オーバーロード~至高の人形使いと自動人形~   作:丸大豆

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一三話

エ・ランテル ポーション工房 明朝―――――

 

 

「リイジーさん、おはようございます。 不躾で申し訳ないんですがポーションの流通―――」

 

「あんた! とんでもない物を持って来てくれたもんだね!!

これこそ私達ポーション職人が求め続けて来た“真なる神の血”を示すポーションさ!!」

 

「……あっ! 来ていた事に気付けなくてごめんなさい、ウェストさん。

今、おばあちゃんがこの冒険者の方が持って来たポーションを見て興奮しちゃって……」

 

「いや、構わないよ。 僕達こそ勝手に作業場まで来ちゃってごめんね」

 

僕等は朝一で工房に向かったのだが誰もおらず、奥の作業場でテンション高い話し声が聞こえたので悪いと思いつつも中に入ってみれば其処にはユグドラシル製のポーションを見て狂ったかの様に目をぎらつかせたリイジーさんと、彼女ほどではないが興奮している様子のンフィ―レア君、

そしてアインズさんが渡したポーションを鑑定しに来たのであろう女冒険者の姿を確認した。

 

……ドンピシャ。 早速、発見出来るとは幸運だ。 

 

さてさて、リイジーさんの反応を見るに、このポーションはこの世界の技術では再現出来ない

代物らしいが、果たしてそうなのだろうか?

このまま分析が進めばコレ以上の物が出来上がって僕やアインズさん階位(クラス)のアンデッドへの脅威に成り得る可能性もあるんじゃないか?

最初は短絡的に、この女冒険者と鑑定業者を殺してポーションを奪い取れば憂いは無くなるって思ったけれど、鑑定業者が知り合いという事もあるが敢えて泳がせておくのも一つの手……。

むしろ僕等がこの二人を囲っておいた方がナザリック的にはプラスになりそうだ。

 

……だったら可能な限り思考誘導をしてみようか。

これでも販売業に携わってた身なんだからやれるだろ、多分……きっと。

 

「神の“血”…? そのポーションは……ひょっとして赤色ですか?」

 

「……え? あ、そうか。 ウェストさんは動作は分かっても色は分からないんですよね。

ええ、このポーションは赤い色をしています。 これは僕等の間じゃとっても凄い事で……」

 

「大丈夫、それはリイジーさんが凄い形相をしているのを知覚してるから何となく分かるよ。

……所でそこの冒険者さん。 そのポーション、ひょっとして大柄で全身に黒い鎧を纏った男性が所持していましたか?」

 

「……はぁ!? な、何であんたが知って……いや、そもそもあんた達って何者!?」

 

いきなり僕に話し掛けられてキョドってしまった女冒険者、ブリタさんは僕等に訝しげな視線を向けるがンフィ―レア君が代わりに素性を説明してくれたお陰で平静さを取り戻した。

ちなみにこの工房に入ってから一言も喋らなかった娘っ子二人、特にマキナは僕に向けられた視線が気に入らなかった様で薄目で彼女を凝視している。 だから、そういうのやめなさいって…。

 

「ウェストさん……知ってるんですか? 彼女にポーションを渡した人の事を」

 

「僕の知っている人物と同じなら持っていてもおかしくないよ……“モモン”、彼ならね」

 

「モモン……一体、どんな人物なんですか?」

 

「彼は僕と同郷の者でね。 数多くの冒険を潜り抜けて故郷では知らないヤツはモグリなんて

言われた程の強者さ。 ね、サウス、ノース」

 

「はい、お兄様。 モモン……さんはお兄様に勝るとも劣らぬ程の力を有しています。

あの方に挑むという事は愚か極まりない行為と言えるでしょう」

 

「………強い、とっても」

 

その後、僕等がブリタさんから昨日の話の詳細を聞いている横で薬師二人はこれからどうすべきか考え込んでいる様子だ。 ンフィ―レア君にいたっては僕の方をチラチラと見て来ているし。

多分、今日依頼しようと思っていた案件で僕とアインズさんのどちらにコネを作るべきか悩んでいるのだろう。

ポーションなら僕も売る程持っているけど、アインズさんには直接彼を見て欲しいから

今回、後押しすべき選択は―――――

 

