オーバーロード~至高の人形使いと自動人形~   作:丸大豆

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十話

第十階層 玉座の間――――

 

 

現在、ナザリックに帰って来た僕等は玉座の間に集められるだけの元NPC達を集めた。

理由はギルマスが名前を変えた事と、これからの指針を皆の前で宣言する為だ。

その中には当然、僕の娘であるマキナの姿も居るが、僕が彼女を呼びに工房に戻って来たら、無表情でほっぺたを膨らませていたので少し可笑しくなり、空気を抜いてから此処まで連れて来た。

 

たっちさん、今わかりました。 子供萌えの心は彼女だったんですね!

 

 

「お前達、まず今回は私とソウソウさんが勝手に動いた事を詫びよう」

 

「僕達もちょっと散歩がしたくなってね。 心配したのなら謝るよ」

 

僕もアインズさんも「全然悪いなんて思ってませんよー」って声音で集まった皆に謝る。

この態度も二人で話し合ったのだが、今の状況で普通に謝ってしまえば僕等が皆の力を信頼していないと取られる可能性があるから、あくまで今回は僕等の“わがまま”で外に出たという形にした方が皆の為に良いだろうと決めたからだ。

実際はすっごく申し訳ない気持ちなんだけどね……。

 

「我々に何があったのかは後でアルベドから聞くように。 ただ、その中で一つだけ至急、この場に居る者、そしてナザリック地下大墳墓の者に伝えるべき事がある。 ―――私は名を変えた」

 

彼は玉座後方にかけられた旗、アインズ・ウール・ゴウンのギルドサインを指差し、この場に居る者全員の視線がそれを確認した後、宣言する。

 

「これより私の名を呼ぶ時はアインズ・ウール・ゴウン……アインズと呼ぶが良い」

 

「「「――――――――――っ!?」」」

 

「皆、驚いている様だね。 けれど安心して欲しい。 彼がこの名を名乗るのは僕と話し合って決めた事だし、決して“モモンガ”という本当の名前を捨てた訳じゃない」

 

当初ギルマスは〈上級道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)〉で自分の旗を消して不退転の決意を固めようとしていたけれど、それは僕が止めた。

本当の名を呼ぶ取り決めだけではなく、象徴となる旗を残す事によって彼にとって数少なくなってしまった人間性も同時に守りたかったからだ。

 

「この件は後でソウソウさんが語るこれからの指針に大きく関係する事だが……まずはお前達に訊く。 私がこの名を名乗る事に異論がある者は立ってそれを示せ」

 

彼の言葉に誰も異論を唱える者は居なかった。

内心はどう思っているのかは僕等には分からないけどね…。

 

するとアルベドが嬉しそうに、本当に嬉しそうに声を上げた。

 

「御尊名伺いました。 アインズ・ウール・ゴウン様、万歳! いと尊き御方、アインズ・ウール・ゴウン様、その盟友であらせられますソウソウ様、ナザリック地下大墳墓全ての者よりの絶対の忠誠を!!」

 

彼女に続いて各守護者達が、元NPC達が、選りすぐられたシモベ達が彼の新たな名と僕等の力を称え、万歳の連呼が玉座の間に広がる。

 

「良かったじゃないですか、“アインズ”さん」

 

「正直、ホッとしてますが……これからですね。 頼みます、ソウソウさん」

 

「ええ…。 ―――さて、これからの君達の指針を伝えたいと思う。 皆、聞いて欲しい」

 

僕の言葉に皆は即座に黙り、聞く姿勢に入った。 君等訓練され過ぎだろ……。

 

「これはアインズさんと僕で決めた事だが……君達にはこれから―――――

“アインズ・ウール・ゴウンを不変の伝説”にして貰う為に働いて欲しい」

 

この言葉で空気がほんの少しだが張り詰めた物に変わる。 緊張するなぁ……。

 

