オーバーロード~至高の人形使いと自動人形~   作:丸大豆

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八話

騎士達に殺された者達の埋葬が終わり、僕等は村人達から少し離れた所で葬儀に参加している。

皆が皆、悲痛な面持ちで死者を悼んでおり、その中には先程僕等が助けたエンリとネムの姿もあった。

 

アインズさんも僕も蘇生アイテムを持ってはいるが彼等の為に使う気は無い。

理由としては単純に「面倒事に巻き込まれたくない」という事でだ。

 

「この世界には蘇生魔法が存在しないっていう村長さんの話を鵜呑みにすれば、僕等が死者を生き返らせた所で、メリットよりデメリットの方が多いんですよね」

 

「ええ。 ですから彼等には我々が村を救ってやった事で満足して貰いましょう」

 

僕はもう一度村人達の姿、エンリとネムの方を見る。

両親の墓にしがみ付いて泣いている姿に少し「可哀そうだな」という思いはあるのだが、だからと言ってあの姉妹の為に両親を生き返らせてあげようという気にはならない。

彼女達の人柄は個人的にかなり気に入ってはいるのだが、それとこれは別。

僕もアインズさんも身を守るアイテムまで与えたのだ。 これ以上は蛇足だろう。

 

「つくづく……自分の価値観が変わってしまったって実感しますね」

 

「私もです…。 しかも、その事に対して違和感が無くなってきているというのがまた、ね」

 

僕等はお互いに溜息を吐く動作をする。

実際には体のメカニズム的に出来なくなったのであくまで振りで、だ。

こういった身体機能の変化にだいぶ慣れて来た事も僕等がナーバスになる原因の一つである。

 

「ま、成る様にしか成らないって事でしょ……と、〈八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)〉? アルベド、どうしたんだい?」

 

「はい。 至高の御二人にお目通りがしたいとの事で、連れて参りました」

 

何時の間にかアインズさんの隣に控えてたのは〈八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)〉。不可視化の能力を持つこの子は誰にも気付かれる事は無いが一体、僕等に何の用だろう?

 

「モモンガ様にソウソウ様。 御二人におきましては御機嫌麗しく……」

 

「世辞は不要だ。 さっさと要件を話せ」

 

どうやら後詰めを任されたらしい彼から現在のこの村周辺における戦力配備の報告とナザリックの皆の状況を聞き、僕等は葬儀場を後にする。 別に最後まで付き合う必要は無い訳だし。

 

僕としては今日はインスピレーションが良く湧く日だったので、可能であればこのまま帰って自室の人形工房に籠りたい所なんだけど…まだやる事は残ってるし、もう少し頑張るか。

 

 

 

その後に情報収集の続きを済ませると、辺りは夕焼け空が広がっていた。

 

純粋にその綺麗な夕日に見惚れていると、何やらアルベドがピリピリとした雰囲気を纏っている。

アインズさんは何やら思い当たる節があったのか彼女に「人間は嫌いか?」と声を掛けた所、彼女曰く、人間とは虫の如き下等生物で踏みつぶしたらさぞ気分が良いという価値観らしい。

 

「成程……お前の気持ちは分かった。 だが今は冷静に、優しく対応しろ。 演技というのは重要だからな」

 

「アルベド、僕もアインズさんも普段の慈しみを持った魅力的な君が好きなんだ。 頼むよ」

 

僕等の言葉にアルベドは深く頭を下げる……のだが、何やらブツブツと「アインズ様が…私を…み、魅力的…くふー!」とか呟いているがスル―だ。 あくまでスル―。

コレに関しては突っ込むのが野暮な気がしてきたし。

 

「…で? アインズさん的には人間の事、どう思ってるんですか?」

 

「そうですね……例えるなら虫程度の親しみしか湧かない、と言った所でしょうか。 ソウソウさんは?」

 

「僕にとっての人間は……自身の創作意欲を高めてくれる存在、ですかね」

 

尤も、それは同族だった頃に比べると物寄りに変貌してしまっているのは自覚しているけどね…。

 

 

「……ん? アインズさん、何か村長達がこっちをチラッチラ見てるんですけど」

 

「……また厄介事か? ソウソウさん、すいません。 もう少しだけ付きあって貰うかもしれませんが……構いませんか?」

 

