GOD EATER 2 RB 〜荒ぶる神と人の意志〜   作:霧斗雨

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第31話です。
近づく不穏と束の間の平穏。


第31話 不穏と平穏

レイに渡された手紙に書いてあったことに従って、ラケルの研究室をやって来たクジョウを出迎えたのは、パソコンに向かってなにかの作業をしているラケルだった。

 

「あら、わざわざお呼び立てして申し訳ありませんでしたね……クジョウさん」

 

部屋に入ってきたクジョウに気が付き、ラケルは作業の手を止める。

クジョウは、少しオドオドとしながらラケルに話しかけた。

 

「い、いえ……あの、恐縮ですッ。むしろ、私なんぞに、何か御用が……?」

 

「ご謙遜を……クジョウさんは、フェンリルでも指折りの神機兵技術者じゃないですか。むしろ、姉や私がいつも、ご迷惑をかけてないかと……」

 

「いえ、滅相もありません……貴方がたとは良きライバルで、いや!そんなおこがましい……モノでもなく……」

 

オドオドと答えるクジョウを、ラケルは優しく見つめる。

そして、軽く手招きをした。

 

「フフ……光栄ですわ、お見せしたいものがあるので、できれば、こちらの方にいらしていただけます?」

 

「え!は、はあ……」

 

クジョウは何のことやら分からないままに、ラケルの膝の上のパソコンをのぞき込んだ。

そして、驚きのあまりに目を丸くする。

 

「ハッ……これはっ!?神機兵の生体制御装置……?」

 

「さすがは、クジョウさんですわ!あなたが進めている自立制御技術のお役に立てればと思って……これも……」

 

パソコンが別の画面を映し出す。

それは、クジョウの望むそのものだった。

 

「これは……私が追い求めていた答えそのもの……これは、ブラッドの偏食因子に何か関係が……?」

 

「ええ、感応現象による教導効果と、極東で得られた研究の成果、その2つを組み合わせて、たどり着いたものです。細かい点は後で、ドキュメントのほうをご覧いただくとして……」

 

また、パソコンの画面が変わる。

そのどれもが、クジョウにとっては喉から手が出るほどに欲しいものである。

不意に、ラケルがクジョウの顔を見た。

 

「クジョウさん、これらの研究を引き継いでいただけますか?」

 

「引き継ぐも何も……こちらとしては願ったりかなったり……しかし……」

 

「しかし、何でしょう?」

 

質問があるのか、とでも言うようにラケルは小首をかしげる。

 

「ご存知のとおり、私は貴方のお姉様と対立する立場にいます……なぜ、そんな私に協力を?」

 

クジョウからしてみれば、それは当然の疑問だった。

何故、身内のライバルに手を貸すのか。

しかし、ラケルからしてみればそれは疑問でもなかったようで、寂しそうに俯く。

 

「そんな野暮なことを……答えなければいけないのですか?」

 

「いや、それは……あの、その……」

 

思いがけない反応に、クジョウはどうしたらいいのか分からず焦る。

ラケルはなにか思い立ったかのようにゆっくりと顔を上げると、まるで祈るかのように胸の前で手を組み、クジョウを見つめる。

 

「……ならば、ひとつだけ条件があります。私ではなく、貴方が開発したことにしておいてください。優れた技術は必ず世に出るべきです、でも……姉はたった一人残された肉親……できることなら嫌われたくありません。俗物的で、あまりに申し訳ありませんが……」

 

そう言って、ラケルはゆっくりと顔を伏せる。

クジョウは、そんなラケルの言葉に感動していた。

研究に対しても、身内に対しても真摯な態度をとる、その姿に。

 

「いえ、よくわかりました!あなたの研究に対する真摯な態度、お姉様に対する愛情、どちらも感服いたしました!」

 

「クジョウさん……ありがとうございます!データはここで、全て出力してお渡ししますね!」

 

ラケルはパッと顔を上げた。

その顔には喜びの色が見て取れる。

そして、カタカタとパソコンをいじり始める。

 

