火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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武志が炎術師として、正式なお勤めを行うお話です。とは言っても、まだ小学生なので師匠や火の御子に護られた状態で、お勤めの雰囲気を教える為のイベントのようなものです。普通は宗家の火の御子が護衛役をするはずないけど、火の御子のお守り役である、分家最強の術者が冗談で提案してみたら、火の御子がもの凄い勢いで食い付いたため、あっさりと実現した。


12話「初陣」

今日は、綾乃姉さんの仕事に同行させてもらっていた。

僕が叔父上に弟子入りしてからの初めての正式なお勤めとなる。

 

「武志の実力なら問題ないから安心してね。それに、私が付いているから何かあっても護ってあげるわよ!」

 

綾乃姉さんは凄く張り切っていた。繋いでいる手もブンブン振り回したりして、みるからにご機嫌だ。

 

「お嬢、今日の相手は格下だが、実戦に絶対はありえん。一瞬の油断が死を招くことになるぞ」

 

叔父上は、綾乃姉さんの浮かれ状態に危惧を抱いたようで窘めていた。

 

「分かっているわ、雅人叔父さま。武志に私のとびっきり格好良いところを見せてあげなきゃいけないもんね!」

 

「うん!僕も綾乃姉さんの、とびっきり格好良いところいっぱい見たいな!」

 

「えへへへ〜、私にまっかせなさい!」

 

もちろん、ハイテンションの綾乃姉さんには、そんな提言は耳に入らなかった。

僕もそんな綾乃姉さんのハイテンションに引きずられて、気分が高揚していた。

 

「フッ、仕方がない奴らだな」

 

そんな僕らに呆れ気味な叔父上も、それ以上は窘めることはせず、苦笑を浮かべながら僕達を見ていた。

何故なら、精神が高揚しているのは炎術師にとっては、火の精霊との同調が高まるという利点もあるからだ。

 

「風牙衆が周囲を警戒しとるから、不意を突かれる心配もないだろうしな。今日ぐらいは大目にみてやるか。お嬢もたまにはハメを外してはしゃぎたいだろう……普段はボッチだし」

 

どうやら神凪一族の火の御子は、友達が少ないらしい。

 

「雅人叔父さま!武志の前で変なこと言わないでよっ!姉としての威厳が崩れちゃうわ!」

 

「おっと、済まないな。お嬢」

 

「もうっ、済まんですんだら警察は要らないのよ」

 

「うむ、そうだな。それなら…」

 

「それなら?」

 

「めんご、めんご。あやのッチ!」

 

「雅人叔父さま…ふざけてると、叔父さま相手でも怒りますよ。めんごってなんなんですか?それに、あやのッチなんて今まで呼んだことないですよね!?」

 

「可愛かろ?」

 

「叔父さまの口から出たら可愛くないもん!」

 

ぷりぷりと怒る綾乃姉さんは、可愛いかったので、思わず口に出してしまった。

 

「綾乃姉さんは可愛いなぁ」

 

「 うぅ…武志に生暖かい目で見られるだなんて、今までコツコツと積み重ねてきた私のイメージ戦略が台無しだわ……雅人叔父さまのせいよっ!」

 

「俺が悪いのか?というか、イメージ戦略なんぞしておったのか?」

 

「はうっ!?口が滑っちゃったよう。もうっ、雅人叔父さまなんて大っ嫌い!」

 

「ガーン!?」

 

「プッ、ハハ、アハハハハハッ!」

 

僕は、叔父上と綾乃姉さんの愉快な掛け合いに思わず笑ってしまった。

初めてのお勤めに赴いた僕の緊張を解そうと、2人はわざと演じてくれているのだろう。

叔父上と綾乃姉さんの温かい心遣いに感謝の念が湧いてくる。

 

「叔父上、綾乃姉さん。ありがとうございます。2人のお陰で気負いなく実戦に挑めそうだよ」

 

僕は、綾乃姉さんと繋いだ手をギュッと握りしめながら2人に感謝をした。

 

「武志よ。何の話をし…ウグゥッ!?」

注意1:雅人は武志から見えない角度で綾乃の蹴りを鳩尾に喰らった。

 

「そう、そうなの!えと、えとね!全部、演技だったの!えへへ、武志に気付かれるだなんて、私ってば、演技が下手なのね!うん!演技下手なのよっ!」

 

「あはははっ、上手い下手は分からないけど、普段は凛々しい綾乃姉さんがドジっ子を演じるなんて、見てて凄い新鮮で可愛かったよ」

 

