オーバーロード~至高の人形使いと自動人形~   作:丸大豆

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十四話

カルネ村―――――

 

 

「―――――それで彼女はポーションを売らなかったと?」

 

「はい。 僕としては売った方が良いんじゃないかと思いましたが……」

 

僕等は現在、カルネ村の中で想い人であるエンリと話しているンフィ―レア君と、互いの装備の

確認をし合っている漆黒の剣の皆さんから離れた所で昨日の件ポーションの件を話しあっていた。

昨日の段階で手放さなかったという報告はしていたのだが、理由についてはちゃんと説明できていなかったし。

 

ちなみに僕等から離れさせたマキナとシズはナーベラルと一緒にガールズトークをしている。

内容は乙女の秘密を覗く気は無いので知るつもりはないが。

 

「ふむ……まぁ、彼女も他に手に職を持っていなければ妥当な判断だとは思いますけどね」

 

「……そういう物ですか? この村のなんかは小鬼(ゴブリン)という亜人の存在も受け入れている所ですし、売却したら、此処で自警団としてのんびりやるのも悪くないかと思いますけど」

 

「……私も誰も居なくなったギルドを維持していて思った事ですが、人間は今居る立ち位置から落ちていく事を極端に嫌がります。 その時が輝かしければ輝かしい程に………」

 

その言葉に僕は何も言えなくなった。 彼を一人にしてしまった負い目は未だにあるからだ…。

 

「彼女は……現状の冒険者という立ち位置に満足しているんでしょうね。

ウェストさんの言うとおり、この村なら受け入れてくれるのでしょうが…それは全部を失った後の最後の選択です。 今はまだ、その時では無いと言う事なんでしょう」

 

「……そうですね、ありがとうございます。

僕も彼女……いえ、“今を精一杯に生きている人”に対しての考え方が浅かった様です。

昔から『お前は考え方が短絡的過ぎる』って人から注意されたのに…変わってないなぁ……」

 

僕のそんな心は即座に平坦化する……思った以上にショックだったらしい…。

この事をアインズさんに言われるまでも無く気付いていれば、彼女に対するアプローチも

変わっていただろうに……失敗だ。

 

「場合によってはそれが必要な時もありますけどね。 でも、ウェストさんには精神的に何度も助けられたので今回は借りを少し返せたって思えて、私は少し気分が良いですよ」

 

「……僕の方が余程、モモンさんに助けられてますよ。 むしろ、今の心にズシンと来る諭し方はたっちさんを思い出して頭が上がらない気分ですね」

 

僕の言葉に彼は「そんなに似てましたか!」と喜びの声を上げた。

マジで真似してたんかい。 この人、ホントにたっちさんの事好きだなぁ……。

でもそのお陰で今、目の前に居る頼り甲斐のあるギルマスが出来上がったのだからたっちさんには感謝の念しか無いんだけど。

 

「……それで? 結局、僕は手元に置いておくなら放っても良いとあの時は判断しましたが、

モモンさん的にはこのままで?」

 

「ええ、構わないでしょう。 下手に流出しないのであればそれこそ“現状維持”で」

 

さっきの話の流れをなぞったワードに僕等は互いに吹き出してしまい、穏やかな時間が流れた。

多分、僕一人だったら考えにこんな余裕は生まれなかったんだろう。

本当に、ナザリックの皆とアインズさんには感謝しなきゃね……。

 

「……そうだ、ウェストさん。 さっきみたいなドッキリ、勘弁して下さいよ……心臓に悪い」

 

「いやいや、アンタ心臓無いでしょ……ってやりとりも定例化してきましたね。

でもアルベドにはちゃんと連絡してからやったドッキリなので安全面は大丈夫ですよ」

 

「………ちなみにアルベドは何て?」

 

「『私には分かりかねますがソウソウ様には何か深い考えが御有りなのですね』と言ってました」

 

「………今後、アルベドにはそう言った連絡を聞き流す様に伝えて置きます」

 

あー、ギルマスが拗ねモードに入った。

仕方ないから今後は彼に関係する物で守護者統括を買収するしかないね。

マキナから彼女が頻繁に品評会を開いてるのは聞いてたし、体を洗ったブラシとかで良いのかな?