「別に構いませんよ。 もしもの時の為、彼等に恩は可能な限り売っておくべきでしょうし」

 

 

彼等の話を聞く限りではどうやら戦士風の者達がこちらに向かって来ているのでどうすれば良いか、という事らしい。

マジで厄介事の匂いがするよ…けれど折角、助けたのに皆殺しにされるのも後味悪いしなぁ…。

 

僕がそんな事を考えているとギルマスは覚悟を決めたのか、彼等に安心させる様な声音で語りかける。

 

「分かりました。 我々の力、今回は特別にただでお貸ししましょう」

 

「おぉ……ありがとうございます!」

 

「……なら、代表者である村長さんは広場に僕等と共に残って貰って、残りの皆さんは村長さんの家に隠れて頂くって形になりますが、宜しいですか? …大丈夫、必ずお守りしますから」

 

その言葉に村長さんは吹っ切れた様で、まだ震えが残っているものの、しっかりと返事をした。

うん、良い顔だ。 その表情は物言わぬ人形には決して出せない魅力的な物だと思える。

 

……さてさて、どんな奴等が来るのやら。

僕等はこちらに向かってくる者達がせめて自分達より強い存在でありませんようにと願いながら、広場で待ち構える事にした。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフだ」

 

 

王国戦士長……。 まさか今、僕等の居る国の一番強いであろう肩書を持った人が来るとは。

どうやら彼と彼の率いる部隊はこの近隣を荒らしまわっている帝国の騎士を討伐するという、王様の命令を遂行する為に此処にやって来たらしい。

 

アインズさんは村長さんにボソボソと本人かどうか確認しているのだが、僕にはこの人が本物だという確信があった。

その理由は二つあり、一つはその“姿勢の良さ”。

僕等の存在を警戒してか馬上に居るのだが、その状態でも体に一本の鉄の芯が入ってるかの様な真っ直ぐな彼の佇まいには一種の美しさすら感じる。

二つ目は彼が“職人”に近い雰囲気を纏っている、という点だ。

昔、父に連れられて他の人形作家が集まる人形展に行ったのだが、その時に会った職人さん達は性格は違えど皆、自分の仕事に嘘を吐かないという誇りを持っていて、彼からはそれに近しい印象を受けた。

 

アインズさんの方はどうか分からないが、僕個人としては嫌いでは無い人種かな。

 

「貴方がこの村の村長だな……横に居る者達が何者かを教えて貰いたい」

 

「それには及びません。 どうも、王国戦士長さん。 私の名はアインズ・ウール・ゴウン、魔法詠唱者(マジック・キャスター)です。 そして私の隣に立って居るのは友人である錬金術師(アルケミスト)のソウソウさん」

 

「ご紹介に与かりました、ソウソウです。 そして僕達の後ろに控えている女性は部下のアルベド。 僕達はこの村が襲われているのを見かねて助けに来た者です」

 

戦士長は僕等の言葉を聞いて、村長さんの確認も取らずに馬から飛び降り、代表者であるアインズさんに握手を求めて来た。

 

「この村を救って頂き……本当に、感謝の言葉も無い」

 

……驚いたな。 普通なら僕等みたいな得体の知れない者の話なんて疑ってかかるものかと思ったけど、この人はそういう先入観抜きで他者と接してくれるタイプの様だ。

ますます気に入った。 彼になら蘇生アイテムを使っても良いかなと思える程には。

 

その後はアインズさんと彼との会話の流れで仮面を取って欲しいという要求があったが、死の騎士(デス・ナイト)の制御が出来なくなるから、という理由で回避していた。

……そもそも死の騎士(デス・ナイト)って未だに消えないんだけど、アレいつまで居るの?

もし時間制限が無くなったのなら、ナザリックに連れ帰ってお世話しなきゃいけない流れ?