「その理由の前に皆に伝える事がある……かつて僕等、至高の存在はアインズさんと君達を残してこのナザリックを去ってしまった…。 その事で深い悲しみを与えてしまった事は本当に、本当に済まないと思っている……」

 

「(ソウソウさん……)」

 

僕の突然の謝罪にこの場に居る皆が、普段は無表情のマキナでさえも驚愕の表情を浮かべる。

この反応は当然だ。 けれど、たとえ幻滅されようともこれは僕にとって必要な行為なんだ。

 

「しかし僕は帰って来た。 いや……“帰って来れた”とでも言えば良いのだろうか、様々な要因が重なって僕は現在、此処に居る。 そして帰って来れた以上、これからは僕の命をアインズさんと君達の為に使うと今、ここに誓おう!」

 

周囲からざわめきが聞こえる。

自分達の主人である至高の存在の一人からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。

皆が皆どうすれば良いのか困惑しきっていた。

何故か表情を崩さないアルベドとデミウルゴスを除いて……何でノーリアクション?

 

「お前達、今の発言はソウソウさんの嘘偽りの無い気持ちだ。 

私は彼の事を許すどころか最初から恨んでなどいない。 

では、お前達はどうか? 彼の事が許せぬと感じた者は立って意見を述べよ」

 

アインズさんの問いに立ち上がったのはマキナだ。

娘からの駄目出しか………これは凹むなぁ…。

 

「ふむ、マキナか…。 発言を許そう」

 

「はい! お父様は先程、“帰って来れた”と仰りました。 それは決して私達を御見捨てになった訳では無く、何か深い理由があって御姿を隠されていたという事に他なりません! 

その間も常に私達の事を気に掛けてくれていたであろう、お優しいお父様を悪しざまに言える様な事が……どうして…どうして……出来ましょうか…」

 

マキナはその言葉と共に大粒の涙を流して震えている。 泣き顔……初めて見たな…。

彼女の設定に「人形と生命の中間の存在」と書いたが、まさか涙を流してくれるとは……。 

嬉しい反面、そんな顔をさせてしまった事に心が痛む……。

 

その姿を見た皆はハッとなり顔を俯かせて彼女と同じ様にその身を震わせる。

アルベドとデミウルゴスはそんな彼等を見て「やれやれ皆、ようやく分かったか」みたいな表情で首を横に振っていた。

凄いなナザリックの頭脳担当!! 僕そこまで考えて発言しなかったよ!?

 

「ありがとう、マキナ…。 それで…話を戻すんだけど、僕が帰って来れた様に他の至高の存在もこの世界に来ている可能性が分かったんだ」

 

「故に、我々がこの世界で為すべき事は“全ての英雄を塗りつぶす”! 我等より力ある者は搦め手で、数多の部下を持つ魔法使いがいればそれ以外の手段でねじ伏せろ!! 今からお前達にはその準備を始めて貰う」

 

「僕達、アインズ・ウール・ゴウンの存在をこの世界で知らない者がいない領域にまで引き上げれば、きっと皆の大切な至高の存在にも気付いて貰える筈だからね」

 

「この世界の地上に、天空に、海に! 知性を持つ全ての者に! 我々の力を知らしめるのだ!!」

 

アインズさんの力強い宣言に皆は首を垂れ、僕等に対してまるで神様に祈りを捧げているかのような綺麗な感情を向けてくれた。

僕等の事をこれ程想ってくれている彼等の為にも、これから頑張らなきゃね。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

アインズとソウソウ、二人の至高の存在が去った後の玉座の間は誰もが跪き、無言であった。

だがそれは決して穏やかな物ではなく、自らの主達から受けた命令に対する喜びと熱気が渦巻いている。

 

「皆、面を上げなさい」

 

立ちあがったアルベドの静かで穏やかな声に、未だに頭を下げていた者達はようやく顔を上げた。

 