いや、まずは顔に汚れが付いた時に拭いてあげた僕のハンカチ位から行こう。

そういう物を好む女性が一定層居るのは昔、茶釜さんが女性陣と楽しげに話していたし。

…理由を訊いた時の「ソウソウっちは知らなくて良い事だよ」という言葉が未だに気になるけど。

 

 

 

「……何を話していると思う?」

 

「いえ、分かりませんけど……でも二人とも距離が近いというか、凄く楽しそうですよね」

 

「うむ。 心を許し合った仲間であるが故の穏やかな光景である」

 

彼等から離れた所で薬草採集の警護の為、装備の最終点検を行っていた冒険者チーム〈漆黒の剣〉のリーダーであるぺテル・モーク、魔法詠唱者(マジック・キャスター)のニニャ、森祭司(ドルイド)のダイン・ウッドワンダーの三人は自分達より圧倒的な強者である二人の会話に興味津々な様子だ。

 

「バレアレさんの話を聞いた限りじゃ、ウェストさんがモモンさんの大剣を奪ったあの黒い鞭

みたいな物は自身の異能(タレント)を応用した特別な指輪の効果らしいけど、世界は広いと思わされるよ」

 

「ええ。 普通は自身の生まれながらの異能(タレント)に合った道具を選ぶ所ですけど、あの人の場合は

異能(タレント)で道具を生成している……この時点でただ者では無い事が分かりますね」

 

「……その装備に見合うだけの実力も先程見せられた以上、あの御仁もモモン氏に匹敵する強者である事は間違い無いのである!」

 

「そうですね。 この村を守っている小鬼(ゴブリン)達が明らかな陽動という狙いを見破られた上で

モモンさんとナーベさんから一本取ったんですから、かなりの実力者だというのは感じました」

 

「いや、ニニャ。 ウェストさんの実力に関して否定はしないが、あれはモモンさんも顔馴染みに会ったお陰で反応が遅れたとも考えられないか?」

 

「……確かに。 モモンさん程の人が動きを乱す位に心を許していた仲間……やっぱり、

昨日わたしが言った事って、とっても残酷な事だったんだろうな………」

 

昨夜の事を思い出して落ち込み始めたニニャの背中をダインが優しく叩く。

 

「モモン氏が許してくれた事を何時までも悔いていては彼にとって失礼に当たるのである!

私達が彼等の役に立つ事こそが最大の償いであるからな!」

 

「……それ、『わたし達がむしろ足を引っ張らない様に』に変えた方が良いんじゃないですか?」

 

「はっはっはっ! ニニャの言うとおりだな!」

 

こちらもこちらで気の合った仲間同士の雑談を楽しんでいたのだが、普段は喧しい位だと言うのにさっきから一向に会話に参加して来ないもう一人のメンバーである野伏(レンジャー)のルクルット・ボルブが突然叫び出した。

 

「いぃぃよっしゃぁー! そう! そうだよな! 皆ぁ!!」

 

「…ルクルット、どうしたんですか? さっきまで落ち込んでた癖に今は普段以上に煩いですよ」

 

「ナーベさんがウェストさんの妹さん達と柔らかい表情で話してるのを見て『愛しのナーベちゃんがあんな顔をするなんて……』と言った後に膝から崩れ落ちた時は流石に心配したんだぞ?」

 

「ふむ……で? ルクルットよ、一体…何が『そうだよな』なのであるか?」

 

「決まってんだろ! やっぱナーベちゃんに振り向いて貰うにはこれからやる警護依頼を頑張るっきゃねーって事だよ!!」

 

彼の宣言にメンバーの三人は「あぁ、成程」と納得する。

 

「あの表情は近しい者に向ける類の物ですから、良い所を見せて親密になれば

いつか自分もって事ですね」

 

「その通り! むしろ俺としてはナーベちゃんがああいう顔を見せてくれたっつー事に感動したね!」

 

「…なら、それはルクルットだけには任せておけないな」

 

「うむ! 私達全員の力を彼等に見せつけてやるのである!!」

 

 

すっかり、いつもの調子を取り戻した漆黒の剣の面々。

彼等が各々でやるべき事の為に散開して行く様子を知覚していたアインズとソウソウは心が温かい気持ちになる。

 

