オーバーロード~至高の人形使いと自動人形~   作:丸大豆

8 / 22
※ようやくタグが完全に機能し始める話です。


六話

第九階層 モモンガの自室―――――

 

 

「おはようございます。 モモンガさん、起きてます?」

 

僕が朝になったので外装をミルキーウェイに戻し、彼の部屋に様子を確認しに来てみれば、当の本人は側にセバスを従えて何やら作業中だ。

どうやら〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)〉で周りの風景を確認しているらしい。

 

「おはようございま……ってソウソウさん! ひょっとして寝られたんですか!?」

 

その言葉と共に僕は彼から驚きとジトッとした視線を向けられた。

多分、非難の眼差しは昨日の嫉妬に燃えるアルベドの対応を丸投げした事に対しての物だろう。

 

でも、勘弁して欲しい。  

「女の嫉妬には状況に応じて対応しろ」という父からの教えを僕は守ったに過ぎない。

それに、眠れた事に対しての驚きは残念ながら杞憂に終わるだろう。

 

「いえ、全く。 オマケにお腹も空かないので昨日はあれからずっと人形のメンテと整理ばかりやってましたよ」

 

「はぁ…ソウソウさんも同じですか。 実は私も同じで、あれからずっと雑務をやってたんです」

 

モモンガさんは骸骨、僕は死髪、お互いにアンデッドだからか眠りもせず、食事も必要としない体になってしまったようだ。

便利と言えば便利だが性欲も使い所が無くなってしまった事も含めて、人間としての三大欲求の全てが感じられなくなるっていうのは結構なショックだなぁ……。

 

しかし、そんな状態になってもモモンガさんは雑務、僕は人形整理なのだから人間だった頃の癖、というか習性は抜け切れないらしい。 

この習性とナザリックの皆を想う気持ちが、僕等が人間であったと感じられる残滓なのだろう。

 

そういうセンチメンタリズムな考えは置いておくとして、今問題なのは……

 

「………セバス、怒ってません?」

 

「昨日、私達が抜け出した事に対してですよ……帰ったら俺だけ叱られたんですから」

 

いや……それは大変申し訳無い。

セバスが怒った時の雰囲気って製作者のたっち・みーさんに似てるんだな…新しい発見だ。

彼が皆を叱ってる姿はその実力もあってか本当に「お父さん」って感じがする人だった。

あれが妻子持ちの貫録なんだな、と今でも思える。

 

「ところで、ソウソウさん。 今日はマキナを連れてないんですね?」

 

「あの子は本来の仕事、工房守護を任せてます。 別に親子は四六時中一緒ってワケじゃありませんから」

 

尤も、僕が工房から出て行く時にいつも以上に無表情だったから、頭を長い時間撫でてから此処に来たのだけど。

僕がその時のことを思い返していると、どうやらモモンガさんが鏡の使い方をマスターらしく、三徹してようやく仕事が終わった時の僕の様な声を上げてガッツポーズをしていた。

 

「よしッ! これで周りの状況が詳しく分かるぞ」

 

「流石で御座います、モモンガ様。 このセバス、御見事としか申し上げられません!」

 

「やりましたね! この微妙系アイテムをここまで使えるようになるなんて!」

 

僕の言葉にモモンガさんは「えぇー…」という雰囲気を纏った。 イヤ、褒めたじゃん?

実際、この鏡はユグドラシルでは対策を張られまくって使い勝手皆無だったし、そんな物を引っ張り出して使うなんて「物持ちが良い人はやっぱり違うな」って気持ちで言ったんだけど…。

人を褒めるのはやっぱり難しい。

 

「……ん? これは…祭りか?」

 

「何です? 早速、第一村人発見ですか?」

 

どうやら、何かを発見したらしいモモンガさんに僕とセバスは一緒に鏡を覗き込んで見る。 

すると、そこに映っていたのは………

 

 

「いえ、御二人ともこれは祭りではありません。 これは……」

 

セバスの言う通りだ。 これは祭りじゃない、村が、襲撃されている光景。

逃げまどう村人に騎士が剣を付き立て、音声が無いから何を言っているのかまでは分からないが、はっきりと嘲笑を浮かべて生き残った村人を探し回っている様子が確認できた。

 

「……ってコレ、血祭りの方じゃないですか。 どんなお祭りか期待してたのに…」

 

モモンガさんは僕の言葉にギョッとしていた。

今、自分は何かおかしい事を言ったんだろうか……いや、おかしい…おかしいぞ!?

