オーバーロード~至高の人形使いと自動人形~   作:丸大豆

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十五話

カルネ村 周辺の森―――――

 

 

「ウェストさん……もし相手が“森の賢王”だったとしても、モモンさんは大丈夫ですよね?」

 

「そうだね……今、モモンさんが戦っている魔物が君の言っていた存在だったとしても彼が

『大丈夫だ』と言った以上、僕は何も心配してないよ」

 

僕等は現在、薬草採集をしていたら突如、蛇行しながらこちらに向かって来る魔物の存在を野伏(レンジャー)のルクルットさんが感知したので、しんがりをアインズさんとナーベラルに任せて森から退避していた。

先程、ンフィ―レア君が言った“森の賢王”とはこの森の周辺を縄張りとしている強大な存在で

アインズさんが戦っているのはソイツである可能性が高い……いや、間違い無いんだろうけど。

 

「……バレアレさんと…私達の身の安全を守る為にウェストさん達が付いて来てくれたのは有難いですが……本当であれば貴方もモモンさんと共に闘いたかったのでしょうに…申し訳ありません」

 

僕とンフィ―レア君の会話を聞いていた漆黒の剣のリーダー、ぺテルさんは僕に頭を下げてくる。

どうやら、彼……いや、彼等全員が自分達の力量不足に落ち込んでいる様子だ。

 

「…モモンさんは“冒険者”です。 依頼主の安全確保は当然の判断ですし、共に仕事をしているアナタ達がンフィ―レア君を守って此処まで戻って来れる事を信頼して任せたのですから、手伝いである僕達がすべき事はそのサポートに他なりません」

 

「「「「………………」」」」

 

その言葉で漆黒の剣の皆さんはさらに口を閉ざしてしまった。

多分僕の言った事に「頭では分かっているけど心で納得出来ない」と言った感じなのだろうけど……こちらとしてはむしろ彼等が強かったら面倒な事になっていたので正直な話、助かっているのだが。

 

だって、今アインズさんが森の賢王と戦っているのはハッキリ言って“自作自演”だし。

 

 

――――――――――

 

 

「……森の賢王をおびき寄せて戦う、ですか」

 

「はい、私は道中で彼等に人食い大鬼(オーガ)を一刀両断にして見せましたが、それでは名声を高める為のインパクトが少ないんですよ」

 

僕等はナーベラルに「今後はこういう事が無い様に」と自分達の失敗は一先ず置いておき、

反省させる為に叱った後、空き時間を利用して今後の事を話し合っていたのだが、アインズさんの案に僕は感心した。

 

「成程……この世界に居る伝説の魔獣を討伐出来れば実力を示すには十分ですもんね。

そういえば……此処に来る途中でアウラに会いましたけど、近場にそんな奴が居たみたいな事を言ってた様な……」

 

「え? ウェストさん、あの子に会ったんですか?」

 

僕等三人が昨日、エ・ランテルからカルネ村まで向かったルートは正規の森沿いを歩くのでは無く、“森の中を突っ切る”という常人なら危険過ぎてまず通らないという物だった。

森に入って少ししたらナザリック周辺の森林地帯の探索を命じていたアウラが何事かと思って僕等の前に姿を現したので、彼女から探索状況を聞きながら一緒に村近くまで移動して来たのだ。

 

「アウラと…彼女の話を聞いた限りではマーレもちゃんと仕事をしてくれているそうですよ。

その時は感謝していると頭を撫でたんですけど、後でちゃんとしたご褒美をあげなきゃですね」

 

「そうですね…。 彼女達は私達の為に働く事を当然だと思っているのでしょうが、『信賞必罰』という言葉もありますし今後、良い働きをした者には相応の褒賞を与えるべきでしょう」

 

ある意味で欲の無いナザリックメンバーに対しての褒賞関係の話に移行しかけてしまい、僕等は

気を取り直して森の賢王の話を本筋に戻す事にした。

 