「……本当に、良いチームですね。 彼等は冒険者である事に誇りと夢を持って生きている。

あんなに輝いている姿を見せられると、モモンさんが気に入ったのも納得ですよ」

 

「えぇ…彼等は間違い無く私達に比べてか弱い存在だ。 しかし、レベルがカンストした

私達と違ってチームの絆を支えに何処までも強くなれる可能性を持っている」

 

「それは、向こうで小鬼(ゴブリン)達から戦闘指南を受けてるカルネ村の人達にも同じ事が言えますね」

 

「はい。 だからこそ我々は彼等に負けない為に“それ以外の強さ”を手に入れる必要があります。 ウェストさん、これからも宜しくお願いしますね」

 

「………今の言葉、凄くギルドマスターっぽくて格好良かったですよ」

 

「……それは普段の私がそうは見えないって発言にも取れますけど?」

 

これからの未来(ビジョン)をはっきりと見据えているギルマスが何だか眩しくなってつい軽口を

叩いてしまったが、僕の和やかな表情を見てアインズさんは照れた様にそっぽを向いてしまった。

いや、実際に照れているのだろう。 本当、男なのに可愛げのある行動を取る人だよ。

 

僕は遠くで会話をしていた、力を手に入れる理由である“守るべき者達”、家族であるマキナ、

ナーベラル、シズの三人の方へ顔を向ける。

彼女達は一体、どんな話をしているのだろう……。

 

 

 

「今、感じる…お父様が慈しみの波動を私達に向けてくれているのを凄く感じる。 幸せ……」

 

「はい、全くです。 ソウソウ様のお放ちになる慈愛の波動はこの身に余る光栄に他なりません」

 

「………二人とも、呼び方戻ってる」

 

ある意味でナザリック的には平常運転な二人にシズがツッコミを入れる。

その瞳から感情を読み取る事は出来ない筈だが、気の所為かほんの少しの呆れが混じっていた。

 

「…っと、いけないいけない。 ありがとね、ノース。 所でナーベちゃん、話を戻すけど

私も含めて今は大分、守護者が外に出てるけど、現在のナザリックの戦力はどうなってるの?」

 

「はい。 アルベド様への定期連絡で知った情報ですが、デミウルゴス様も今頃はナザリックを離れておりますので実質的に、現在動ける守護者はアルベド様とコキュートス様の御二方だけになります」

 

「………少な過ぎ」

 

「……至高の御二人の決めた事だから私達がとやかく言う事じゃないけど、アルベドさんは

今の状況をどう見ていると思う?」

 

「…一介の戦闘メイドである私にはアルベド様の御考えなどとても想像出来ません―――――」

 

その質問に「自分の領分では無いから」と思考放棄しかけていたナーベラルにマキナは声を掛ける。

 

「至高の方々が私達、ナザリックの者に外界で活動する任務をお与えになったのはきっと、

『自ら学んで成長して欲しい』という狙いが含まれているからだよ。

守護者であろうと、メイドであろうと、下級のシモベ達であろうと、それは変わらない筈。

だから、ナーベちゃんも自分で考えた上でさっきの質問の答えを出してみて」

 

「………分かりました」

 

「………サウス姉、(珍しく)格好良い」

 

本来の立ち位置は同格と言え、至高の存在によって定められた上下関係通りの威厳を見せる事が

出来たマキナはシズの言葉に無表情ながらも「ふふん」と得意げに鼻を鳴らす。

 

尤も、今の考えはデミウルゴスと一緒に話していた時に思いついた事であったが、『私も概ね君と同意見だが、共感能力の高い君の言葉を聞いてより強い確信が持てたよ』とナザリックの知恵袋

からのお墨付きを貰えたので自信はある。

 

マキナがその時の事を思い出していると、考えが纏まったのかナーベラルが発言する。

 

「……現在は敵らしい敵の姿がナザリックの周りで確認出来ないのでアルベド様は至高の方々と同じく、『特に問題は無い』という考えであると思われます」

 

「…だろうね。 だってあの人、外に出るからと私達が挨拶しに部屋に行ったら

愛しの御方(アインズ様)の抱き枕を作ってる最中だったし」

 

「………うん、そうだった」

 

