オーバーロード~至高の人形使いと自動人形~   作:丸大豆

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※結局書いた。


幕間 守護者達の関係性

モモンガ、ソウソウが去った後もその場に待機していた守護者達はしばらく、誰も口を開く事は出来なかった。

理由は自分達の崇拝すべき主である至高の二人から感じられた圧倒的な王者の威圧感の余韻がまだ、その身から抜けきっていなかったからだ。

 

ようやくその感覚が薄れ、最初に動いたのは守護者統括の意地を見せたアルベド。

それに続いて他の守護者達も口々に至高の存在に対する感想を述べ始めた。

 

「こ、こ、怖かった……僕まだ足が震えてるよ、お姉ちゃん」

 

「ほ、ほんとね…。 御二人からの重圧にあたし、つぶれた蛙みたくなっちゃうかと思った」

 

「流石はモモンガ様とソウソウ様……私達守護者にすら影響を与える力…正に至高の存在だわ」

 

「凄マジイマデノ覇気ノ奔流……御二人ノ本気、マサカコレ程トハ」

 

「あの御姿こそがモモンガ様、そして私が敬愛するお父様の支配者としての本性なんですね」

 

「でしょうね。 現に御二人は私達が守護者としての姿を見せてからその偉大な力を解放されていたのですから」

 

「ソレハ御二人ガ我々ノ忠義ニ応エテクレタトイウ事カ?」

 

「ええ、間違い無いでしょう」

 

「でも一番ビックリしたのはソウソウ様よね! 普段では考えられない位笑っていらしたんだもの」

 

「ぼ、僕も…ソウソウ様が声を上げて笑われるの初めて見たよ……」

 

「笑う、という動作だけで私達の心と体を縛ってしまうのだからソウソウ様はまだ御力を隠されていると見て間違い無いわね」

 

「逆に言えばその御力の一端を今回、我々にお見せしてくれたとも言えるね。 全く、本当にお優しくも底知れぬ恐ろしさを持った御方さ」

 

「ふひっふひひひひ……流石はお父様。 モモンガ様の圧倒的なオーラを受けているのにあれ程、怖ろしくも綺麗な笑い声を上げられるなんて…」

 

至高の存在の思惑を斜め上に突き抜けて守護者達の賛辞は止まる事を知らなかった。

まるで飛び越えるべきハードルが鳥居に変わってしまったかの如き上がり調子。

大丈夫かモモンガ!? 息してるかソウソウ!? 

 

 

「あんたの笑い方はソウソウ様と違って普通に怖いんだからやめなさいよ! でも御二人ともさっきまであたし達といた時と全然違うんだもん。 喉が渇いたからって飲み物を用意してくれたり、キャンディーを頂いたり、すっごく優しかったんだから」

 

アウラの発言により「ビキィッ」という擬音が出そうな程に場の空気が張り詰めた。

特にアルベドはオーラが出そうな位ワナワナと震えているときている。

 

「その優しさを恐怖に塗り替えるという圧倒的な支配者としての器、流石は至高の存在だよね。

そう思わない? マーレ」

 

「そ、そうですねマキナさん! 本当にモモンガ様もソウソウ様も素晴らしい御方ですよね!」

 

マキナの出した助け船に何の躊躇いも無く飛び乗ったマーレ。

自動人形、闇妖精二人のマッ○ルドッキングを彷彿される見事なツープラトンフォローで一触即発だった気配は霧散した。 

 

ちなみにマキナはシャルティアが来た時点で創造主から貰った指輪をジャケットの内ポケットに

大切にしまっている。 空気の読みっぷりは父親譲りらしい。

 

「二人の言うとおりね。 御二方は私達の気持に応えて絶対の支配者たる振舞いをとってくれたのですもの……流石は私達の創造主にして至高の方々の頂点と至高の御方」

 

アルベドの言葉に安堵の息を吐くマーレを除いた全員が恍惚とした(マキナは恐怖映像ばりだが)表情を浮かべる。

その弛緩した空気を最初に破ったのはセバスの発言だった。

 

「それでは私は先に戻ります。 御二人のお話しを邪魔する気は御座いませんが、御側に仕える事が私の使命ですので」

 

「…そうね、セバス。 御二人にくれぐれも失礼の無いように。 それと何かあった場合、すぐに私に報告を。 特にモモンガ様が私を御指名とあらば即座に駆けつけます! 他の何を置いても!」

 

それからさらに湯浴みの準備が、服は着たままでも、と喋り続けるアルベドを見ていたデミウルゴスはため息を吐く為に顔横にを背ける、すると無表情ながら同じ事を考えていたのであろうマキナと目が合って互いに「やれやれ」というジェスチャーをした。

 

「――了解しました、アルベド。 これ以上は御二人にお仕えする時間が減ってしまいますので、私はお先に失礼致します。 それでは、守護者の皆様もこれで」

 

アルベドの止まらないであろう話をやんわりとぶった切り、セバスが踵を返すと

 

