GOD EATER 2 RB 〜荒ぶる神と人の意志〜 作:霧斗雨
前半以外オリジナルストーリー。
シエルと友達になった翌日、ブラッドはグレムの部屋に招集を受けた。
ジュリウスを先頭にして、部屋に入って並んで立つ。
既に、レアとラケルが待っており、2人で何かを話していた。
レイには聞こえているが、興味の無い事だったので聞き流す。
ふと、ロミオがこっそりと話しかけてきた。
「この二人、ほんとに姉妹なのかな。あんま似てないよな……?」
「……まあな」
レイもロミオに同意した。
この二人、前からなんとなく似ていないと思ってはいたのだが、並んで座られると余計にそう思えてしまうのだ。
顔付きもあまり似ていないし、髪の色も違う。
レイは密かに、この2人は実は血が繋がっていないのではないか、それか腹違いの姉妹なのではないかと勝手に疑っている。
口に出したりはしないが。
「一括で請けるからこそ、利ザヤが取れるんだろうが!そんな弱気でどうする、競合なんぞ潰してしまえ!……おっと、この話は後にしようか」
グレムが、後ろについてくる細い男を怒鳴りつけながら部屋に入ってきた。
咥えているタバコを手に持ち、煙を吐き出す。
たまたま、グレムのもつタバコの近くにナナがおり、タバコの先から登る煙にむせていた。
「えほっ、えほっ……」
「ご足労いただき、感謝します。グレム局長」
「お忙しいところ時間を取らせてしまい、申し訳ありません」
レアとラケルが挨拶をする。
グレムは、それを鼻で笑った。
「挨拶はいい、とっとと理由を聞かせてもらおうか。なぜ、最前線の極東地域にこのフライアを向かわせるのだ?」
ラケルはそれには答えず、ブラッドのほうを見て微笑んだ。
「こちらは、フェンリル本部特別顧問であり、このフライアを統括する、グレム局長です」
知ってますが。
そう言いたくなるのをレイはこらえた。
それよりも、レイはグレムの言ったことに興味があった。
極東に行くのか、この移動要塞は。
「相変わらず話を聞かない……少しは君のお姉さんを見習いたまえ」
グレムが、呆れたように言った。
レアが、クスリと笑いながらラケルに注意をする。
「フフッ、ラケル、あまり失礼の無いように、ね」
「極東支部において、ブラッドと神機兵の運用実績が欲しいのです」
レアにたしなめられ、ラケルはやっとグレムの問に答えた。
「実績なら、このあたりのアラガミだけでも十分だろう。何もあんな、アラガミの動物園のような場所に行く必要はない」
「神機兵の安定した運用を目指すなら、もっと様々なアラガミのデータがないと、本部も認めてくれません」
「ふむ……しかしだな……」
悩む素振りを見せるグレムに、レアが立ち上がりながら進言をする。
「極東支部には葦原ユノ様がいます、本部に対しても発言力のある彼女への助力なら、決して無駄な投資にはならないかと……」
「確かにな……ラケル君、神機兵とブラッド、どちらも本当に損害を出さずに済むんだろうな?」
この問いに、ラケルは怪しい笑みを浮かべながら答えた。
「ええ……信頼を裏切ることはありませんわ……」
「ふーむ。よし、わかった!後で稟議書を提出しておいてくれ。レア君だけ残りたまえ、あとは下がっていいぞ」
「では……」
嬉しそうな笑みを浮かべて、ラケルは軽く会釈をすると、車椅子を動かして部屋から出ていく。
ブラッドも、それについて部屋から出た。
それを見送りながら、グレムは細い男にも命令をする。
「おい、お前も下がっていいぞ」
「あ、あのー神機兵の無人運用の件は……」
「後だ後!いいから、早く行け!」
グレムに怒鳴られ、細い男はなにか言おうとしたが諦めたようで、会釈をし出ていった。
部屋には、レアとグレムだけが残された。
「ありがとうございました、でも……あまり、私の可愛い妹を、いじめないでくださいね……」
「フン……イラついていたところにお嬢さんのわがままで、ムキになってしまっただけだ」
「なら、いいんですけど……」
クスクスと笑いながら、レアは部屋にある大きな机に腰をかける。
「また、何か不都合なことでも……?」
そうレアが聞いてみると、グレムは少したじろいだ。
「あ、ああ。神機兵の人口筋肉に関して、ウチが一括受注する件……アレについて、本部から横槍が入り始めてな」
グレムは、レアの横まで移動し、その頬を触る。
レアはそれを避ける事はせず、ジッとグレムの眼を見つめた。
「まだ一括受注に、こだわってらっしゃるのですか?……お金儲けもほどほどになさっては?」
「フッ……何を言う、多額の投資をするなら、確実に回収できるめどを立ててからでないと ……」
この答えに、レアは思わず笑ってしまった。
本当に、金のことばかり考えている。
「どうやら、もう少し……綿密な打ち合わせが必要そうですね……?」
「同感だ……」
ーーーー
フライアが極東に行くと決まっても、ブラッドのすることは変わらない。
何日かに1回、入ってくるミッションをこなしていく。
ただ、その頻度は極東に近付くに連れて増えていった。
この時点で、ようやくブラッドの戦闘効率が元に戻り始めた。
