火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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35話「バトル大会」

僕は夏休みを利用してバトル大会に出場していた。

そのバトル大会の歴史は古く、全国規模にて行われていた。

 

「次はいよいよ決勝戦だね。頑張ってよね、武志!」

 

「武志さんならきっと優勝できます!」

 

応援に駆けつけてくれた沙知と綾の2人が興奮した様子で励ましてくれる。

 

「初出場で決勝戦まで来れるだなんて思ってもみなかったけど、せっかくここまできたんだ。必ず優勝してみせるよ!」

 

僕は自分自身を鼓舞するように力強く2人に応えると、強敵が待つ決勝戦の試合場に向かった。

 

決勝戦の相手は、過去2年連続で優勝している猛者だった。今大会では、大会史上初めての3年連続優勝を目指して、凄まじいまでの奮闘ぶりをみせていた。

 

僕はその戦いぶりに、はたして僕が勝てるだろうかと不安になっていたけど、応援に来てくれた2人のお陰で勇気を出すことが出来た。

 

「たとえ最強の王者が相手でも絶対に僕は勝ってみせるよ!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

試合が始まった瞬間、相手は凄まじいスピードで突進してきた。

その勢いは凄まじく、下手に受けようものなら呆気なく吹っ飛ばされて終わるだろう。

 

ルールのない果たし合いなら吹き飛ばされたとしても、その程度で戦闘不能になる訳じゃないけど、ルールのある大会では、試合場から吹き飛ばされてしまえば、場外負けになってしまう。

 

「こっちだって、パワーには自信があるぞっ!」

 

真っ正面からのぶつかり合い。

向こうの方がスピードに乗っていた分、僅かに押されてしまったが、何とか堪えることができた。

 

全身が軋むかのような力比べ。

単純なパワーとパワーのぶつかり合いのように見えてその実、お互いの僅かな隙を探り合っている。

 

次の瞬間、相手の足が僅かに滑った。

その隙を逃さず、乱れた力の流れを利用して相手の身体をすくい上げる。

 

相手の身体が持ち上がった瞬間、僕は勝利を確信した。だけど、僕の目には対戦相手の口元がつり上がるのが見えた。

 

「笑っている?」

 

その事に気付いた時、相手の身体が予想よりも大きく舞い上がっていることに不審を覚えた。

 

「そうかっ、わざと投げられたのか!」

 

大きく舞い上がった相手は、空中で体勢を立て直すと、こちらの真後ろに着地した。

 

相手は着地と同時に容赦なく突進してくる。

振り向くのも躱すのも間に合わない。

 

負けた。

 

僕はそう思い、諦め…

 

「武志っ、諦めないでよっ!」

 

「武志さん!まだ負けていませんよ!」

 

沙知と綾、2人の悲鳴のような声援を聞いた瞬間、僕は大声で叫んだ。

 

「ジャンプだっ!」

 

強引に身体を飛ばす。刹那の差で相手の身体が真下を通り過ぎていった。

着地と同時に、今度は先程とは逆にこちらが背後から襲いかかる。

相手は全力で突進していたせいで、急に止まる事も出来ずに背後からの攻撃になす術もなく、場外へと押し出された。

 

『そこまでっ!第27回全国カブト虫王者決定戦優勝者は、大神武志君ですっ!』

 

「やったぁあああっ!」

 

こうして、僕の火武飛が全国最強だという事が証明された。

 

 

「いや、普通のカブト虫の大会で守護精霊だすのって反則じゃね?」

 

保護者として一緒に来ていた兄上の呟きは大歓声にかき消されて僕の耳には入らなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

沙知side

 

今日から温泉旅行だ。

武志がカブト虫大会で優勝して貰った商品の中に旅行券があって、あたしと綾を招待してくれた。

 

あたしの家は、お父さんが大怪我してた影響で、ちょっぴり貧乏だから旅行にいける程の余裕がなかったから嬉しい。

 

