GOD EATER 2 RB 〜荒ぶる神と人の意志〜   作:霧斗雨

22 / 32
第22話です。
コウタとアリサのキャラエピソード集。


第22話 コウタとアリサ

ハルオミとの聖なる探索が終わった次の日、ギルがレイに声をかけた。

以前言っていたレイ専用の武器の作成の打ち合わせである。

 

「どの近接武器を作るか、決まったか?」

 

「勿論、ショートブレードで」

 

ハハッ、とギルが笑った。

 

「即答だな。それでいいか?」

 

「ああ」

 

「よし、決まりだな。お前専用のクロガネ装備をチューニングしていくためには、「感応波受容体」という特殊な部品を作る必要があるらしい。俺の神機も、もう少し強化できそうなんでな……まあ、協力して集めていければ、と思っている」

 

そう言ってギルは笑顔を見せた。

レイは、ニヤリと笑って一言ギルに言い放つ。

 

「ギルよりも強い神機を作ってやるよ」

 

「ハッ……あぁ、俺も負けるつもりはないさ。部品の作成に必要な素材は次までにまとめておく」

 

普通なら作ってもらう立場の人間にこんなふうに言われたら腹を立てるのだろうが、レイに至ってはいつもの事である。

いちいち気にしていたらやっていられない。

 

「OK、いつでも連絡してきていいからな」

 

「ああ、またな」

 

パチン、とハイタッチを交わして別れる。

これが、2人の了承の合図にいつしかなっているのだった。

 

ーーーー

 

ギルと分かれた後、レイはミッションカウンターの前に行った。

コウタとのミッションが入っているのだ。

 

「ヒバリちゃん、今日もよろしくね」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします。今日も張り切って頑張らせていただきます!」

 

ヒバリが礼をしながら笑顔を見せる。

 

「俺たちがミッションから無事にアナグラに帰ってこられるのも、ヒバリちゃんの支援があってこそなんだよな」

 

コウタの言葉に、ヒバリはクスクスと笑ったが、実際その通りだった。

ヒバリのオペレーションのおかげで何度助けられたのか分からない。

ふと、ヒバリがコウタの方を見て心配そうに言った。

 

「皆さんが本来の実力を発揮できるようバックアップすることが私の役目ですから。そういえばコウタさん、最近第一部隊が行う任務に細かいミスがまた目立ってきているように思えるのですが、大丈夫ですか?」

 

「えっ?あ、あぁ、まぁ問題ないよ、大丈夫!」

 

うげ、とコウタが少し引いたのを、レイは見逃さなかった。

興味本位で聞いてみる。

 

「何かあったのか?」

 

「本当に大丈夫だって!第一部隊のことはちゃんと俺が責任持つからさ。それよりもほら、そろそろ任務に行く時間だろ?」

 

聞かれて何かまずいことでもあるのか、あたふたとしながら、コウタはレイの背中に回り込み、出撃ゲートの方ににグイグイと押した。

早く行くぞ、と言う事らしいが、レイにとってこの行為は非常に不快感を覚えるのでやめて欲しい事である。

わかったから押すな、と一言いうと、自分からゲートに向かって歩いた。

 

「ご武運をお祈りしています。無事に戻ってきてくださいね」

 

カウンターの方からヒバリの声がしたので、りょうかーい、と普段のように返事をしておいた。

討伐対象はサリエル、常に空を舞っているアラガミだ。

コウタは第一世代の神機使いのため、形態の切り替えが出来ない。

なので、前回と同じようにバックアップに入ってもらい、レイは存分に突っ込む。

空中戦はレイの十八番である。

サリエルのレーザー攻撃は、コウタが片っ端からバレットで相殺する。

なかなか出来ない芸当である。

それに今回は任務の前にヒバリのオペレーションの話をしたせいか、普段よりもオペレーションの声が良く聞こえ、任務が非常にやりやすく感じた。

サリエルの討伐は、数分で終了した。

 

ーーーー

 

「いつもながら、ヒバリちゃんの細かいところまで手が届くバックアップ、すごいよなぁ」

 

アナグラに戻ってきた二人は、ロビーで立ち話を始めた。

コウタとミッションに行くと、後々でこういった話が聞けるから楽しい。

 

「ホントだな。ずいぶん世話になってるなぁ」

 

「昔はこんなに通信技術も発展してなくてさ、いつどこからアラガミが襲ってくるかもわからなくてビクビクしてたけど、三年前ぐらいから技術が飛躍的に向上していったらしくて、今みたいにスゲー便利な代物に進化したってわけ」