以前だったら映画ならともかく現実でこんな凄惨な場面を見せられれば、思わず目を背けていた筈だ。

ニグレドの所で見た惨状にも「これじゃあ、話が聞けないな」位の感想しか抱けなかったし、僕は……どうかしてしまったのか?

人間を……同族だと認識出来ない……自分とは違う生き物だとしか思えない。

 

「……モモンガさん。 あなたもひょっとして…今、僕と同じ事を考えていますか?」

 

「…はい、多分。 私も、この光景を何も感じずに冷静に見ている自分に驚いています」

 

この瞬間、完全に理解した。

もう僕等は人間じゃない、このアバターと同じ…いや、このアバターが僕等の本性になったんだ。

〈化け物〉に……成ったんだ。

 

 

「御二人とも、この惨状をどう致しますか?」

 

セバスの言葉で僕等二人は正気に戻った。

彼は村の襲撃者に対して静かな怒りを滲ませながら僕等に問いかけて来る。

優しい所もたっちさん似とは……本人が居たら喜んでくれたのかな?

 

「いや、見捨て……」

 

「モモンガさん、ストップ。 助けに行きましょう」

 

「…ソウソウさん?」

 

「これは僕等がこの世界で生き残れるかどうかを調べる為のテストですよ。 もし、敵わない相手だったら生き残りの村人の何人かを連れて来て、情報提供者にしても良い」

 

「しかし危険が伴うというのは事実ですし……」

 

「それに、恩は返すべきでしょ? 僕はモモンガさんに、モモンガさんはたっちさんに」

 

その言葉にモモンガさんはハッとなり、次にたっちさんの面影を残すセバスを見る。

少しの間思案し、彼の出した結論は………

 

「『誰かが困っていたら、助けるのは当たり前』……忘れる所でしたよ、たっちさん…。

準備してください、ソウソウさん。 お互いに借りを返しに行きましょう」

 

「流石は僕の主人、アインズ・ウール・ゴウンの頂点だ……行きますか」

 

その後、僕等はナザリックの警護レベルを最大まで上げ、万が一の為の後詰を村に配置させ、隣の部屋に控えているタンク役のアルベドに完全装備、ただし奥の手は隠しておいた状態で後から来るように指示を出す。

 

ついでに僕も肉弾戦の可能性がある事を考慮して防御効果付与の肘まであるドレスグローブ〈曇天の霹靂〉をミルキーウェイに装備する。

この装備は人形の操作性に問題が無い仕様に改造した逸品だ。 これで、準備完了。

 

「では、行きましょう……〈転移門(ゲート)〉」

 

僕等は鏡に映る、今にも殺されそうな姉妹を横目に見ながらその場所へと転移する。

 

 

 

さっきモモンガさんに言った事は本心だが僕にはちょっとした好奇心があった。

多分、あの襲撃者達はニグレドを悲しませる原因を作った連中と関係している筈だ。

人を笑いながら殺す外道共、奴等の体の部品(パーツ)で――――――――

 

 

 

人形(ドール)を作ったらどんな作品が出来上がるんだろう?

 

 

 

カルネ村 外れの森―――――

 

 

「うわあぁぁぁ!!!」

 

「な、何なんだ!? コイツ等!?」

 

今まさに、いたいけな姉妹に剣を振り下ろそうとした騎士二人は驚きに固まっていた。

そりゃそうだ、いきなり何もない所から僕等が転移して来たんだから。

 

ならば今の内に先制攻撃(ファースト・アタック)と行こうか。

呼び出すべき人形は………

 

「出で座せい、〈ミンチ・オブ・グレイヴ〉」

 

その言葉と共にアイテムボックスから取りだして十指を接続した人形は横にした状態の西洋風の棺桶で、その側面には虫の様な六本足が生えており、地面を支えていた。

そしてその棺桶の前面部分には成人男性程の大きさの真っ赤な十字架が突き刺さって上半身を形成しているというデザインだ。

 

「せめて苦しんで死ね、屑が」

 

僕は常人にはどう動いているのか分からない程の早さで指と腕を動かす。

すると、それに合わせて人形の十字架側面から半透明の手が出現し、近場に居た騎士の一人の体を拘束する。

 

「ひ、ヒイィィィィィ!!!!」

 

騎士が醜く喚き立てるが僕は特に何も感じない。 

むしろ、さっきまで嬉々として弱者を殺そうとしていたのに、自分がやられる側になると途端に逃げ腰になるコイツに苛立ちさえ感じる位だ。

うん、これなら何の問題も無し。

 

