ボクは仗助、 君、億泰   作:ふらんすぱん

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事件が起こるつなぎの回


海鳴に住む人々

 聖祥付属の教室にチョークの音が響く。

 教師が黒板に記した数式を見て、少女はそれをノートに書き取っていく。

 すべて写し終えた後、高町なのはは視線をある男子生徒に固定した。

 

『うーん、なのはさんの見間違いということはないのかしら? なのはさんのデバイスを中継してサーチしたけど、彼の体内にリンカーコアは存在していないわ。他に考えられるのは、なのはさんの遭遇した何者かが、偽装魔法でその虹村くんの姿を被っていた可能性もあるわね。あの襲撃者達も魔力を隠蔽していたようだし、色々と疑問が残るわね』

 

 こちらの世界にやってきた次元航行艦アースラの長であるリンディ・ハラオウンはなのはの推測にそう答えてくれた。

 あの日、少女の魔導師として初めての戦い。

 幼なじみの男の子と、喋るフェレットだけで立ち向かった事、ジュエルシード事件を振り返り取り残されていた出来事。

 事件が解決された今も、その謎は宙に浮き、誰も回答を出せないままであった。

 加えて、なのはは気絶していたため、詳細は後にユーノから聞き齧っただけであるが、アースラが複数の魔導師に襲撃される事件もあったのだ。

 そちらも未解決であり、容疑者の一人も探し出せていない現状だとか。

 少女としては、その襲撃の後、自分を酩酊状態に偽装し公園に置き去りにした憎い人物が気になる。

 悲しい事件であったがそれを通して友情を育んだフェイトによると、なのはの恩人でもあるらしいのだが、素直に感謝できない。

 身に覚えのない飲酒に対する両親の説教に始まり、心配からか兄妹のスキンシップが過剰な物になったこと、それらすべてを引き起こした人物に思うところが出来るのは仕方のない事だ。

 共に、アースラの中に転移し、事件の渦中にいたはずの幼馴染の彼が楽しそうにアースラの艦内での歓迎の様子を話してくれたことも、その思いを募らせる。

 幼馴染の真は、アースラ艦内のメカニックに興味津々といった様子で、なのはの顔色の変化に気づかず話を続けてきた。

 いい加減、意地悪の一つでも言ってやろうかとする少女であったが、少年がデバイスを貰えなかったと不満を漏らした事によりかろうじて回避される。

 胸元にある己に忠実なデバイスを握り締め、ちょっとした優越感から、仮マスター登録すれば、少年も魔法を使うことが出来ると、なのはにしては珍しく上から目線で提案がなされた。

 喜ぶ彼の表情に、元は素直な子供であるなのはの溜飲も下がる。

 それでも、鬱屈した思いは晴れはしなかった。

 あの日の魔導師を見つけることで解決することではないのだが、もやもやしたものを己の身のうちに残すよりは健康にも良い。

 そう結論づけたのだが、リンディからの報告により手がかりが途絶えてしまった。

 自分を襲った魔導師に、助けてくれた魔導師、そのどちらも霧となる。

 視線を再び少女は件の少年、虹村億泰に向ける。

 彼は別段、期待した怪しい行動はとっておらず、立てた教科書を壁にして少し早い昼食の時間を過している。

 握ったペンシルの尻で頬を突付き、眉根を寄せると、授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 

  ●

 

 放課後の海鳴市、図書館へと続く道を、車椅子の少女が、走って行く。

 歩道は昨夜の雨のせいか少し濡れており、浅い水たまりを通るときに、足元が濡れないように注意しなければならない。

 借りた本を返した後に、友人達と合流し、目的地である月村家を訪問するのだ。

 車椅子の少女、八神はやては、首を曲げ、顔だけ後ろを向き、電動のそれを押している人物に声をかけた。

 彼はつい最近増えたはやての家族ではなく、今日で十日目になる居候であった。

 家を出る時から同道している彼に、苦笑し少女が話を振る。

 

「仗助くん、そろそろ、家に帰ったほうがええんちゃう? 親御さんも心配してるはずやろ」

 

 そう勧告するも、はやてとて彼を無理に追い出す気はない。

 別段深刻なことではないのだ、制服などの最低限の日用品は、母親の居ない昼間に取りに帰り、八神家から登校もしている。

 夜になり、家に母親が戻る時間だけ八神家にて過ごす、それがここ最近の彼の日常になっていた。

 車椅子を押している彼は渋面を作り、何かを説明するように、人差し指で宙に絵を描く。

 

