俺こと神凪和麻は、久方ぶりの自由を噛み締めていた。
振り返ってみれば凰家での修行を終えて、自分と同じ風術師の小雷そして、偶然知り合った水術師の翠鈴の三人で世界中を巡る修業の旅に出てから早数年が過ぎていた。
「思い返せば色々あったよな」
瞼を閉じれば浮かんでくるのは騒がしくも楽しかった日々だった。
凰家の追っ手…じゃなくて正体不明の刺客に追われて迷い込んだ中国の奥地では伝説の竜王に出逢えた――その後、小雷が《虚空閃》で竜王の鱗を貫けるかを勝手に試したせいで怒り狂った竜王に三日三晩追いかけ回されたけど…
大陸を抜けて地中海にまで足を伸ばせば美しい海を堪能できた――その後、翠鈴が練習と称して発生させた竜巻で沿岸地域の環境資源を壊滅させて現地当局に追いかけ回されたけど…
アラブの国々を巡ったときはエキゾチックな雰囲気に心が躍った――その後、小雷と翠鈴が始めた喧嘩の余波で王宮の一部を吹き飛ばして軍隊に追いかけ回されたけど…
もちろん修業にも力を入れていた。
小雷と翠鈴の二人が実践さながらの模擬戦を頻繁に繰り返すから、それを抑えるために二人以上の技量を磨いた。
各地の勢力に雇われた術者の刺客は見たこともない術の使い手が多く、積み重ねた対人戦の経験は莫大になった。
逃亡資…修業費用を賄うため、危険な妖魔討伐も積極的に受けた。それも非合法な依頼のため支援など受けれない死と隣り合わせの酷いモノばかりだった。
俺達は数え切れない地を巡り、数え切れない異文化に触れ、数え切れない騒動を起こ…騒動に巻き込まれながらも着実に実力と悪みょ…知名度を高めていった。
そして俺は遂に自由を手に入れたのだ。
「和麻ってば、何をブツブツ言ってるのー?」
俺の周囲をフヨフヨと舞う騒がしい存在は、俺に自由を運んできてくれた“風の妖精ティアナ”だった。
*
和麻とティアナの出逢いは偶然だった。
一族内で問題を起こしたティアナがその罰の為に、丁度その頃に一族の秘宝を盗んだ人間がいた為、その奪還を命じられた。
しかし魔法を使える妖精といえど、妖精の秘宝を盗み出せる程の力ある人間に単独で挑むのは無謀というものだ。
そこでティアナは協力してくれる人間を探していた。
世界中を巡り、各地で騒動を巻き起こしながら協力者を探す日々、きっとそれは長く辛い日々だったろう。
そんなある日、ティアナは自分以上の騒動を巻き起こす存在達に気付いた。
人間の女の子二人組が起こす数々の騒動を目の当たりにしたティアナは、勝手に二人に対してライバル心を抱いて宣戦布告をした。
それからは和麻の苦労は激増した。
これ以上はないと思っていた小雷と翠鈴が起こす騒動が、実は大したこと無かったと和麻は痛感させられた。
二人から二人プラスワンになってみると巻き起こす被害は1.5倍では済まなかった。
このままでは世界が崩壊するのでは? 冗談ではなくそう思う和麻のストレスはピークだったが、純粋な好意を向けてくる二人を見放すことなど和麻には出来なかった。
もしそんな事をして二人から向けられるのが好意から敵意になったとしたら――想像しただけで和麻は気を失いそうになる。
そんな激動の日々を送る和麻とティアナとの間に、確かな繋がりが感じられるようになった頃の話だった。
ティアナが思い出したかのように語った。
「あー!秘宝のこと忘れてたー!」
本当に思い出しただけだった。
その時、小雷と翠鈴の二人が買い物の為にいなかったのは運命だったのだろう。
妖精の秘宝を奪い返すという危険な事に大事な二人を巻き込むのは和麻には耐えられなかった。