右手人差し指と薬指を折り曲げて後ろに引く、それに合わせて十字架と棺桶は観音開きに開き、その中身である大小様々な鋭利に研がれた刃物で出来たスクリューが露わになる。

 

「とっとと刻まれて荒挽肉(ミンチ)になれ」

 

「やめてやめてやめて助けて助けて助けてたすけ……」

 

左手を前に突き出してソイツを中に入れ、蓋を閉じれば命乞いはもう聞こえなくなった。

後に聞こえるのは―――――

 

 

「おごぎゃぁぁあああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁああああああぁぁああああああ!!!!!」

 

 

内部機構を稼働させた棺桶の中から聞こえるくぐもった断末魔の悲鳴のみ。

ほんの少しだけ、スッキリした。

 

「コレ、処理が終わったら魔法で中身が消えるんですよ。 まるで手品みたいですよね」

 

「……………うわぁ」

 

えー……モモンガさん、引かないでよ。 これは実験なんだから。

この世界に蘇生魔法があるかも分からないんだし、何より初戦という事もあって丹念に殺っといた方が良いと思ってこの人形にしたんだが、どうやらギルマス受けは悪かったらしい。

 

思い返せば、メンバーの一人だった女教師のやまいこさんも「ソウソウさんとタブラさんの作品はウチの生徒には絶対に見せられない」って言ってたもんなー……アレは軽くショックだった。

僕もタブラさんも別にエグい作品しか作れないワケじゃ無いんだよ?

 

「ぎゃあああぁぁぁああ!! 化け物だぁああ!!!」

 

「いや、逃げるなよ」

 

僕は指を動かして人形にもう一人の騎士を拘束させる。

さっき鏡で大体の戦力は把握したんだけど、念の為にコイツで確認しておくか。

 

「君達の本隊は何処に居るの?」

 

「あ、あ、あ、あそこ、です」

 

両手が塞がっている為か首を動かして文字通り必死に仲間達の居る方向を指す。

かつて僕等にPKKされた連中も現実ではこんな惨めな顔をしていたんだろうか…?

まぁ、絶対にこっちの方が状況は酷いんだろうけど。

 

「へー……ですって」

 

「情報提供、御苦労。 実験も兼ねて私が直々に労ってやろう」

 

お、キャラ作ってるなー、それでこそ我らがギルマス。

モモンガさんの合図と共に拘束を解除、この騎士はもう楽にしてあげよう。

 

「〈龍雷(ドラゴン・ライトニング)〉」

 

「ぎゃあああぁぁぁあ!!!」

 

うおー、まるで糸が切れた人形みたいに崩れ落ちたよ。

それにしてもいくらオーバーロードのモモンガさんが放ったからって第五階位魔法で死ぬとか…

 

「弱い……コイツ等、弱すぎでしょ?」

 

「ええ、でも油断は禁物ですね。 この二人が特別弱いだけかもしれませんし」

 

彼の言うとおりだ。 どう考えてもコイツ等雑魚だったし、本隊はもっと強いんだろうな。

 

「そうそう、久し振りに見てみたい物があるんですけど」

 

「『そうそう』……ひょっとして、ギャグですか?」

 

「違うわこの骨人間!! ほら、アレですよ。 モモンガさんがよく召喚(よ)んでた壁モンスターの……」

 

「あ、あぁ…アレ。 護衛は多いに越した事はないし、折角だからやってみましょうか」

 

 

「―――――中位アンデッド作成 〈死の騎士(デス・ナイト)〉」

 

 

モモンガさんのスキルで呼び出す壁モンスターなのだが、その様子はユグドラシル時とは随分違い、騎士の口からヘロヘロさんじみた黒いスライムの様な物が溢れ出し、ゴボゴボと音を立てながらその身をアンデッドへと変貌させていく。

 

「うっわ、グロいわぁ……」

 

「ソウソウさん、アナタは人形仕舞ってからその台詞を言いましょう?」

 

出来上がった死の騎士は跪き、モモンガさんの命令を待っている状態だ。

取り敢えず、放って置いても盾になる壁モンスターに指示する事など決まりきっている。

 

「死の騎士よ。 この村に居る騎士…鎧を着ている者を駆逐せよ」

 

その命令を受けた死の騎士は力強い咆哮を上げた後――――――

 

 

モモンガさんと僕を置いて村の方角へと走って行った。

 

 

「「ええぇぇー………?」」

 

「何で、守るべき対象を置いて行くんだよ……命令したの俺だけど」

 

「仕様が変わったのかな? 『攻撃は最大の防御!』みたいな感じで」

 

僕等が頭を悩ませていると転移門から完全武装したアルベドが現れ、それと同時に門も閉じた。

ガッチガチに鎧で武装した美女っていうのは僕からすれば造形的にかなり美しいと思える。

機会があればそういう人形でも作ってみようかな?