「……なら、僕等は話を広めてくれるであろう、ンフィ―レア君と漆黒の剣を守る事にします。

森の賢王の誘導はアウラ、退治するのはモモンさんとナーベにお任せ、という事で」

 

「ええ、分かりました。 ウェストさん、宜しくお願いしますね」

 

 

―――――

 

 

「……………失敗したなぁ(ボソッ)」

 

「……? ウェストさん、どうしました?」

 

「いや……何でもないよ、ンフィ―レア君」

 

で、誘導して僕等の方に向かわせたのは良いんだけど、彼等からすれば正体不明の存在が近づいて来たら、そりゃ姿なんか確認せずに逃げるよね…。

結果として僕等は現在、アインズさんの活躍を彼等に見せられずにそのまま森の出発地点まで普通に護衛しながら戻って来るという体たらくだ。

正直、森の賢王がどんな造形をしているのか実物を見てみたかったのだが、アインズさんなら

殺したとしても体の一部を持って来てくれるだろうし、それで満足するしかない、か…。

 

「ウェストさんは……モモンさんとの付き合いは長いんですか?」

 

「…故郷の家族よりは時間が短かったけど、ある意味でそれ以上に濃い付き合いはしていたかな。 どうしてそんな事を訊くんだい?」

 

「いえ、ウェストさんが彼を全く心配していないので、とても信頼されているんだなと感じて……」

 

実際の所、僕がアインズさん達を心配していないのは戦っている相手の推定戦闘レベルをアウラから聞いていたからなのだけど……事情を知らない彼からすればそう見えるのか。

まぁ、ギルマスの実力を信頼しているのは確かなんだけどね。

 

「僕が昔……今よりずっと弱かった頃にモモンさんに助けられた事があってね。

その時の彼の強さを知っている身からすれば、心配なんてむしろ失礼な位さ」

 

「やっぱり二人とも凄いな……ウェストさんが僕に話してくれた冒険をモモンさんも経験しているんだから、今の状況もきっと…大丈夫なんでしょうね」

 

「むしろその冒険で当時、不慣れだった僕のサポートをしながら多大な戦果を上げていたのは

モモンさんを初めとする、今は散り散りになったメンバー達だったんだ。

彼等は今でも僕にとって尊敬する大切な……本当に大切な仲間達だよ………」

 

「今のウェストさんの雰囲気……昨日のモモンさんに似てますね」

 

昔を思い出してしんみりしてしまった僕にンフィ―レア君は穏やかな声音で語りかけてくる。

彼は基本的に聞き上手で余計な事は言わない……のだが、今は僕等に興味を持ってくれているのか普段よりも若干、グイグイ来る感じだ。

マキナとシズには現在、漆黒の剣の皆さんの話相手になって貰っている事だし、

ギルドの事は省いた上で彼には僕の事を話しても大丈夫かな?

 

「……かつて、モモンさん達のチームに入る前、僕には大切な女性が居たんだ。

ンフィ―レア君にとってのエンリちゃんみたいな存在がね」

 

「そうなんですか!? ウェストさんにとっての大切な女性……って、“かつて”という事は…」

 

「うん。 人身事故で亡くなってしまってね……彼女を死なせた人には過失が無かったから当時は誰を、何を恨めば良いのか、そもそも自分に生きる意味はまだあるのだろうか、何て本気で考えていたよ」

 

「………………」

 

「そんな心情はきっと分からなかったんだろうけど、見ず知らずの僕を『放って置けなかった』

って理由でモモンさんは自分のチームに引き入れてくれたんだ。 とんだお節介だよね」

 

「はい、僕もそう思います………けれど、同時にとっても立派な人だとも思えます」

 

ンフィ―レア君の言葉に僕は無言で頷く。

モモンガさんのその一言が当時の僕を救ってくれたのは確かだったから…。

 

「その後は本当に楽しかった…和を重んじるけれどルクルットさん以上に下ネタばかり言ってた人、そんな彼にニニャさん以上の冷たくドスの効いた苦言を放つ彼の実の姉、ダインさんの様に寡黙で情熱的に自然を愛した人、チームの父親役を務めていた人はぺテルさんに少しだけ似てるかな?」