 

これを聞いて、レイは目を丸くする。

3年前と言ったら、ユウがゴッドイーターになった頃だ。

その頃は、今よりもっと大変だったというのか。

 

「……昔はもっと大変だったのか」

 

「ああ。ほんと、今じゃ考えられないよな!少しずつだけど、人間も着実に進歩してるんだって実感するよ。おかげで神機使いの生存確率も格段に上がって、助けられる人やできることもたくさん増えてきてるしね」

 

昔のことを、コウタは楽しそうに語る。

3年前を知っているということは、コウタはユウの同期くらいなのだろう。

今まで、現場で技術の進歩に触れてきているのだ。

 

「最近じゃアラガミの行動をモニタリングできる環境も整ってきて種類毎に共通の行動パターンがあることまでわかってきたんだ。ようするに、襲われる確率が低い比較的安全な地域が特定できるようになったってわけ」

 

「ああ、それでサテライトみたいなのが作れるようになったのか」

 

「そうそう!この調子でいけば、アラガミにビクビクしなくても済むような世の中なんてのも、近いうちに実現できるかもしれないよな。そのためにも、俺たち神機使いが頑張っていかないと!お互い、人類の未来のために、張り切っていこうぜ!」

 

ーーーー

 

コウタと立ち話をしていると、1人の女性が声をかけてきた。

以前、オープンチャンネルの応援に行った時に会った、ユウを知っていた少女で、確か名前はアリサといったはずだ。

何でもレイに話があるそうで、その旨をコウタに伝えると、コウタも今からサテライトの方で任務があるということで、立ち話はお開きになった。

コウタと別れてすぐアリサに連れられ、レイはラウンジの中に入る。

カウンター席の前で、アリサはレイに向き直り、話を始めた。

 

「それでは、改めて自己紹介をさせてください。アリサ・イリーニチナ・アミエーラ少尉、フェンリル極東支部、独立支援部隊「クレイドル」の所属です」

 

「ご丁寧にどうも。じゃ、俺もしとくかね。フェンリル極地化技術開発局所属、特殊部隊ブラッド副隊長の朽流部レイだ」

 

滅多にしない挨拶だったが、噛まずに言えたのでレイはホッと胸をなでおろした。

2人してよろしく、と言いながら握手を交わす。

 

「私たち「クレイドル」は、人々の安息のために支部の枠組みを越えて、広域的に活動する組織です。誰もが手をこまねいて見ているしかない問題に対してまずは一歩、解決に踏み出す……そんな活動をしています。あ、すみません。お席をどうぞ……」

 

クレイドルについて説明を始めたアリサだったが、立ちっぱなしであることに気がついたらしく、レイに座るように促した。

レイが座るのを見届けてから、アリサも腰を下ろす。

 

「元々私は、極東支部の第一部隊に所属していたんです」

 

「へぇ。今、コウタが隊長やってる第一部隊?」

 

「はい。コウタは第一部隊の隊長を務めつつ、クレイドルの臨時隊員を兼任してくれているんです」

 

成程、それでか、とレイは1人納得した。

コウタの身につけている白い士官服と、アリサの士官服のデザインがよく似ているのは、クレイドルの制服だったからなのだ。

似ていて当たり前である。

 

「クレイドルの設立以後は、ゴッドイーターとして戦いながら、サテライト拠点の支援と新設を行う……そんな活動をしています。今日は貴方におりいってご相談がありまして……」

 

「感応種討伐なら、いつでも手伝うぜ。戦力としてブラッドに期待してくれよ」

 

「ありがとうございます……!」

 

アリサが嬉しそうに礼を言った。

何となく感応種絡みだろうとは思っていたが、ビンゴだったようだ。

 

「現状、サテライト拠点最大の脅威である感応種に対して私たちができることは、限られています。ぶしつけなお願いだとは思いつつ、ブラッドの力をお借り出来たらと思い、声をかけさせて頂きました。承諾してくださって、本当にありがとう」

 

ここまで言い切り、アリサは何かを思いついたのかパチン、と手を合わせた。

 

「そうだ、一緒にミッションに行くのはどうですか?いざという時のために、お互いの戦い方をよく知っておかないと!……ですよね?」

 

クイ、とアリサが首をかしげる。

レイは笑顔で頷いた。

 

「ああ、異議なしだ。俺は今から行けるけど、アリサさんは?」

 