「セバスさん、お父様が私をお呼びの時も直ぐに呼んでください。 セバスさん達のお仕事が

至高の方々に仕える事なら、私のお仕事はお父様が守るべきものを守る事ですから」

 

「承知しました、マキナ。 では、私は改めましてこれで」

 

そう言ってセバスは今度こそ、モモンガとソウソウの元へと去って行った。

 

 

「……? シャルティア、先程カラ黙ッテイルガ何カアッタノカ?」

 

ナザリックの数少ない良識人(?)枠であるコキュートスがいまだに俯いていたシャルティアを心配してか声を掛ける。

 

「モ、モモンガ様の凄まじい波動を受けてしまってから……その…下着が少うしマズイ事になってありんして」

 

「シャルティアってば死体愛好癖(ネクロフィリア)だもんねー、モモンガ様に興奮しちゃうなんて、ほーんとヤラシイ娘」

 

純真なマーレを除く守護者各員が「おぉう…」というリアクションを取っている中で平然と話しかけて来るのはマキナ・オルトス。

至高の存在を除けば、彼女は基本的に(ニグレド関連以外で)怖いもの無しなのだ。

 

「う、うるさいでありんすねこの槍娘! おんしは自動人形だから平気なんでしょうけど、

わたしの肉の身はキュンと来ても仕方ないでありんしょう!?」

 

「もう、屍肉なのにそんな事言っちゃって。 でも私も胸の動力回路がギュンと来ちゃうのも

仕方ない事だよね。 何たってお父様の鋭くも綺麗な瞳にこの身を映して貰えたんだから」

 

「ほう…相変わらずの無表情が鼻に付きんすが、分かってるでありんすね。 しかし、だからと言ってモモンガ様の美しさも同様に語られるべきだし、ここは一つ本気で話しあ……」

 

「五月蠅いのよ、ヤツメウナギ」

 

「あ゛あ゛ぁん!? 今、何つった!! この大口ゴリラ!!!」

 

シャルティアとマキナの噛みあっているんだか、いないんだか分からない主談義に呆れと嫉妬で

耐えられなくなったアルベドが参戦し、一気に修羅場となった闘技場の一空間。

守護者男性陣はその場から離れることを決めた。

 

「あー……アウラ、後は頼んだよ、女性の事は女性に任せた方が良いだろうしね」

 

「ちょっ、ちょっとデミウルゴス!! あのメンドクサイ二人とマキナ、あたしに押しつける気!?」

 

「危険と感じたら顔を出すよ」と手を振りながら背中越しで語るデミウルゴス、

それに自然と混じるマーレとコキュートス、見事な逃走術である。

 

「フゥ…ヤレヤレ、喧嘩スル様ナ話デモナカロウニ」

 

「私個人としては二人の喧嘩の行く末、大いに興味がありますがね」

 

「何故ダ? デミウルゴス」

 

「ナザリックの将来と戦力の増強、という意味でだよ」

 

「そ、それって…つまりどういう意味ですか? デミウルゴスさん」

 

「なに、モモンガ様が残られてソウソウ様も帰って来て頂いた。 それは大変喜ばしい事だが御二人が遠くへ旅立ってしまう可能性も同時に考えなければならない。

故に我々が新たに忠義を尽くすべき支配者の後継を残して頂ければ、と思ってね」

 

「つ、つまりえっと……モモンガ様とソウソウ様のどちらかの、

あ、あるいは両方の御世継ぎを二人の間に作って欲しいって事ですか?」

 

「まぁ、彼女達に限った話では無いのだけれどね」

 

「ソレハ不敬ナ考エヤモシレヌゾ、デミウルゴス。 我等ハ唯忠義ヲ尽クスノミダ、

サスレバ至高ノ方々モ必ズヤ、ソウソウ様ト同ジ様ニ戻ッテ来テ頂ケル筈ダ」

 

「勿論、私もその考えは理解しているよ、コキュートス。 けれど想像してみたまえ、モモンガ様とソウソウ様の御世継ぎに忠誠を誓う姿を」

 

デミウルゴスの言葉でコキュートスは瞬時にトリップ状態に入る。

二人の子供達を想像した彼の表情は人間であれば、だらしなく弛緩したものだというのが分かっただろう。

 

 

 

「デミウルゴスさん、面白そうな話してますねー。 混ざっても良いですか?」

 

突如、現れたマキナに驚く守護者男性陣。

気付いていないのはいまだに妄想の海から抜け出せないコキュートスだけだ。

 

「マキナ……向こうの喧嘩は終わったのかい?」

 

「いえ、と言うかアレは喧嘩じゃなくて二人とも仲良くじゃれ合ってるだけですよ。

面倒になったので後はアウラに丸投げしてこっちに来ちゃいました」

 

「やはり……女性の事は女性に任せて正解だったようだ。 そうは思わないかね? マーレ」

 

「は、はい……そうですね」

 

マキナの発言に二人はうんざりとした気持ちになる。

女性の友情観とは本当に分からない。

 

