GOD EATER 2 RB 〜荒ぶる神と人の意志〜   作:霧斗雨

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第11話です。
シエルさんの窮地。


第11話 ドールレスキュー

「レア博士……神機兵の無人運用のテストに、どうして反対なさるのです?」

 

グレムの部屋で、九条とレアは意見をぶつけあっていた。

クジョウが、訳が分からないというようにレアに質問した。

 

「反対ではなく、時期尚早と申し上げているだけです。グレム局長も、なぜ許可を出したのです?」

 

レアも負けじと言い、グレムに問い詰めた。

レアからすれば、なぜ今無人運用テストを行うのか、これの方が意味がわからない。

 

「有人神機兵の運用が非人道的だ、と本部が難色を示しとるんだ。退役した神機使いの連中も、それに同調しとるようだ。ここで、ある程度の運用実績が無いと神機兵計画自体の縮小も免れんのだよ……レア博士には申し訳ないが、ここは私に免じて……な」

 

グレムは、レアに謝罪の言葉を述べた。

レアの担当は、クジョウと同じ神機兵だが、無人ではなく有人、つまり人が乗り込むタイプの方なのである。

どれだけこちらがやりたくても、本部からの圧力には逆らえない。

改めてそれを実感したレアは渋面を浮かべながら、グレムに礼をした。

 

「……失礼いたします」

 

足早に部屋を後にする。

ブラッドとすれ違い、軽く会釈をされるも、レアはそれに反応を示さなかった。

 

「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ、以下二名入ります」

 

レアの反応が気になったものの、レイはジュリウス達の後ろについて行った。

3人の到着を確認すると、グレムが口を開いた。

 

「ラケル博士から聞いているとは思うが……神機兵の無人運用テストおよび、その護衛をしてほしい。詳しくは……あー、クジョウ君」

 

「はい、えーと……ジュリウスさんと、シエルさんは確か、ラケル博士とレア博士の元で……」

 

グレムに促され、クジョウが口を開く。

オドオドとしていて、実に頼りなさげな人物である。

 

「ええ、我々は両博士に育てていただきました。ですので、神機兵の運用テストで搭乗したこともあります」

 

ジュリウスが即座に肯定した。

レイはこっそりとシエルに確認をとってみたが、どうやら本当に乗ったことがあるらしい。

クジョウは、一つ頷いて話を進めた。

 

「ならば話は早い、要するに神機兵が戦う様子を観察しつつ、万が一の時には、守ってほしいのです。なるべく、一対一で神機兵とアラガミが戦う状況を作りたいので、まずは、付近のアラガミを一掃していただきます」

 

レイは、ふん、と鼻を鳴らした。

つまりは神機兵の為に掃除を行えということらしい。

所謂。

 

「露払いをしろ、ということですか?」

 

「そういうことだ、今回の主役はあくまでも神機兵だ、ということを肝に銘じておけ、いいな?」

 

「……了解いたしました」

 

ジュリウスが静かに返事をする。

 

「よし、あとは現場で話を詰めてくれ。俺も忙しいんでな……クジョウ君」

 

「はいっ、えー、では……ジュリウスさん、詳しくは……ミッションブリーフィングの時に……」

 

「承りました。では、後程」

 

ーーーー

 

今回の任務は、神機兵3体の護衛である。

神機兵αをジュリウス、神機兵γはレイを含む4人、神機兵βをシエルが担当することになった。

これは、ジュリウスとシエルが以前神機兵に乗ったことがあるから事前知識もあるだろうということからと、ただ単にアラガミの多い箇所に多く人数を振ったらこうなったのだ。

クジョウは、様々な機材を積んだ車に乗り込んで、三つの現場を統括すことになっている。

レイたちは、普段通りにテキパキとアラガミを掃討し、テストができる環境を整える。

 

『こちら神機兵α、掃討を完了した』

 

『こちら神機兵β、同じく完了しました』

 

無線から二人の声が聞こえた。

レイも、無線で報告する。

 

「えー、こちら神機兵γ、終わったぜ」

 

『ああ、良かった。それではブラッドの皆さん、本日はよ、よろしくお願いします。それではテストを始めましょう!』

 

レイの報告を皮切りに、運用テストが始まった。

すぐにジュリウスからエンゲージしたという報告が入る。

神機兵βとγは、未だ索敵中だ。

 

「すごーい!ほんとに無人で動いてるよ!」

 

「ジュリウスとシエルはこれに乗ったことあんのかぁ……!いいなぁ、中どんなんなんだろ……!」

 