「お兄様は純粋な気持ちで手先の器用さを褒めておられたけど、正直な話…私もノースもあの時は引いちゃったもの……ねぇ?」

 

「……(コクリ)。 目が、怖かった、すごく」

 

ナザリックに置ける至高の存在の頂点アインズの正妃を巡るアルベドとシャルティアの二大派閥。

その中で戦闘メイドの一人、ナーベラル・ガンマはアルベド寄りであったが、今の二人の奇行を

目の当たりにした話を聞いて「自分は中立派に居た方が楽なのでは?」という気分になって来た。

 

「……ちなみに、ウェストさ――んはアルベド様とシャルティア様のどちらがモモンさんの正妃に相応しいと思っておられるのでしょうか?」

 

「…アルベドさんが有利になる条件をお出しになったかと思えばシャルティアの相談にも真剣に聞かれた上でしっかりとしたアドバイスをお与えになったし、お兄様的にはどちらにも頑張って欲しいと思ってるんじゃないかな?」

 

「……つまり、中立派?」

 

「基本的にはね。 でも御友人であるタブラ・スマラグディナ様の娘に当たるアルベドさんには

若干、贔屓目が入っているのは確かだと思うよ」

 

「……成程。 以前、ウェストさんが私達メイドに話し掛けて下さった時も『ニグレドがどんな物を好むのか教えて』と仰っていたのも御友人の娘の嗜好を調べる為だったという訳なのですね」

 

「………あの時の兄様、とっても優しい声だった」

 

「……ちょっと待って。 二人とも、その話詳しく教えて貰える?」

 

どうやらNGワード言ってしまったと気付いた時には既に遅く、100レベルの領域守護者の髪が

ユラユラと揺れるのを目の当たりにした戦闘メイド二人は心の奥底から湧きあがる恐怖に僅かに

その身を震わせていた……。

 

 

僕とアインズさんはそんな美女三人に微笑ましくも「何かヤバい事話してないかな?」という不安の眼差しを向けながら、以前にこの村を襲っていたスレイン法国の連中の背後に居る存在の危険性について話し合っていると、ンフィ―レア君が息を大きく乱してこちらに駆け寄って来た。

一体、何事だろう…?

 

「ンフィ―レア君、どうしたんだい? まさかエンリちゃんに告白したけど振られたの?」

 

「ち、違いますよ! いえ……告白はいずれ、ちゃんとするつもりですけど…って、そうでも無くて!」

 

彼は汗でべっとりしてしまった目元が隠れる位に伸びた髪を掻き揚げて、その真っ赤になった端正な顔立ちを僕等に見せながら、慌てた様に僕の言葉を否定した。

この世界では16歳で成人扱いらしいが彼が見せる初々しい反応は見ていて面白い。

 

以前、彼から「好きな子がいる」という甘酸っぱい話を聞かされたが、その相手がまさか僕等が助けたこの村の娘であるエンリだったとは……偶然とは本当に恐ろしい。

 

「ウェストさん……純情な少年をからかうのは、あまり良い趣味とは言えませんよ?」

 

「すいません、決してからかうつもりは無かったんですけど……ンフィ―レア君もごめんね。

それで…僕達に何か用かい?」

 

「……はい、単刀直入にお訊きします。 以前この村を救ってくれたというアインズ・

ウール・ゴウンとソウソウ…彼等はモモンさんとウェストさん、貴方達の事なのですか?」

 

「―――っ!?」

 

「……何故、そう思ったんだい?」

 

アインズさんがその問いにどう答えるべきか言葉に詰まっているのを感じ、僕がンフィ―レア君

から話を聞く事にした。

気付けば向こうで話していた三人娘達も彼が必死な表情でこちらに来たのを見て何かを感じたのか、何時の間にやら僕等の傍に控える様にして立っている。

……頼むから皆、手荒な事はしないで欲しい…僕は彼の事が本当に気に入ってるのだから。

 

「エンリが傷を負った時にゴウンさんが使用したのが赤いポーションだったという話に引っ掛かりを覚えて、思い返せばナーベさんがカルネ村に来るまでの道中で口にした『アルベド』という女性の名前もその二人の部下の方と同じだった様なので、そう思ったんですが……」

 

彼の言葉にアインズさんは常人には分かり辛く、ナーベラルは目に見えて「やってしまった……」という雰囲気を纏わせた。

うん、これは最早言い逃れ不可な状況だけど……どうしよう?