 

「へぇ……モモンさんから少しだけ特徴は聞かせて貰いましたけど、そんな方達だったんですね」

 

おっと…漆黒の剣をついギルドメンバーと重ねてしまったが、彼等は彼等で良いチームなのだから比較するのは失礼だろう。

どうやら僕も、アインズさんに負けず劣らずギルメン不足らしい。

 

「そんな彼等のお陰で僕の彼女を失って空いた胸の空白は完全に埋まったのだけど、

ンフィ―レア君……大丈夫だと思うけれど、君には僕と“同じ道”は通って欲しく無いんだ」

 

「えっ!? ウェストさん、それって………」

 

彼は僕の突然の言葉に驚いた様子だったが少し考えた後にその意味を理解して、

ほんの少し目を伏せる。

そう、今の話が美談で済むのは僕が“失った後に得る事が出来た”からだ。

だったら、そもそも―――――

 

「ンフィ―レア君には今、手元にある大切な物を失って欲しくないのさ……。

僕はある意味で失ったからこそ今の強さを手に入れた…けれど、君は失わずに強くなって欲しい。

それがエゴだというのは分かっているんだけどね」

 

「なれるんでしょうか…? 僕もウェストさんの様に強く、立派な人に………」

 

彼の言葉に僕は今まで閉じていた目を開け、心の底から湧き上がった笑顔を作って答える。

 

「なれるさ。 僕なんかよりもずっとね」

 

「……エンリから聞いていた通りだ。 ウェスト……ソウソウさんの瞳ってとっても澄んでいて、綺麗なんですね」

 

そのお世辞では無い本当の賛辞に気恥ずかしくなってしまい、慌てて目を閉じたがそれでも彼から伝わる尊敬の眼差しがどうにも僕の心を平坦化させてしまう。

 

「あー……おほん。 実は今の話ってモモンさん達にも言った事が無い僕のトップシークレットだから、君の胸の中だけにしまっておく事…約束できるね?」

 

「はい…分かりました。 ソウ……ウェストさん」

 

僕等は二人だけの秘密の約束をした後、互いに顔を見合わせて笑い合う。

うん、彼は本当に僕の中でナザリック外の癒し要員だね。

ポーション職人としても利用価値があるし、是非とも保護しておきたい所だ。

 

「ところでウェストさんって………今は居ないんですか? その……“大切な人”って」

 

「……おっと、突然の恋バナとは……君も中々に距離を詰めてくるね。

まぁ、男性で強いて言えばモモンさんだけど、女性となると………」

 

「じょ、女性となると……?」

 

純情少年の思った以上の食い付きにおじさんビックリですよ。

さて…誤魔化しても良いんだけど、彼にはなるべく正直に話したいし、どう説明するべきか……

 

「一人はさっき言った彼女の娘の……サウスだね。 顔立ちに関しては(真っ当な)笑顔を見せてくれない以外はそっくりで、年齢の差もあって僕の妹……“家族”として接しているよ」

 

「き、既婚者の方を好きだったんですか!? いえ、いくらウェストさんみたいに魅力的な人でも旦那さんが居ては………」

 

言い方が悪かったとはいえ、思考がアブノーマル路線に突入しそうなンフィ―レア君に僕は

「彼女には旦那さんが居なかったから」という“本当の事”を話して落ち着かせる。

考えてみれば当時、麻紀ちゃんとは恋愛関係の話をした事が無かったけど彼女には誰か好きな人が居たんだろうか? 居たとしたら軽くショックだな……勿論、祝福はしただろうけど。

 

「もう一人は僕とモモンさんの友人の娘でね。 (外見)年齢は僕と同じ位で人に対して時に優しく、時に厳しい態度の心に芯を持った、とても綺麗で尊敬できる女性さ」

 

「……今の言い方だと、“どっちとも取れる”発言でしたけど、ウェストさんはその女性の事をどう思っているんですか?」

 