「お約束は必ず守ります……ラケル博士、それでですね、あの、もしよろしければ、これを機に、お近づきになれれば……あの……」

 

クジョウは、自身の願望をたどたどしくではあるが、作業をするラケルに伝えた。

しかし、それがラケルには届くことはなく。

 

「はい?何か、おっしゃいました?」

 

出力し終わり、データの詰まったディスクを、ラケルはクジョウに差し出した。

 

「いえ……何も……」

 

思いが伝わらなかったのを残念に思いながら、クジョウはそのディスクを優しく受け取った。

そして1度軽く礼をすると、名残惜しそうに研究室から出ていった。

笑顔でそれを見送り、誰もいなくなった研究室で、ラケルは1人ほくそ笑んだのである。

 

ーーーー

 

最後の用件が終わり、フライアのロビーに戻ってきたレイは、ここにいるはずの無い人物がいることに驚いた。

 

「おっ」

 

「よっ、びっくりしたか?1人じゃ心細いかなぁ、と思ってさ」

 

手を振りながらそういうロミオに、レイはいつものような意地悪い笑みを浮かべながら言った。

 

「おぉ、言ってくれるね。で、なんだお前、また家出でもしたのかぁ?」

 

「ちげーよ!ちゃんとジュリウスに話通してあるよ」

 

「ははは、冗談だって、本気にすんなよ」

 

なんてことの無い冗談に真剣に返してくるロミオに、レイは声を上げて笑った。

そんなレイを見て、ロミオは苦笑いをしながら相変わらずだなぁと漏らした。

 

「で……もう手伝い、終わったんだろ?ラケル博士が、極東に戻る手続きをしてたみたいだし」

 

「ああ、らしいな。後は帰るだけだぜ」

 

「だったらさ、極東に戻る前に……ちょっとだけ、俺に付き合ってくれないか?」

 

「!」

 

突然の申し出に、レイは驚いてロミオを見た。

そして、少しの間黙った後、レイはゆっくりと頷いた。

 

「……ああ、いいぜ」

 

「よっしゃ、それじゃ……とりあえず任務に行こうぜ!詳しい話はその後、ってことで」

 

ーーーー

 

今回のターゲットはガルムだ。

前、ロミオを迎えに行った時もガルムと戦ったので、ロミオはとことんガルム神属に縁があるのだろうと、レイはガルムの右ガントレットを砕きながら思った。

とはいえ、レイの武器はショートブレードなので、バスターソードの一撃の破壊力には一歩及ばない。

今回のも、砕くというよりは切り裁くと言った方が正しい。

左ガントレットは、ロミオのヴェリアミーチによって文字通り砕かれている。

あの破壊力が羨ましい。

そんな事を思いながら、地面を思いっきり蹴り、ガルムの眼前に躍り出る。

ガルムは、チャンスと思ったのかレイに噛み付こうと大口を開けるが、その瞬間レイはエアリアルステップを使って横っ飛びに飛んだ。

結果、ガルムの口内をロミオの放ったバレットが襲う。

堪らず顔を背けたところを、レイのブラッドアーツ、ダンシングザッパーが襲い結合崩壊を引き起こす。

ダンシングザッパー最後の一撃の体勢から、トドメとしてスパイラルメテオを放った。

身を投げ出すようにダウンしたガルムから、ロミオがコアを抜き取り、討伐が終了した。

 

「くぅー……はー、今日も良く働いたなー!」

 

ぐぐっ、とロミオが背伸びをした。

 

「にしても、レイはやっぱ冴えてるよなー!レイと組むと、すげぇ動きやすくってさ」

 

「そいつぁどうも」

 

レイはいつもの軽口で返す。

ロミオはクスリと笑うと、そっと視線をそらす。

 

「……俺さ、ずっと考えてたんだ。どうやったらみんなみたいにうまく戦えるんだろうとか、役に立つにはどうすればいいんだろうって。だから、ギルの真似してみたり、ナナみたいに立ち回ってみたりとか……色々試してみたんだ」

 

「……うん」

 

「でもさ、そうじゃないんだよな」

 