「アリサでいいですよ。私はこの後、サテライト拠点に用があるので、その後でどうでしょうか」

 

「じゃあ、俺がサテライト拠点の方に準備して行くわ。それでいいか?」

 

「はい、それでは、よろしくお願いします……!それでは、先に行っていますね!」

 

そう言うと、アリサは立ち上がってラウンジから出ていった。

忙しい人だな、と思いながら、レイもその後を追った。

 

ーーーー

 

準備を終え、サテライトに着いたレイの目に入ってきたのは、クレイドルの神機使いだろう人間と、サテライトの住民が何か言い争っているところだった。

 

「……ですんで、サテライト拠点の外に出ないで欲しいんですよ。あなた方を守るのが、僕らの仕事なわけで、そのぉ……」

 

「仕事増やすなっ、てか?」

 

「そうそう!許可なく外で資材の収集とか、やめてほしいなー、と……」

 

「だったら、アンタの護衛なんかいらねぇよ。支給される資材待ってたら、いつまでたってもできねーだろうが」

 

少し離れたところで聞いていたが、どうも話は平行線で、どちらも譲らない。

手助けした方がいいだろうかと思っていると、アリサがやってきた。

住民の顔をのぞき込み、話し始める。

 

「すいません、事情は承知しております。ですが、外出に関しては、自警団にスタングレネードが配備されるまで、頻度を下げてほしいんです……」

 

「ふうん、あんな高価なものが、サテライトにか?何年先になるか、知れたもんじゃなねぇな」

 

「ええ、普通に考えたら、そうですね。でも案外、そうでもないかも……?」

 

「んん?それってのは……まったく、アンタは……!」

 

アリサがいたずらっぽい笑みを浮かべたのを見て、住民は苦笑を浮かべた。

どういう事か、察しがついたのだろう。

 

「ま、アンタの言う事だから聞いとくけどな。あんまり目立つことすると、本部に目ぇ付けられるぜ!」

 

そう言い残し、住民はレイのほうに向かって歩いてくる。

すれ違う瞬間、住民は立ち止まってポツリと呟いた。

 

「ああやって細かい事まで取り仕切ってくれてんだ、頭が下がるよな」

 

「……」

 

「スタングレネードが来るまでは、古い施設を解体して凌ぐしかねぇなぁ……」

 

割と大声でぼやきながら、住民は歩いていった。

何となくツボに入り、思わず吹き出していると、アリサが慌てて駆け寄って来た。

 

「すっ、すみません!わざわざ来ていただいたのに、遅れてしまって……」

 

「いやいや、今来たばっかだから」

 

ーーーー

 

ミッション開始地点に到着すると、コウタが既に待機していた。

どうやら、合同任務だったらしい。

流石はベテラン、といったところだろう、ロングブレードとアサルトを適度に使い分けて戦うスタイルを見せてくれた。

ショートブレードに偏るレイのスタイルとは大違いである。

任務が終わり、アナグラに戻ってくると、アリサはラウンジに入るなりカウンター席に突っ伏して寝入ってしまった。

コウタとともに離れた場所のソファに座る。

 

「……」

 

「お疲れさん、あいつ、寝不足だからさ……」

 

「ああ、そうなんだろうな」

 

2人してクスクスと笑う。

 

「サテライト拠点を増やそうってのは、アリサの提案だったんだ。で、プロジェクトリーダーに任命されたんだよ。そしたら、あとから出るわ出るわ、やるべきことが!建築計画、行政支援、物資供給と輸送、福利厚生、治安維持……」

 

「おお……」

 

「でも、俺たちってさ、神機ぶっ放して、戦うしかできねーじゃん。フツーなら、専門家に任すだろ?けど、フェンリル本部に頼らないっていう初の試みだったし、専門家なんて、どこにもいなかったんだよね」

 

うわあ、とレイは顔をしかめた。

これをやったのだからクレイドルの人達は凄いと、心底尊敬する。

 

「だから……あいつが全部、やった」

 

「え……マジ?」

 

レイは予想の斜め上の答えに驚愕した。

さっきの山のような仕事量を、アリサは全てやったという。

そりゃ、寝不足になる訳だ。

 

「分からないことだらけで、すっげー勉強して、試行錯誤してさぁ……。それに、サテライトの住民は、フェンリルに見捨てられた人たちだ。俺たちフェンリルの人間に対して、今でも風当たりは強い。善意も根こそぎ否定されたりする……でもアリサは不平ひとつ言わず、彼らのために働き続けてる」