「僕はそのポーション、随分昔に話で聞いただけで残念ながら持ってはいないんだけど……

彼がブリタさんに気軽に渡した所を見ると、まだ手持ちに余裕がありそうだね。

全く、そんな凄い物を何処で手に入れたのやら……」

 

「ウェストさん……本当にすみません。

今日依頼しようと思っていた薬草採集の警護なんですけど、無かった事にしても構いませんか?」

 

よし、釣れた! いやー……むしろ謝るのはこっちの方だよ。

……しかし、僕の口からあんなにスラスラと嘘が出るとは思わなかった。

まるで「お前、詐欺師に向いてるよ」って誰かに言われてるみたいでちょっと凹む…。

 

「……ンフィ―レア君。 ひょっとして、モモンに依頼する気なのかい?

確かに、彼の強さなら僕なんかより護衛としては十分過ぎると思うけど………」

 

「い、いえ! 違うんです!! 決してウェストさんの事を軽視している訳じゃなくて、

他に理由があって……」

 

「ふふふっ……ちょっとイジワルを言ってみただけさ。 僕等の事は気にしなくて良いよ」

 

「………ありがとうございます。 このお詫びはいつか必ずしますので」

 

「だから別に良いって……そうだ。 なら、薬草採集する場所を教えて貰っても良いかい?」

 

この都市で一番の薬師が御用達にしている場所なら知っておいて損は無い。

それが彼等にとって危険な場所であっても僕等からすれば多分、ただのお花畑なんだろうし。

 

「そう…ですね。 分かりました、お教えします。

カルネ村というそんなに大きくない集落の周辺の森なんですけど……知りませんよね?」

 

「ふぅん………カルネ村か。 うん、初めて聞いたよ」

 

父さん、母さん、ゴメン。 僕、最近は息を吸って吐く様に嘘を付く男になっちゃったよ。

よりによって、あそこ!? 偶然って怖いなぁ……アインズさん、どんな反応するんだろう?

 

「依頼すると決めたのなら、早めに行った方が良いんじゃない? ブリタさんの話によればモモンは昨日この都市に来たばかりだし、プレートのランクが低い内に雇った方が安く済むからね」

 

「確かに…その人が精力的に活動する前にコネは作っておくべきでしょうしね。

早速、組合に顔を出しに行って来ます」

 

「あ、そうそう。 モモンに会えたら僕がこの都市に来て後、数日は滞在するって伝えて置いて。 彼が僕の事を覚えていれば、だけどね」

 

「……はい、分かりました。 ウェストさん、また会えますよね」

 

「うん。 別にこれが今生の別れってワケでもないんだし…ンフィ―レア君、元気でね」

 

「はい! ウェストさんもお元気で!!」

 

その言葉を最後にンフィ―レア君は工房を去って行った。 さて、後は―――――

 

「所で、ブリタさんはそのポーション……どうなさるおつもりなんですか?」

 

「え!? い、いや、その………」

 

突然、話を振られた彼女は慌ててしまい、どう言うべきか口籠ってしまった。

実際問題、彼女には“此処で”ポーションを売却して貰った方がこちらとしては都合が良いからだ。

 

「こっちとしても孫がこのポーションと同じ物を簡単に手に入れられるとは思って無いから、

出来る事なら売って貰った方が有難いんだけどねぇ」

 

リイジーさんのお願いという名の“脅迫”が繰り出される。

僕が居た日本じゃ絶対にやらないであろう、とんでもない接客態度である。

これが外国の……いや、この世界の当たり前なのだろうから特に何も言う気は無いが。

 

「ちなみにリイジーさん。 ソレは幾らで買い取る気なんですか?」

 

「……色を付けて金貨三十二枚って所かね」

 

リイジーさんの言った金額にブリタさんは固まった。

そりゃそうだ、独り身で下手な贅沢さえしなければ七、八年は余裕で生活出来るし、両親が居ればその半分以下と言った所だろう。

それでも悩んでいるのは突如振って湧いたこの幸運がまた自分の身に起こるのではないかという、

甘い、実に甘い考えからだな。 この人は絶対、宝くじにハマるタイプだ。

 

「ブリタさんみたいな美人さんであれば冒険者なんて危険な事をせずに幸せを掴むべきだと僕は思いますけどね……」

 

「な、何言ってんのさ!? いきなりそんな事を言うなんて…あんた、その、私の事……」

 

営業トークを言っただけなのに何この人、ビックリしてんの? 褒められ慣れてないの?