レイに背中を向けて、ロミオが語り続ける。

レイはそれを、たまに相槌をうちながら黙って聞いていた。

 

「俺は、俺のできることを一生懸命やろうって思ったんだ。ジュリウスも、レイも、ギルも、ナナも……みんな凄いと思う。俺なんかには真似できないこといっぱいやってるから。でもだからこそ、きっと俺にも皆には真似できないことがあるんじゃないかってさ」

 

ゆっくりと、ロミオが振り返り、レイと向き合う。

 

「俺、ブラッドのみんなに会えて、本当に良かったよ……ありがとな」

 

そう言ったロミオの顔は、言いたいことを言い切ってスッキリした、というような笑顔だった。

その中に、ほんの少しの照れを含ませているが。

ロミオが、レイに手を差し出して言った。

 

「これからもよろしくな、レイ!へへっ」

 

「ああ、よろしくな」

 

その手をとって、握手をする。

その後、2人はひとしきり笑うと極東支部に戻ったのだった。

 

ーーーー

 

極東支部に戻ると、ジュリウスから次の任務の説明を受けた。

フライアの北方に位置する、岩山で構成されたエリア。

どうやら、マルドゥークはその岩山を拠点にしていて、群れを率いて押し寄せては、帰っていくらしいという報告を、サテライト拠点に出入りする資源回収業者から報告を受けたため、真相を確かめるそうだ。

長期間に及ぶ調査任務である。

そして、機会があればマルドゥークを倒すらしい。

あと、この任務終了後にジュリウスと再びフライアにおもむき、ラケルに結果を報告するのだそうだ。

準備を整え、マルドゥークを倒せるかもしれないと意気込み、ブラッドは岩山に向かったのだが、結果的に今回はマルドゥークをお目にかかることは出来ず、アラガミをただ倒すというあまり普段と変わらない任務となってしまった。

少し残念に思いながらも、レイとジュリウスはフライアを訪れた。

そこでレイを出迎えたのは、クジョウであった。

ジュリウスは一足先にラケルの部屋に言ってしまったようである。

 

「あっ、これはこれは!おかげで……神機兵の改良が完了しましたよ!」

 

「そりゃよかったですね」

 

歓喜の表情を浮かべながら、クジョウはレイに歩み寄る。

それをさらっと流しながら、レイは急いでるので、と一言だけ言って足早にクジョウの前を通りすぎ、エレベーターのボタンを押した。

エレベーターの到着を待つレイの耳に、クジョウの決意の声が届いた。

 

「次の運用テストに成功すれば、無人制御型神機兵の採用が決定します!ああ、研究ひとすじ幾星霜……今度こそ、やりますよ……!」

 

その言葉に、レイは悶々としたものを抱えながらエレベーターに乗り込み、ラケルの部屋のあるフロアで降りる。

確かに、神機兵が完成したのはクジョウにとっても、人類にとってもめでたい事なのだろう。

だがそれが採用された時、ゴッドイーター達はどうなるのだろうか。

そんな事を考え、レイは溜息をついて苦笑いを浮かべた。

深呼吸をして思考を切り替え、ノックをしてラケルの部屋に入る。

出迎えたのはジュリウスだった。

 

「調査報告は済んでいるが、ラケル先生から話があるそうだ、俺とお前に……」

 

「はあ、なんです?」

 

レイは首をかしげた。

ここへは調査報告をしに来ただけのはずだったのだが。

 

「調査の件、ご苦労さまでした。それとは別に……ブラッドの近況について、少しお話しましょう」

 

先日とは打って変わり、真剣な表情でラケルが話し始める。

 

「ロミオが、血の力に目覚めないことを気に病み、1度ブラッドを離れようとしたとか……」

 

グッ、とレイは息を飲み込んだ。

ジュリウスは、この事まで伝えたようだ。

 

「歩みは人それぞれ……急かすつもりはありません。ただ……もしそのことで、ロミオが隊に居づらいのであれば、ブラッドの任を解き、極東支部の部隊に組み込んでいただくよう、サカキ博士にお願いすることもできますよ」