ナナとロミオが、目を輝かせながらはしゃいだ。

その後ろで、レイとギルが苦笑する。

 

「気楽だな。レイ、アラガミの気配はどうだ?」

 

「しゃーねーよ、暇だしな。ギル、俺は索敵レーダーじゃねぇぞ?まあ、あと3秒後にシユウが背後に侵入っ……!」

 

いきなり神機兵が動き、レイたちの頭の上を飛び越えていった。

レイとギルは咄嗟にしゃがむ。

どうやら、シユウを発見したらしい。

 

「今蹴られるかと思った」

 

「俺もちょっとびびった。さて、あれの調子はどうかな」

 

しゃがんだ姿勢のままクルリと後ろを振り返ると、神機兵がシユウに剣を振り下ろすところだった。

しかし、それが当たる瞬間、シユウにあっさりとはじき飛ばされてしまった。

 

『ああっγっ!』

 

クジョウの悲鳴が無線に轟いた。

 

「でくの坊じゃねえか」

 

「ははは、なんとなくそんな気はしてた。交戦する!」

 

レイは苦笑しながらシユウに向かって走る。

神機兵を軽々飛び越えると、シユウの薙ぎ払いをしゃがんで避け、下から思いっきり切り上げた。

たまらず飛び上がったシユウに、ナナがバレットを浴びせる。

 

「おりゃりゃりゃりゃ!!」

 

前はシユウのスピードについていけなかったのが、今回は見事両手羽に命中させ、シユウを落とした。

 

「ナイス、ナナ!」

 

「やったぁ特訓の成果!?」

 

当のナナは、嬉しそうに飛び上がって喜んだ。

シエルに頼み込んで特訓をしてもらっていた成果が出たのだ、嬉しいだろう。

レイは、そんなナナに笑顔を向けると、シユウに向かって飛び上がった。

そして、刀身をオラクルで強化し、シユウに向かって高速で滑空し、シユウを貫いた。

ショードブレードのブラッドアーツの1つ、スパイラルメテオである。

 

『シユウ沈黙しました』

 

さっきの一撃で、シユウの息の根を止めきれたらしかった。

ロミオとナナがはしゃぐ中、レイは、自分の神機を見つめる。

 

(ブラッドアーツは出来てるがやっぱり……)

 

そこまで考え、レイはハッとする。

後にアラガミの気配がしたのだ。

 

「ガアアアア!!」

 

『コンゴウ一体、作戦エリアに侵入!!』

 

どうやら、先程の戦闘音を聞きつけてきたらしい。

レイは応戦しようと足を踏み込んだが、ニヤリと笑って後に下がるように飛んだ。

その上を、神機兵γが飛んでいき、コンゴウに向かって走る。

神機兵は、コンゴウの放った空気弾を飛び跳ねて避け、手に持った長刀を握り直すと、グルリと回転しながらコンゴウを切り裂いた。

ロングブレードのブラッドアーツ、ジェノサイドギアの動きである。

事前に、クジョウに頼まれ、慣れないロングブレードとバスターブレードのブラッドアーツを記録したその成果が、ここで出た。

 

『コンゴウ沈黙しました』

 

「コンゴウを一撃かよ」

 

レイは呆れながら言った。

レイよりも遥かに重い神機兵の攻撃だ、威力が高いのは当たり前である。

それでも、一撃でコンゴウを倒せる破壊力は、物凄いものだった。

 

『いいぞ……どんどんテストを続けましょう!』

 

クジョウの興奮した声が聞こえたすぐ後に、ジュリウスの報告が届いた。

 

『こちらジュリウス。神機兵α対象を撃破。脚部に損傷を受けた』

 

『え!?』

 

クジョウが途端に慌て始める。

無線を切るのを忘れているのか、ブツブツと呟く声が延々耳に響く。

 

『こちらフライア、損傷を確認しました。神機兵αフライアに帰還願います』

 

『了解』

 

『え、えー。みなさんは引き続き神機兵γのテストを続けてください。私は一度帰還しますね。フランさん、後は頼みます』

 

『了解しました』

 

損傷した神機兵αがよほど気になるらしく、クジョウを載せた車は即座に撤退を開始した。

その同時刻、クジョウと同じように帰還を開始したジュリウスは、空の上にあるものを見つけた。

 

「!あれはーっ!」

 

それは、今は見つけたくないものだった。

ジュリウスは焦る。

このままでは、ブラッドが全滅してしまう。

赤い雲を睨みつけながらジュリウスはフライアに着くのを今か今かと待った。

事態は、急速に進行する。

 

