火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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ハッピーバースデー!綾乃姉さん!


14話「火の御子の生誕祭」

「綾乃姉さん、お誕生日おめでとうございます」

 

「ありがとう、武志。今日は来てくれて嬉しいわ」

 

今日は綾乃姉さんの誕生日パーティーだ。神凪一族を挙げての盛大なものとなっている。

 

「今年の誕生日会は凄い規模だね。ホテルの会場を貸し切って、一族以外からも大勢の出席者が来てるだなんて」

 

「そうなのよ。私はいつものように、家族だけでやりたかったんだけど、お父様が10歳の節目だから盛大にするぞって、聞かなかったのよ」

 

「宗主は、自慢の娘を皆んなに見せびらかしたいんだよ」

 

「お父様の気持ちは嬉しいけど、私は見世物にされてる気分だわ」

 

折角の晴れ舞台だというのに、綾乃姉さんは不機嫌そうだった。

 

「でも、僕は綾乃姉さんの綺麗なドレス姿が見れたから嬉しいな。いつもの凛々しい雰囲気じゃなくて、なんていうか…可愛い感じだよね」

 

「武志……褒めてくれるのは嬉しいけど、にやにや笑いは止めなさい」

 

綾乃姉さんは、フリフリのレースが盛大にあしらわれたピンク色を基調としたフワフワドレスに身を包まれながら、僕を軽く睨んできた。

 

「大丈夫、安心してよ。綾乃姉さんの雰囲気に全く合わないドレスだけど、綾乃姉さんが気に入ってるならそれが一番だよ。それにね、世の中にはギャップ萌えという言葉があるらしいよ。今回の場合において意味が合っているのか、といったら僕は甚だ疑問を感じるけどね」

 

「そ・の・こ・と・ば・のっ、どこに安心できる要素があるって言うのよ!」

 

「いたいれす、ねえしゃん」

 

綾乃姉さんに頰をつねられてしまった。

 

「一応、言っておくけど、このドレスは私の趣味じゃないわよ。お父様が勝手に用意しちゃったのよ」

 

「なんだ、綾乃姉さんの趣味じゃなかったんだ。気を使って損しちゃったよ」

 

「武志のさっきの言葉のどこに気を使った部分があるのかを、じっくりと問い詰めたい気分になるのは私だけかしら?」

 

「あはは、その事はひとまず置いといて、綾乃姉さんの写真を撮らせてね」

 

返事を聞かずに。パシャパシャパシャ!

 

「ちょっ!?こんな格好を撮らないでよ!」

 

そう言いながらも、華麗にポーズを決めてくれる綾乃姉さんだった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「和麻兄さん。こんな隅っこでどうしたの?」

 

「ああ、武志か。俺の事は気にするな。向こうでパーティーを楽しんでこいよ」

 

「いや、気にするなと言われても気になるよ」

 

パーティー会場の片隅で、目立たない服装をして周囲を警戒している若い男。どう見ても不審人物だ。

 

「タッパーが必要なら言ってあげるよ?」

 

「……俺はパーティーに出てるご馳走を持って帰ろうと狙っているわけじゃないぞ」

 

「う〜ん。他には思いつかないや。何をしてるのか教えてよ」

 

「本当かっ!?本当に何も思いつかないのかっ!?俺はご馳走を狙う程度の男だとしか思われてないのかっ!?」

 

「僕の想像力じゃそのぐらいしか思いつかないよ」

 

「そんな事はないぞっ!お前はやれば出来る子だ!もっと想像力を働かせるんだ!さあっ、俺の事を考えてみろ。神凪一族の直系であり、お前に様々な術を伝授している男だぞ!」

 

「……ご馳走を食べ過ぎてお腹が痛いとか?」

 

「お前の中の俺はどんだけ食い意地の張ったヤツなんだよっ!?」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

僕はパーティーに参加している顔見知りを見つけたので、声をかけるため歩き出した。

 

「ちょっと待てくれっ!まだ俺のパートは終わってないよね!?」

 

「え?オチがついたから、もういいんじゃないの?」

 

「実は俺は宗主から、頼まれごとをされているんだよ」

 

和麻兄さんに強引に話を変えられてしまった。

 

「これは…綾乃姉さんに言いつけるべきかなぁ。和麻兄さんに強引にされて僕は変えられてしまったんだって」

 

「綾乃相手にはシャレにならんから絶っ対に言うなよっ!」

 

「それで、頼まれごとの内容って何なの?」

 

「切り替えが早えよっ!」

 

和麻兄さんは叫んだと思うと、疲れたようにグッタリとしてしまった。

 

「はぁ、別に俺にとっては大した事じゃないんだけどな」

 

「宗主の頼まれごとなのに大した事じゃないの?」

 

「宗主っていうよりも、娘を心配する親バカからの頼まれごとだからだよ」

 