実はお父さんの大怪我の件では、神凪宗家からお見舞金を貰ったんだけど、それはお母さんがあたしの結婚資金の為に貯金するといって使ってないんだよね。あたしの結婚なんてまだまだ先の話なのにね。

 

「それじゃあ、行ってきまーす!」

 

くれぐれも失礼のないようにって、心配する両親に手を振りながら、あたしは集合場所に向かった。

 

向かう途中で綾と合流する。

 

「おはよう!あ…や?」

 

「どうして疑問形なのかしら?」

 

「綾、何よその格好は?」

 

「うふふ、似合わないかしら」

 

「いや、似合ってはいるけどさ」

 

上品で可愛らしい白いワンピース。

薄桃色のリボンの飾りがついたツバの広い帽子。

お洒落な感じの旅行鞄。

レースをふんだんに使った日傘。

 

「気合が入りすぎてない?」

 

「あら、このぐらいは普通よ」

 

「普通ねえ」

 

綾は、風になびく髪をわざとらしく抑えながら、普段とは違う柔らかい笑みを浮かべる。

 

「うふふ、イメージは避暑地を訪れた可憐なお嬢様よ」

 

「…笑顔が胡散臭いんだけど」

 

「少しぐらいわざとらしい演技でも男の子は喜ぶものよ」

 

「まあ、普段の綾は腹黒お嬢様ってイメージだから、マシになったと思えばいいかな」

 

「うふふ、嫌だわ。沙知は冗談ばっかり言うんだから」

 

「…やっぱり、笑顔が胡散臭い」

 

 

待ち合わせ場所には大きなリムジンが止まっていた。

何故かリムジンの屋根上に綾乃様が仁王立ちしている。

 

「あらあら、やっぱり本物のお嬢様は一味違うわね」

 

「えっと、あれはお嬢様としてはアウトだと思うんだけど」

 

リムジンに立つ綾乃様は、今回の旅行で保護者役をしてくれる武哉さんに文句を言っていた。

 

「どうして私を誘わないのよ!」

 

「いや、その、あのですね。今回の旅行はお嬢様を誘えるような格式高いホテルに泊まるような旅行じゃなくてですね。もっと庶民的な、その、子供達が騒げるような旅館なわけで」

 

「それこそ私だって子供なんだから誘うべきじゃない!」

 

「そ、そう言われましても、お…私たち分家の者が、宗家のお嬢様を旅行に誘うだなんて畏れ多いというか…その」

 

「宗家だからなんだって言うのよ!私達は親戚同士なんだから遊びに誘うのは変じゃないでしょう!」

 

武哉さんは何とか綾乃様を宥めようとしてるけど無駄っぽいね。

 

「武哉さんも無駄な抵抗をされていますね」

 

「どうして武哉さんは、綾乃様を誘うのを嫌がっているんだろう?」

 

あたしが言うのも変な話だけど、綾乃様って気さくで優しいから一緒に旅行に行けたら楽しいと思うけど。

 

「分家の方にとって、宗家というのは雲の上の存在だもの。武哉さんも下手に関わって宗主の逆鱗に触れたくないのでしょうね」

 

「宗主の逆鱗?綾乃様は武志と操さん、それに風牙衆の私達とも仲良くしてくれる人だよ。今更一緒に旅行に行ったぐらいで宗主が怒るとは思わないんだけど?」

 

「綾乃様にとって武志さんは弟のようなものよ。そして私達は女の子だから問題ないけど武哉さんはアウトね」

 

「どうして?武哉さんも武志と同じ大神家なんだから同じじゃないの」

 

「宗主から見たら愛娘に近付く悪い虫にしか見えないわよ」

 

「悪い虫って、それは考え過ぎたと思うけど」

 

「甘いわね。しょせん男なんて狼なのよ」

 