ーーーー

 

「ブラッドはまだ現場か!?」

 

帰還したジュリウスは、フランの元に駆けつけた。

急がなければならない。

 

「はい、神機兵βがまだ戦闘中です……あっ!」

 

『神機兵β!背部に大きな損傷!フライア、判断願います!』

 

シエルの報告が響く。

ジュリウスよりも早く帰還していたクジョウが、焦りを見せた。

 

「背部だと!?回避制御の調整が甘かったか!いや、空間把握処理の問題か?くそおっ!なんでだ!」

 

「神機兵βを停止します。アラガミを撃退し、神機兵を護衛してください」

 

フランの指示に、ジュリウスは慌てて食いついた。

そんな事をしている場合ではもうないのだ。

 

「待て!期間の途中で赤い雲を見かけた!あれは、おそらく……」

 

「まさか……「赤乱雲」?」

 

フランの顔がさっと青くなる。

慌ててブラッド隊に連絡を飛ばし始めた。

 

ーーーー

 

「こちらギル……ここからも、赤い雲を確認した」

 

「初めて見た……すっげえ……」

 

フランからの連絡を受け、レイたちは慌てて空を見上げた。

いつの間にか、あちらこちらに赤い雲が浮かんでいる。

レイは、ギロリと赤い雲を睨んだ。

もういつ降り出してもおかしくないほどに、赤い。

 

『総員即時撤退だ、一刻を争うぞ』

 

『既に、赤い雨が降り始めました。ここからの移動は困難です』

 

「シエルちゃん!?」

 

ナナが悲鳴に近い声を上げた。

赤い雨が振り始めたのなら、移動は困難どころではない、不可能だ。

 

『クッ……フラン、輸送部隊の状況は?』

 

『周囲にアラガミの反応が多数見られます。輸送部隊単体での救出はできませんね……』

 

ブラッドとジュリウスは、次第に焦り始めた。

赤い雨が本降りになる前に救助しないと、シエルが黒蛛病にかかる。

そうなったらもう助からない。

 

『ブラッド各員、防護服を着用、及び携帯しシエルの救援に急行してくれ!戦闘時に防護服が破損する可能性が高い。なるべく交戦を避けるよう、心がけろ。シエルはその場で雨をしのぎつつ、救援を待て!』

 

ジュリウスが命令した瞬間、レイは帰投用の車から、全員分の防護服を引っ張り出した。

そのまま3人に投げ渡し、レイ自身も手早く着替える。

あっという間に着替え終わり、走り出そうとした瞬間、無線にグレムの声が響く。

 

『待て、勝手な命令を出すな』

 

『グレム局長……』

 

『神機兵が最優先だろ。おい、アラガミに傷つけられないように守り続けろ』

 

「なっ……」

 

レイは、思わず言葉を失った。

何を言っているんだ、あの男は。

 

『ばかなっ……!赤い雨の中では、戦いようが無い!』

 

『俺が、ここの最高責任者だ。いいから、命令を守れ!神機兵を守れ!』

 

無線の向こうで、ジュリウスとグレムが言い争っている。

 

「そんなことしてる場合じゃねぇんだぞ……!」

 

レイは、ギリ、と歯を食いしばった。

ふと、神機兵が目に入る。

こいつは確か、有人でも動くはず。

 

『人命軽視も甚だしい!あの雨の恐ろしさは、貴方も知っているはずだ!』

 

『隊長……隊長の命令には従えません』

 

レイが神機兵に近寄った瞬間、シエルの声がした。

 

「……シエル」

 

『シエル……!』

 

『救援は不要です……不十分な装備での救援活動は、高確率で、赤い雨の二次被害を招きます。よって、上官であるグレム局長の命令を優先し各部隊、現場で待機すべきと考えます……更新された任務を遂行します』

 

ブツッ、と無線が切られる。

ジュリウスが必死で呼びかけているのが聞こえる。

 

『シエル!応答しろ!シエル!』

 

『無線が切られています……』

 

『ふん、なかなか良く躾けてあるじゃないか。結構、結構』

 

これを聞いた瞬間、レイは動いた。

救助を断ったシエルの声は、感情を押し殺したように聞こえた。

無理をしているのだ。

 

「悪いなシエル。お前の言うことを聞くほど、俺はお人好しじゃないんでな」

 

ロックのかかった神機兵のハッチをこじ開け、中に転がり込んだ。

無理やりハッチを閉め、神機兵を強引に動かしてその場を離脱した。

 

『あああああーッ!やめてくれッ!そんな乱暴にしたらああああッ!』

 

