ボクは仗助、 君、億泰   作:ふらんすぱん

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ジョジョでバカな話を書きたくて作りました。処女作です。 追記 この話は一話二話を結合した少し書きなおしたものなので少し読みにくいです。


とある公園 と とある山にて

 

 今日も誰にも相手にしてもらえず、一人公園のベンチに座り、夕食までの時間をつぶす。

 

 それは父親が事故で入院してからの少女の日常。

 母は経営している喫茶店がいそがしく、兄姉はその手伝いに父の看病。

 一人、出来る事もやらなければいけない事もない少女は邪魔にならないようにここでボーっとして過ごしている。

 皆にそれぞれの理由があるのはわかっているのだ。

 別に少女――高町なのはのことを家族が嫌いになったわけではない。だからといって不満がないわけではなく、寂しくないはずがなかった。

 もしかしたらこんなことを思う自分は悪い子では、いや悪いのは自分に寂しい思いをさせてる家族のほうだ、など考えても仕方ないことが、浮かんでは消え、浮かんでは沈む。

 

 そんな沈んだ思考のため、周りの子供たちに混ざって遊ぶことも出来ず、公園の砂場に目を向けると、なにやら二人の男の子が見詰め合っているではないか。

 唇と唇がくっつきそうなほど顔を近づけた二人。

 少女が知るはずもないのだががんをつける という不良の示威行為の一種である。

 身長はなのはより高いが顔にある幼さから、同年代であることがわかる。

 一人は、三白眼で短髪の少年。

 ガムをかんでるのか、くちゃくちゃ音がしていて、乱暴そうな印象がある。

 もう一人の少年は、フランスパンを頭にそのまま乗っけたような奇異な髪と強いまなざしが特徴だ。

 剣呑な雰囲気を醸し出す二人の周りには誰も近づけず。運の悪いことにいつもそこらでお喋りしているおばさんたちが今日に限って不在だ。

 別になのはが止める義理などないのだが、目の前で人が傷つくのを見過ごしたら、もっと自分のことを嫌いになってしまいそうだった。

 そう思い口論を始めた二人に向かっていく。

 

 ――この行動をのちに、とても悔やむことになる。

 ●

  

 

 少女がベンチから砂場の二人に向かう途中に不自然なくぼみや、何かが砕けているのを見つけたが、今はそんなことより破裂寸前の二人の空気が気になった。

   

「ザ・ハンド! ってヤベェ!」

 

 仲裁しようとなのはが二人の間に飛び込む。

 するとどうしたことか、少年は二人とも、とても、そうとてもまずい事をしでかしたような表情を浮かべていた。

 戸惑うなのはは、必死ではあったが己はそんなにひどい形相をしていただろうかと頬に手をやり確かめる。

 手で表情をほぐし、少女が暴力を振るうこと、悪口がどれほど人を傷つけるかを二人に説明する。

 その間も存外素直に首を上下させている。

 拍子抜けだったが、たった一人で乱暴な男の子二人の喧嘩を止められたことで少し得意な気分になり、鼻歌を歌いその日は帰宅した。 

 去り際に三白眼の少年がフランスパン頭に、

 

「仗助、治せないのか?」

 

 と言っていたのが気になるといえば、なのはは気になった。

 

 ――玩具でも壊してしまったのだろうか。

 

 

 ●   

 

 

 帰宅後、妹を見た姉が悲鳴をあげた。

 姉の取り乱し様に混乱するなのはの肩を掴み洗面台までひっぱていく。

 何事かとなのはは鏡を見た。

 

 ――今朝、家を出る時までは確かにあったはずの母親譲りの栗色の髪。

 それが頭頂部に大きな線を描いてごっそりと無くなっている。

 そんな鏡の中にいる逆モヒカンの少女は引きつった笑みでこちらを見つめていた。

 

 鏡の中の少女となのはは、同時に気を失った。

 

 ●

 

 これは、なのはの姉である長女――高町美由紀が体験した出来事。

 

 翠屋の店主である彼女達の父親が入院する前の話になる。

 少し複雑な話になるが、美由紀の家は古い実践剣術を伝える家であった。

 養父は美由紀の伯父にあたり、こちらはこちらでまた実践の技を伝える家系である。

 当然技を伝え残すことをは義務であり、それぞれの家の長子である、また長子であったはずの、義兄、恭也と美由紀は幼い頃から鍛錬を義務付けられていた。

 といっても、兄や美由紀が本気で拒否すれば、優しい両親はそれらを強制することはなかっただろう。

 

 ただ、ヒーローに憧れる歳頃の男の子は進んでそれらを受け入れ、仲間はずれになることを恐れた内気な妹もくっついていただけのこと。

 それが今日までの惰性で続いていく。 

 

 その少女の判断を、花も恥らう女子高生である美由紀は今日も近所の山でサルの如く跳びはね、トレーニングをしながら後悔しているのである。

 

 ●

 