 

「……あんた何を」

 

言い出すんだ、と言いかけた瞬間、ジュリウスがレイを制し、口を出した。

 

「いえ……その必要はありません」

 

「……!」

 

レイはキッ、とジュリウスを睨みつける。

その瞳に、静かな怒りを込めて。

ジュリウスは、それに気がついていないのか、静かに続けた。

 

「副隊長を始め、シエルも、ギルも、ナナも、そしてロミオも……全員が、かけがえのない存在です。数多のアラガミを倒し、数々の危機を乗り越えられたのは、ひとえにブラッドが、完璧なチームだからです」

 

「……」

 

「ブラッドの中に至らない者がいれば、私が守るだけのこと……誰も脱落させはしません……」

 

そう、確かな口調でジュリウスが宣言した。

レイは、はぁ、とため息をつくと一歩引いた。

 

「フフッ」

 

ラケルが軽く吹き出すように笑う。

妖艶な微笑みを浮かべるその顔を見て、レイは背筋に冷や汗が伝っていくのがわかった。

 

「そうですか……ジュリウスが、そこまで言うのであれば……貴方の意見を尊重しましょう……」

 

ゾクリ、という悪寒がレイの全身を駆け巡る。

何故かと言われてもわからないが、とにかく嫌な感じがした。

言いたいことを言い切ったジュリウスは、失礼します、と言うと、クルリと踵を返して部屋から出ていった。

レイもそれを慌てて追いかける。

 

「ブラッドの強い意志と、絆を信じて、ジュリウスの意見を尊重しましょう……」

 

2人が出ていって、静かになった部屋で、ラケルは一人呟いた。

一方、部屋から出たレイは、さっきの痴態を詫びた。

 

「……ジュリウス、悪ぃな」

 

「ああ、構わない。だが、アレで怒るとは思わなかったな」

 

「……うるせぇ」

 

ふい、とレイは目をそらした。

なぜあの場で怒ったのか。

そう問われても答えようがないのだから仕方が無い。

強いていうなら、何となくだ。

 

「まあいい。レイ、このあと俺は会合に出席しなくてはならない……すまないが、先に極東支部に戻ってくれ」

 

「ああ、わかった。んじゃ、後でな」

 

ジュリウスと別れ、レイはさっきの悪寒について考えながら廊下を歩いた。

ラケルの前に行くと、平静を保つのが何故か難しくなる。

あの常に浮かべている微笑みが、何故か気味悪くて仕方が無い。

何を考えているのかが分からないから、余計に感に触る。

何故かわからないが、本能的に警戒を解くことが出来ない。

 

「俺って、こんな奴だったか?あー、分からねぇことだらけだぜ、まったく」

 

はぁ、とため息を付くと、レイは手続きを済ませて極東支部への道を歩いた。

 

ーーーー

 

ジュリウスより一足先に戻ってきたレイは、ロビーでナナとロミオと話をしている珍しい人物を見かけた。

まあ、その人物は極東支部住みなので、珍しいというのもおかしいのだが。

彼女は、レイがやってきたことに気がつくと、レイに声をかけた。

 

「あっ、レイ!」

 

「ユノじゃねぇか。久しぶりだな」

 

レイは片手を上げて反応すると、3人の話の中に入る。

 

「あのね、皆の調査任務のあと、あのアラガミはサテライト拠点に来なくなったみたい。それで……今のうちに避難訓練をすることになってね、サテライト拠点の外側に住む人たちも、初めて参加するの!」

 

「ロミオ先輩の知り合いのおじいちゃん達さ、拠点内のシェルター使えるようになるんだって!よかったねー!」

 

ユノとナナに怒涛の勢いで迫られ、さすがのレイも少し引いた。

顔が少し引きつったが、まあ致し方ないだろう。

そんなレイを見て、ククク、とロミオが笑った。

 

「ああ!しっかし、あの調査任務は拍子抜けだったなー。マルドゥークが出たら、俺がズバッとやってやったのに!」

 

「調子のんなっつーのに、お前は」

 