「こう、なんて言うかな、最終的に母さんの怒りを、家出した息子に対する心配が上回るのが理想かな」

 

 なかなか都合のいい考えでいらっしゃる、彼の目論見がうまく言ってるのかどうか、はやては尋ねる。

 先程よりもさらに眉間にしわを寄せ、彼はつぶやいた、唯一連絡が取れる祖父の話によると、日に日に母の機嫌が悪くなっていると。

 子供の浅知恵が大人に通じるのはフィクションの中だけだと少女は思い、励ましを込め、車椅子の取っ手にある少年の手に自分のものを重ねた。

 

「しっかり押せや、居候。やないと、親御さんにうちの場所、チクるで。ホレ、返事は笑顔で、わかりましたやろ」

 

 無理に追い出すことはないのだ、同級生の男の子を小間使いにするのは、はやての知る限りとても貴重な経験なのだから。

 鼻の穴から、必要以上の呼気を出し笑みを作る友人を見るのは気分がよく、お姫様気分を堪能できる。

 八神はやては両親を失って以来、久方ぶりの我が儘を聞いてくれる身近な人間に、心の底で感謝する。

 ただ、感謝の割には、指示する言葉にためらいがなく、彼の胃を的確に痛めつけているのが解せないといえば解せない。

 

 道の途中、コンビニの前ではやてはアリサと合流する。

 アリサの家の車はいつも、これでもかと光沢を放っているのでわかりやすい。

 車から降りてきた彼女は、はやてと挨拶を交わし、目的地が同じなのだからと乗車を勧める。

 車椅子のはやてでは、屋敷までの坂道は長く厳しいものになる。

 電動であるとはいえ、車で行けるのならそちらの方がいいだろう。

 友人の気遣いを、少女は首を横に振り辞退する。

 

「大丈夫や、心配せんといて。最近いい『人力』のエンジンが手に入ってな、慣らしもかねとるんや。ほら、コンビニから戻ってきた」

 

 エンジンは、アリサに気づくと、手を上げ挨拶をし、はやてに頼まれたお茶を渡す。

 渡す瞬間も、笑顔を絶やさぬ、なかなか我慢強いエンジンだった、それとも製造元が余程怖いのか。

 二人のやりとりを見て、アリサは首を傾げるが、特に気にするでもなく、運転手に声をかけ、友人達と一緒に歩いて行く旨を伝え帰らせる。

 因みにこのあと仗助は、のどが渇いていたアリサのためにふたたびコンビニに戻ることになる、はやての指示で。

 

   ●

 

 行儀が悪いが、仗助の行きつけのコンビニの前で、二人は買ったお茶を飲み終える。

 仗助はコンビニの店員と話し込んでおり、なかなか戻ってこない。

 立ったまま飲食をすることに抵抗があるのか、アリサは道路の手すりに腰をもたれかかるようにして、一息入れた。

 話題は今日、彼女らの学校で行われた身体測定のこと。

 

「何がムカつくって、あの二人、終始女言葉で、互いのバストサイズを図り合っているのよ、しかも、私とすずかの計測結果を勝手に盗み見て、鼻で笑うし。周りの男子もいつの間にか真似しだすし。ああ、もう、本当、男子って子供なんだから! 大体、私の胸の膨らみと、あんた達の筋肉で押し上げたそれを一緒にするんじゃないわよ!」

 

 自分の物には夢が詰まっていると小学生らしい慎ましやかなそれをアリサは主張する。

 アリサの話を聞き、はやては相槌を打ちながら、手元にあるペットボトルであふれる笑みを隠す。

 自宅で孤独に教材と向い合うだけのはやてには分からないが、怒りという感情の発露でさえ、貴重なものに見えてしまう。

 昔の自分なら笑顔で感情をやり過ごすだけであったが、友達がいることで余裕が生まれ楽しく彼女たちを観察することが出来た。

 まだ気が収まらないのか、アリサの口上は激しくなる。

 

「その上、クラスで一番のスタイルの持ち主が女子からじゃなく男子から出たって勝ち誇るし、その子の幼馴染の高町さんは身長が同じ位なのに体重が十キロ近く自分のほうが重いって落ち込むし」