とはいっても既にティアナも大事な仲間だ。彼女が困っているのを放っておくわけにはいかない。それに上手くいけばティアナは故郷に帰ってくれるだろう。
小雷と翠鈴の二人も説明すれば分かってくれるはずだ。
善は急げとばかりに、二人への置手紙を書き上げた和麻は嫌がるティアナを強引に連れ出して、裏ルートを駆使して自分の移動の痕跡を細心の注意を払い、消去しながら懐かしき故郷に戻ってきた。
当然だが全てが終われば大事な二人の元に和麻は戻るつもりだ。
そう、覚えていれば帰るつもりだ。
しかし苦労を重ねた和麻は“まだ若いはずだけど記憶力の低下が酷くて困るんだよ”と、笑顔で嘆いていたから不幸にも忘れてしまうかもしれなかった。
「武志! 帰ってきたぞ、元気にしていたか!」
和麻は懐かしき大神家の扉を開ける。
万が一を考えて、実家に帰るのは様子を見てからにしようと知恵が回るようになっていた和麻だった。
「ここが和麻が言っていた弟分の家なんだー! あれー? どうしてここに二人がいるのー?」
「っ!?」
顔面蒼白になる和麻の前には、三つ指をついてイイ笑顔で和麻を出迎える小雷と翠鈴の姿があった。
*
「凰家の神凪一族への抗議は取り下げてくれる事になったよ。その代わり小雷と《虚空閃》の監視と継承を頼まれたけどね」
「監視はまだ分かるが、継承ってのは何なんだ?」
大神家のリビングで、武志はこれまでの経緯を和麻に説明していた。
話がし易いように小雷と翠鈴の二人と妖精のティアナには席を外してもらっていた。
ちなみにティアナは赤カブトを一目見るなり気に入ってしまい赤カブトの頭にへばり付いて離れないので、武志は赤カブトにティアナの世話係を頼んだ。
小雷と翠鈴が大神家にいた理由は簡単だった。
和麻の行動を推測した小雷と翠鈴は日本に直行したため、裏ルートで遠まりをしながらの和麻より早く日本に到着したのだ。
そして、神凪邸に近付いてきた二人にいち早く気付いた武志(正確には《虚空閃》の気配にマリちゃんが気付いて武志に教えた)が二人に接触する。
二人に接触した武志は、小雷が凰家の人間であり、この二人が和麻と駆け落ちした相手だと気付いた。
この時、彼にしては珍しく厳しい表情になったが、能天気な笑顔を浮かべる小雷と翠鈴の二人に毒気を抜かれたのか、一度だけ深いため息をつくと武志は笑顔を浮かべて彼女達を受け入れることにした。
一度受け入れる事を決めた武志の行動は早かった。早速、神凪宗家に了承を得た上で凰家との交渉を始める。
当初は難航すると予想した武志だったが、凰家は予想外の反応をしめす。
世界中を巡る旅で小雷が巻き起こした騒動の抗議が凰家に殺到していたのだ。
いかに凰家といえど、世界中の有力な勢力からの圧力に対抗する力はなかった。
凰家に小雷が戻って来れば、それ相応の処罰を与えなければならない。恐らくそれは小雷にとって最悪の内容になるだろう。
また、それだけの内容にしなければ抗議をしてきた者達が納得しない程に小雷への抗議は激しいものだった。
対応に苦慮していた凰家にとって、今回の神凪一族からの交渉は地獄に仏と言えるものだろう。
何故なら小雷と行動を共にしていた和麻は当然のように小雷の仲間だと認識されていたが、神凪一族に抗議をしようと思う勢力は“最初の数例”以外は皆無だったからだ。
勿論それには理由がある。
神凪一族と親交の深い相手(凰家やマクドナルド家など)なら抗議をしても理性ある対応をしてもらえるが、それ以外だと龍の逆鱗に触れるようなものだった。
神凪一族に抗議をした結果、
“よかろう、ならば戦おう”
この一言の結果、壊滅した組織の数が片手の指で数えられなくなった頃、神凪一族への抗議は禁忌となった。