「各員、アインズ様とソウソウ様の勅命には謹んで従うように。 そして、これから重要な話をするのだけれど、その前に全員に訊くべき事があります」

 

「アルベド、何かね? それは至高の御二人の御意志を伝える事よりも重要な事だとでも?」

 

「ええ、デミウルゴス。 その事に対して大いに関係のある話よ。 皆、ソウソウ様のお優しさに触れるという栄誉を授かった事はあるかしら?」

 

その問いにこの場に居る全員が頷いた。

先程のソウソウの謝罪で皆の彼に対する忠誠心はもはや限界値を突破していたのだ。

 

「では、ソウソウ様のお怒りになった御姿を見た者は居るかしら?」

 

「あ、アルベドさん! お父様に怒られたんですか!?」

 

「いえ、違うわマキナ。 私にではなく先程、氷結牢獄に送った分不相応の身でありながら至高の御二人に牙を向けた下等生物(ニンゲン)に対してよ」

 

その発言によって玉座の間の空気が常人であれば死に至るであろう殺気で満ちる。

至高の存在に対して不遜を働いた者への拷問を特別情報収集官では無く、自分がやりたいという感情がその場に渦巻いた。

 

「自分に向けられた物では無いと言うのに、あの方の狂気すら感じてしまう嗤い声、その後に訪れた第七階層の灼熱ですら生温い圧倒的な熱量を持った怒声……私は思わずその身を震わせてしまったわ…」

 

デミウルゴスはその至高の存在に対して不敬とも取れる発言に何も言わない。

守護者統括の心底恐怖している姿を見て、その言葉に偽りが無いのだと感じたからだ。

それはその場に居る誰もが感じたようで、アウラとマーレはその姿を想像して涙目になっている。

 

「全てが終わって……正直に言うわ。 私は崇め、奉るべき存在であるソウソウ様に怖れを抱いていた。 そんな私にあの方は内容をまだ語る事は出来ないけれど、私が本当に…本当に欲しかった言葉を送って頂いた……まさしく至高と言うべき慈悲をこの身にお与え下さったの」

 

「……流石はお父様。 アルベドさんの心に巣食った恐怖に瞬時に気付き、それを上回る歓喜をお与えになるなんて……至高の方々の頂点であるアインズ様が『お優しい』と評しただけの事はありますね」

 

「そうなの! そんなソウソウ様の御心の内を御理解出来るアインズ様はやっぱり最高の殿方!

マキナ、貴女はやっぱり分かってるわね!! 貴女にならその言葉を教える権利もあるし、

今からでも……ってシャルティアが居ない場所の方が良いわよねぇ…?」

 

「あ゛あ゛ぁ!? 何でそこで急にわたしに振んの!! やる気? 別に構わないけどぉ!?」

 

「フウゥゥ……シャルティア、落チ着ケ。 アルベドモ話ヲ脱線サセルナ」

 

「……えぇ、ごめんなさいコキュートス。 つまり、私が言いたいのはソウソウ様という至高の存在は正に“嵐”と評するに相応しい御方、と言う事よ」

 

その表現に皆が頭を悩ませていると答えに辿り着いたのかデミウルゴスが発言する。

 

「成程……アルベド。 つまり君が言いたいのはソウソウ様にとっての嵐の中心地、“無風地帯”は至高の方々とこのナザリックに住む者達、と言いたい訳だね?」

 

「その通りよ、デミウルゴス。 このナザリックを傷つける者に対する怒りの深さはアインズ様と同等でもソウソウ様が取る行動はアインズ様以上の一切の容赦が無い無慈悲そのもの。 

それはあの方にとって守るべき存在であるアインズ様と私達への愛情の裏返しなのよ」

 

「つ、つまり…えっと、ソウソウ様は至高の方々と僕達には凄く優しい方で、そ、それ以外には凄く厳しい方って事で良いんでしょうか…?」

 