まぁ……食費が掛からない子なら良いんだろうけど。

 

「ソウソウ殿もその仮面は何か魔術的な理由で?」

 

「いえ、申し訳ありません。 アインズさんやアルベドと違って、僕の場合は単純に皆さんに辛うじてお見せできるのがこの髪と眼しかありませんもので」

 

「髪と眼は錬金術による副作用とは聞きましたが顔は……」

 

「ええ、火傷でちょっと…。 この仮面、実に顔にピッタリと貼り付いているでしょう? どのような状態かは口ではとても……」

 

その言葉に戦士長さんの部下達は皆、顔を顰めていた。

アインズさんが姉妹に言った設定を僕なりに解釈してみたのだが、効果有りの様だ。

実際、中身を見せたら皆さんビックリだろうね。 何せ髪と眼だけしか無いのだから。

 

「……それは、失礼をした。 気に触ったのならば大変、申し訳ない」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。 お気になさらず」

 

戦士長は僕の嘘を真に受けて純粋な気持ちで謝ってくれている。

本当に、善良な人なんだろうな……損な役回りばかりを引き受けていそうではあるけど。

 

 

チームリーダーの二人がまた話し始めるのを見て、僕はアルベドに他の人達に聞こえない声量で彼の評価を訊いてみる事にした。

 

「アルベド、君はあの王国戦士長をどう思う?」

 

「はい、アインズ様とソウソウ様は当然として、私にもまともな傷一つ付ける事が出来ない、か弱き存在かと」

 

いや……誰も戦力分析しろって言ったわけじゃないんだよ?

でも過大評価されてる僕等はともかく、自分の基準で彼を脅威では無いとは判断したわけか…。

けれど今のアルベドが奥の手を封じている様に、戦士長も僕等に隠した何かを持っているのかもしれないのだからその判断は早計だとも思える。

 

「……今はまだ様子見かな。 ありがとう、参考になったよ」

 

「ソウソウ様……何という勿体無い御言葉」

 

完全武装した状態で身を震わせるアルベドに「これはこれで可愛いんじゃなかろうか?」と思っていると一人の騎兵が広場に駆け込んで来て、戦士長に大声で緊急事態を告げた。

 

「周囲に複数の人影が! 村を囲むような形で接近しつつあります!!」

 

今度こそ敵かな……まったく、何時になったら工房に戻れるのやら。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

僕等は緊急報告を受けた後、村長宅に潜んで近づいて来ている敵の様子を窺う。

肉眼では3人、傍らには彼等が召喚したであろう“天使”の存在を確認した。

 

「……確かに居るな」

 

「戦士長殿、彼等は何者で狙いは一体、何処にあるのでしょうね? 私はこの村にそこまでの価値があるとは思えませんが」

 

「ゴウン殿に心当たりが無いとすれば狙いは……一つしか思い浮かばないな」

 

「成程…どうやら、憎まれている様ですな、戦士長殿は」

 

やはりこの戦士長さんは苦労人らしい。

罪も無い人々が殺された事に対する義憤を利用され、現在は袋の鼠という状況だ。 

口振りからして自分がいつかこうなる事も予想していたのだろう、覚悟が決まった眼をしている。

どこまでお人好しなのか、確実に早死にするタイプだ。

 

少なくとも、僕はそういう綺麗な生き方をしている人は嫌いじゃないけどね。

 

「天使を使役している所を見ると、奴らは恐らくスレイン法国。 それも俺を狙うのであれば特殊工作部隊群……噂に聞いた“六色聖典”か…」

 

「先程、帝国騎士の一人を痛めつけたら自分の事をスレイン法国の者と自白していましたが、この状況から見て、嘘じゃ無かった様ですね」

 

「ソウソウ殿……穏やかな声音に勘違いしていたが、どうやら君もゴウン殿と同様に底の見えない男のようだ」

 

「ふふふ、お褒めの言葉として受け取っておきますよ、戦士長殿」

 

僕は戦士長の畏怖の眼差しを受け流しながら思考する。

“天使”か…あの造形はユグドラシルで見た奴に非常によく似ている。

先程の戦士長が言っていた“六色聖典”という組織名もネーミングセンスが廚二染みてるとでも言えば良いのだろうか、なんとなくユグドラシル関係者が付けた様な感じがするし。

やっぱり此処に来たのは僕等だけじゃないんじゃないか?