その神凪一族の元に小雷がいる。しかも客人扱いとなれば、凰家としてはここぞとばかりに問題を丸投げする事に決めた。
家族の絆が強い凰家は、小雷と和麻の間に生まれる子供に《虚空閃》を継がせる事を約束してくれるなら、それ以外は全て神凪一族に任せると言ってきた。
武志は当然の如く了承する。
「つまり“継承”ってのは、そういう意味だよ」
「……」
にっこりと笑いながら言う放つ武志。
笑顔の筈なのに、異様な圧迫感とその内容に和麻は脂汗を流す。
「あ、あのう、武志さん? もしかして何か怒ってらっしゃる?」
思わず変な敬語で様子を伺う和麻。
「へえ、和麻兄さんには僕が怒る理由に心当たりがあるんだ?」
「……」
倍増した圧迫感に和麻は武志が怒る理由について、記憶をほじくり返しながら理由を探る。
「そうか!」
「その顔は頓珍漢な事を考えていそうだけど、念のために聞いておくよ。僕が怒っている理由は何だと思うの?」
「ああ、分かっている。ちゃんと準備しているから心配するなよ」
「準備をしている?」
武志が怒っている理由は当然、和麻が《虚空閃》を盗んで小雷と翠鈴を連れて逃げたせいで風牙衆の独立などの計画が台無しになりかけたからだ。
《虚空閃》を盗んだわけじゃないと言い張る和麻から詳しい事情を聞いてみても、やはり和麻の自業自得としか思えないのが武志の正直な感想だった。
そんな状況で、和麻は準備をしているから安心しろと言う。もしかしたら和麻は、武志も知らない所で動いてくれていたのかもと、基本的に和麻に対して期待している武志は思ってしまう。
「ほら、旅のお土産の石仮面だ。なんでもアステカ文明の“血の儀式”とかいうのに使用されていた珍しい物らしいぞ。いやあ、それにしてもお土産がないと思って拗ねるだなんて、武志もまだまだ子供だな」
もちろん武志の過大評価だった。
*
お気楽な和麻を、武志達(武志、操、紅羽、マリちゃん)で説教している最中に武志の携帯電話が鳴った。
「こんな時間に誰かな?」
着信画面を見ると表示は“殺人タックル天使”になっていた。
「あれ、こんな時間に煉が電話してくるなんて初めてじゃないかな?」
礼儀を重んじる煉が、日が落ちてから電話をかけてくる事は今まで無かったため、武志は不思議に思う。
「いや、そんな事より未だに煉の事を殺人タックル天使とか呼んでいるのかよ」
携帯電話の表示画面を覗いた和麻が呆れ顔で言う。
「僕も困っているんだよ。まあ、その話は今はいいや。それより電話に出るよ」
武志が電話に出ると、いつもとは少し違う雰囲気の煉が一方的に喋ってきた。
「武志兄様、夜遅く申し訳ありません。実は大切な女の子が出来ました。彼女のために石蕗一族を敵に回しそうなのですが、紅羽さんに謝罪させて下さい」
その内容に武志は驚くと共に安心する。
今まで女の子に興味を示さず、自分に強烈に抱きついてくる煉に対して密かに身の危険を感じていたからだ。
「あのさ紅羽姉さん、煉に彼女が出来たらしいんだけど、それを石蕗一族が邪魔をしているんだって」
突然の話に紅羽は困惑する。だが、紅羽にとって石蕗一族の事などは、既にどうでも良かったので適当に答えた。
「そうね、煉の邪魔をするなら潰していいわよ。でも“石蕗 巌”の相手は煉だとキツイと思うから、その場合は手伝ってあげるわ。それと私の妹で“真由美”という娘がいるんだけど…うーん、妹には色々とあるのよね。あの子は私に無邪気に懐いていたし、出来れば助けてあげたいわね。うん、その事も相談したいから煉に戻ってきて貰えるかしら?」
武志は了承するとその旨を煉に伝える。