「うん……そこなんだよ。 サウスとは違う意味で“家族”みたいに思っているし、人間的に尊敬しているのも間違い無い……んだけど、決してそれだけじゃ無いと思っているのも事実なんだ」

 

「…ウェストさん程の人がそこまで悩むなんて、やっぱり一番分からないのは自分の心なんでしょうね………」

 

ゴメンね、ンフィ―レア君。 答えの見つからない問題に君を付き合わせちゃって…。

実際問題、僕もニグレドに対してどういう風に接すれば良いのか未だに掴みかねている所だし。

 

「お兄様のその話に……私、興味津々です」

 

「………サウス姉、はしたない」

 

僕の大切な人談義が始まった途端、じりじり近づいてくるマキナとそれを止めるシズの気配は感じていたが、もう何なのこの娘……漆黒の剣の皆さんも興味があるのかチラチラとこちら見て来てるし、アラサ―のそういう話に興味持ち過ぎでしょ君等…。

 

「宜しければ……私達にもウェストさんの事を教えて貰っても構いませんか?」

 

「モモンさんもウェストさんもやっぱ好きな子の為に戦ってるから強えーんだろうなって思っちまって、そこんとこ詳しく教えて欲しいっす!」

 

「うむ! ウェスト氏の強さはサウス女史とノース女史から聞いたが、その根源を是非とも御教授願いたいのである!」

 

「…すいません、ウェストさん。 男って皆どうしてもこういう事になると気になってしまって」

 

その後、何だか恥ずかしくなってしまったので、代わりに漆黒の剣の方々には自分とアインズさんの当たり障りの無い冒険譚を聞かせたのだが、「モモンさんといい、やっぱり男は顔じゃ無い」やら「あの枯れ木の様な細腕にどれだけの筋量が」やらとサラッとディスられていた様な気がしないでもないけど、彼等が満足してくれていた様で安心した。

マキナとシズも僕達のそういった話は聞いた事が無かった為か、表情は変えなかったが驚きの声を上げながら相槌を打ってくれる。

 

うん…この心が穏やかになる感覚、良いなぁ。

やっぱり外に出たのは正解だった……インスピレーションが湧き上がっていくのを感じる。

 

僕等が和気あいあいと話していると、背中辺りから拗ねた様な声が聞こえた。

まったく、良い気分だったのに一体誰が―――――

 

「………随分と楽しそうですね、ウェストさん」

 

「ウェストさん、只今戻りました」

 

「………いやー、無事戻って来るって信じてましたよ……モモンさん、ナーベ」

 

やば……すっかりアインズさん達の事を忘れて話しこんじゃったよ。

本当ですよ! 本当に無事に戻って来ると信じてたんですよ!!

だからギルマス、そんなメール返信をしなかったから拗ねた女の子みたいな雰囲気を纏わないで!!

 

 

その後は皆がアインズさん達が無傷である事に喜び、彼を取り囲みながら賞賛の言葉を送っていたが、ルクルットさんは僕も感じていた彼の後ろに隠れた存在を感知し、怪訝な表情だ。

 

「モモンさんよぉ、あんたの後ろに居るヤツは一体何だ? 敵意を感じないから危険は無いって思うが……」

 

「僕もさっきから髪に反応していましたが、まさかモモンさん、アナタの背後に居るのが……」

 

ルクルットさんが先に言ってくれたお陰で僕もそれらしく彼の背後に居る生け捕りにしたであろう“森の賢王”の存在を皆に伝える事が出来た。

さてさて、もっと近づいて早く全体像を知覚させて欲しい。

生物学に関してはさっぱりだけど、ンフィ―レア君から話を聞いて造形的には凄く気になっていたからね。

 

「ええ、ウェストさんの想像通り森の賢王ですよ。 私はヤツと戦い、ねじ伏せて来たんです」

 

そして森の賢王はアインズさんに「おい、来るんだ」とまるでペット感覚で呼びつけられながら

僕達の前に姿を現す。 その姿は正に―――――

 

 

“ジャンガリアンハムスター”、又は“ドワーフハムスター”と言われる可愛らしいネズミだ。

ただし、その大きさは僕よりも遥かに巨大で庇護欲は若干落ち気味になっている。

 

ナザリックメンバー以外が警戒して武器まで構え、一歩引いている状況で僕はソイツに向かって

逆に一歩、また一歩と歩を進める。

最初はゆっくりだったその歩調は段々と早足になり、最終的には全速力で目標に向かって―――

 

 

―――――ガッシィン!!!