「もう、私も頑張ったのよ。そんなに笑わないでよ。それに年上を捕まえて可愛いだなんて生意気なんだから」

 

「だって、ほんとに演技をしてる綾乃姉さんが可愛く思えたんだもん」

 

「お、お嬢よ、演技って何の話をし…ハグゥッ!?」

注意2:雅人は武志から見えない角度で綾乃のコークスクリューパンチを鳩尾に喰らった。

 

「あらあら、雅人叔父さまってば、持病の癪(しゃく)がでたみたいだわ」

 

「叔父上って、癪持ちだったの!?」

 

「武志は知らなかったのね。きっと、心配させたくなくて内緒にしてたんだわ」

 

「叔父上とは、ずっと一緒にいたのに全然気付かなかったよ」

 

「雅人叔父さまは、私と違って演技が上手なのね」

 

「お、お嬢…演技とは…なんの…ヒデブッ!?」

注意3:雅人は武志から見えない角度で綾乃の百烈拳を鳩尾に喰らった。

 

「癪のせいで、気を失ったみたいだわ。仕方がないから雅人叔父さまには、ここで休んでて貰いましょうね」

 

「う、うん。分かったよ。でも叔父上は大丈夫かなぁ」

 

「雅人叔父さまは、分家最強の術者と呼ばれるほどのお方だもの。きっと大丈夫よ」

 

「うん、そうだね。きっと大丈夫だよね!」

 

「雅人叔父さまを心配させない為にも、しっかりとお勤めを果たさなきゃね」

 

「うん!僕、頑張るよ!」

 

「そうよ。その意気で頑張りましょうね」

 

僕は倒れた叔父上を心配させないように頑張ろうと誓った。

 

「でも、綾乃姉さん」

 

「ん、なあに?」

 

「こういうこと言うのは、不謹慎だと思うけど」

 

「うん?」

 

不思議そうに、こちらを見る綾乃姉さんに僕は思っている事を告げる。

 

「綾乃姉さんと2人っきりでお勤め出来るだなんて、ぼく嬉しいな」

 

むさ苦しい叔父上と2人っきりで修行するより、優しい綾乃姉さんと2人っきりでお勤めする方が嬉しいに決まってるよね。

 

「はうぅううううっ!?わたしもっ!わたしも凄い嬉しいよぉおおおおっ!!武志と2人っきりで遊ぶの超久しぶりだもんねっ!!」

 

いきなり綾乃姉さんが弾けた。

 

「妖魔退治なんて、チャチャッと終わらせるから終わったらいっぱい遊ぼうね!えへへ〜、実は武志と遊ぼうと思って、新しいゲームを買ってあるんだぁ!」

 

「えっと、綾乃姉さん?今日の妖魔退治は僕の仕事だからね」

 

「うんうん。分かってるよ!私が速攻で終わらせるから私の部屋で日が暮れるまで遊ぼうね!そうだっ!今日は泊まっていけばいいよねっ!それなら夜まで遊べるもんね!」

 

どうやら神凪一族の火の御子は、友達との遊びに飢えていたらしい。

 

綾乃姉さんもまだ、小学生だからしょうがないのかな?

 

「仕方がないなぁ、それなら和麻兄さんも誘って3人で遊ぶ?」

 

「……そうね。それもいいかもしれないわね。でも、今日は武志と2人っきりで遊びたい気分なの」

 

綾乃姉さんのテンションがいきなり落ちた!?

 

「そ、そっか。まあ、和麻兄さんは中学生だし、僕達とは遊びにくいかもしれないしね」

 

「そう、そうなのよ!私達は同じ小学生だもん!年だって殆ど離れてないもんね!あの男は年上過ぎて武志とは楽しく遊べないよ!」

 

「そ、そうだね。今日は2人っきりで遊ぼうね」

 

「うんっ!」

 

少し変な綾乃姉さんだったけど、最後は最高の笑顔を見せてくれたので良しとしよう……などと僕は呑気に考えていた。

 

 

「やっぱり、あの男は燃やそう」

 

 

僕は知らなかった。友達の少ない神凪一族の火の御子が、どれほどの焼きもち焼きなのかという事を。

 

でも、僕には直接被害があるわけじゃないし、気にしなくてもいいのかな?

 

「気にしてくれぇええええっ!!」

 

どこかで、誰かの魂の叫びが聞こえたような気がした。

 

きっと気のせいだろう。


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