そして、絶好調で和麻に説教しまくっていたマリちゃんに煉達を転移させて欲しいと頼んだ。
「なんだ? 私はこの男に説教するという重大な使命の真っ最中なのだぞ」
「いやもう勘弁してくれよ、第一あんた誰だよ?」
自分の所為で風牙衆に迷惑をかけた事を理解した和麻は、甘んじて説教を受け入れていたが、武志、操、紅羽の三人は分かるが見知らぬ外国の女の子にまで説教される意味が分からなかった。
しかも一番張り切って説教をしてくるのだから堪らない。
「そういえば、マリちゃんが家に来たのは和麻兄さんが旅立ってからだったかな」
「あら、言われてみればそうね。もうずっと一緒に暮らしているから気付かなかったわね」
「そうだね、操お姉ちゃん達は三姉妹みたいに仲がいいしね」
武志と操は目を合わせると楽しそうに微笑み合う。
ついでに両手も合わせ合いながら楽しそうに円を描くように回しあう。
「こいつら、しばらく見ない間に
「不治の病だから仕方ないわ」
和麻の呆れた声に紅羽が苦笑しながら答える。
「そんな事よりも説教の続きじゃ!」
歳をとると説教好きになるという話は本当なのね。と思いながらも口には出さない紅羽だった。
そんな事よりもと煉の事をマリアに頼む。
「ねえ、マリア。和麻を夜通し説教するのは構わないから、その前に煉達をここに転移させて貰えないかしら」
「よしっ、いいぞ!」
「いや待ってくれ! ?夜通し説教って何なんだよ!?」
当然の如く夜の方が調子の良いマリアは、紅羽の提案に乗り気となり煉達をさっさと転移させる事にした。
もちろん和麻の苦情は無視される。
「ちちんぷいのぷい!煉と知らない女の子、ここにワープ!」
「いい加減すぎないか!?その呪文!!」
和麻のツッコミなど気にせずにマリアは呪文を起動させる。
幾重にも重なり合った魔法陣が輝きながら現れると、その中心に煉と亜由美が転移してくる。
「お手数をおかけしました」
現れた煉は礼儀正しく頭を下げる。その横で亜由美は余りに容易く転移した事に驚き、目を丸くしていた。
「あら、煉の彼女というのは真由美だったの……貴女、随分と成長が遅いのね。おっぱいも小っちゃいわ」
紅羽は数年ぶりの再会だというのに全く成長していない妹を心配する。
おっぱいも触ってみるが、やっぱり小っちゃいままだった。
「ごはん、ちゃんと食べてるの?」
「うにゃあっ!?」
おっぱいを触られながら心配される亜由美は、先程とは違う意味で目を丸くする。
「紅羽さん。彼女は真由美ではありませんよ。彼女は亜由美ちゃんです。僕の大切な人です」
臆面もなく亜由美を大切な人だと言い切る煉の姿に女性陣は好感を持つ。
武志は煉を正しい道に導いた亜由美に好感を持つ。
「それじゃあ、事情を聞かせて貰えるかな?」
武志の言葉に頷いた煉は、亜由美との出逢いから話し出した。
*
「真由美は封印の儀式に必要な生贄なのよ」
煉達の事情を聞いた後は、紅羽が石蕗一族側の事情を説明しながら今回の目的を推測する。
そもそも石蕗一族は、かつて猛威を振るった魔獣を富士に封印した者達の末裔だった。
そして、復活を目論む魔獣の封印を維持する役割を担っている。
魔獣は大地の気を吸いながら復活の為の力を蓄えるため、その力を削ぐための“封印の儀式”が定期的に執り行われる。
だが、その儀式は石蕗一族の直系の力を持ってしてもその生命力全てを使い果たす程の負荷がかかる。
その為、儀式に適した若く生命力溢れた未婚の娘が儀式の執行者に選ばれるが、その生存率は完全にゼロであった。
それ故に儀式の執行者を生贄と影で呼ばれているが、数百年に渡り犠牲を払い続けている石蕗一族の影響力は国内で強まった。
