ボクは仗助、 君、億泰   作:ふらんすぱん

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初めての敵

 これはジョセフ一行が日本に戻り、生き残っていた花京院が、なぜか海鳴に引っ越してきた、春のお話。

 

 三年生になり、夜更かしという悪癖が付いた仗助と億泰は、こっそり家を抜け出し、よくコンビニ前とかでこうやって駄弁っていたりする。

「これって、間違いなく弓と矢だよなぁ」

 

 億泰は、花京院からもらった写真を見せる。

 これが、今日の相談の主題である。

 

「いや、なにこれを見付けたら、僕に知らせてほしいんだ。これは少し危険なものでね。べつに命に関わるわけではないんだが、知り合いが日本に持ち込んでから行方知れずになってしまっていてね」

 

 そう言って渡された写真。

 

 二人が、成長するとともに、不自然なほどに忘れ去っていく”ジョジョの奇妙な冒険”の記憶。

 

 そのことに気づき、憶えてることをノートに記したときには、すでに一ページにもならなかった。

 

 そんな紙切れの中に、しっかり綴られていたキーアイテム”弓と矢”。

 

 これに貫かれたものが、スタンドを発現させる厄介極まりないもの。

 

 

「ああ、しかもこの海鳴にあるらしい。ディオの手下か誰かが持ち込んだはしらんが、ホントどうしたもんか」

 

 花京院が海鳴市に引っ越してきたことを含めて考えると、それは確実なものに思える。

 

 しばらく考えても答えは出ず、深夜に小学生が来ているのを見逃してくれてるバイトのお姉さんに礼を言い、二人は家路についた。

 

 

    ●

 

「なあ、億泰、なんで僕らが、こんな目に合うんだろう。スタンドの事は極力隠してきたんだが」

 

「そんなこと言ってる場合じゃないと、っ!! 思うんだがよお!!」

 

 深夜の並木道を、塀を軽く超す巨躯が駆け抜けていった。

 自然界ではありえないフォルムをもった黒い何かが仗助達を追いかけている。

 逃げまわっていた仗助はスタンドを発現させ応戦する。

 

 唸り声と共に、敵のスタンドが地面に叩き付けられた。

 

 クレイジー・Dのパワーに感心している億泰とは違い仗助はどこか焦っている様だった。

 

「これだけ痛めつけても本体が出てこないのが問題なんだよ。もしかしたら遠隔自動操縦型かもしれねぇ」

 

 

 スタンドのルール、その一つに本体から離れる程にパワーを失っていくというものがある。

 

 敵があまり歯ごたえがなく、本体が見えないので遠隔操作型だと、仗助は考えたのだろう。

 スタンドが傷つけば本体も傷を負う。

 黒いスタンドが遠隔操作型であるならば、このまま痛めつけて、本体が焦り飛び出してくるのを捕獲するだけでよかった。

 

 しかし、例外がある。

 

 それが”遠隔自動操縦型スタンド”だ。

 こちらはパワーに制約がない上に、重要なのは本体にダメージが反映されないという点だ。

 

 つまり、たとえスタンドを破壊したとしても、本体は無傷で逃げおおせることが出来るのだ。

 本体を潰さなければ、この場で勝利しても、一時のものでしかなく、また襲撃される可能性が残る。

 

 

「億泰、ここは俺に任せて、おまえは、本体をたたけ。しかし潰れても元に戻るなんてずるいスタンドだな!」

 

 

 スタンドで敵を押さえつける仗助を背に、億泰は急ぎ本体を探すべく走り出す。

 

 すると十数メートル先の角を曲がったところに、二人の子供がいるではないか。 

 露骨に怪しい。

 億泰の言えた義理ではないが、深夜に子供がいるべきではない場所にいる。

 それだけでも、今の状況で黒と断定するには十分な根拠だった。

 

「おいおい、こんな夜遅くに出歩いちゃダメじゃねぇか!!」

 

 言葉と同時に、手加減したザ・ハンドの拳を少年に飛ばす。

 

 少年はなんの反応もできず吹っ飛ぶ。

 ――スタンドが見えていない。はずれだと、さっさと見切りつけて億泰は少女に視線を移した。

 

「どうしたよ、少年! そんな飛び跳ねて、いいことでもあったのかよ!!」

 

 同じように飛ばしたザ・ハンドの拳。少女の手前、今度はそれが何かに遮られた。

 ――ビンゴだ。

 億泰は威嚇と余裕を貼り付けた挑発的な笑みを浮かべた。

 

「嬢ちゃん、テメェが本体か、ボコボコにされたくなきゃ、とっととあっちの黒いでかいのを解除しろや!!」

 

 また見えない壁が、先程よりも強い一撃を防いだことを確認する。

 