 この日はいつも指導してくれる兄が用事のためおらず、陽射しも手伝ってか稽古にも身が入らない。

 美由紀は川辺に足を晒してのんびり横になっていた。

 そんな折、かすかな足音と気配に気づき体を起こす。

 近所の山といったが、結構険しく、人が入ってくることはあまりない。

 気になり、辺りの様子を確認しに行ってみる。

 すると川から少し離れたところにある大きな木の下で二人の男の子が何やら作業しているのを見つけた。

 一人は少し乱暴そうな子。もう一人は長い突起を乗っけている変わった子だった。 

 年はうちの妹とおなじくらいだろう。

 秘密基地でも作っているのだろうと微笑ましく様子を見ているとこちらに気づき、何やら美由紀を指差し相談を始める。

 

 「君たちこんな山奥まで入ってきたの? お父さんやお母さんは一緒なのかな?」

 

 山奥に保護者もなく子供だけでいるのは危ない。

 もしも少年達しかいないのなら、町までを送ってあげようとやさしく笑顔で話しかける。

 

 ――そう、笑顔で。

 

 ここで一つ確認しておくべきことがある。

 美由紀の母は年よりも若く見え近所では評判の美人奥様であり、美由紀の妹はそんな母親譲りの容姿を与えられていた。

 当然、間にいる美由紀もそう悪いものでは決してないはずだ。

 

 更に、美由紀の実母も養父の話によれば、見目麗しい方だったと酒の席で、こぼしたのを聞いたことがある。

 だから、美由紀が自分の容姿に対してささやか自信を持っていてもそう的はずれなことではないだろう。

 

 

「うっせえな 余計なお世話だ メガネブス!」

 

 

 ――リーゼントの少年の心ない暴言は美由紀の心を傷つけた。

 なので、内気な美由紀は、手のひらをしっかりと握りこみ、硬い拳を作ることにした。

 

 

「胸と背中の区別がつかない体型で説教足れんじゃねぇよブス!」

 

 

 ――ギョロ目の少年が吐き出すいわれのない中傷。

 きっと彼の目にゴミが入ってしまったのだろう。

 それを可哀想に思った美由紀は、後ろにある川で少年の瞳を洗ってあげることにしようと考える。

 美由紀の体型に対してあらぬ勘違いをするほどなので念入りに数時間ほど頭ごと沈めてあげるべきだ。

 

 

「こらー、女の人にそんなこと言ったらだめでしょう」

 

 けれども、この歳頃の男の子が年上に対して反発してしまうのも知っている。

 なので聖母マリアの如き寛大さで、女性の体型を皮肉ってしまった少年達に最後の慈悲を与える。

 そうして発せられたのは、美由紀の想像以上に感情のない己の平坦な声えだった。

 

 ――だからその後も続々と吐き出される美由紀の胸部に対する事実無根の中傷に、ちょっとこのあたりに幼児が二人埋められても神様は目を瞑ってくださるはずだ。

 

 ●

 

 神を恐れたのか、それとも青筋を立てた眼前の美由紀にビビったのか、少年達はこの場から逃げ出した。

 当然、神の代行者として彼等に罰を与えなければいけないので美由紀もすぐに追いかける。

 ――ちなみに彼女の家は正月には神社に参り、クリスマスもしっかり祝うジャパニーズ仏教徒である。

 

 日々の鍛錬のお陰で、体力はそこらの一般男性よりもあると自負しているのだがなかなか少年達を捕獲することが出来ない。

 

 そして、逃げる二匹の悪魔が振り返りながらまたも少女の慎ましやかな胸を指差し笑う。

 

 美由紀は当然、心の中のキリストも雄叫びをあげ奴らを許すなと応援してくれた。

 

 少女の努力が実を結び、ついに体力が尽きたのだろう、最初に彼らがいた木の下で二匹の悪魔がちぢこまっている。

 ――ああ、マリア様 いま生贄を二匹そちらに送りとどけます、喜んでください。

 敬虔な信者どころか、どちらかといえばブッディストである少女の血生臭い贈り物を聖母が喜んでいくれるかは、甚だ疑問だ。

 

 そこら辺に疑問を持たずに、美由紀は二人に飛び掛った。

 

 踏み出した一歩が地面に沈み込む。

 落とし穴だ。

 しかしそんな子供だましでは、毎日の訓練と神の加護を授かった美由紀には通用しない。

 地面が沈むよりも先に飛び上がった。

 

 

 ――はずなのだが、突風でも吹いたのか不自然に体が穴に引っ張られる。

 

 重力に捕まった美由紀の背、天を仰ぐと二匹の悪魔が笑顔で手をふっているのが見えた。

 

 

 穴の中、彼らが用意してくれた蛙や蛇や蜘蛛のおかげで、美由紀は悲鳴を上げる間もなくすぐに眠りについてしまった。

 

 

 ●

 

 

 蛙の体液が顔にこびりついたまま、家に帰った涙目の妹。

 その理由を聞いた兄は、子供に虚仮にされた情けない妹にため息を吐いた。

 そして熱く長い説教と道場でいつも以上にきつい鍛錬をプレゼントしてくれたのだった。

 

 


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