉さんは…可愛かった。
「姉さん。結婚しよう」
「うん、いいわよ。武志が黄金の炎を出せるようになったら結婚しようね」
姉さんは、僕の愛の言葉に躊躇なく答えてくれる。しかも、僕を甘えさせるだけでなく高い目標まで示してくれるのだ。
実の姉を虜にするとは、僕って意外とイケメンかもしれない。
「おい、武志の馬鹿に変な冗談を言うなよ。本気にされちまうぞ」
僕と姉さんとの憩いの時間を邪魔するように愚兄が現れた。
「おはようございます。お兄様」
「おはよう、操」
「おはようございます。愚け、じゃなくて、兄さん」
「おはよう、武志。ところで、そのグケというのは何なんだ?お前、よく口にするけど」
「何でもありませんよ、兄さん。細かいことを気にするとハゲますよ」
「縁起でもないこと言うんじゃないよ、お前は!」
「うふふ、お兄様と武志は、相変わらず仲がいいですね」
「僕は、姉さんの方が大事ですよ。姉さんのためなら兄さんなんか橋の下に捨ててきますから安心して下さいね」
「ありがとう、武志。武志がいてくれたらお姉ちゃんは、安心して暮らしていけるね」
「うん。任せてよ」
「そうじゃねえだろっ!?何、和やかに笑いあってんだ!操まで武志の馬鹿に付き合うんじゃねえっ!」
またしても僕と姉さんとの憩いの時間を邪魔する愚兄だった。その内、ダンボールに詰めて川に流してこよう。
「それじゃあ、姉さん。行ってきます」
「はい、修行を頑張ってね。でも、怪我をしないように気をつけなきゃダメだよ」
「うん、分かったよ。姉さん」
「俺を無視すんじゃねえっ!」
姉さんに見送られて、暖かい気持ちを胸にして僕は修行に向かった。
修行に向かう途中で、風牙衆である2人の少女と合流する。未風綾と風木沙知だ。彼女達は半年ほど前から僕の修行に付き合ってくれるようになっていた。
「おはようございます。武志さん」
「おはよう、武志」
「おはよう、綾。沙知」
修行に付き合うといっても、2人は僕とは違い、風術の修行を行っている。つまり、修行場所を同じにしているのだ。
「今朝はサンドイッチを作ってきたんですよ」
「やったー!綾のサンドイッチって、美味しいんだよね」
「うん。僕も綾のサンドイッチは大好きだよ」
修行後の朝食は、当初は別々に持ってきていたが、綾が料理が得意なので任せてほしいとのことなので、彼女の好意に甘えさせてもらっている。
「武志さんは、今日もいつもの修行ですか?」
「うん、そうだよ」
現在は、叔父上の脳筋メニューを夜に行い、朝は炎術の制御力の強化と、制御量の増加をメインとして修行を行っていた。ちなみに放課後は、和麻兄さんに術を教えてもらっている。
制御力の強化は、主に集中力を高めることが重要となる。神凪一族にとっては最も力を入れて鍛えさせられる能力だ。何故なら鍛錬の結果が比較的現れやすく、炎術の攻撃力の向上に直結するからだ。
次に制御量の増加というは、一度に制御下に置ける火の精霊の数を増やすことだが、これが難しい。神凪一族の常識では、制御量というのは、生まれつきのもので修行によって増減するものではないからだ。
現に僕の愛しい姉さんは、大神家の中では最大の制御量を誇るが、それは生まれつきのものだ。修行によって増やしたものではない。
僕の生まれつきの制御量は、分家の中では多い方だけど、神凪宗家とは比べようもないほどの開きがある。
何とかしたい。そう思っても手段がなく困っていたところ、風牙衆の2人に何気なくぼやいてみたら、驚くべき答えが返ってきた。何しろ制御量を増やす修行方法が風牙衆には普通に伝えられているというのだ。
「なんだそりゃ!?」
叫んだ僕は、悪くないと思う。