リイジーさんも何考えてるのか分からないけど細目で見るのをやめて! 何か凹むから!!

 

「(お父様に色目使ってんじゃねーぞ………この下等生物(メスザル)ぅ)ギリリリィ」

 

「………サウス姉、歯ぎしり、うるさい」

 

後ろは後ろで不穏な気配を髪からギュンギュン感じて怖いし!

何!? 何がどうなってんの、この状況!?

 

「あんたの気持ちは嬉しいんだけど、これから仕事もあるし、

このポーションは売らない事にするわ。 その…ありがとね」

 

「……はい、そうですか。 (ポーションを売ってくれなくて)本当に残念です」

 

って売らないのかよ!? 恒常的に手に入れられる機会が無ければ売っとくべきだろ其処は!!

でも仕事か……使えば無くなる物だし、出来ればさっさと使ってくれないかな。

…まぁ、これ以上無理強いしても怪しまれるだけだし、説得はここまでにしておこう。

 

「では、ンフィ―レア君の依頼も無くなったし、僕等はこれでお邪魔させて貰いますね」

 

「……ちょいと待ちな」

 

工房を去ろうとした僕等をリイジーさんが何とも形容しがたい視線を向けながら呼び止めた。

おいおい、まさか……狙いを読まれたのか? 

彼女みたいに誇りを持った職人さんにはなるべく手荒な真似はしたく無いんだけど…。

 

「…わしの経験からお前さんは悪人じゃ無い……が、決して善人って訳でも無いのは分かる。

そんなお前さんから見てさっき言った同郷のモモン、そいつはどんなヤツなんだい?」

 

「……僕が知っている彼の事と言えば、強く、優しく、人望があり、そして………

“自分の大切にしている存在を脅かす奴等に対しては全く容赦をしない”、という事位でしょうか。

彼は決して“護衛の仕事に手を抜く様なタイプでは無いと思いますよ”。 “安心して下さい”」

 

何だ、ンフィ―レア君の身を案じてモモンさんの人物評を訊きたかっただけか。

普段は厳しい職人だけど、時には孫想いの何処にでも居るお婆ちゃん、か。 うん、感動した。

 

そして僕等は今度こそ工房を後にした。

 

 

 

彼等が去った後、自分もそろそろ帰ろうかと思っていたブリタがその前にと、

リイジーに話し掛ける。

 

「あのさ……リイジーさん。 私もさっき告白紛いの事言われてつい断っちゃったけど、

あの人達、実は凄い強い……んですか?」

 

「知らないよ。 けど……敵に回したら恐ろしいと感じる程の得体の知れなさを持った連中さ」

 

「そっかー……だったら返事を保留にしてウチのチームに勧誘すれば良かったー!!」

 

ブリタの能天気な感想にふん、と溜息を吐いてリイジーは考え込む。

本当はさっきウェストに訊きたかったのはあんな当たり障りの無い事では無く、孫と出会ってから今日までの全てを彼が仕組んでいたのではないか、というを事だ。

あまりにも自分達にとって都合が良過ぎる展開、孫から全幅の信頼を得られる人間性、

自分が少なからず警戒しているのを知っていても一向に変える事の無い飄々とした態度。

その掴み所の無さは長く生きた自分でも恐ろしさを覚え、あの状況で疑いを含んだ発言をすれば

最悪、孫共々この世から消された可能性だってある。 きっとあの連中にとってそれは容易い。

 

自分達が完全に蜘蛛の巣に捕らえられたかの様な錯覚すら覚えたが、少なくともあの男が孫と自分に向ける対応は穏やかで紳士的だ。

ならば敢えて逆らわずに、このまま何も知らないという体で付き合いを続けた方が賢明と言える。

“あのポーション”を五体満足で分け与えられる可能性だってそちらの方が遥かに高い。

 