 

「……」

 

コウタのアリサを見る目が優しくなる。

そして、レイの方を見て微笑んだ。

 

「俺さ、このごろ思うんだ。アリサって、支部長になれるんじゃね?」

 

「ああ。かもな。そうだコウタ、俺またミッションにアサインされてたけど、今度はどうした?」

 

この問に、コウタはハッとする。

慌てて時間を確認し、バッと立ち上がった。

 

「ヤベッ、忘れてた!さっきから出突っ張りで悪いけど、ちょっと付き合ってくれ!」

 

ーーーー

 

コウタに連れられて訳が分からぬままやってきたのは、アナグラをぐるりと囲う外壁の上だった。

 

「俺たちが今立っているここが、アナグラをアラガミから守る「対アラガミ装甲壁」と呼ばれている場所さ」

 

そう言い終えると、コウタは視界いっぱいに広がる街を指さす。

 

「そして、この前方に広がっているのが、外部居住区……アナグラに収容しきれなかった人たちが住んでるところだね。ようするに、アラガミにこの防壁を越えられちゃうと色んな意味で相当マズイことが起きちゃうってわけ」

 

「あー、大惨事になるだろうな」

 

「だから、今回みたいに危険因子が発見された場合は動ける人間が先手を打って排除する必要があるんだ」

 

コウタが少し怖い顔をしてみせる。

レイは苦笑しながら首をかしげて見せた。

 

「成程ねぇ……つか、こんな壁なんかで大丈夫なのかよ?」

 

「俺も始めはこんなんで本当にアラガミから守れるのか疑問だったよ。アイツらって本当に何でもかんでも喰っちまうからさー。でもそこはしっかり考えられてるんだ。えーっと、なんだったけな……そうだ、確か」

 

何かを考えるような仕草をした後、思い出したかのようにポン、と手を打つ。

 

「アラガミ由来のオラクル細胞を複数取り込むことでアラガミが食べたくなくなるような代物に仕上がってるんだってさ」

 

「ああ、偏食傾向ってやつか」

 

「そうそう!まぁ新種のアラガミが出てきた時とかは改めてメンテナンスする必要もあるし、万能ってわけじゃないんだけどね。防壁はあくまで万が一の時の盾でしかないからさ。俺たちの家は、俺たち自身の手でしっかり守ってやらないとさ」

 

「そうだな」

 

「おっ、そろそろ時間みたいだな、それじゃあ行くか!」

 

ーーーー

 

アラガミの掃討が終わり、二人は再びアラガミ装甲壁の上に戻ってきた。

コウタが、外部居住区の一部を指さす。

 

「外部居住区にはさ、俺の家族も暮らしてるんだ。あのへん、見えるかな。あそこに俺んちがあるんだよ!……で、その隣の隣、分かる?あそこのオヤジがスゲー怖いんだよ!子どもの頃よく怒られたなー!」

 

「へぇ。……故郷って、いいなぁ」

 

コウタがあまりにも楽しそうに語るので、レイはつい今は無き故郷を思い出してしまった。

あの頃、近所に住んでいた人達は、今いったい何処に居るのだろう。

集落自体は無くなってしまったが、きっと何処かで生きていると思いたい。

 

「やっぱそう思う!?そう思うよな!へへへっ、そのうちレイにも俺んち紹介してやるよ。レイのそういう温かいところ……何だか親友のことを思い出すよ」

 

「親友?」

 

「今は別の任務の関係で遠征にでかけてるんだけどね。自分よりもまず仲間のことを考えるようなヤツでさ。レイみたいな戦い方して、よく無茶するヤツだったんだ」

 

コウタは昔のことを思いだしたのか、プッと吹き出した。

クク、と笑う。

 

「……俺さ、できることなら、ずっとここを離れたくないんだよ。俺の家族がいてさ、仲間がいて、親友が帰ってくるこの場所を、いつまでも守っていたいんだ」

 

「……そっか」

 

「うわ、なんか語っちゃってた?俺!?そんなわけで……これからも、よろしくな!」

 

「ああ、よろしく」

 

笑顔で握手を交わす。

帰ろうぜ、と歩き始めたコウタの後を追いながら、レイはコウタの言う親友とやらについて聞いてみることにした。

少し前から、聞いてみたくて仕方が無かったのである。

 

「ところでコウタ、ちょっと聞いてみたいんだけどさ、その親友ってもしかしてだけど、ユウっていったりしねぇ?」

 

