それは誓いの言葉。
『汝、聖霊の加護を受けし者よ。その力は誰がために?』
それは戒めの言葉。
『我が力は護るために。精霊の協力者として世の歪みたる妖魔を討ち、理を護るが我らの務め。しかして人たることも忘れず』
それは最初の誓約。
『大切な者を護るために!』
莫大な火の精霊を従え、炎の化身とも思えるほどに苛烈でありながらも、心を揺さぶるほどに美しい少女。
神凪綾乃を初めて見た僕は、誰にも聞こえないほど小さな声でつぶやいた。
「あれ、これって詰んでる?」
『大神武志』それが今の僕の名前だった。こう言うと、名前に今も前も無いだろうと思うだろうけど、僕には前の名前が…いわゆる前世の名前があった。
神凪一族…それは日本を妖魔より守護する炎術師の中でも最強と目される一族だった。
そして、僕は神凪一族の分家の中でも最も有力な大神家の人間だ。
その日は、本家のお嬢様である神凪綾乃様のお披露目ともいえる演武が催される日だった。
僕も大神家の一員として演武の招待を受けていたので、優秀だと噂のお嬢様の晴れ姿に見学席で胸を躍らせていたのだが…
「ここって、風の聖痕の世界だよね」
神凪綾乃の演武で聞いた『誓いの言葉』今までも幾度となく聞いていたはずなのに神凪綾乃という、力有る者の口から聞かされたとき、僕の中の何かが揺さぶられた。
その結果が前世を思い出すという、訳のわからないことに繋がったようだ。
「でも、よりにもよって大神武志って…」
『大神武志』それは、風の聖痕を読んだ人達にとっては忘れることができない重要人物だった。
なんてことは全くなく、1巻の序盤であっさりと敵の妖魔に殺される脇役だった。しかも、何故名前があるのか不思議に思えるほどのモブである。
神凪綾乃の目の前で殺されながらも、神凪綾乃には全くというほど気にもされていなかった記憶がある。
そんなモブを何故、僕が覚えているかというと、前世の名前と武志という名前が同じだったからだ。
小説に自分と同じ名前の登場人物が出てくるというのは、読書を趣味とする人には分かって貰えるだろうけど、意味もなく嬉しいものだ。
少しワクワクしながら読み進めるとあっさりと死亡…
ま、まあ、それはいいとして…いや良くはない。
つまり『大神武志』という人物は、本編が始まればあっさりと死んでしまうモブなのである。
「えっと、とりあえず綾乃様を応援しよう!」
僕の目の前では、神凪綾乃が幼いながらも莫大な火の精霊を従え、勇猛でありながらも可憐な演武を魅せていた。
「綾乃様って綺麗だなぁ」
神凪綾乃の演武に魅せられながら僕は思う。
「そういえば、僕は今年から小学生になるんだったよね」
現実逃避する『大神武志』6歳の春であった
初めて投稿したけど、ちゃんとできてるかなぁ?