 

 その少女は災難である、アリサの激昂ぶりを見るになのはだけでなく、彼女もからかわれたのかもしれない。

 はやては落ち着けるため、アリサの話の隙を突いて、質問を挟む。

 

「そら、お気の毒に。ところで高町さんて、ふくよかな子なん?」

 

 はやての問に、自分が興奮していたことを自覚したアリサが否定する。

 

「そんなことないわよ! 彼女が太っているなんて、標準よ、標準! ……私と余り変わらない体重だし。そう、あの男子が軽すぎるのよ絶対! ほら、見てみなさいよ! あの身長で、私達より軽いってのが異常なのよ!」

 

 その最中、はやてに向けられていた視線が道路を挟んだ通りの向こう側に移っていた。     

 アリサの指す方を見ると、同年代とおぼしき少年が、息を切らしながら、歩道を駆けている。

 その後ろを追いかける栗色の髪の少女を見ながら、首を傾げ、はやては呟いた。

 

「ところで、なんであの子、スカートを振り回しながら、駆けてるん? 後ろの子のやろ、多分」

 

 はやての呟きは、別段、アリサに問いかけたものではなかったが、次の言葉に詰まってしまう。

 はやての言葉通り、向かい側の歩道をかけていく同級生はオレンジ色のスカートを振り回していた。

 その後を追う少女は怒りからか、はたまた羞恥から、赤面しており、右手で上着を限界までずり下げ下着を隠し、左手の玩具の杖を振りまわす。

 玩具は安物では無いようでプラスッチックではなく、鈍い金属の光沢を発している。

 

『危ないよ、なのはちゃん! 少し落ち着いて、どうして怒ってるのか訳を話してくれなきゃ、どうすればいいのかわからないよ!』

 

『真くん、なんで私が怒っているの本当にわからないの? 嘘つき、そうやって私をからかってるんだね。……だったら、手加減する必要はないよね、レイジングハート、ターゲットをロックオン、いい加減、私のスカートから手を離せぇぇ!!』

 

 上演される喜劇を鑑賞し、アリサは言葉を失う、無論、感激したわけではない。

 

『ちょっと、なのは! インテリジェントデバイスは、直接、殴ったりするためには制作されてないから、だからといって魔法を放てってわけじゃなくて! とりあえす頭を冷やして、僕のマントで下半身を隠しなよ。真も、その奇行に何か意味があるの? もしかして、この次元世界特有の儀式だったりするの? ……ああ、もう、誰か助けてよ!』

 

 なのはの後ろから、新たな役者が舞台に上がる、色素の薄い髪をおかっぱにした、どこかの民族風な意匠を身にまとった、柔らかい瞳の少年であった。

 この年頃の子らしい、まだ性差が顕著ではなく少女でも通用する愛らしい顔は、残念なことに涙で曇っている。

 正答が見つからないことを嘆き、周りの誰かに答えを求めるも、この状況を解決に導く答えなどあるのだろうか。

 立ち止まった周りの大人達も、誰一人答えを出せず、少年を見守ることしか出来なかった。

 学校というものは、ドラマや小説で読んだとおり非日常の塊らしい、車椅子の少女は自分が通学出来ないことを、今ほど、残念に、そして妬ましく思うことはない。

 あのおかっぱの子は留学生だろうか、はやては尋ねる。

 未だ言葉を失っていたアリサがようやくはやての問に答えてくれた。

 

「え、えっと、多分違うんじゃないかしら、あの二人も、もしかしたら私のクラスメートと似た人なんじゃないかな……」

 

 走り去る役者たち、真偽はともかく、先程からのはやての複数の疑問に、アリサが出せた答えはたったこれだけだった。

   

 ●

 

 

 店員との会話をようやく終えた少年がコンビニから出てきた。

 仗助は、通りの向こうに焦点を合わせ呆然とした二人の視線の先を追うも、特段面白い景色があるわけでもない。

 怪訝に思いながら視線をゆっくり回転させる少年に釣られ、アリサも頭を動かす。

 その途中、はやての肩越し、コンビニの隣のドラッグストアに知己の顔を見つける。

 確か、親友の姉である月村忍の友人であったはずだ。

 アリサは月村家で挨拶を交わしたことがある程度の付き合いであった。

 商店の立ち並ぶ景観に不釣り合いな赤と白の巫女服が悪い意味で存在感を主張している。

 巫女の女性、神咲那美はドラッグストア前の車道に背を向けるようにして、声を上げていた。

 その隣にいるのは、誘拐事件の時に仗助たちを迎えに来た学帽で目付きの鋭い男性だった。

 那美は顔だけを横に向け、平時の温和な態度を崩し、彼を叱りつけている。

 

『いいですから、こういったことは私達専門家に任せて、一般人は黙っていてください。本当に危険なんです、って、私の話を聞いてますか、だからなんで溜息を付くんですか!  