アインズさんの方を見ると、彼も同じ考えだったのか何やらブツブツと呟いている。

 

「ゴウン殿、ソウソウ殿…良ければ私に雇われないか。 報酬に関しては望むだけの額を支払おう」

 

そんな思案中の僕等に戦士長は救援を求めて来た。

彼の話では今は本来の装備を外されてこの場に居るとの事だが、そんな状況じゃ藁にも……いや、彼は僕等の存在を大木くらいの評価をした上で戦士長としての責務を果たす為に頭を下げて頼んでいるんだ。

報酬の件は本当に払えるかどうかは別にしても、僕個人としては手を貸すのは構わない。

彼の話であの連中がニグレドを悲しませた外道だという事はもう確定したワケだし。

 

問題は僕等のリーダーの判断だが、さて……?

 

「……お断りさせて頂きます」

 

「…友人がそう決めたのなら、僕もあなた方に力をお貸しする訳にはいきませんね」

 

意外だ……国家間の問題に介入するリスクがあるとはいえ、アインズさんも彼の事は嫌いでは無いと思っていたけど、僕の勘違いだったのかな?

 

「そうか……ならば王国の法を用いる事もやぶさかではないが?」

 

「それはやめておいた方が良いでしょう、戦士長殿」

 

「そんな手段を取られれば、流石に僕等も抵抗せざるお得なくなってしまいますからね」

 

「……怖いな。 そうなれば我々が敵と会する前に全滅か…」

 

どうやら諦めてくれたようだが……全滅、ね。 

アインズさんは「御冗談を」と返しているが、この人が僕等の実力を理解して引いてくれたのだとちゃんと気付いている。

 

だからこそ戦士長がその後、この村を救った事に対する礼と共に再度村を守って欲しいという願いに対して僕等のギルド、アインズ・ウール・ゴウンの名をかけてまで了承したのだろう。

戦士長、ガゼフ・ストロノーフの持つ輝かしいばかりの人間性に敬意を払う為に。

 

ガゼフさんがその言葉に満足した所でアインズさんは彼を引き止めた。 何だろう…?

 

「……戦士長殿、その前にこれをお持ちください」

 

アインズさんが彼に渡したのは僕ならもう少し凝ったデザインにしたであろう、500円ガチャのハズレアイテム。

アレを渡したって事は……成程、彼の意図がようやく分かった。

流石はギルマス。 やっぱり骨のある人は違うね。

 

そしてガゼフさんは彼からのアイテムを受け取った後、部隊を引き連れて出立した。

この村の者達を巻き込まないよう、囮の役目も同時に果たす為に…。

 

その後ろ姿を見つめながら、アインズさんは誰に言うでも無い独り言を呟く。

 

「ハァ……初めて会った人間には虫程度の親しみしか無いのに、どうも話してみたりすると、小動物程度の愛着が湧くな」

 

「良いんじゃないですか? 僕も彼を見てインスピレーションがギュンギュン湧きますし」

 

「ソウソウさんは職人ですから別に構わないと思いますけど……それで、ソウソウさんはこれからどうする予定で?」

 

「バレちゃってましたか。 僕は今から彼等の戦いを特等席で見に行くつもりですが」

 

アインズさんの意図が分かった以上、彼等の様子を近くで確認する存在が必要だ。

そしてそれは多分“元”人間である僕が適任なのだろう。

 

「……分かりました。 何人残すかはそちらにお任せしますが、最低でも王国戦士長は生かしておいてください」

 

「ええ、了解。 出番が無いのならそれに越した事は無いですけどね。 それでは………」

 

そう言って僕は隠密に長けた人形を取りだす。 その人形の名は―――――

 

 

「出で座せい、〈スクルィヴァーチ・マトリョーシカ〉」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

スレイン法国の特殊部隊、六色聖典の一つである陽光聖典によって召喚された30を超える天使達に囲まれた状況でリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは疲弊しきっていた。

本来ならばこの様な状況など問題無く切り抜けられるであろう装備も今は無く、そんな中でも自分に付いて来てくれた大馬鹿で、それ以上に自慢の部下達も自分以上に傷つき疲弊し、最早まともに立って居る者はいない。

 

そんな絶体絶命とも言えるべき中においても彼の闘志が衰える事は決して無い。

何故ならば―――――

 

「俺は王国戦士長! この国を心から愛し、守護する者!! この国を汚す貴様等の様な外道に負けるわけにいくかぁ!!!」

 