「え、そうだけど……」

 

さらに質問を続ける。

何となく親友について結論は出ているが、確信が欲しい。

 

「……壁の外出身?」

 

「ああ、そう言ってたけど。……レイ、ユウを知ってんの?」

 

コウタがキョトン、とした表情を浮かべる。

レイは、自分の中で疑問が確信に変わったことを確認し、苦笑する。

以前のアリサやコウタの反応の意味をやっと理解した。

昔から、血が繋がっていないのに本当の兄弟のように、レイとユウは後ろ姿や雰囲気がよく似ていると言われていた。

同じ育ちをした人間なのだから、似ていて当たり前である。

それに、コウタやアリサはユウを良く知っているのだろう、そんな風に思っても仕方がない。

もう3年間会っていない兄の痕跡を知れて、レイは少し嬉しくなった。

 

「あー、知ってるってか……兄貴なんだよな」

 

「えっ?」

 

「いや、だから……血は繋がってねえんだけど、兄貴」

 

真実を告げると、コウタの目が丸く見開かれる。

 

「マジで!?お前、ユウの兄弟だったの!?早く言えよ!」

 

ーーーー

 

あのあと、コウタはラウンジのカウンター席に座ってユウとの思い出を語ってくれた。

初めての任務の時も物怖じせず突っ込んで行った事、コウタの前の第一部隊のリーダーだった事、仲間を第一に考えるようなやつだった事、無茶ばかりするようなやつだった事。

当時の第一部隊の面々は今、クレイドルに所属している事。

お返しに未保護集落での出来事を教えてやると、コウタはアイツらしいと笑った。

そこにアリサも合流、さらに昔話が盛り上がる。

コウタと同じようにアリサも驚いていたが、話への食いつき様はコウタ以上で、さすがのレイも少し引いたくらいだ。

たまらず、何か用があったのかと聞いてやると、アリサはしまった、というような表情を浮かべた。

ついつい話に夢中になり、目的が頭から抜けてしまっていたらしい。

顔を真っ赤に染めながら、アリサは要件を告げた。

サテライト周辺で目撃されたアラガミの一掃への協力依頼。

その程度なら、と快く了承し嘆きの平原へ出陣する。

メンバーはアリサとコウタとレイの3人だ。

アリサの顔色が悪いことが気になったが、本人は少し寝不足なだけで大丈夫だと言い張り、ミッションに出た。

 

「これで、いちおう片が付きますね……」

 

「バックアップは任せてくれ!さーて、いっちょ行くか!……っと、アリサ?」

 

「……」

 

アリサの返事が無いことが気になり、レイとコウタはアリサの方を見る。

フラリ、とアリサの体が傾き、ガクリと崩れ落ちる。

 

「アリサ!おい!」

 

咄嗟にアリサの体を支える。

ゆっくりと地面に寝かせてやる。

 

「これってまさか……過労??」

 

「……だろうな」

 

「……ごめん……めまいがしちゃった……」

 

むくり、とアリサが起き上がる。

見るからに無理をしている。

 

「アリサ……」

 

「大丈夫、ただの貧血ですよ。早いとこ終わらせましょう!」

 

「いや、でもさ!」

 

コウタが心配そうに言った。

それでも、アリサは引かない。

神機を構え、先陣を切って飛び出そうとしている。

 

「はぁ。アリサがバックアップに変更。銃で遠距離から戦えよ」

 

ポン、とアリサの肩を叩く。

申し訳なさそうにアリサはレイの方を見る。

 

「そうだよ!今回、アリサは後衛な!しかも、超後方で後衛な!」

 

コウタの発言に、アリサは呆れたような表情を浮かべた。

思わずレイも笑ってしまう。

超後方は、流石に無いだろう。

 

「超後方は、無いと思いますけど……でも、ありがとう。貴方の判断に、従います」

 

ーーーー

 

アリサの体調が悪いことが分かった為、レイとコウタは普段よりもハイペースでアラガミに襲いかかった。

あまりにもハイペースだった為、かかった時間はたったの2分。

ヒバリの驚きの声を聞きながらさっさと帰投し、大丈夫だと言い続けるアリサをラボラトリに押し込み、ヤエによろしく伝える。

ロビーに戻ってくると、サテライトの住民がアリサを探していた。

数時間前、クレイドルの神機使いと言い争っていた人物だ。

 

「あれ、アンタ、サテライトの」

 