「うわー……何かそれってすっごく嬉しいんだけど、あたし達がソウソウ様の敵じゃなくてホントに良かったって思っちゃうなぁ」

 

「厳格さと深い慈しみの御心を併せ持つ至高の存在であるソウソウ様と、その様な御方と対等の交友関係を築く事の出来るアインズ様はやはり、我々共の最高の御主人でありましょう」

 

「全くもってその通りよ、セバス。 その御二人の隠された願いを叶える為にもデミウルゴス、マキナ、御二人とお話した際の言葉を皆に」

 

ソウソウとアインズの偉大さを再確認し、その二人の役に立てるであろう事に感じる愉悦を押し殺しながら、デミウルゴスとマキナはアルベドの言葉に応える。

 

「畏まりました」

 

「(ふひ…ふひひ…)はい、アルベドさん」

 

「アインズ様とソウソウ様が夜空をご覧にになられた時ですが―――――」

 

 

 

『モモンガさん……一人の人形作家として、これだけ綺麗な星空を見てしまうと…到達できない領域をまざまざと感じて悔しくもあり、同時に凄く嬉しくなりますね』

 

『ソウソウさんは十分、立派な人形作家ですよ。 でも、出来れば今、此処に居ないメンバーにもこの美しい景色を見て欲しかったな、とは思いますね…』

 

『今、この眼に映る全てを僕等4人だけで独占してしまうのは勿体無いな……皆とも分け合いたい』

 

『なら、“世界征服”でもしちゃいましょうか? 全部を手に入れれば帰って来た皆にいつでも分けられますし』

 

『ふふふっ、モモンガさん、その発想(ギャグ)面白いですね……デミウルゴス、マキナ、君等もそう思うだろ?』

 

『ええ、流石はモモンガ様で御座います』

 

『今の御二人の言葉、私もデミウルゴスさんもこの胸に刻み付けさせて頂きます』

 

『『(いや、別に刻み付けなくてもいいんだけど……)』』

 

 

 

この話を聞き終えた玉座に居る者達の瞳には強い、決意の色が宿っていた。

主である至高の二人の真意をこの場に居る者全員が理解した事を確認し、アルベドは宣言する。

 

「アインズ様とソウソウ様はいずれ帰って来られるであろう、至高の方々の為にこの世界の全てを御所望されている。 ならば臣下である私達が取るべき行動は先程アインズ様が申された様にこの世界の地上、天空、海に存在する知性を持つ全ての者をこのナザリックの支配下に置く事。

至高の方々の御要望を完璧に遂行する事こそが私達の存在意義」

 

そして彼女は自分が背にしていたアインズ・ウール・ゴウンの旗に向き直り、微笑を浮かべる。

 

「至高の方々の為、必ずやこの世界を御身の元に」

 

その声に続いて全員の声が玉座の間に響き渡った。

 

「「「正当なる支配者たる至高の四十一人の元に、この世界の全てを!!!」」」

 

 

 

アルベドは思う、例え御二人の望みである残りの至高の存在がこのナザリックに戻る事が無かろうともそれはそれで仕方が無い、と。

問題はこのナザリックに残ってくれた己が愛する至高の存在の頂点であるアインズと、帰還し、アインズの御身を守ると誓い、自分達の事を心から愛し、心の機微を読んで深い慈しみを与えてくれる恐ろしくもお優しい至高の存在であるソウソウのこれからの事だ。

 

彼等にとって大切な存在が帰還出来なければ自分達が、アインズには自分がずっと傍に居よう。

その前にまず、この世界を手に入れるという彼等の願いは必ず叶えなくてはいけない。

他の至高の方々に対する想いの全てをそのまま貰い受ける為には自分達が彼等にとって無くては成らない働きを見せる必要があるからだ。

 

「(タブラ・スマラグディナ様の御友人であったソウソウ様が二人きりの時はモモンガ様とお呼びになる事を認めて下さった…。 くふふふ…これはもう完全に私とアインズ様の仲を後押ししてくれていると見て間違い無いわ!!)」

