もしキリトさんが茅場晶彦によってSAOのレベルのまま迷宮都市オラリオに送られたら。 作:機巧
聞こえていたのは、銃声。そして悲鳴。
脳裏に浮かぶのは、親友と過ごした2年間。そして思い出した10年間。
そしてーー。
不思議なものが見えた。
遥か上空から、カセドラルの天蓋を貫いて、音もなく舞い降りてくる白い光の柱たち。
ただ見上げることしかできない俺を、音もなく無数の光が貫いた。
痛みも、衝撃も、その他のいかなる感覚もなかった。
しかし、それでもなお、俺は自分が取り返しのつかないほどに深いダメージを受けたことを悟った。光は俺の肉体ではなく、魂そのものを直接貫いた……そんなふうに思えた。
俺と言う存在を規定する、何か大切な物が、バラバラに引き裂かれ、消えてゆく。
時間も、空間も、記憶さえもが虚ろな空白へと溶ける。
俺はーー。
その言葉も、意味を失い。
思考する能力を奪われるその直前、どこか遠くから、声が聞こえた。
『キリトくん……キリトくん!!』
泣きたくなるほど懐かしく、狂おしいほどに愛しい、その響き。
あれはーーーー
ーーーー誰の声だったのだろう……?
◇
空気に、臭いがある。
そのことに今、少し驚いた。
背中にひんやりした、硬いものが当たっているのがわかる。
どうやら俺は仰向けになっているようだ。
まぶたを上げると、夕焼けに赤く染まった空が見えた。
「絶景だな」
いつかと、同じ声。同じセリフ。
その言葉に俺はがばっと起き上がる。
なぜならその言葉の持ち主は、もう既に死んでいるはずだから。
しかし。
声がした方、そちらに目を向けると、その声の持ち主がいた。
茅場晶彦。
電脳の世界に消えていたはずの彼は、今ここにいた。
「キリトくん。君とこうしていると、いつぞやの時を思い出すな。もっとも、君にとっては昔のことかもしれないが、私にとってはついこの間のことのように思い出せる。いや、この言葉も前に会った時に君に言ったのか」
「そうだな……確かにな」
「まぁ、この場にアスナくんがいないことが、違う点であるがね」
ーーアスナ。
そうだ。ここに来る前聞こえたのは、あれは、確かにアスナの声ではなかったか。
俺は確か。
ジョニー・ブラックに劇薬を注射されたのでは、なかったか。
「彼女は、彼女はどうなったんだ!」
「肉体という点においては彼女は無事だよ」
「どういうことだ? 肉体は、なんていうからには精神が無事ではないと言うことか」
「まあな。恋人である君に重大な脳のダメージがある、などと言われたら平場ではいられないだろうな」
「俺が?」
それはどういうことなんだ?
確かにあの劇薬は、心臓の鼓動さえ止めてしまうものであった。
そして心臓から血液や送られなくなり脳に血液がいかなくなったら、脳にダメージを負うも仕方がないであろう。
人間は、5分以上脳に血液が回らないと、植物状態になってしまうと聞いたことがある。
だが。
俺は今。こうして普通に会話できている。それが植物状態ではないと言う証明ではないのか。
そういうことを奴に聞くと。
「そうだな。確かに君の言っていることは正しい。しかし、今この状況については違うのだよ。STL、それを君は知っているな。あれは魂そのものに接続する機かいだ。よって、植物状態の君にも交信ができたのだよ」
「何?つまり、ここは仮想世界で、現実の俺は、植物状態なのか?」
「その質問には、イエスとも言えるしノーとも言える」
「相変わらずあんたは、分かりにくい言い方をするな……」
「前にも言ったであろう。私たちの間柄は、無償の善意などが通じる間柄ではないと」
そうであった。あの妖精の世界。その中央にそびえ立つ巨大な樹木の上での言葉ではなかったか。
「では、今回は何をすれば、今の質問に答えてくれるんだ?」
「君のできる範囲のことである、と言っておこう」
また、無茶なことか。
しかし、情報を得るには仕方ない。奴がやれると言うんなら。
「わかった。あんたがそう言うんならそうなんだろうさ。やるよ。だから教えてくれないか?」
「まず君が植物状態というのは本当だよ。これがYesだ。……君は、あの時ーーここと同じような場所で私が言った言葉を覚えているかね」
覚えている。
忘れられるはずがない。俺の人生に二番目に大きな影響を与えた人間の言うことなのだから。……二番目か? 一番はもちろんアスナだ。だが、まだいるような……思い出せない。気のせいか。
「ああ。確かあんたは、こう言った。ーー別の世界を目指している。今でもあの浮遊城が何処かにあると信じている、と」
「そうだ……。そして先日、見つけたのだよ。別の世界を。そしてその世界を君に探索してもらいたい」
「何ィィイ⁉︎」
まさか、平行世界を見つけたというのか。
これが普通の人ならありえないと言うのだろうがこの男に限っては、もしくは。
それに少し前に俺は平行世界と思われる場所で、シルバー・クロウと戦っている。
あれはこの男の理論を元にしたSTLで経験した出来事だ。
それらを総合すると、ありえなくない。
「そしてここは、その世界と君の世界の狭間、と言うべき場所だ。これが君の仮想世界か? と言う問いに対するNOの返答だ。まあ、色々説明する前にその世界で君に探索してもらう予定の
ゴクリ、と唾を飲む。
この男が求めていたものの最奥にあるもの。
「オラリオ。ーーそれが君がいく世界で唯一の迷宮都市の名だ」
キリトはアリゼーションの記憶を失っています。
ですがいつか思い出しますし、ユージオも、生身ではありませんが出てきます。
……まだタイトルのとこまで行かない……。