 

「……僕等が仮にその人物だったとして、君はどうするつもりなんだい?」

 

「はい。 それは……」

 

お願いだ、強請ろうなんて物騒な考えは持たないでくれ…少なくとも僕は君を酷い目に遭わせたくはないんだ……。

 

「この村を……いえ、エンリを救ってくれた事に対してお礼を言わせて欲しいんです」

 

「………成程、ね」

 

「……………」

 

その言葉に込められた想いは僕からすれば純粋な物に思えた。

アインズさんが無言なのも同じ気持ちであれば良いんだけど。

 

「……いや、残念ながら私達は君が考えている様な人物では無い」

 

「そうだね、モモンさんの言うとおりだ。

でも、その人達が今の言葉を聞いたら、きっと喜んでくれただろうね」

 

「……それなら、良かったです。 きっとその方達は何か人に言えない理由があって顔と名を隠しているのかと考えたんですけど、それでも僕の好きな女性を救ってくれた“お二人”にちゃんと感謝の気持ちを伝えたかったから……」

 

そして彼は何も言わずに僕等に深く、頭を下げた。 それは「変な事を言ってしまって済みません」というポーズの裏にある深い感謝の念を感じてしまい、こちらとしてはどうにも複雑な気分だ。

やれやれ…年下に気を遣われるなんて情けないったらありはしない。

 

アインズさんもそう思ったのか降参したかの様に彼に声を掛けた。

 

「フゥ………分かった。 もう、頭を上げたまえ」

 

「サウス、ノース……ナーベの様子を見ながら彼女と共にこの場に待機していて。

ここからは僕等二人だけでンフィ―レア君と話をするから」

 

「………………」

 

「はい、分かりました。 お兄様」

 

「………(コクリ)」

 

僕等はまるでこの世の終わりかと思える様な顔をしたナーベラルのフォローをマキナとシズに任せて少し離れた場所に移動した。

これから先の話は多分、彼女達を刺激してしまう内容になるかもしれないし。

 

 

「…それで? ンフィ―レア君は僕等にお礼を言いに来ただけって訳じゃ無いんでしょ?」

 

「はい。 今回、ウェストさんがモモンさんを僕に紹介してくれたのはコネクション作りの為、

何ですよね?」

 

「僕としては最初は素性を隠すつもりは無かったんだけど、君の目から見た上でモモンさんを判断して欲しかったんだ。 彼の人間性は君のお眼鏡に適ったかな?」

 

「―――それは勿論! モモンさんやウェストさんみたいに力と知識を持っていても驕り高ぶらない人と知り合いになれたのは僕からすればとっても幸運な事です!! だからこそ………」

 

「そんな私達からポーションの製法を知ろうと下心を持って近づいてしまった自分が許せない…か?」

 

アインズさんの言葉に彼は渋面を作り、肯定の意味を込めて無言で頷いた。

……僕等だって彼等に対して言い方は悪いが下心を持って近づいたのだから其処まで気に病む必要は無いと思うんだけど…。

 

「君が製法を知って悪用する様な人間であれば、そもそもウェストさんは私に君を紹介などしなかっただろう」

 

「ンフィ―レア君が僕等を信用してくれた様に僕等も君の事を信用に足る人間だと判断したんだ。 君さえ良ければだけど、今後とも交友関係を続けてくれるかい?」

 

「………はい。 こちらこそ、宜しくお願いします。

敵わないなぁ……二人とも凄く格好良くて……が憧れるのも…理無いや」

 

最後の方は独り言に近い声量だった為か殆ど聞こえなかったが、ンフィ―レア君が僕等に向ける

眼差しは眩しい位に輝いていて、心が平坦化する程の嬉しさを感じてしまった。

ガゼフさんとは違った意味で彼と話していると自分の少なくなった人間性を刺激されて安心出来、新たな創作意欲も湧いてくる。

 

