火の聖痕が欲しいです!   作:銀の鈴

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風牙衆の女の子の視点です。


10話「初めての出逢い」

風牙衆の一員として、この世に生を受けた私は、物心つく頃にはこの世に絶望していた。

 

理由なき差別、突然浴びせられる暴言、時には暴力まで振るわれることがあった。

 

どうして、このような理不尽がまかり通るのかと、泣きながら両親に訴えても、優しい両親は悲しそうな表情で私に謝るだけだった。

 

時が過ぎ、幼いながらも自分が置かれている状況を理解した時には、どうしようもない事だと諦めさえ生じてしまった。

 

どんなに今を頑張ったところで、過去の先祖達が行った罪は消せるはずがないのだから…

 

「申し訳ございません!」

 

何時しか私の口癖は謝罪となっていた。

謂れなき事でも頭を下げ、謝罪を口にすれば、罵声のみで許してもらえることを私は学習していた。

 

頭を下げる度に、私の中の何かが悲鳴を上げるのには、目を背けていたけれど。

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうして、あたしが謝らなきゃいけないのよっ!悪いのはあんたじゃない!」

 

そんな諦観の日々を過ごすある日、私はある少女と出会った。

 

「うるさいっ!風牙衆のくせに生意気を言うな!」

 

「風牙衆は関係ないでしょ!ぶつかってきたのは、あんたの方じゃない!どうしてあたしが謝らなきゃいけないのよ!」

 

直ぐに状況は理解できた。

理解できると同時に反抗する少女の未来が予想でき、恐怖で身体が震えた。

 

どうして、あの子は謝らないの?直ぐに頭を下げれば済む話じゃない。

なんなら土下座をすれば簡単に見逃して貰えるのに。

 

私には、神凪一族に逆らうあの子の気持ちが分からなかった。

 

そしてその後、私の予想通りに少女は暴力を受けて倒れていた。

私はそれを、物陰に隠れて震えながら見ていることしかできなかった。

 

「大丈夫?今、水を持ってくるから待っててね」

 

「こ、このぐらい慣れてるから、ほっといてくれていいよ」

 

倒れていた少女は、私の声を遮るように立ち上がると、傷ついた身体をフラつかせながら歩いて行こうとした。

 

「あの、家まで送るわ」

 

「止めときなよ。あたしに関わるとあんたまで神凪の奴らに目をつけられるよ」

 

情け無いことに、その言葉で私の出しかけた手は止まってしまった。

 

「あはは、ホントに気にしないでね。あたしも我ながらバカな意地を張ってることは自覚してるから」

 

そう言って笑う彼女の笑顔には微塵の後悔もなく、私の中の何かが激しく動揺した。

 

「ど、どうして貴女は謝らなかったの!頭を下げれば許して貰えたんだよ!殴られずに済んだんだよ!」

 

自分の中の何かが悲鳴を上げていた。

私はその悲鳴に気付く恐怖に耐えられなくて、激情のままに彼女を問い詰める。

 

「だって、あたしは悪くないもん」

 

あっけらかんとした彼女の返事を聞いた瞬間、私の中の何かが歓喜に震えるのを感じた。

 

「あ……そっか。そうだよね。私達は何も悪いことをしてないよね」

 

自然と涙か流れた。

 

先祖が犯した罪に怯え、

 

贖罪の為だけに生きる日々だった。

 

でも、いつも思っていた。

 

私は悪いことを何もしていないのに、いつまで償わなきゃいけないの?

 

「あたしは、自分が悪くもないのに謝るなんて我慢できないよ」

 

子供っぽい考えだと思う。

時には理不尽さに歯を食いしばり頭を下げるべきだと思う。

 

でも、

 

「先祖が罪を犯したからって、神凪に頭を下げる意味が分かんないしね」

 

私の先祖達が犯した罪は紛れも無い事実だから…贖罪は必要だろう。

 

でもそれは、

 

神凪一族に仕えることじゃない。

 

神凪一族に虐げられることじゃない。

 

「あたしは暴力なんかに屈してやらない。あたしの心に命令できるのは、あたしだけからね!」

 

その少女の言葉を聞いた時、私の中の何かが熱を帯びるのを確かに感じた。

 

「やっぱり貴女を家まで送るわ」

 

少女の返事を聞かずに私はその手を取る。

 

「だからあんたまで目をつけられるちゃうってば」

 

「それがどうかしたのかしら?」

 

私の言葉に、彼女は少し驚いたみたいだけど、直ぐに笑みを浮かべてくれた。

 

「ふふっ、あんたもあたしみたいなバカになっちゃったの?」

 

「いいえ、私は、私らしく賢く戦ってみせるわ」

 

「あはははっ、あんたって面白い奴だね。そうだ、あんたの名前はなんていうのよ?」

 

「人の名前を尋ねる場合はまず自分から…と言いたい所ですが、今回は私から名乗りますね。私の名前は…」

 

 

これが私の…ううん、私達の運命を変えてくれた『大切なあの人』に出逢う、

 

少しだけ前の思い出だった。


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