2人の教官と最弱の小隊 growth record 作:トランサミン>ω</
「ユーリなら常に手堅い手を打ってくる。例えば相手がペンダント狙いだとわかれば自分の小隊をV陣系にシフトさせるとかな」
カナタがそう言った直後の空中では、サーシャとグレッグのツートップになり、リリィを守りやすい形を作っていた。
まさにカナタの言う通りである。
「た、たった1度予想しただけでは…」
「そしたらミソラたちはI陣系にシフトする。前衛をレクティ、中衛をリコ、後衛がミソラだ。一直線になるからリリィの位置からじゃミソラの動きは見えずらくなるだろうよ」
リリィたちの動きに応じるかの如く、間髪開けずにミソラたちがシフトした。
「そんでリリィからの注意が薄くなったミソラが逆転の切り札を作り出す」
カナタはその後も淡々と予測だけを語り続ける。
そしてミソラたちに油断する素振りは微塵もない。
「そ、そんなことが…。ま、まさか…あれはっ!?」
ユーリは見逃さなかったミソラが握る魔砲剣のシリンダー型縮退炉がガシャンと一回転するのを。
「ん、言わなかったか?この模擬戦、ここまで全部俺の読み通りだって」
「ぜ、全部ですかっ!?」
「次はリリィが1人で突撃するぜ。あいつは自分のことを優秀な狩人だと思ってる、それにミソラのことを簡単に仕留められる獲物だとな」
「まさか…そんなことはありませんっ!」
「いーや、わざわざ仲間の手を煩わせることも無いって自分で行くさ。自分が獲物になってるって気付かねーままな」
案の定リリィは単独でミソラを仕留めようと突出した。「ダメですリリィ!そっちへいっては!!」
「確かに勝負はついたぜ。さぁ、ここが正念場だ!ミソラ、やってやれ!」
高ぶる感情を抑えられずカナタはフィールドへ向けてそう叫んだ。
肉薄するリリィの姿にミソラは再度反転、遁走する。
観客席からはブーイングが沸き起こるが、そんなものを気にする余裕は無い。
『ほらほら、どうしたんですかっ!逃げてばかりじゃ勝てませんよっ!』
『……そんなのわかってるわよ』
ミソラは視界の中で仲間たちの動きを確認した後全速力でライン際へと逃げていく。
魔力の収束までの時間を稼いでくれている仲間たちの為にもミソラは速度を全く落とさない。
ここぞと言うタイミングでヴァーチカルブーストした。
『ふんっ!ライン際に追い詰められて今度は上ですかっ!苦し紛れにも程がありますねっ!』
逃げると言うことは収束が不完全なことの裏返し。
そう判断したリリィは同じ軌道でミソラを追いかける。『これで終わりですっ!』
必中を確信して引き金を絞ろうとするリリィ。
しかし獲物を仕留めることに夢中だった彼女は見逃していた。
どんな強者であっても垂直上昇時には飛行速度が減速するということを。
制限高度まで上り詰めたミソラが反転、武器の砲口を突進してくるリリィへと向ける。
収束などとっくに完了していた。
ミソラが待ち望んでいたのは絶対に外れないタイミング。
『し、しまった!?』
空中戦に於いて、上をとることのメリットは、位置エネルギーが大きいことにある。
下から上昇するよりも、上から降下してくる物の方が必然的に速い。
つまり、逃れることは出来ない。
この世の物理的法則がミソラへ味方する。
リリィは急旋回しようとして一瞬躊躇してしまった。
何故なら相手が逃げ足の速い奴だからだ。
その迷いがすべての選択肢を奪ってしまう。
ミソラは即座に引き金を絞った。
「もらったっ!!」
〈魔砲剣戦技ーストライクブラスター〉
轟音。肩の関節が外れ両腕がもぎ取られるかのような反動。
天を焦がすような白銀色の光の本流がリリィを襲う。
薄れゆく意識の中リリィは思った。
な、なんでこんなに強い子たちが落ちこぼれ小隊なんて蔑称で呼ばれてるんですかっ!?
そのFランク小隊に彼女は敗北を喫した。
しんと静まり返る会場。
生徒たちがまさかの大番狂わせに唖然とする中。
ビーッ!ビーッ!
魔甲蟲の襲来を告げる警報が鳴り響いた。
次の瞬間、会場の放送席が爆発。
観戦していた生徒たちは逃げ惑い、会場から避難していく。
残ったのはカナタ、ユーリ、そしてミソラたちだけ。
そして、そこに不気味な笑い声を上げながら男が舞い降りる。
「ふふっ、負けて絶望した貌も素敵だねユーリ」
「だ、誰ですかっ!あなたは…っ!?」
「いやだなー、僕だよ。覚えていないのかいユーリ?」
そんな言葉を口にして見せたのは、炯炯と輝きを発する目をした、ラインの細さが目立つ青年ーレアルだ。
「ああ、愛してるよユーリ。今すぐ僕の愛を受け入れてくれっ!」
そういうや否や、魔剣を取り出しユーリへ襲いかかる。
しかし…
ガキィィィン!
激しい金属音と共にレアルの一撃は弾かれる。
「また邪魔をするのかいっ!カナタ・エイジィィッ!」
「わりーな、俺の大切な教え子たちをやらせる理由にはいかねーんだ」
逆手にダガーを構えたカナタがその凶刃を防いだのだ。
「いいじゃないか、相手してあげるよ」
そう言ってレアルが指をパチンと鳴らすと、ソーサラーフィールドを発生させるモニュメントが砕け散った。
「ユーリは下がってろ」
「カナタ先輩の後ろで隠れるなんてできませんっ!」
「たまには先輩の言うことを素直に聞けよ」
まずいな。カナタはそうはっきりと感じた。
ユーリの悪いくせであるカナタへの対抗意識が正常な判断を邪魔している。
どうしたものかと頭を掻きながら、カナタは次の作戦を練り始めた。
2巻の内容もあと数話でおわりですねっ!
感想、評価まってます!!