「で? モモンガ様とお父様の御世継ぎに関してのお話でしたっけ? 私も興味ありますよ」

 

「意外だね? 君はソウソウ様を誰かに取られたくないという独占欲が強かった様に思えたが」

 

「んー…それは否定しませんが、他の至高の方々と違ってお父様は私を『娘』として創造されたのでご寵愛を受けたい気持ちは強いんですけど、“そういう感覚”はどうも分からなくて」

 

「そ、そういうものなんですか?」

 

「そういうものだよ。 マーレ、ちょっと失礼」

 

そう言ってマキナはいきなりマーレを抱きしめる。

 

「マ、ママママキナさん!?」

 

「………うん。 ありがとう」

 

パッと離れたマキナは返す形でデミウルゴスに抱きつく。

ソウソウが見たら「マーレならまだしもデミウルゴスはまだ早い!」と言わんばかりの

シチュエーションだ。

 

「うぉー……デミウルゴスさん、結構良い体してるんですね」

 

「………一体、君は何がしたいんだい?」

 

「まぁまぁ、ところで私の体、柔らかいでしょう?」

 

「…確かに、球体関節の自動人形とは思えないが……流石はソウソウ様に最高傑作と

呼ばれただけの事はあるようだね」

 

デミウルゴスの言葉を聞いて体を離したマキナは二人に自分の想いを語る。

 

「お父様は私の体を人形でもあり、生物でもある中間の存在として創造されました。 

その理由は『そのどちらも愛し、どちらも守れる女性になって欲しい』との事です。 

ですから私の使命とは至高の御方であるモモンガ様とお父様、お父様の工房をお守りする事。

次がナザリックに居る皆さんを大切に想い、その為に行動する事。

その原動力となる“家族愛”こそがお父様が私に授けてくれた愛なのです。

今のハグはその想いを再確認する為のものでした。 ご無礼をお許しください」

 

そう、一礼した彼女は相変わらずの無表情だ。

しかしその想いが本気であるという事が感じられたのかマーレは少し涙ぐみ、デミウルゴスはその顔に普段の作り笑いでは無い、本当の微笑を浮かべていた。

 

「でも、モモンガ様とお父様が私との御世継ぎを欲しいとの事でしたら身体改造しても産める様にするのでそこは頑張ります!」

 

二人はその発言に心がガクッと落ち込んだ。

空気の読めなさも父親譲りらしい。

 

「何か急に皆にハグしたくなってきた……でも武人であるコキュートスさんとは槍で突き合いたいし……悩むなぁ…」

 

女性の事は分からないと感じたばかりだが、彼女はそれに輪を掛けて難解だ。

その掴み所の無さは創造主であるソウソウ様に通じる所があるな、とデミウルゴスは眉間に出来た皺を指で戻す事にした。

 

するとそんなやり取りの間に妄想の海を泳ぎ切ったコキュートスがこちらに戻って来た。

 

「フゥム……何トイウ素晴ラシイ光景カ……アレコソマサニ望ム光景ダ」

 

「コキュートスさん! 良かったらこれから私と突き合っ………」

 

「そうかね!? それは良かったよ。 ……二人とも! じゃれ合いは終わったのかね!?」

 

これ以上彼女のペースに乗せられる訳には行かないとばかりにデミウルゴスは話の流れを戻すことにした。 今回のMVPは彼で間違い無いだろう。

 

 

その言葉に答えたのは睨み合っている当の二人では無く、疲れ切った表情のアウラだった。

 

「マキナめ……ってじゃれ合い…? うん、確かにそうだったかのも。

それは終わったよ。 今やってるのは……」

 

「単純に、第一妃はどちらが相応しいかといわす問題ね」

 

「至高の御方が一人しか妃を娶れないなんて奇妙な話。 なら、どちらが正妃になるかを……」

 

「モモンガ様のお考えは分かりませんけど、お父様のお妃候補なら私、知ってますけど?」

 

その場にいた全員が何時の間にかコキュートスと共に槍を構えていたマキナに注目する。

守護者相手の模擬戦の為か、それとも寵愛を受けている者に対する嫉妬心からかその髪はザワザワと揺らめいている。

 

「ニグレドさんです。 モモンガ様が伝言(メッセージ)でお呼びにならなかったらきっとお二人は私の目の前で最後まで……」

 

 

―――――――時間が静止した。

 

 

そんな中でデミウルゴスは一人頭を悩ませる。

一体、何時になれば自分達は本来の仕事が出来るのかと……。

 

 




マキナ、綺麗な事言ってますよね。 
でもこの発言は結局他の守護者達と同じく「ナザリック外の存在は無価値」という基本的な考えから来てるのでそれ以外の種族に対しては「マキナ・オルトス容赦せん!!」というスタンスです。
恐いですね。

彼女は「カワイイ」と思ってる人にはタメ口で、「カッコイイ」と思っている人には丁寧語で話しかけています。
今後出てくるナザリックメンバーに対する反応で彼女が彼等の事をどう思っているか知って貰えたらな、というのも書いてる楽しみではあります。

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