 

 

「あっはっはっはっはぁー!! 何だコイツ!? 何だコイツ!? 何だコイツぅー!?」

 

指の繰り糸もフル可動させた状態で森の賢王を抱きしめ、頭を高速で擦り付けた。

痛くしない様に配慮はしているつもりだが、たとえ痛かろうとも今のテンションの僕には知った事じゃ無い!

だってこの生物は―――――

 

「大きいのに! こんなに! 大きいのに!! 可愛さを保ってるなんて面白いなぁ!!!」

 

「な、な、何でござるか殿!? この力は!? それがしが幾ら抵抗しても微動だに出来ないでござる! なのに撫で方が異様に優しくて逆に恐怖を感じるでござるよ!!」

 

「あ、あの…ウェストさん、そんなに興奮しなくても………」

 

「ヤッベヤッベヤッベー!! これは興奮せずにいられませんって!! “大きいのに可愛い”

なんて僕の今までの価値観を覆す正しく革新的な存在!! しかも喋れるとか!!

モモンさん、こんな魔物(ヤツ)を従えるなんて凄い……これで無敵ですよ!!」

 

「いえ、戦力的には別に無敵ではない…というか、あなたはどういう意味で言ってるんです?」

 

「いやいやいやいやいや! そんなもん“造形的な在り方”に決まってんでしょ!!

ええい! ここは一晩かけてでもじっくりと語るべき―――――……ふぅ」

 

心が平坦化したので僕はさっさと森の賢王(ハムスター)から繰り糸と体を離す……いかんいかん。

「やってしまった」という思いと共に周りを確認するとその反応は―――――

 

「一切の無駄の無い距離の詰め方…ウェストさん、貴方という人はどこまで……」

 

「あれ程の強大な力を感じる魔獣の動きを完全に封じるとは…ウェスト氏もモモン氏と並ぶ英雄級の実力者であると認めざるお得ないのである!」

 

「あんだけの実力を見せつけられちゃ、モモンさんといい…傍に美人を侍らせてても納得だわ」

 

「しかも、あの見る限りに恐ろしい魔獣に対して『可愛い』なんて……器の大きさを感じます」

 

「「(えっ!?)」」

 

ニニャさんの言葉に僕もアインズさんもビックリする。

だって“コレ”、ハムスターだよ? むしろ恐ろしいなんて感想に驚きだよ!

 

「いや……皆さん。 私もウェストさんと同じく、この魔獣の瞳を可愛いと思っていますが」

 

「ええ…このずんぐりとした体つきと、ちょこんと出た前歯に癒しを感じても恐ろしさは…」

 

僕等の言葉にその場に居た全員が「ありえない!」という目を向けてくる。

え? ちょっと待って? 僕等がおかしいの? ちょっと自信無くなって来たんだけど……。

 

僕とアインズさんは彼等と自分達との価値観の相違に戸惑っていたがアインズさんが恐る恐ると、しかしはっきりとした口調で僕等と共通認識を持っているであろう、ナザリックの三人娘に声を掛ける。

 

「ナーベ、サウス、ノース…お前達は“コレ”を見てどう思う?」

 

「実際の戦闘力と知能はさておき、力強さと知性を感じさせる姿ではあると思います」

 

「私もナーベちゃんと同意見ですが、モモンさんとお兄様の御寵愛を受ける程の魅力ある存在とはとても思えません」

 

「………抱きしめて、頬ずりしたい」

 

よっし! シズは僕等と同意見だな……いや、「カワイイ」って意味でだよね?

