僕は決めた。
僕にとって、最大の死亡フラグである風牙衆の反乱を防ぐことを。
僕は、反乱を防ぐことは絶対に無理だと思い込んでいた。
たしかに、原作を思い出した時点の状況では、無理だったろう。
何しろ神凪一族と風牙衆の溝は、マリアナ海溝よりも深かったのだ。
さらに神凪一族側が、それを認識していながらも問題意識を持っていないという最悪な状況だった。
けれど、あれから数年が過ぎた今は違う。
今の僕には、心強い仲間がいる。
それは誰かって?
ふふふ、きっとここで、火の御子である綾乃姉さんの名前が出てくると思っているだろう、だけど違うんだな。え、叔父上?それはない。脳筋筆頭術者では、この様なデリケートな問題は、解決不可能だよ。
では、僕の仲間を紹介しよう!
「お兄ちゃん、何をブツブツ言ってるの?」
「兄ちゃん、お腹空いたよーっ!」
「今日のおやつは何ー?」
「昨日のテレビみたー?」
「早く帰って野球やろうよー!」
「あそこのダンジョンが手強くてよ」
「あそこは専用アイテムがいるよ」
「本当かっ!?」
「……おしっこ」
そ、そうっ!これが僕の心強い仲間達だっ!
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千年の歴史を誇る神凪一族は大所帯だ。
一族は、宗家を頂点としたピラミッド型の組織となっている。
けれど、宗主が絶対君主として君臨しているかといえば、決してそうではない。
たしかに炎術師としての実力は、分家とは天と地ほどの差がある。
発言力もとても強い。
だが、それでも絶対君主ではないのだ。
宗主が命じれば、たしかに分家の術者を死地にも向かわせられるだろう。
だけど、宗主の意思だけでは、一つの分家を潰すことすら出来ない。
すなわち、宗主が絶対的な強権を行使出来るのは、炎術師としての頭領として配下の術者に命ずるときだ。
一族として考えたとき、本家としての強い発言力はあるが、分家にも発言力はあり、色々なしがらみが関わってくるため、今の時代では、炎術師としての圧倒的な力だけでは強引な事は出来なかった。
ゆえに現在の神凪一族では、有力者達での合議制をとっている。
もしも、力による支配を行おうとすれば、それはもはや日本を守護する誇りある炎術師としての名を捨てる事と同義であった。
「何てことを、頭の固い宗主が考えているせいで、神凪一族の風牙衆への仕打ちが度を越していることを、宗主が認識していても抜本的な改善を強行出来ないんだよ」
「武志が考えていることは分かったけど、神凪一族の子供達を子分にする意味が分からん。この子達は小学生だろ?」
こんな子供達では、神凪一族を変えることなど絶対に出来っこないぞ。と、和麻兄さんは続けた。
「時代を変えるのは、いつでも若い力だよ。和麻兄さん」
「この子達を使って、神凪一族に反旗でも翻すのかよ」
「そんなわけないよ。和麻兄さんって、おバカキャラなのか、天才キャラなのかハッキリしないよね」
「……俺の扱いの改善にも、取り組む事を提案したいんだが」
「うん、ゴメンね。僕の脳内会議で検討した結果、重要度が低すぎるから速攻で否決されちゃったよ」
「はぁ…どこかに、俺に優しい世界はないのかなぁ」
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幼い頃の教育は、非常に大きな意味がある。
例えば、国民性というのも、各国の学校教育が大きく影響しているものだ。
神凪一族は、風牙衆に対して高圧的に接するのが当たり前だと思っている。というのも、幼い頃からの教育の為だ。
自分の親は勿論、周囲の大人達も風牙衆に辛辣に当たり、その能力も不当に低く貶める。
そんな状態を日々見ることによって、子供達は、それが当たり前の事だと教育されてしまっている。
その結果、傲慢な神凪一族の一員となってしまうんだ。
僕は、その流れを変えたいと思う。
3年前では思いつきもしない事だった。
たかだか一人の子供が、大勢の大人達の凝り固まった考え方を変えるなんて、不可能だもんね。
でも僕は閃いたんだ。
大人達を変えるのは不可能でも、子供達なら変化させれるんじゃないかと。
勿論、ただの子供が大人達と反対の事を言っても、子供達だって相手などしてくれないだろう。
ただの…子供ならだ。
その子供が、子供達に対して強い影響力を持つ存在なら、まるで話が違ってくる。
誰だって、親や大人達の言う事には影響される。
でも、それ以上に
好きな偉人の言葉
好きな芸能人の言葉
尊敬している先輩の言葉
漫画の登場人物の言葉
このような言葉に影響されることが多いだろう。
むしろ、親などに受ける影響よりも強い変化を子供達にもたらすことがある。
それも、今までの既成概念をもぶち壊すほどの威力でだ。
「確かに、武志の子供達への影響力は強いよな」
そう、僕はいつの間にか子供達のヒーローになっていたのだ!
「う〜ん、ヒーローかなぁ?」
最強と謳われる(神凪一族の自称)炎術師において、強さは正義である。
僕は(綾乃姉さんを除けば)小・中学校において最強の炎術師(精霊術に関してだけなので、体術等は別)になっていた。
最強(分家の中学生以下でだよ)である僕の言葉は、炎術師の子供達にとっては、正に憧れのスーパーヒーローの言葉に聞こえるのだ!
「俺ぐらいの歳の奴らは、悪魔の囁きって言ってたぞ」
強大な力を持つ(言い過ぎかもに1票)僕が、風術に対する肯定と有用性を認めて、口にしていれば、子供達も影響されていく。
「俺にちょっかいを出してた奴らは、武志に精霊の制御を力ずくで奪われた後、抵抗出来ない状態で俺にボコられた後、武志に心を折られるほど罵られて、精霊力まで落ちてしまった経験のせいで、力を誇示する事に否定的になった奴が多かったんだよなぁ。そういえば遠い目をして、平和が一番だよって呟いてる奴もいたな」
僕は風術は下術ではなく、炎術の苦手な分野を補助してくれる対等な相手だと、根気よく子供達に言って聞かせた。
そして、風術を実際に見せて(綾と沙知に頼んだ)その有効性を示した。(迷子を見つけたり、落し物を探したり、隠れん坊で無双したり)僕は炎術師では、到底出来ない優れた事だと子供達に納得させていった。
「中学の奴らは、人に言えない秘密(男子中学生の秘密といえば分かるよね?)を風術で調べられて握られているから、武志に完全に頭が上がらなくなったんだよなぁ」
僕が中心になって、神凪一族と風牙衆の子供達と一緒に遊ぶようにした。
そして、遊んでいるうちに炎術師も風術師も同じ存在なんだって、遊んでて楽しい普通の友達なんだって、気付いてもらえるようにしていった。
「まあ、武志が頑張っているのは認めるけど、先の長い話になりそうだな」
「それは覚悟の上だよ。和麻兄さん」
「本気なんだな。武志」
「うん。今は子供でも、あの子達もすぐに大きくなるよ。その時に、神凪一族と風牙衆の架け橋になってくれればと思うんだ」
長い時間の中、積み重ねられていった両者の確執が簡単に解消出来るだなんて思っていない。
第一目標は、風牙衆が反乱まで起こそうと考えるほどの迫害を止めることだ。
僕の力で…いや、僕達の力で必ず平和を手に入れてみせるぞ!
「お兄ちゃん……おしっこ」
「ああ、ごめんごめん。すぐに連れていってあげるね」