「(……何て思っていたら“あの言葉”さね)」

 

ウェストは十中八九、関係者であるモモンという男の元へと依頼をしに行った孫を自分にとっての人質にするつもりなのだろう、さっきの去り際の言葉は「今後、余計な事を喋らなければお前と、お前の大切な孫に手を出さないで置いてやる」と言外で言われた様な物だ。

 

「(やれやれ…とんでもない男に目を付けられちまったねぇ………)」

 

ウェストという自分の打算を読み切った上でドデカイ釘を刺して行った男に畏怖を覚えながら、

リイジーは大切な肉親である孫の安否を今度こそ、本当に心配した。

 

 

その頃のウェスト一行―――――

 

 

「―――――と、この様な飴と鞭であの老婆の心を縛ってしまうとは流石はお兄様ですね。

……私、感服致しました」

 

「………おー。 兄様、やっぱりすごい」

 

「………そんな僕の考えをちゃんと理解してくれている君達が居ればこそだよ」

 

その言葉に「何と勿体無い御言葉!」と頭を下げたマキナと無言で頭を下げたシズを宥めながら

僕は思う……「さっきの工房でのやり取りってそんな事になってたの!?」と。

 

マキナが工房を出て暫くしてから「流石は至高の頭脳をお持ちです」と言って来たので考え無しに「どういう事だい?」と訊いて見ればまさかまさかの頭脳戦ですよ、まいったね……。

マジかー……狙いがバレてないと思ってたのに、しっかりバレてたかー…。

それを読み切った上でアインズさんを巻き込んでリイジーさんに釘刺しちゃってたかー、

へぇー……僕って凄いなー。

 

 

いや、んなワケないじゃん。

 

 

むしろサウスが察し良過ぎだろ! ホントにこの子って僕の娘!? 設定以上の頭脳だよ!!

嬉しい反面、この子以下の頭しか持ち合わせてない自分に不甲斐なさを感じる……。

 

「………兄様。 依頼モモンさんに譲ったけど、これからどうする?」

 

「確かにノースの言うとおりですね。 お兄様が宜しければですが、今からでもあの下等生物(メスザル)

私が始末して来ましょうか……ごふぅ!」

 

その言葉を受けて僕は愛娘の脳天にチョップを放った。

この子のナザリックメンバー以外に対して容赦しないという考え方は本当に勘弁して欲しい。

やっぱり、こういう所は僕が付いててやらないとまだまだ駄目だな。 良し、自信回復。

 

「今回、僕等が彼女と直接会ってしまった以上、リスクの方が大きいからそれは駄目」

 

「うぐぅ~……分かりました、お兄様」

 

「………サウス姉、よしよし」

 

相変わらず痛覚を感じない設定なのに痛がる振りをするマキナの頭を撫でてやるシズに

ほっこりしながらも僕は二人に今後の予定を話す。

 

「僕等はこれよりある場所へと向かう。 二人とも、付いて来てくれるね?」

 

「はい、お兄様が望むのであれば何処へでも。 それで……その場所とは?」

 

「………場所とは?」

 

「うん。 その場所とは―――――」

 

 

――――――――――

 

 

翌日 早朝 カルネ村近辺―――――

 

 

「ふぅ………」

 

アインズ……今はモモンと名を変えて相方のナーベと共に現在、

ソウソウが斡旋してくれたも同然の警護クエストをこなしている彼は安堵の息を吐いていた。

 

その理由は昨日、ンフィ―レアの警護をすると決めた物の防衛ミッションでは不安が残るので

先に依頼を受ける筈だった四人の冒険者チーム〈漆黒の剣〉と協力して依頼を受けたのだが、

夕食の時間に話の流れで今の自分はかつての仲間達と離れ離れになってしまったという身の上話をしてしまい、それを聞いた漆黒の剣のメンバーの一人であるニニャの下手な慰めに苛立った態度を取ったお陰で気まずくなってしまった空気がようやく解消されたからだ。

 

「(今の俺には同じ境遇のソウソウさんが居るっていうのに……あの対応は不味かったよなぁ)」

 

昨日、空気を悪くしてしまった事をソウソウに伝言(メッセージ)で相談してみた所―――――

 