でもナーベラルとマキナは何であのハムスターにそこまでの高評価を付けてるの?

しかも何かマキナは若干の嫉妬が含まれた視線を向けてるし……あーもう、怯えてるからやめなって、折角手に入れたのにストレスで早死になんてシャレにならないから…。

 

 

 

恐ろしい魔獣を可愛いと評する僕達二人の度量に対して注がれる賞賛の言葉に当の本人としては「この世界は何かおかしい」と頭を悩ませていたのだが、ンフィ―レア君が不安そうに声を掛けて来たので取り敢えずは意識をそちら切り替えて話を聞く事にする。

まぁ、何を心配してるのかは分かっているのだけれど。

 

「……その魔獣がこの一帯を縄張りにしていたのなら連れ出した場合、勢力図が変わってエン……カルネ村に被害が及ぶ可能性はありませんか?」

 

その言葉に僕とアインズさんは内心で「計画通り!」とガッツポーズをする。

 

「ふむ、確かに………おい」

 

「むむ! 殿はそれがしの意見をお求めでござるか? 任せて欲しいでござる!!」

 

そしてアインズさんが森の賢王(ハムスター)に顎をしゃくると彼(?)は自分が認めた主人の命令に喜んでいるのか髭を震わせながら話しだす。

しかし、この見た目大きいハムスターが「それがし」とか「ござる」とかやたら武人っぽく喋っているのはギャップがあってどうにもツボる。

僕等の頭の中で翻訳されて最適化された言葉使いなのだろうがマジで違和感しか無い。

 

そして森の賢王(ハムスター)がンフィ―レア君に「最近は辺りが物騒になってきたので、もう自分が居ても安全とは限らない」と伝えると彼はショックを受けて顔を俯かせてしまった。

そんな姿を見るのは少しだけ心苦しいがこれも僕等のコネ作りの為だ、勘弁して欲しい。

 

「………モモンさん、ウェストさん」

 

「……何でしょうか?」

 

「……僕等に何か頼み事かい?」

 

ンフィ―レア君はしばらく悩んでいたが腹が決まったのか、僕とアインズさんに声を掛けてくる。

彼が僕等の正体に気付いたのであれば、もう一度村を守って欲しいと頼んで来るであろうと踏んでいたけど、思った以上に時間が掛かったのは僕等の迷惑になるんじゃないかと気を使ってくれたからだろう。

でも大丈夫。 君にそうやって恩を売っておきたいというのが僕等の狙いだから。

 

カルネ村に関しては利用価値が高いので言われなくても守るつもりだったけど、アインズさん曰く「頼まれる」というのが重要らしく、ンフィ―レア君には貸しを作って情で縛りつけたいらしい。

こういう発想が僕には出て来ないから、ギルマスが彼で良かったとつくづく思うよ。

 

しかしンフィ―レア君が口にした言葉はそんな僕等の思惑を超える物だった。

 

「お願いします! 僕を貴方達のチームに入れて欲しいんです!!」

 

「「はいぃ!?」」

 

「僕だって男です。 出来る事なら自分の力でエンリを…カルネ村を守りたい。 でも、今の僕の実力じゃそんな事は夢のまた夢だって事は分かってるんです……ですから、その為にお二人の強さの一端を是非とも教えて貰えないでしょうか!?」

 

ンフィ―レア君のお願いにギルマスであるアインズさんはフリーズしてしまったので僕が代わりに受け答えをする事にしたのだが、まさかの入団希望とは……ホントに想定外だ。

 

「……僕等を長期的に雇うのは金銭的に無理だから、代わりに僕等のチーム入りたいって事?」

 

「自分でも勝手な事を言ってるのは承知の上です……でも、僕も今まで薬師として勉強をしてきたので薬学に関して多少は自信がありますし、どんな雑用係でも決して文句なんて言いません!