すかさずロミオの頭を軽く殴った。

いってー、とロミオが頭を押さえながら笑う。

暫く雑談をしていると、サツキがユノを引っ張っていった。

どうやら、予定が詰まっていたらしい。

相変わらずの忙しさである。

残された3人は、別にすることがなかっのでラウンジへ入った。

レイはソファに座るギルの横に腰を下ろし、2人はカピバラの世話をしているシエルの方へ歩み寄る。

腰を下ろして、ふう、と一息つくと、ギルが話しかけてきた。

 

「今、サテライト拠点では避難訓練をやってるが、イベントの目玉として、ユノのライブがあるらしいな」

 

「へー。知らなかったぜ」

 

少し驚きながらレイは答えた。

成程、それでサツキがユノを引っ張っていったのか、と一人納得する。

ウィン、とドアが開く音がして、フライアから帰ってきたジュリウスが入ってきた。

案外早く帰ってこれたようである。

ジュリウスに気がついたナナが、こっちこっち、と手を振るので、ジュリウスはカピバラを囲む話の中に入っていった。

ギルが話の続きを始める。

 

「同じアナグラに住んでるのに、歓迎会の時しか歌を聞けてない……って、ロミオが悔しがってたぜ」

 

「あー、言いそうだなぁ。で、あいつらは何やってんの?」

 

「ん?」

 

カピバラのゲージを取り囲む4人の方に目をやると、ナナがレイたちの方にも声が聞こえるように振り返って、カピバラを指さしながら言った。

 

「この子、名前がまだ決まってないんだってー。そこで!私がぴったりの名前を考えてきました!その名も「カルビ」!」

 

「え……ちょ、ちょっとナナさん!?」

 

「まさかの名前だった」

 

シン、とその場が静まり返り、少し焦ったようにシエルが口を開く。

レイは思ったことを率直に口にし、その隣で、ギルは我感せずとばかりに近くにあった雑誌に目を通し始める。

 

「「カルビ」ってさ!響きがなんかカワイイと思わない?」

 

「いや、まあ、うん……いんじゃねーの。つか、俺に振んな」

 

キラキラと目を輝かせながら、ナナがレイに話を振った。

最早考えることすら面倒というか、そもそも興味の無かった事を振られ、レイは適当に答える。

 

「君までそんな……まぁ、君がそう言うなら、私も反対はしませんが……」

 

「じゃあ決まり!「カルビ」、これからもよろしくね!」

 

「キュルルル〜」

 

シエルが少し拗ねたように言ったが、ナナはそれをさらっとスルーし、名前を決定してしまった。

名前をもらったカピバラは、どこか嬉しそうに鳴いた。

 

「名前があると、家族の一員って感じだよね!おめでと、カルビ!」

 

「でもさー、カルビってなんかの肉じゃなかった……?」

 

ここで、ロミオがナナに問う。

その通り、カルビとは肉の部位の名前である。

だが、ナナは少し首をかしげるも、いつものように笑った。

 

「そうだっけ?ま、カワイイから、いいよね?」

 

レイは思わず苦笑すると、未だ悶々としているシエルに話しかける。

 

「いいのか?本当はシエルがつけたかったんだろ?」

 

「うっ……カルビ……まあ、いいと思います……」

 

相変わらず拗ねたように言うと、シエルはしゃがんでカルビの頭を撫でた。

 

「さあ、カルビ。この後は、ノミ取りシャンプーの時間ですよ」

 

「キュルッ!キュルル〜!」

 

カルビが嬉しそうに鳴いた。

それを見て、シエルが微笑む。

 

「……平和なことで」

 

前よりも柔らかくて優しい笑顔を見せるシエルをみて、レイは微笑んだ。

ほかのブラッドのメンバーもそう思ったようで、皆笑顔を浮かべている。

 

「なんか変な名前だけど「カピバラ」よりはいいか……俺らだって、「よう、人間!」とか呼ばれたくないもんな!」

 

「何とまぁわかりやすい例え……」

 

「マスコットがいるのは、いいことだな。みんなの笑顔を見ていると、特にそう思える……」

 