そして数十年に一度の頻度で執行される“封印の儀式”の今回の執行者――生贄が紅羽の妹である“石蕗 真由美”だった。
これは紅羽にとって複雑な事だろう。
本来であれば真由美の姉である紅羽が生贄になっていた可能性もあったのだ。だが、石蕗にいた頃の紅羽は地術師としての力が無かった為に選ばれなかった。
石蕗を出てから地術師として目覚めたが、紅羽にとって石蕗は辛い記憶しかない場所だ。
紅羽は一切の連絡を絶っているため、自分が地術師として目覚めている事すら知らせていなかった。
それでも一族の中では唯一、自分に懐いていた妹の真由美の事は気になっていたが、今までは武志の問題の方が優先順位が高かったため放置していた。
何故なら封印の儀式が行われる予定もまだ数年先のため、落ち着いたら武志達に相談しようと思っていた為だ。
それがここでこの騒動が持ち上がった。
紅羽はいい機会だと思い、彼女なりに状況を考えてみる。
そして、自分には一切の愛情を示さなかったが、妹の真由美は溺愛していた“石蕗 巌”の事を思い出す。
石蕗の歴史において最強と謳われる男。
同時に石蕗を支配する絶対君主。
傲慢で嫌な男だった。
あの男が、あからさまに自分を厭う所為で、一族内に彼女を庇う者はいなくなったとも言えた。
あの男ならどんな非人道的で汚い手を使ってでも、真由美を助けようとしても不思議ではないと結論付けた。
もちろん、紅羽の個人的な私怨が多分に含んだ結論ではあった。
「つまり真由美の父である“石蕗 巌”が真由美のホムンクルスを作り、そのホムンクルスを生贄にする気でしょうね」
子を思う父親の愛情ではあるが、生贄の為だけに生み出された者にとっては非情すぎるその言葉に、煉が激昂する。
「亜由美ちゃんを生贄なんかに絶対にさせるものかっ!!」
普段は冷酷といえるほど冷静な煉が、初めてみせた激情に皆が驚く中、武志だけがその話の矛盾点に気付く。
「紅羽姉さん、ひとつ聞いてもいいかな?」
「何かしら?」
武志は、紅羽が石蕗にいた頃に真由美のホムンクルスについて聞いたことがあるかを確認した。
それに対する紅羽の答えは“否”だった。
紅羽が石蕗にいた頃は、彼女は様々な汚れ仕事を担当させられていた。
その紅羽がホムンクルスという現代の倫理観でいえば禁忌とされる行為に無関係でいられたとは思えない。
それが知らないという事は、紅羽が石蕗から居なくなってからの話だと考える方が自然だろう。
「それがどうかしたの?」
「不可能なんだよ」
武志の言葉に紅羽は意味が分からず眉を顰めると問い返す。
「何が不可能なの?」
「現代の技術だとホムンクルスを作れても、成長を促進する事は出来ないんだよ」
つまり真由美のホムンクルスを作ったとしても、10歳の真由美が必要なら10年という時間が必要になる。
「亜由美ちゃんの外観から察すれば12歳ぐらいだ。それなら12年以上前からの計画になるよ。石蕗にいた頃の紅羽姉さんが全く計画に気付かなかったとは考えにくいよね」
武志の言葉に納得して考え込む一同だったが、ただ一人だけニヤリと笑い胸を張る者がいた。
「私なら12歳の亜由美を作れるぞ!!」
えっへんと威張るマリちゃんだった。
「うんうん、マリちゃんが凄いのは良く知っているよ。だからマリちゃんにお気楽な和麻兄さんを矯正するという困難な任務を任せてもいいかな?」
「うむっ、任せるがよい!!」
「嫌だーっ!?」
嫌がる和麻を上機嫌でズルズルと引っ張りながら隣の部屋へと移動するマリちゃん。
ピシャリと扉を閉めると偉ぶった声で、和麻に説教を始めたマリちゃんの声が聞こえてきた。