ですから……どうかお願いします!!」

 

「成程、『魔法詠唱者(マジック・キャスター)か錬金術師のどちらかを僕達の下で極めて大切な人を守る』、それが…道を決めかねていた君が選んだ答えなんだね?」

 

その言葉に彼が力強く頷いたのを見て、覚悟の程はハッキリと伝わった。

さて……僕の答えは決まっているがアインズさんはどう答え―――――

 

 

「ふふっ………はははっ、はははは!!」

 

 

笑っていた。 けれどそれは決して悪意が一切感じられない、穏やかで綺麗な笑い声。

そして笑い声が止むとヘルムを脱ぎ、彼に対して真摯な態度で深々と頭を下げる。

その対応にナザリックメンバーは皆、驚いているのを知覚できたが僕は驚かない。

笑いこそしなかったが僕もギルマスときっと気持ちは一緒だからだ。

 

「ンフィ―レア君、今モモンさんが笑ったのは君の決意を馬鹿にしたからじゃないんだ。

そこは分かって欲しい」

 

「……ウェストさんの言うとおりだ。 だが、この場では不適切だったという事は理解している。 気を悪くしてしまったのなら本当に、申し訳無い」

 

「い、いえ! 大丈夫です、僕は気にしてません」

 

「ありがとう。 まず私達のチームに入るには二つ条件があって、君はその内の一つしか満たしていない…すなわち君が加入する事を認める事が出来ないんだ…残念だがね」

 

そう、そしてこれは僕も入ってから教えて貰ったのだが隠し条件として

“ギルドメンバーの過半数の賛成”も必要なのだ……だからそれを知った時は本当に嬉しかった。

 

「僕としては条件を満たしていても君の加入を認める気は無かった…その理由は分かるね?」

 

「―――――っ! ……『“同じ道”は通って欲しく無い』、そうでしたね」

 

「うん…君は君だけが持てる強さで僕等を追い抜いて欲しいのさ。 でも、僕等のチームに

入りたいって言ってくれた君の気持ちは決して忘れないよ。 ね? モモンさん」

 

「ええ、その通りです…って、ウェストさん……彼と何を話したんですか?」

 

「いやいや、そこは男同士の秘密って事で………だよね、ンフィ―レア君?」

 

「はい! その話はウェストさんと“胸にしまっておく”って約束しましたから!」

 

アインズさんは納得がいってない様子だったがその姿を見ていたニニャさんからの温かい眼差しを受けて照れたのかそっぽを向いてしまったので、今の内にとンフィ―レア君に話しかける。

 

「その代わりと言ってはなんだけど“友人として”カルネ村に力は貸すし、状況に依って戦い方も少しは教えられると思う。 勿論、君さえ良ければだけど―――」

 

「よ、宜しくお願いします! ウェストさん!!」

 

「ああ、こちらこそ宜しくね。 ンフィ―レア君」

 

そう言って僕等は互いに微笑みながら握手を交わした。

それを見たアインズさんはヘルムを被り直した後に同意の意味を込め、穏やかな所作で僕等二人の肩を抱きながらある提案をする。

 

「二人とも、その話の詳細は帰りの道中でするとして、少し魅力的な話があるんです。

私が森の賢王の服従させた事によって得られた恩恵なのですが―――――」

 

その話を聞きながら僕は軽く後悔していた。

それは内容に関してではなく、今の状態では幻術で作ったと聞いたアインズさんの素顔を確認出来ない事に今更気付いたからだ。

皆から散々な評価を貰ったというその顔、ナザリックに戻ったら絶対に見せて貰おうっと。

 

 




森の賢王、大きさと可愛さが反比例しないというのは大変素晴らしい。
アインズさんは淡泊な反応でしたけど造形廚のソウソウからすれば大変興味深い存在です。

前回でソウソウにとってンフィ―レア君はもう一人の弟の様に思っていると書きましたが、逆にンフィ―レア君にとってのソウソウは兄の様な、亡き父を連想させる様な存在として今回は書いてみました。

書き上げてみてこの二人の関係性はとても気に入ってますが、それ故に次回の展開は心苦しくなるのでその元凶に相応しい結末を現在、考え中。

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