 

〈リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン〉、その指輪を持つ者にしか許されないという条件も「良い働きをした者に渡す」という、ある意味で全ての者に平等感を持たせる事により、

現在所持している自分の優越感は最早、止まる事を知らない。

 

「(嗚呼……この様な取り決めを為さるなんてソウソウ様は本当に素晴らしい御方…。

姉さんもソウソウ様の御寵愛を受けている様だし、世界征服した暁にはアインズ様と私、

ソウソウ様と姉さんで同時に結婚式を挙げるというのもアリね……くふふ…くふふふふふ)」

 

「その時はシャルティアにブーケをぶつけてやろう」なんて考えは一切顔に出さず、彼女は未だに興奮冷めやらぬ玉座の間に集まった自分の同志達に穏やかで慈しみを持った視線を向けた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

第五階層 氷結牢獄―――――

 

 

「―――以上の理由から、これからモモンガさんはアインズと名乗る事になった。 異論は?」

 

「いえ、ありません。 至高の御二方がお決めになった事に私はただ従うのみです」

 

現在、玉座の間を出た僕等はその場を離れられない子達に先程、皆に伝えた事を教える為に手分けして回っている。

僕が現在担当しているのはニグレドで、当然“恒例行事”は済ませた後だ。

アインズさんは今頃第八階層のヴィクティムの所かな? 彼とも個人的に後で会いたい所だけど。

 

「確かに重要な報告ではあると思われますが、わざわざ至高の方々自らが来て頂く事でも……」

 

「アインズさんは長としての責任感だろうけど、僕の場合、今日は汚い人間の姿やら臓物やらを見て色々と疲れたからね。 綺麗な者を見て癒されたくなったのさ」

 

「……それは、ありがとうございます。 そしてソウソウ様、この度は御迷惑を御掛けしてしまい、大変申し訳ありませんでした」

 

彼女はそう言って深く頭を下げる。 いや、もう良いってそういうの。

 

「君の妹からその件の謝罪は既に貰っている、それ以上は不要だよ。 そもそも今回は僕が勝手に動いただけだから君等姉妹が責任を感じる必要は一切無い」

 

「そういう訳にも参りません。 至高の存在の御心を乱してしまった事は我々忠誠を誓う者にとって許されざる行為、何卒罰を………」

 

「おいおい、君はまた僕の髪……いや、体を噛んでみたいって言うのかい?」

 

僕の苦笑交じりの言葉に彼女は急に目線を逸らし、何やらもじもじし始めた。 何事…?

良く見れば人形作家としての性か彼女の身を包む喪服がこの前会った時よりパリッとしてるし、

髪も櫛で丁寧に手入れされているのか、より滑らかになっているのを確認出来た。

ふむふむ、彼女がより魅力的に見えたのはそのお陰か、納得。

 

「ね、嫌だろう? だからこの話はこれでやめにしよう」

 

「―――っ!? は、はい……ソウソウ様がそう仰るのであれば」

 

何か目に見えてシュンとしたし……ニグレドってMっ娘だったっけ? 

むしろ慈愛のSっ娘だと思ってたけど。 タブラさん……あなたの娘の嗜好が分かんないよ…。

 

「……取り敢えず、今回の外道連中の体の骨を使って試作品がてらに1/8サイズのフィギュアでも作ってみようかと思うんだけど、ニグレドは良い意見あるかい?」

 

「私の意見、ですか?」

 

「うん、ある意味ヤツ等を作品にしようという発想が湧いたのはニグレドのお陰だからね、好きな物をリクエストしてよ。

タブラさんでもアインズさんでも妹達でも良いからさ、それを君にあげたいんだ」

 

「…私の存在が至高の方々のお役に立つのは当然の事であり、その為に施しを受けるわけには参りません」

 