「アンタか。俺は棟方クニオだ。いつもの姐ちゃんがいないなら、アンタでいいか……」

 

クニオは、レイに資料を手渡した。

これが何なのかレイにはさっぱり分からないが、大事なものなのだろう。

 

「これを、ロシア人の指揮官の姐ちゃんに渡してくれ。たいしたもんじゃねぇが、図面だ、新しい工場のな。姐ちゃんみたいになんでもできるヤツは、ついつい、人に頼るってことを忘れちまう」

 

「……」

 

「工場新設の件はこっちで仕切るから、あの姐ちゃんには、働きすぎるなって伝えといてくれ」

 

それだけ言うと、クニオはロビーから出ていってしまった。

レイはハァ、とため息をつくと再びラボラトリに足を運ぶ。

病室の入口で、ヤエにくれぐれも静かにと注意された。

はいよ、と適当に返事をし、足を踏み入れる。

アリサは、ベッドに腰掛けていた。

 

「どうなんだ、体調は」

 

「問題ありません、ただの過労だそうです……看護師のヤエさんに、無理しすぎだって怒られちゃいました」

 

アリサが苦笑いを浮かべた。

 

「だろうな。しばらく休んだ方がいいぜ」

 

「ありがとう。でも、私が休むわけにはいかない。人々の信頼関係があって、初めてこの事業は成功するんです。でも……サテライトの住民たちは、見捨てられた人たちです。彼らはフェンリルを信じないし、敵意を持つ者もいる。彼らの信頼を得るには、私が、働き続ける以外にない……プロジェクトリーダーの私自身が最前線に立たないとダメなんです」

 

そう言って、アリサはレイの顔を見た。

真剣な眼差し。

本気でサテライトの住民のために尽くそうと頑張っているのだ。

しかし、そのせいで全てを背負い込みすぎている。

 

「いいや、伝わってる。大丈夫だ」

 

「そうなのかな……でも、ね……性格なのかな……」

 

ハア、とアリサはため息をついた。

色んなことが心配なのだろう。

レイはバリバリと頭を掻きながら、アリサにクニオに渡された図面を手渡す。

 

「ったく、ほらよ」

 

「これは……?あっ……!これは、工場の図面!?でもどうして?工場よりも食糧だ、って、強硬に反対されてたのに……」

 

「工場の件はこっちで仕切るから、アリサに働きすぎんなって伝えろって言われたぜ。十分、アリサの気持ちは向こうに伝わってんのさ」

 

「そう……棟方さんが、そんなことを……やっぱり私、無理してたんですね……」

 

アリサが再びため息をつく。

ガックリと肩を落としたところを見ると、どうやら少し落ち込んだらしい。

 

「周りの人のことを見ているつもりで、ぜんぜん見えていなかった。私一人では何もできないって分かってたはずなのに……」

 

「これからはどんどん頼れ。戦闘に限らず手伝うさ」

 

ブラッドの面々に相談などしていないが、きっと皆了承するだろう。

そう思っての言葉だった。

レイの言葉に、アリサの顔が少し明るくなる。

休んだのもあって、幾分顔色も良くなっていた。

 

「ありがとう……でも私、何かをしてもらうだけなんて……私も、貴方が必要とする時には、必ず協力します!いいですよね!?」

 

「ええ、でもなぁ。アリサまた無茶するだろ?」

 

「あっ、もちろん無理をしない範囲で、です!」

 

アリサの提案に、レイは渋面を浮かべる。

ただでさえ過労で倒れるような人物だ、これ以上することを増やしてもいいものなのだろうか。

レイの考えを察したのか、アリサは少し慌てながら言葉を付け足した。

どうやら、引くつもりは無いらしい。

 

「……わかった、わかったよ」

 

「よかった……!これからも、よろしくお願いしますね!」

 

ニコリとアリサが笑った。




第22話。
長かった。
長かったよ!
初めての10000字かと思いました。
ギリギリでした。
いや、ホントギリギリ。
あと500字くらいで10000でしたよ。
まあ、いってもいいんですけどね。
さてさて、今回、少しだけですがユウの事が出てきました。
コウタとアリサに兄弟だと知られてしまったので、きっとクレイドル中にブラッド副隊長はユウの弟だったということが知れ渡るのでしょう。
それももの凄いスピードで。
この後、レイのメールボックスにユウから滅茶苦茶メールが来たのだとか。
そんなのもかけたらいいな。
あと2回キャラエピ消費回です。
感想、お待ちしています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。