全員の無線に、クジョウの悲鳴が轟いた。

 

『なんだ!?』

 

「あのー、隊長……」

 

『どうした、ナナ!』

 

「副隊長がね……神機兵に乗って行っちゃった……」

 

突然の出来事過ぎて、ナナたちはただ走り去る神機兵を見ていることしか出来ず、ひとまずジュリウスに報告した。

 

『な……なんだと!』

 

『神機兵γ、神機兵βに向かって移動しています』

 

『あー、これ……聞こえてる?さっき叫び声は……っ、聞こえたんだけどさぁ』

 

ザザ、というノイズに混じりながら、レイの声が聞こえた。

普段よりも、痛みを押し殺したような声だ。

 

「副隊長!」

 

『おお、聞こえてんのね……。だったら、お前らは先にフライアに帰ってろ……、赤い雨にだけは、濡れんなよ……?ハハッ、これ……結構きついのな……。そりゃ、事前検査が……いる訳だ……。っく、でもなぁ、流石に今回だけは命令無視させてもらうぜ……』

 

神機兵の中で、レイは歯を食いしばった。

さっきから嫌な汗が止まらない。

全身、あちこちが軋み、引きちぎれそうで、あちこちに青痣が出来始める。

頭痛もしはじめている。

それでも。

 

『ふざけたこと、言ってんじゃねぇよ……。こいつは、言っちまえばただの機械で……ぐっ、シエルは人間だ。死んだら終わりなんだよ……っ、テメェに言われて、諦めて……っ、こんな簡単に死なせてたまっかよ!』

 

その、叫び声を最後に、無線が切れた。

神機兵を動かすことに集中するために切ったのだろう。

 

「……あの馬鹿っ」

 

ギルはギリッと歯噛みすると、帰投の準備を開始する。

ナナとロミオも、それに習った。

今から行っても、レイの足を引っ張ってしまうだけだ。

なら、出来ることをする。

黙って帰投準備を続ける間も、フライアでの会話が聞こえ続けていた。

 

『ふう……ジュリウス君、君の部下の不始末を処理しておくように。君に対する懲罰は、その後だ……』

 

『了解です。謹んでお受けします』

 

カツ、カツとグレムが去っていく足音。

そのすぐ後に、ジュリウスが声を上げて笑った。

 

『お前達、全部聞こえていたな?副隊長とシエル以外のブラッドの各員は、至急撤退せよ。あとは、あの二人に任せておけ。どうせ……生きて還る』

 

「了解」

 

帰投準備が終わり、車に乗り込んだ時、赤い雨が振り始め、周囲を赤く染めていった。

 

ーーーー

 

「……」

 

シエルは、赤い雨に触れないように、神機兵の下にうずくまっていた。

アラガミの鳴き声が聞こえた気がして、シエルはゆっくりと立ち上がり、神機を構えて索敵を開始する。

そいつは、上空から現れた。

シエルの前に着地し、吠える。

 

「……っ」

 

足が前に出ない。

戦わなければいけないのに、神機兵の下から出られない。

動く気配の無いシエルめがけて突進してくるシユウの拳が、シエルに当たりそうになった瞬間だった。

一体の神機兵が飛び出してきて、シユウを切り伏せたのだ。

たった一撃。

しかし、とても重い一撃だったのだろう、シユウは断末魔も上げず、沈黙した。

 

「……!?」

 

『……間に合った感じか?ここまで来て……、手遅れとか……嫌だぜ、俺は』

 

その神機兵から、馴染みのある声がして、シエルは目を見開いた。

何故、この人は。

 

「……副隊長」

 

『シエル。こっち来て、ここに座れ、俺の下に。絶対に、濡れんなよ』

 

レイの動かす神機兵が、シエルに手を伸ばしながら、神機兵βと肩を組むような形で簡易テントを作る。

シエルが、赤い雨に触れないようにするために。

シエルは、何かがこみ上がってくるのをこらえながら、差し出された手のひらに素直に座って沈黙した。

レイもシエルも、一言も話さなかった。

それは、赤い雨が止むまで続いたのである。




無茶苦茶するのは主人公の特権ですよね。
そんな感じの11話でした。
この話は、私の主観が多く盛り込まれていますので、本当にこんな感じなのかと言われると、それは個人個人の感じ方になるとは思うんですが、きっと、シエルは不安だったと思います。
フライアでの会話は、全て無線で聞こえているつもりで書いたんですが、上手くいってるのかなぁ。
日本語って難しい。
感想、お待ちしています。

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