最早、僕は人間では無くなったというのに、彼の事をもう一人の弟の様に思えてしまい、その事に驚きつつも、それが決して悪い気分では無い事に今更ながら気付く。

アインズさんは彼の事をどう思っているかは分からないが、似た様な気持ちでいてくれたら嬉しいな…。

 

僕はそんな事を考えながらもンフィ―レア君にどうしても確認したい事があったので訊いてみる事にした。

 

「ちなみに現在、僕とモモンさんの正体を知っているのは君だけ?」

 

「ええ、誰にも言ってはいません。 お二人にいきなりこんな事を言うのはご迷惑だと思いましたが、どうしても直接エンリを救って貰ったお礼をしたかったので………済みませんでした」

 

「……今の私達の立場は“冒険者モモン”と“宝探し屋(トレジャーハンター)ウェスト”だ。

それを忘れないでいてくれれば、別に構わない」

 

「それに、僕等だって通りがかった所を助けただけさ。 お礼を言われる事じゃない」

 

「いえ! ただ助けただけであれば、あの角笛も…あんな綺麗な…首飾り…だって……」

 

おっとー……まさかの僕が渡した防御系アイテムで嫉妬しちゃったか。

アレはデザインが気に入ったので現実(リアル)でも作って店に置いたら女性客に好評だったけど、

好きな子がそんな物を他の男から貰ったなんて聞いたら気分も良くないよね。 うん、反省。

 

「実は僕は故郷で良くああいった物を作っていたんだけど、良ければ作り方を教えようか?

ゆくゆくは結婚指輪も自作出来たら素敵だろうしね」

 

「け、結婚!? た、確かに…僕もそういう年齢ですけど、まだ告白もしていない身だし……

ってそうじゃ無くて!! でも……ウェストさんが構わないのであれば、お願いします……」

 

そんなンフィ―レア君の初々しい反応に僕は「若いって良いなぁ」というおっさん染みた思いと同時に「で?お前はいつ結婚するの?」という現実を突きつけられた様な気がして心が平坦化する。

アインズさんはともかく僕には“そういう風に想ってくれる”相手が居ないから特にね。

 

でも……“隣に居て欲しい存在”は娘であるマキナとは別にもう一人居るのだけれど、

それを本人の前で口に出す気は無い。

彼女の立場上、それを口に出してしまえば困らせてしまうのは僕みたいな人間でも分かる事だし。

何より、かつて麻紀ちゃんに向けた物とは違うこの感情の名前を僕自身が理解していないというのに彼女にそれを伝えるなんて論外だからだ。

……取り敢えず、今は僕の人形だな。 アレが完成すれば自分の気持ちも少しは見えて来る筈。

 

 

その後、ンフィ―レア君から「今から一時間後に出発します」と今後の事を確認し、彼と別れた

僕等が三人娘の所へ戻るとナーベラルが「至高の方々の計画を狂わせてしまった罰を!」とガチで自害しそうなテンションで僕等に懇願し自動人形(オートマトン)娘の二人も「何卒、軽い罰にしてやって下さい」という視線を向けて来た。

 

うーん……決して彼女の所為で僕等の正体がバレた訳では無いのだけれど…。

さてさて、何て言葉を掛ければ良いのやら…。

 

「…やはり、ブリタ(あの女)は今からでも始末しておいた方が良いんじゃ……」

 

「昨日、酒場でポーションを渡した時点である意味手遅れだったんですから、其処はもう気にしない方向で行きましょうよ。 それより今は………」

 

目の前に居る今にも泣きだしそうな友人の娘の一人にどう対応するかだ。

僕的にはあまり厳しい事を言いたくは無いんだけど、アインズさんはどうするんだろうか……。

現在は鎧の所為で骸骨顔以上のポーカーフェイスとなってしまったギルマスを見ながら、僕は誰にも聞かれない様な小ささで溜息を吐いた。

 

 




今回、一番悩んだのはンフィ―レア君をどうやって“悪意無く弄れるか”です。
あのリアクション芸はオバロにおける癒しの一つ。
彼がウェスト=ソウソウだと気付けたのはエンリ将軍の「とっても物腰が柔らかで、紳士的な方だった」という話を聞いてピンと来ました。

次回は森の賢王との遭遇ですが、確定しているのはソウソウが荒ぶります。
多分、作中で一番、荒ぶります。

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