うーん……断られた。 基本的にナザリックの皆って遠慮がちなんだよなぁ…。

 

「……君が思っている以上に僕は皆に助けられている。 その感謝の気持ちを『それが当然だ』で片づけられるとむしろ気分が悪くなってしまうんだ。 それでも受け取ってくれないのかい?」

 

「………ソウソウ様の御心を考えぬ発言、お許しください。 謹んでお受け取り致します」

 

「無理強いをしてしまう様な言い方をしてしまってごめんね。 それで、どんな人形が良い?」

 

「はい。 でしたら、ソウソウ様のお人形を頂きたいです」

 

「………………え?」

 

え? ちょ、何で? 製作者のフィギュアとか何処に需要があるの?

多分、注文はタブラさんだと思ってたから今、凄いビックリしてる。

 

「ソウソウ様は普段からとてもお優しく、それはきっと私にだけでは無いのでしょうがその御言葉に救われている者も数多く居る筈です。 貴方様が此処に来れない時間もその温もりのお零れにあずかりたいと思っていたのですが、やはり御迷惑でしたでしょうか?」

 

「………君がそうリクエストしたのなら、僕は人形作家として全力でそれに応えるだけだよ」

 

恥ずかしい……本気で言ってくれているのが分かるから凄い恥ずかしいぃぃぃ…。

こういう嬉しい事を言ってくれた以上、創作に気合いも入るってもんだよ。

よーし、ニューロニストが彼等から情報を抜いたら僕もバリバリ骨を抜こうっと。

 

僕が気分を新たにしているとニグレドが声を掛けて来た。

 

「ソウソウ様、これより御不興を買うであろう発言を貴方様に致しますが宜しいでしょうか? 

お気に触ったのでしたらその後に自死をお命じ頂いても構いません」

 

「穏やかじゃ無いね……何?」

 

「先程、ソウソウ様をお優しいと申しましたが、その優しさは私には危険と感じます。

何時かその所為で貴方様がお亡くなりになってしまうのではないかと不安に思う程に。

貴方様にもしもの事があれば、このナザリックに居る者達は嘆き、悲しむでしょう…無論、私も」

 

……彼女の言葉に僕は外装の〈ミルキーウェイ〉を脱ぎ捨て、本体である〈エルダー・ナイト・ダークネス〉を晒して―――――

 

 

ガバッ!

 

 

「そ、ソウソウ様……?」

 

 

―――――彼女を“抱きしめた”。

 

 

「ありがとうねニグレド……心配してくれて。 本当に、嬉しいよ」

 

そして僕は本体を外装に戻して再び彼女に向き直る。

 

「でも、大丈夫。 アインズさんと皆の為に僕は死ぬ訳にはいかないからね」

 

「はい……ありがとうございます」

 

「それじゃ、僕は帰るとするよ。 ニグレド、次会う時はオーダー通りの人形を持ってくるから」

 

「ええ、お待ちしております。 何時までも」

 

 

 

ニグレドの部屋を出た後の僕は上機嫌だった。

やっぱり厳しさを持つ彼女と話すのはインスピレーションが刺激されてとても良い。

妹のアルベドが見せた姉妹愛といい、タブラさんには感謝しなきゃね。

 

どれ折角、氷結牢獄に来たんだし、アインズさんと合流する前に材料達の様子でも見に行こう。

何となくだけどマイナス方面に徳を積んでいるヤツの方が良い作品が作れそうな気がするし。

 

 




これで一巻分のエピソードは全部書けた! 感無量!!

本編における守護者達の「違う! 合ってるんだけど、何か違う!!」という思惑の食い違いを表現できたか不安でしたが如何でしたでしょうか?

久々に出たマキナをヒロインっぽく書こうと思ったら、さらに久々に出たニグレドの方がヒロインしているという謎。
おかしい、こんな筈じゃ無かったのに……。 タイトルを変えるべきか?

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