 

『……アインズさんはきっと、その漆黒の剣の人達の事を羨ましいって思ったんでしょ?』

 

「……はい、その通りです。 だからと言って彼等に当たってしまうのは間違っているとは

分かっていても中々、謝ろうという気にはなれなくて………」

 

『そうですね……僕も同じ状況であれば、そんな態度を取ってしまったのかもしれません。

でもアインズさん…あなたはニニャさん、そして残りの漆黒の剣の三人を嫌ってるんですか?』

 

「いえ……決して、そんな事はありません。

むしろ彼等を見ているとかつての私達を思い出せてほんの少し、心が温かくなる位です」

 

『そう思えているのなら、きっと仲直りの言葉も自然に出て来る筈ですよ。

あなたは昔から意固地な所があったけど、ちゃんと最後はそれを呑みこんで正直な気持ちを

口に出来る人でしたからね(ガチャの件以外は)』

 

「………ありがとうございます。 ソウソウさんに相談して、本当に良かった」

 

『それはどうも。 ちょっと今は夜行性のモンスターと戦ってる最中での会話だったので

ちゃんと対応出来てるのか分からなかったんですけど、気が晴れたのなら良かったです』

 

「…え!? ンフィ―レア君の話を聞いた限りじゃ、ソウソウさん今は都市の中ですよね!?

どういう状況になってるんですか!?」

 

『いえ、今は郊外に出て夜の運動ですよー。 マキナがザクザク刺して、シズがバンバン撃ってるだけの健全な運動。 あ、目撃者は当然いないのを確認してやってますのでご心配無く』

 

「いやいやいや! そういう事を言ってるんじゃ無く……そういう事を言ってもいますけど、

アンタ一体、今何処に―――――」

 

 

そしてソウソウの方から切れて伝言(メッセージ)は終了した。

 

 

彼の言葉で今日の朝方にはぎこちなくだが、はっきりとニニャに話し掛ける事が出来たので

間違い無く助けにはなった、なったのだが……それ以上に不安な気持ちになる。

 

「(あの人って基本的にドッキリが好きなタイプだったけど、まさかな……)」

 

モモンの頭に最悪な想像が浮かんで来た頃、目的地であるカルネ村が見えて来たのだが、

以前来た時とは様子が変わっている事にンフィ―レアが驚き、同行していた漆黒の剣のぺテル、

ルクルット、ダインが異変に対しての感想を口にした。

 

「な、何だろう……あの頑丈そうな柵。 前は無かった筈なのに……」

 

「しかも武装した小鬼(ゴブリン)が入口の前に数多く居るとは……村が占拠されたのか?」

 

「でもよー、此処いら一帯は麦畑なんだし、わざわざあんな所に陣取ってるのはおかしくね?」

 

「うむ。 奴等が伏兵を隠す為の存在であるのはまず間違い無いのである」

 

「……思った以上に面倒事になりましたがモモンさん、どうしましょうか…?」

 

漆黒の剣の一人であるニニャの言葉と共に一行はモモンとナーベの方を見る。

昨日の段階で圧倒的な実力を見せつけられた事もあって、彼等は今後の方針を二人に委ねる事に決めたらしい。

 

「此処は私とナーベがあの小鬼(ゴブリン)達と話をしてきましょう。 最悪、いつ魔法や矢が飛んで来るとも限らないので皆さんは射程圏内に入らない様、お願いします」

 

モモンの言葉に漆黒の剣の全員が迷い無く、ンフィ―レアは何か苛立っている…というか

余裕が無い様子だったが渋々頷いた。 これも昨日得た信頼のお陰だろう。

 

だが仰々しく言った物の、彼は何も心配などしてはいなかった。

あの小鬼(ゴブリン)達は以前、自分がアインズとして村娘のエンリに与えた〈小鬼(ゴブリン)将軍の角笛〉で召喚された存在にまず間違いない。

ならば本当に話し合いで済む相手だし、万が一戦いになっても無力化出来るだけの実力差はある。

 

「行くぞナーベ。 私に付いて来い」

 

「はい、畏まりました。 モモンさん」

 