この国に住む民達にこれ以上、今回の様な悲しみを背負わせたくないという戦士長としての誇り。

そしてその悲しみを生み出している元凶に対するこの身を焦がす程の激しい怒り。

この二つがもはや限界を超えた彼の体をまだ、倒れさせてはくれないのだ。

 

そんなガゼフの姿に対し、陽光聖典の隊長、ニグン・グリッド・ルーインは冷ややかに言い放つ。

 

「本当にこの国を愛していると言うのならば、お前がすべき事は辺境に住む村人など見捨てるべきだったというのに、本当に、愚かな男だよ……ガゼフ・ストロノーフ」

 

「お前とは……何処までも平行線だな。 行くぞ?」

 

「そんな体で虚勢を張るな。 無駄な足掻きを止め、そこで大人しく横になれ。 せめてもの情けだ、苦痛無く殺してやる」

 

「……俺を殺したとしても、貴様等は…死ぬだろうな。 この先の村に居る…俺よりも強いであろう人達の手によって」

 

「王国戦士長ともあろう者がつまらんハッタリを……お前達の次は村人達だ。 天使達よ、ガゼフ・ストロノーフを殺せ」

 

ニグンの号令で3体の天使達が一斉にガゼフに襲い掛かる。

王国最強の男の命を奪うべく、その燃え上がる剣を振り下ろした瞬間―――――

 

 

ザザザンッ!!!!!

 

 

その全てが“ぶつ切り”にされた。

 

「――――弱いなぁ……でも、コイツ等の階位が見た目通りなら妥当か」

 

「な、何が起こった!? しかも今の声は……」

 

そのまま消滅していく天使に驚くニグンと陽光聖典の声に併せる様に謎の声の主は不可視化を解除し、姿を現す。

その正体はこの世界に居る彼等には分からないだろうが、ロシア人形のマトリョーシカを元にした操り人形、〈スクルィヴァーチ・マトリョーシカ〉。

その外装は全身の皮膚が無い女性の塗装が施されたグロテスクなデザインだ。

 

これは人形の中に一回り小さい人形を入れるという仕様の物で一層目が相手の攻撃を一定回数反射する〈カシマール・アトラジェーニエ〉を持ち、二層目が不可視化の効果〈ピリャータッツァ〉と収納式の無数の刃を有している。

今回、彼等が見たのはこの二層目になる。

 

そして二層目から出て来た三層目、すなわち本体の姿に陽光聖典は絶句する。

 

「どうも、お仕事熱心な皆さん。 お会い出来て僕はとっても嬉しいよ」

 

身を包む服装は自分達が見た事が無い物で、顔には真っ白な仮面、瞳の色は黄金、髪は言葉を発する度にザワザワと蠢くという正しく“異様”という言葉が似合う男が現れたのだから。

 

「……ソウソウ殿、何故だろうな…ゴウン殿が来なくても…君は来ると思っていた」

 

ガゼフがそう感じた理由は彼が村々を襲っている者の正体に確信を得た時、大切な者が傷つけられた事に対する怒り、傷つけた相手に対する冷徹な光、この二つを彼の瞳の中に見たからだ。

 

現に今も、彼は声音こそ穏やかだが陽光聖典にその二つが入り混じった視線を向けている。

 

「ガゼフさんは助けましたが後は僕がやりますか? それとも自分で実験の続きをしますか?」

 

『ご苦労様です、ソウソウさん。 私もそちらに向かう事にしましょう』

 

次の瞬間、ガゼフと彼の部下達の姿はその場から消え、入れ替わる様に二人の男女が現れた。

これは先程、ガゼフに渡したアイテムの効果が発動した為だ。

そして現れた内の男性の方が陽光聖典に対し、自己紹介と提案をする。

 

 

「はじめまして、スレイン法国の皆さん。 私の名前はアインズ・ウール・ゴウン。 隣に居るのは私の同志のソウソウさん。 そして後ろに居るのは部下のアルベドです。 皆さん……私と取引をしませんか?」

 

 

陽光聖典、彼等にとって……恐怖と絶望の時間の始まりである。

 

 




次もまた無双が始まります。

ちなみにスクルィヴァーチ・マトリョーシカの一層目は普通に美人の絵柄。

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