 

「モモンガ様、ソウソウ様、遅れてしまい申し訳ありません。 準備に時間が掛かってしまいました。」

 

「いや、むしろ丁度良いタイミングだったぞ、アルベド」

 

「流石は守護者統括。 僕等が来て欲しい時に来てくれるんだからね、有難いよ」

 

僕等の言葉にアルベドはフルフェイス越しでも分かる位、喜びに身を震わせている。

 

いやね実際、本当に助かった。

タンク役作ったのにソレが勝手に走って行って、どうしようかと途方に暮れてる状況で現ナザリック最硬のタンク役が来てくれたのだから。

ありがとうタブラさん、あなたの娘は姉共々しっかりやってくれていますよ…。

 

「アルベドも来てくれた事ですし、僕は死の騎士を追いかけても構いませんか? あの様子じゃ、騎士だけじゃなく情報提供者である村人まで殺しかねませんし」

 

「確かに…。 では、私達はこの周辺を調べてからそちらに向かいますので、ソウソウさんは先に行って待ってて貰って良いですか?」

 

「了解しました。 ついでに久々の実戦なので少しだけ肩慣らしをする事にします。 マキナの親を名乗るなら強くあるべきですから」

 

「ソウソウ様、行ってらっしゃいませ。 モモンガ様の警護は私にお任せください」

 

「頼むよアルベド。 (今の)モモンガさんには君が必要だ、信頼しているからね」

 

「……私が…私がモモンガ様にヒツ、ひつよ、必要…くふー! ―――こほん、お褒めの言葉、誠に有難う御座います、ソウソウ様。 我が身命を賭してモモンガ様は御守り致します」

 

え、何今のリアクション!? 怖っ! アルベドさん怖っ!!

モモンガさん、あんたって、あんたって骨はなんちゅう……なんちゅう設定改竄をしてくれたんや……って顔背けてんじゃねーぞ、この骨ぇ!!

いや、ビッチ設定のままでもこんな娘だったって事なんですか? タブラさん? 

今、猛烈にあなたに会いたいです…。

 

「そ、そうかい? それじゃあ頼むよ」

 

僕は逃げるようにミンチ・オブ・グレイヴの棺桶空きスペースに飛び乗り、死の騎士を追いかける為に村の方角へと指を繰りながら走らせる。

やっぱり六本足は安定感があると感じながらこの人形を作る切っ掛けになった戦闘用メイド、プレアデス六姉妹の一人であるエントマ・ヴァシリッサ・ゼータの事を考える。

 

「(源次郎さんが作ったあの子を見るまでは昆虫の造形美と機能美が分からなかったんだよな。 帰ったら素顔を見せて貰えるかな? いや、セクハラになるのか? でも気になるしなぁ……)」

 

 

 

彼は初めて人間を殺し、これからさらに多くの人間を殺す為に村へと人形を走らせる。

そんな中で考えるのは新たな人形創造に対する知識欲の探求、彼はもう完全に人間を辞めたのだ。

それでも彼が人間だった証は残っている。

それはギルドメンバーとナザリックの命ある者達、何より自分の作った娘に対する慈愛の心。

皆を守る力を確認する為に彼は今、戦おうとしている。

 

結果、自業自得とはいえ、これから殺されるであろう騎士達には哀れと言うよりほかないが……。

 

 

――――――――――

 

 

時を同じくして彼の同志、ギルドマスターのモモンガも考えていた。

今は会えなくなってしまった仲間達と再び出会うにはどうすれば良いのかと。

同志は自分の事をこのギルドそのものだと言ってくれた。

では自分はこれからどうすれば良い? ただ守りに入って皆を待つだけで良いのか?

いや、違う。 突き進まねば、再びこのギルドの名を広める為にも。

 

その為の名、それはモモンガでは無い、その名は―――――

 




モモンガさんとソウソウ、前回から距離を縮めてみました。 如何でしたでしょうか?

今回の人形の発想は最近、キン肉マンを読み返して「ミキサー大帝戦の崖っぷち感ヤベ―」って思ったので出来た物です。
結果、ミキサー大帝より戦法がグロいという…。

次回は悪魔超人も真っ青の一方的な残虐ファイトが展開されますので何卒、宜しくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。