静かで穏やかな時間は、ゆっくりと過ぎていく。

この時、この時間が2度とこのメンバーで訪れることがないことを、この場にいた誰もが予想していなかった。

 

ーーーー

 

次の日、任務をこなして帰ってきたレイを出迎えたのは、今忙しいはずのユノとサツキだった。

 

「あ、レイ!なんかね、サツキさんとユノさんがこんど一緒にピクニックにでも行かないかって……」

 

「あー、ちょっと待って……ロミオ君は、ユノの隣で何してんの?やたらテンション高くない?ユノが心配なんですけど」

 

ハラハラしながらユノを見守るサツキに、ナナが笑いかける。

 

「ロミオ先輩は、誰とでもあんな感じですよ!噛みついたりしないから大丈夫!」

 

「ナナ……そりゃロミオに失礼だぞ」

 

レイが苦笑を浮かべながらナナに突っ込む。

そんなレイに気がついたロミオが、レイに向かって大きく手招きをした。

レイが歩み寄ると、ロミオが興奮したようにまくし立てる。

 

「おいおい!ユノさんから、ピクニックのお誘いだぜ!俺たち全員に来てほしいってさ!」

 

「はいはい、落ち着け落ち着け。そんなでかい声出さなくても聞こえてるって」

 

少し引きつつ、ロミオを制しながらユノの方を見ると、当の本人は心配そうにジュリウスに話しかけている。

 

「もう次の任務が入ってるんだね。やっぱり、ブラッドの皆をピクニックに誘うのは、難しいかな……」

 

「いえ、楽しみにしています。その前に少しスケジュール調整をさせてください」

 

微笑みながらジュリウスが応じると、ユノはパッと笑顔を見せた。

 

「ありがとう、ジュリウス。却って迷惑だったらどうしようかと思いました」

 

「考えてみるとさ……ユノさんと俺たちは、同じ極東支部にいながらずっとすれ違ってる気がしてた……けど、それも終わりだな!」

 

「ふふ、そうですね」

 

ロミオの言葉に、クスクス、とユノが笑い、またロミオも笑う。

ジュリウスはそれを見て微笑むと、レイに向き合った。

 

「そうだ、レイ。今後の任務だが、神機兵の無人運用テストが実施される。ブラッドが担当するのは、神機兵の露払いだ……」

 

「またか。勘弁してくれってんだ」

 

レイは前回のことを思い出して顔をしかめた。

いくら調整が終わったとはいえ、また同じことが起きないとは限らない。

また、誰かが危険にさらされるかも知れない。

その時は。

 

「ジュリウス、言っとくけどな」

 

「その前に確認しておくが、致命的な問題が起こった場合、ブラッドは……神機兵よりも人命を最優先する」

 

「!」

 

言いたいことを先に言われ、レイは目を見開いた。

まさか、先読みされるとは思わなかったのだ。

してやったり、とばかりの笑みを浮かべるジュリウスは、いつもならレイが浮かべるような笑みを見せている。

 

「やってくれるね、かなわねぇな」

 

思わずククク、と笑うと、レイもニヤリと笑ってみせる。

 

「勿論だろ、何言ってんだよ。命令違反上等だっての」

 

「そうこなくては、な。よし、準備が整い次第、任務開始といこう」




ザ、スランプの今日このごろ、なんとか書きました。
もうね、ここホント書きたくないです。
だってさ、だってさぁ!
ネタバレになるから言わないけどさぁ!
いやもうほんと、鬱になります。
無駄にレイがラケルを警戒してますが、これは彼に混ざったオラクル細胞が、ラケルの中にある(ネタバレ)に反応してしまっていることが大きな原因です。
まあ簡単に言うと、ソーマさんのアラガミ察知の能力的な感じです。
お陰で、ラケルの前に来ると普段と同じようにしていてもこう、内心ではバリバリに警戒しているという。
非常に面倒くさい体質の主人公です。
可哀想というかなんというか。
まあ頑張れ、先は長いぞレイ。
感想、お待ちしています。

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