 それってとても失礼だと思います、やれやれって、それはこっちの科白です!』

 

 アリサの見る限り、那美の気勢が上がれば上がるほど、男性の吐くため息の量が増えていくに違いない。

 二人はどういった間柄なのだろう、野次馬根性で隣にいるはやてに声をかけようとして気づいた、彼女がいない。

 慌てて反対側を向けば、小走りで道の端を走っている仗助と、上半身をひねりアリサに向け手を振っている少女がいた。

 

 空のペットボトルをコンビニのゴミ箱に捨て、全力で追いかけ、文句をいう。

 はやては素直に謝罪の言葉を述べるも、仗助は苛立っているのか、アリサの言葉を無視した。

 小声でブツブツ文句をいう少年の様子から、日常、からかい目的による無視ではないことに気づいたアリサは彼のつぶやきに耳を傾ける。

 

「っくそ、なんで僕がこそこそしないといけないんだ、早く帰れよ。大体、きれいなお姉さんを侍らせて、両手に花だとでもいうつもりか!」

 

 ただの嫉妬か、アリサは興味を持ったことを後悔する。

 なにか思いついた様子のはやては仗助の肩を叩き、指先をアリサと己に交互に向け、笑顔を見せる。

 少年の哄笑が、道行く人々が振り返るほどの大きさで響く。

 

「さて、そろそろ、待ち合わせ場所に行こうか」

 

 仗助の押す車椅子の脇にかけられた鞄の中から何か凶器になる物を探すはやてを尻目に、アリサは先程から感じている違和感に気づく。

 

「ねぇ、仗助、制裁は後にするとして、なんで両手に花になるの? それは誤用じゃない?」

 

 確かにおかしい、はやても気付き仗助の顔を見る。

 二人の視線に困惑しながら仗助は己の頭を軽く掻いた。

 

「いや、あんな美人二人に、囲まれてるんだから、おかしくないと思うんだけど。えっと、君たちからしたら、那美さんも、あのチョーカーをつけた人も美人に入らないの?」

 

 仗助にからかっている様子はない。

 アリサとはやては記憶をさらうも、承太郎と那美のそばにそんな人物はいなかった。

 

「そういえば、近所のおばちゃんに聞いたんやけど、あの辺り、昔、一家惨殺事件があったんやって、仗助くんよく知ってたなぁ」

 

 仗助の話した人物の容姿に心当たりのあるはやて。

 当然、近所のご婦人方と交流がない仗助が知っているはずもない。

 仗助は指を三本立て、確認の意味を込め、二人に見せる。

 少女たちの建てた指の本数を数え、仗助の顔から血の気が引き、それに釣られるように、アリサとはやての顔も青くなった。

 そこに声が掛かる、ドラッグストアの前から追いかけてきた那美を見るやいなや、三人は悲鳴を上げ逆方向に疾走した。

 残された巫女は独り言ちる。

 

「……あれ、いやだ。私嫌われてるのかな、まさかね。っあの違います、あの子達は知り合いで、だから、からかってるだけなんです!」

 

 巫女は焦り弁解する、市民の義務として、携帯で通報をしている近所のおばさんを制止するために。

 

 

   ●

 

 海鳴駅の近く徒歩一分にあるホテルの一室、魔導杖を振り回す幼馴染から逃げ切った少年は部屋の隅の机に向かう主の用意してくれた紅茶で一息をついた。

 

「ふむ、やはり、これが最初のページになるのかな、それ以前の物は読めないな。いや君の言うことを疑うわけじゃないんだよ」

 