「小学生女子が何言ってんのよ。だいたい武哉さんは大人だよ。いくら綾乃様が美少女だっていっても、小学生相手に変な事なんかにならないわよ」

 

「本当に沙知は甘いわね。世の中にはロリコンという言葉があるのよ」

 

「武哉さんってロリコンなのっ!?」

 

思わず上げてしまったあたしの大声は綾乃様にまで届いてしまった。

 

「えっ、ロリコン…?」

 

それまでリムジンの屋根上で仁王立ちしていた綾乃様は、咄嗟にスカートの裾を抑えると、武哉さんの視線から逃れるようにリムジンから降りて、あたし達の方に駆け寄ってきた。

 

「ちょっと待って下さい!俺はロリコンじゃありませんよ!」

 

「ロリコンは皆んなそう言うのよ!」

 

「綾乃様っ!?」

 

「それ以上、私に近付いたら武志の兄とはいえ許さないわよ!」

 

「俺はロリコンなんかじゃありませんよっ!」

 

「武哉さん、落ち着いて下さい」

 

混乱する綾乃様と武哉さんの間に、綾が割って入ったけど、何だか嫌な予感がする。

 

「綾ちゃんっ、綾ちゃん頼む!綾乃様に冷静になってくれるように言ってくれ!」

 

「はい、任されました。綾乃様、聞いて下さい。武哉さんに危険はありませんから安心して下さい」

 

「本当に大丈夫なの?こいつってばロリコンなんでしょう?」

 

「うふふ、武哉さんはロリコンはロリコンでも、紳士と呼ばれる種族なんですよ」

 

「紳士…?」

 

「つまり少女に対して『YESロリータNOタッチ』を掟とする紳士なので、直接的な被害はありませんよ」

 

「やっぱりロリコンなのね!」

 

「綾ちゃん!?」

 

「あら、おかしいですね。武哉さんの安全性を保証したつもりだったのですが」

 

「逆効果だよね!?俺がロリコンだって駄目押ししたよね!?」

 

「もうっ、皆んないい加減にしなよ!」

 

「沙知ちゃん!沙知ちゃんは俺の味方だよな!」

 

武哉さんは縋り付くような目であたしを見る。

 

「味方?何を言ってるのか分かんないけど、武哉さんの趣味の事なんかどうでもいいから早く旅行に出発しようよ」

 

「それもそうね。考えてみればコイツの誘いなんかなくても勝手に付いていけばいいだけの話よね」

 

「私が旅館に連絡して人数を変更しておきますね」

 

「うん、お願いするわ」

 

あたしの言葉に反応して、綾乃様と綾はさっさと話を進めてくれた。

 

「ところで武志はどこにいるの?」

 

「武志なら車に乗ってるわよ」

 

「えーと、ホントだ。呑気に寝ちゃってるよ」

 

車の中を覗き込むと武志は後部座席に寝転んで眠っていた。

 

「うふふ、まだ朝早いから仕方ないわね」

 

「武志さんもまだまだ子供ですね」

 

「あたしも少し眠たいから一緒に寝ちゃおうかな?」

 

「あら、沙知が寝るなら私も一緒に寝るわ」

 

「それなら私も寝ちゃおうかしら」

 

あたし達は車に乗り込むと運転手さんに挨拶をしたあと眠ることにした。

実は昨日の夜は、旅行が楽しみで中々寝付けなかったため寝不足だったのだ。

 

走り出した車に揺られながらあたし達は夢の世界に旅立つのだった。

 

 

 

 




武哉「あれ?最後、俺はどこにいったんだ?」
操「お兄様は一人取り残されて、電車で旅館に向かうことになりましたよ」
武哉「ひどくね?」
操「私なんか出番すらないのですよ。そのぐらい我慢して下さい」
武哉「うむむ」
操「ところでお兄様に言っておくことがあります」
武哉「なんだ?」
操「ロリコンは直して下さいね」
武哉「俺はロリコンじゃねえ!!」

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