和麻の助けを呼ぶ声が聞こえてきたが、全員がスルーした。
「もしかしたら亜由美ちゃんがホムンクルスだというのがブラフなのかも?」
「武志兄様は、亜由美ちゃんが嘘をついていると思っているの?」
亜由美を疑われていると思った煉は、武志に反論する。
どうでもいい話だが、実の兄弟の和麻と煉は再会してから一度も口をきいていなかったりする。
「亜由美ちゃんが嘘をついてるんじゃなくて、自分がホムンクルスだと思わされている可能性はあるよね」
「そうか、確かにその可能性はありますね」
薬や催眠を使用すれば、術者じゃなくても偽の記憶を植え付けることは可能だろう。
初めての恋で思考が固くなっていた煉では思い浮かばなかった発想だった。
やはり武志兄様は頼りになるなあ。と熱い視線を送る煉に気付いた亜由美が不機嫌そうに頬を膨らませる。
「亜由美ちゃん、心配しなくても煉を取ったりしないから安心してよ」
亜由美は無意識の内に嫉妬していた自分に気付き赤面する。
そしてそんな亜由美を見て、煉もまた顔を赤くして黙り込んでしまう。
意識し合う若い二人にホッコリとする武志達だった。
その時、穏やかな雰囲気をぶち壊すかのように、バーンと勢いよく扉が開け放たれた。
その扉から飛び込んできたのは赤カブトだった。
その赤カブトの頭の上で仁王立ちをした“風の妖精ティアナ”が鼻息を荒くしながら捲したてる。
「見つけたー!その小娘の中に私達の秘宝があるわ!和麻ってば、そんな所でコソコソしてないで、約束通り早くその小娘の胸を抉って秘宝を取り戻してよー!」
ティアナが指差す先には亜由美が蒼白になって胸を庇うようにしながら震えていた。
そしてティアナが声をかけた先には、和麻が説教部屋からコッソリと抜け出そうとしている姿があった。
煉の頭の中にティアナの言葉が浸透していく。
“和麻が亜由美の胸を抉ると約束した”と。
次の瞬間、和麻は黄金の炎に包まれた。
キャサリン「私の出番はまだなのかしら?」
綾乃「ヒロイン候補の私でも出番が少ないから仕方ないわ」
キャサリン「え、炎の神子がヒロイン候補?」
綾乃「うん、本当ならヒロイン確定なんだろうけど、武志がまだまだお子様だから候補のままなのよね」
キャサリン「なるほど、ここは後書きですから妄言の類いも許されるのですね」
綾乃「妄言っ!?」
キャサリン「でも、綾乃様は武志に恋愛感情なんてあったのですか?」
綾乃「まあ、武志とは姉弟としての関係の方が強いのが本当ね。でも…」
キャサリン「でも?」
綾乃「私の周りには、私を崇拝するか畏怖する男しかいないのよ」
キャサリン「なるほど、普通に接してくれるのは昔から弟同然に接していた武志だけなんですね」
綾乃「そうなのよ。でも武志はシスコンだから難易度が高いのよね」
キャサリン「綾乃様も姉同然ですからシスコンの対象なのでは?」
綾乃「なぬっ!?」
キャサリン「ここはヒロイン候補筆頭の私に後を任せて下さいませ♪」
綾乃「いつあんたがヒロイン候補筆頭になったのよっ!!」
キャサリン「金髪碧眼の美少女の私が、ヒロイン候補筆頭なのは自然の摂理ですわね」
綾乃「それを言うなら日本人で正統派美少女の私の方がヒロインに相応しいわよ!」
キャサリン「原作小説では黒髪、イラストでは赤髪、アニメではピンク系の髪を持つカメレオンのような綾乃様が、日本人の正統派美少女とは片腹痛いですわ」
綾乃「今時、黒髪ヒロインは流行らないのよっ!!」
キャサリン「ではやはり金髪の私の時代ですわね!!」
綾乃「しまったあああっ!!!!」
和麻「だからどうして後書きなのに俺の話題にならないんだよっ!?」