 机とセットの回転椅子を回し、二十歳前に見える青年はこちらの様子を窺ってきた。

 手には本から破り取ったのか、数枚のページの切れ端を持っている。

 男は取材と休暇を兼ね、この部屋に泊まっており、少年は出来うる範囲、積極的に彼を手伝っているのだ。

 なぜなら、少年はつい最近知り合ったとは思えないほどに彼のことを『信頼しており』、真が『自ら、己の秘密を打ち明ける』位に『信用できる』人物なのだから。

 そう、真は、自分が前世の記憶を持っていることも、この世界が真の知る創作物と酷似していること、魔法についてすべて一つも余すことなく彼に打ち明けた。

 特に、世界が、創作されたものであることを話した時などは、彼が怒り出すのではと危惧していたのだが、逆に感謝され、目を丸くしたものだ。

 不思議に思い、怖くないのかと訪ねてみれば、

 

『世界が作り物だとして、それで僕の作品がつまらなくなる訳じゃないだろう、いやむしろいい刺激になる』

 

 そう楽しそうに、どこから出したのか、破り跡の付いた紙を熱心に読み込んでいたのが印象的だった。

 今も彼の作品のためにこれから起きる事件について、覚えている限りを彼に話しているところだった。

 青年が原稿に取り掛かり、彼のつけているギザギザの切れ込みの入ったヘアバンドは趣味が悪く無いかと思案していると時間が過ぎていった。

 

「ああ、やはり僕にラブコメは向いていないらしい、なんであれで女が好感を持つのか全く理解できない。君にも苦労をかけたのに悪いね、謝罪するよ」

 

 帰り際、青年の言葉に、すこし自分の知っている漫画の話をしただけのことなのに目の前の人物が謝ってきたことに違和感を感じたが、今日は母の弟が仕事の都合で海鳴市に引越してくる大事な日なので深く考えることもなく別れの挨拶を告げる。

 

「今度は高町なのはって子も、連れてきなよ。彼女は君の知る物語の主人公なんだろう」

 

 連れてくるのは構わないが、今現在、なのはは真の理解できないことで激怒している。

 困難であることを彼に伝え、ほとぼりが覚めたらその時にと約束を交わす。

 

「でも先生、本当に女の子って理解できないですよね、『わざわざ衆人環視の集まる場所でスカートを捲って』あげたのに怒りだすんですよ。普通なら、照れて赤くなるはずなのに」

 

「ああ、確かに、君の知る漫画の中なら、確実に好感を持つ出来事なんだがね。もしかした照れ隠しなんじゃないかな」

 

 なるほど、先生の言にも一理ある、そう思いなのはの顔を思い出すと確かに照れて、顔を真赤にしていたように思えてくる。

 そういえば、学校の身体測定で、『十キロ近く痩せた』真に複雑な視線を向けていた。

 そういった思いから素直に喜びを出せなかったのだろう。

 疑問が氷解し、晴れやかな顔で挨拶をして、部屋を出て行く。

 何かを思い出した先生の制止を聞かずに。

 

 

 ●

 

 少年の出て行った部屋、伸ばした手が行き場を失い宙を彷徨う。

 自分の呼びかけを無視したのは真なので責任は彼が取るべきだと考えなおし完成した原稿のある机に向かう。

 原稿の横、彩飾華美な絵の雑誌を手に取り、部屋の主『岸辺露伴』はため息を付いた。

 

『まったく、突然、パンツを見られたり、胸を揉まれて、なお、主人公に好感を抱くヒロインの気持ちは理解できないね』

 

 内心、そんな悪態が露伴の口から出そうになる。

 だが、独り言が増えるのは脳味噌の足りない頭の硬い爺さんみたいだと、偏見を持つ彼は言葉を飲み込んだ。

 部屋に備え付けの電話を取り編集部に掛ける。

 露伴にラブコメを描いてみないかと愚かな提案をした愚図な担当に断りを入れるためだ。

 その頃になると、少年の『本』に書き記した命令を消してやることを忘れたことはすっぱり露伴の頭の中から消し飛んでいた。

 この事により、某喫茶店のウェイトレスがいらぬ恥をかくことになるのだが、誰も真相を知らない。 

 

 

 




補足 岸辺露伴  漫画家、自分の漫画を見たものを本にすることが出来、その人間の人生の情報を読むことが出来る。また文章を書き足すことによって、その人間の意志を操ることが可能。
ジョジョ側の重要人物が登場する回になりました。いろいろな事件が同時進行しています


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