「娘って事は、綾乃姉さんの事だよね。姉さんがどうかしたの?」

 

「ああ、それがな…」

 

和麻兄さんが言うには宗主から『私の可愛い綾乃を狙っている不届きな男がいないかパーティーの間、監視しといてくれんか?見つけた場合は、其奴の素行調査も合わせて頼みたいと思っとる』という頼まれごとという名の、命令を受けたそうだ。

 

「姉さんを狙っているというのは、ナンパ的な意味でだよね」

 

「ああ、そうだよ」

 

「神凪宗家の綾乃姉さんを狙っている男か…」

 

「なんだ、まさか心当たりがあるのか?」

 

「心当たりというか、宗主に娘を狙ってるんじゃないかと思われて警戒されている男の事は、思いつくけど」

 

「宗主の娘を狙う男。誰だその命知らずは?」

 

「和麻兄さんだよ」

 

「はあっ!?」

 

「神凪の直系であり、綾乃姉さんに近づきやすい立場にいる。炎術の問題はあるけど最近では、神凪一族の若手の中での発言力も無視できない程になっている。綾乃姉さんも和麻兄さんを見つけると熱い視線を向けているという噂もある。以上の事から宗主が真に警戒しているのは和麻兄さんであり、兄さんを牽制する意味を含めて、あえて兄さんに命令を出したんじゃないかな?」

 

「なんだそりゃっ!?」

 

驚愕の表情で叫ぶ、和麻兄さん。

 

「だって、今日のパーティーの出席者で若い男なんて、神凪一族だけだよ。外部からは偉いさんの年配者だけだもん」

 

「だから、宗主は一族内の若い男を警戒してるんだろ?」

 

「綾乃姉さんは一族内で崇められてる存在だよ。火の御子である綾乃姉さんに対して、そんな目を向ける奴は…いるとしたら同じ神凪直系の和麻兄さんぐらいだよね」

 

「ちょっと待てっ!俺はそんな気はないぞ!だいたい俺の発言力うんぬんは、武志の企みのせいだろっ!」

 

そう。僕の神凪一族と風牙衆との融和計画の一環で、中学校での影響力を増す為に和麻兄さんに協力をしてもらっているんだ。

 

「協力というか…小学生の悪魔に対抗できる唯一の救世主のように思われて、勝手に彼奴らが頼ってくるようになったんだよな」

 

呆れたように和麻兄さんは苦笑いをする。

 

「小学生と違って、中学生だと年下の僕の言葉を素直に聞いてくれないからね。多少は強引な手段を使わざるを得ないよ。その結果、僕が嫌われても和麻兄さんに人が集まれば、目的は果たせるからね」

 

「そうだな。俺も出来るだけ頑張るよ。もっとも武志は、嫌われるというより恐れられているけどな」

 

「和麻兄さん、ありがとうございます。それで、綾乃姉さんのことは狙っているの?」

 

「なぜ、お前が嬉しそうなのか分からんが…俺は狙っていないぞ。あんな危険生物は絶対にお断りだっ!」

 

和麻兄さんと綾乃姉さんの原作カップル(?)がくっ付けば、風術と炎術の合体攻撃が使えて心強いのになぁ。まあ、和麻兄さんはまだ覚醒していないけど。

 

「綾乃姉さんは、あんなに可愛くて優しいのに、本当なら兄さんには勿体無いぐらいなんだよ」

 

「勿体無いなら俺はいいっ!遠慮するっ!辞退するっ!そうだっ、武志が貰ってやれ!姉さん女房で丁度いいだろっ!」

 

「兄さんが必死すぎて気持ち悪いんだけど。それに僕には操姉さんがいるからダメだよ」

 

「武志は、綾乃の魔獣のような殺意の込もった目を見た事ないからなぁ……いい加減シスコン治せよ?」

 

「でも宗主も気が早いよね。綾乃姉さんは10歳になったばかりなのにね」

 

「男親ってのは、そんなものなんだろう?俺にもまだ分からんけどな」

 

あれ、綾乃姉さんが10歳?

原作での『継承の儀』って、いつだったかな。まだ、余裕はあったと思うけど…

そうだ!宗主が事故で片足を失ったから『継承の儀』を早くしたんだったよね!

 

事故を防げば、宗主も現役で戦える。

綾乃姉さんも炎雷覇に頼りすぎて成長が妨げられることもなくなる。

和麻兄さんの覚醒は……綾乃姉さんに頼ってみようかな。

 

うん。これからは宗主の事故を未然に防ぐように動こう。

でも、宗主の事故って具体的に分からないんだよね。

結構、大変かも。

 

 

「ところで、僕の純粋な思いをシスコンなんて俗な言葉にしないでよ」

 

「重症だな…」




武志に新たな目標ができた!(シスコンを治すことではない)

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