 億泰の纏う空気がひりつく。

 少女の肩にのっかていたイタチがさっきから、億泰の目の前をちょろちょろしているのがうっとおしい。

 

「そうです、わたしにそんなつもりはありません!!」

 

 

 少女は億泰の最後通告を否定した。

 

 解除する気はないということか。

 それは、つまり。

 

「つまり、俺のザ・ハンドに勝つつもりかよ。ああん、なめるなよ!!」

 

 億泰の笑みが崩れ、それが白い少女との開戦の合図になった。

 

    ●

 喫茶翠屋の次女が深夜徘徊をしている。

 

 不思議な声に助けを求められ、家を飛び出した高町なのは。

 

 途中、同じように、不思議な声を聞いたクラスメイトの真と一緒に。  声が導いたのは、昼間助けたフェレットがいる動物病院だった。

 そこでの出来事をなのは生涯忘れることはないだろう。

 二足で立ち上がるだけならともかく、歩き出すは、喋り始めるはの小動物に、なのはの目が飛び出てしまいそうだった。

 

 フェレットは魔法使いで、戦えない自分の代わりになのは達に戦って欲しいと頼み込んできたのだ。

 時間がないと色々と込み入ったことを省略し、必死に頼み込んでこられる。

 

 傷ついた小動物を放っておけない心優しい少女は、了解し、一つしかない魔法の杖らしきものを受け取る。

 

 フェレットの念話を受けたものだけがそれを扱えるという話なのだが、声が聞こえたはずの真は、それはなのはの物だといって、ぐいぐいと押し付けてくる。

 

 戦う役目を全力でなのはに擦り付けてくる情けない友達にため息が出るが、そこはそれ、くよくよしていてもしようがない。

 幼なじみの少年にたまにある強引さに呆れながらも、気を取り直し、走りだしフェレットの後を追う。

 

 

≪早く、もうジュエルシードは暴走しているみたいなんだ!!≫

 

 

 そんな少女達の前に現れたのは、なのはが想像していたフェレットの天敵である猛禽類ではなく、同じクラスの少年、虹村億泰であった。

 

 意外な人物と、意外な時間に、意外な場所。

 

 その突然の出会いに、呆然としてるこちらを無視して、億泰は近づいてくる。

 

 戸惑うなのは達を気にせず、億泰は無遠慮に二人を観察してきた

 

  

「おいおい、こんな夜遅くに出歩いちゃダメじゃねぇか!!」

 

 なのは一人に戦わせようとした天罰か、何もない所で真が派手にこけた。

 

「どうした、そんな飛び跳ねて、いいことでもあったのかよ!!」

 

 

≪なのは!シールドをはって、早く!!≫

 

 すこしばかりいい気味だと内心、思ってしまったことを恥じたなのはにフェレットが警告を発した。

 警告の意味がわからない。

 それでも急ぎシールドを張ろうとするのだが、勝手がわからない。

 

 だが杖自体に意思があるのか、なのはを補助して光の盾を作った。

 突然、衝撃がなのはを襲う。

 見えない何かがシールドにぶつかり、なのはを後ろに押し出した。

 

 なのはには何が起こったのか皆目検討がつかないのだが、とった行動が、億泰の雰囲気を硬質なものにかえた。

 

 ≪フェレットさ~ん、どうして虹村君が怒ってるの!!≫

 

 争い事の経験がないなのはに、その空気は耐え難い。

 怖くなったなのはは、念話でユーノに助けを求める。

 億泰が一歩、なのはに近づいた。

 

 

「嬢ちゃん、テメェが本体か、ボコボコにされたくなきゃ、とっととあっちの黒いでかいのを解除しろや!!」

 

 

 なんで怒っているのか、なにをいってるのか全然分からない。

 でもボコボコにはなりたくないと、なのはは思った。

 

≪黒いのって、暴走体ですか!! その力、あなたはこの世界の魔導師ですか。誤解です、あれは僕らが操ってるものではありません。僕らに争うつもりはないんです!!≫

 

 ――まったくその通りである。

 

 フェレットの言葉通り、なのはに争う意思も力もない。 

 はやく億泰の誤解をとこうと、フェレットの言葉になのは続く。

 

「そうです、わたしにそんなつもりはありません!!」

 

 なのはキッパリと戦う意志がないことを宣言したのだ。

 だから億泰が笑顔を浮かべた時にはほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「つまり、俺のザ・ハンドに勝つつもりかよ。ああん、なめるなよ!!」

 

 そして笑みが、怒号に変わった時には泣き出しそうになる。

 

 何事もすぐに投げ出してはいけないと両親に育てられたなのはだが、今度ばかりは魔法使いをどうやったら辞められるのか誰かに尋ねたかった。


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