モモンは未だに自分への敬意を忘れてくれない困ったちゃんな戦闘メイドに頭を悩ませながら

入口の方へと歩き出した―――――

 

 

「へへっ、あんたがモモンだな。 “あの人”の話通り、ヤバそうな雰囲気を纏ってるねぇ」

 

「……小鬼(ゴブリン)が何故、私の名を知っている? “あの人”とは何者だ」

 

話しかけてみればいきなり自分の名を当てて来た小鬼(ゴブリン)に警戒度を一段上げ、モモンは背中の二振りの大剣の柄を握り、ナーベはマントの下に手を入れて剣から鞘を抜き取った後に戦闘態勢に入る。

 

その時である―――――

 

 

「僕ですよ」

 

麦畑から突如、飛び出して来た10本の“髪の毛で構成された鞭”の内の5本がナーベを拘束し、

残り5本がモモンの大剣の一振りを奪い取る。

 

「―――――なっ!?」

 

「……隙あり。 目の前に居る小鬼(ゴブリン)達に気を取られ過ぎです」

 

突如現れた襲撃者はそんな事を言いながらモモンから奪った大剣を地面に突き刺し、

ナーベの拘束を解いた後、鞭を指輪状に戻して彼の方に向き直るといきなり走り出し―――――

 

ガッシィ!!

 

「はっはっはっ! モモンさんの体、硬いなぁ!! 鎧だから当然だけど」

 

モモンを抱きしめて悪戯が成功した事に笑いだした。

 

「………この手のドッキリ、久しぶりですね。 で、何でアナタが此処に居るんですか?」

 

「ふふふ、僕だけじゃないですよ。 ナーベの方を見て下さい」

 

モモンはその言葉にうんざりとしながらも言われた通りナーベの方を見る。 すると―――――

 

「マ…サウスさん、シ…ノースまで……何故この様な所にお出でに……」

 

「あぁ~、ナーベ…ちゃん可愛いのぉ~。

仕事出来そうな雰囲気あるのに意外とポンコツな所が可愛いのぉ~」

 

「………ぎゅー」

 

自動人形(オートマトン)娘二人にサンドイッチ状態にされていた。 この光景、見ようによっては眼福である。

 

「う、ウェストさん!? 何でカルネ村に……」

 

一連の流れを遠くで見ていて漆黒の剣のメンバーと共に急いで駆け付けたンフィ―レアはモモンの大剣を奪ってそのまま抱きつくという、彼の実力を知っていればあり得ない離れ業をやってのけた男の姿を確認して驚愕していた。

 

「ンフィ―レア君には直接モモンさんを見て貰いたかったから一芝居打っちゃったけど、

どうだった? 彼と一緒に居ての感想は」

 

「はい! 凄く強くて立派な人で……って、ウェストさんとモモンさんはひょっとして……」

 

「うん、御明察。 実は僕は昔、モモンさんと一緒に冒険していたメンバーの一人でね。

今回は昔馴染みの間柄って事で彼の手伝いをしようと思って此処に来たんだ。 宜しくね」

 

「「「「「―――――なっ!!??」」」」」

 

ウェストの発言にンフィ―レアと漆黒の剣の四人が驚愕している横でモモンは頭を悩ませていた。

 

「(ソウソウさんって悪い人じゃ無いんだけど、行動が読めないから疲れるんだよなぁ……)」

 

モモンは昔ソウソウから受けた“サプライズ”の数々を思い出して精神の平坦化を繰り返していたがそれは小鬼(ゴブリン)達の主であり、ンフィ―レアの想い人でもあるエンリ・エモットが彼等に守られながら

入口付近に現れるまで続いたという……。

 

 




今回はオバロにおける名物である“頭良い人が勝手に勘違いする”という状況と、その後のナザリックメンバーによる好意的解釈を書いてみました。

ソウソウが関わった事によってンフィ―レア君のこれからの扱いも原作とはちょっと変わって行く予定。

ちなみにウェスト達はエンリ将軍にはまだ会ってはいません。
小鬼(ゴブリン)軍団の皆さんに“ちょっとだけ”力を見せた後に「友人にドッキリ仕掛けたいから協力して」とお願いしてスタンバっていたからです。

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