以前のようにシエルが逐一口を出すことを辞め、それぞれがやりやすいようにやる。
おかげで、ミッションが難なく終わるようになっていた。
シエルも、やりやすいと感じているとレイに言ってきたくらいである。
ギルからは、シエルに謝られたと報告があった。
おかげで、以前のようなぎくしゃくとした空気が流れる事はなく、関係もうまくいっているようだった。
『現在、フライアは「赤い雨」の中を通過中。いかなる理由があれ、屋外に出ることを禁じます』
「……赤い雨が続くな」
「極東の範囲に入りましたからね。やがて極東支部に到着するのでは……」
「はーい、良い子は雨の日、外に出ちゃいけないもんねー」
「……」
「赤い雨」。
ここ半年で極東で観測されるようになった異常気象だ。
この「赤い雨」が降り続いているせいで、ミッションに行きたくても行けないのである。
「ニュースで見たことあるけど、本当に真っ赤なのかなぁ。ちょっと見てみたい気も……」
することがなく、ブラッドのメンバーはロビーの巨大なスクリーンの前に集まっていた。
ブリーフィングをするわけでもなく、訓練をするわけでもなく、ミッションのシュミレーションをするわけでもない。
自室でもすることがなく、暇つぶしの訓練にも飽きてしまい、ただなんとなくここにいるのだ。
そして、なんの事も無い雑談をするのである。
ふと、ナナが能天気に言った。
「ばっか。「赤い雨」に濡れたらマジやばいんだろ?」
ロミオが、ナナをたしなめた。
その通りである。
濡れてはいけないため、こうやってロビーで駄弁っているのだから。
「んー、なんだっけ。あれでしょ、コクシャ……コクシェ……」
ナナは、なぜ「赤い雨」に濡れてはいけないのか、その理由を思い出そうとする。
ナナが言うよりも先に、ジュリウスが答えを言った。
「「黒蛛病」……」
「「赤い雨」に触れることにより高い確率で発症する病、通称「黒蛛病」。現段階において有効な治療法は確立されておらず、発症した場合の致死率は……100%とされています」
ジュリウスの答えを、シエルが説明する。
レイは、その横で俯き、黙って聞いていた。
ロミオが、うっと顔を歪める。
「ぬ……濡れなきゃいいだけだよ」
「病気はやだねえー食欲なくなっちゃう」
「あれ?そういやナナは「赤い雨」見たことないの?」
ロミオが首をかしげた。
ブラッドのメンバーの中で、極東出身なのはレイとナナの2人だ。
出身地が極東なら、見たことはあるはずだ。
「あー……実は私ちっちゃいときにラケル先生のとこにきてそれっきりだったから、極東に来るのひさしぶりなんだよねー。レイはみたことある?」
「……」
ナナがレイに話を振った。
しかし、レイは黙って俯いている。
「……レイ?」
「……どうした?」
誰が何を話しかけても反応がない。
心配になったナナとシエルが、レイの肩を軽く叩いた。
途端、何かに弾かれたかのようにバッと顔を上げる。
「うわぁ!?」
これには、その場にいた全員が驚いた。
顔を上げたレイも驚いている。
「……うおっ!?なんだよ?」
キョトン、とした表情をレイは浮かべた。
いつの間にか、全員がレイの周りを取り囲んでいる。
肩を叩いた2人の他に、さっきまで自動販売機の前にいたはずのギルや、ロミオにジュリウスまでレイを心配そうにのぞき込んでいる。
男3人は座ってすらいない。
そして何より、距離が近い。
「……え?何?なんだっけ、悪い、聞いてなかった」
「大丈夫?」
「気分が優れないのですか?」
「……いや別に。至って普通。なぁ、ちょっと皆近い、離れてくれ」
レイはひとまず全員に離れてもらった。
立ちっぱなしの3人が座ったのを確認し、レイは再び聞いた。
「で、なんの話だっけ。シエルが致死率は100%って言ったとこまでは聞いてたけど」
「それより、大丈夫なのかよ!?こっちが何言っても反応しなかったし、全く動かないし」
「ぼーっとしてただけなんだけどなぁ」
「お前もぼーっとすることがあるのか?」
「なぁ、ちょっと待てジュリウス。どういうこったよ。お前俺をなんだと思ってるんだ。俺だってそういう時もあるんだけど」
レイが反論した瞬間、全員がえっ、というような顔をした。
「レイはそんなことないのかと思ってたよー」
「おい待てコラ。お前ら、俺をそんな風に見てんのかよ」
これにはレイも些か腹が立った。
まさかそんな風に見られているとは。
「まあまあ、別にいいじゃん」
「よくねぇわ」
「しかし、そう考えると私たちは君のことをよく知りません。なぜぼーっとしていたのか、「赤い雨」を見たことがあるのか、君の昔についてなど、聞きたいことはたくさんあります」
「え、それ聞かれる感じ?今?ここで?」
レイの問いに、皆が頷いた。
ぴったり、同じタイミングで。
「うえ……面白いようなもんでもないんだけどなぁ」
「君は、何時でも質問していいと言いましたよね?答えてくれるんですよね?それが今です」
「確かにそんなこと言ったような気はするが、こういうこと聞けって意味では言ってないぞ」
「では、誰から質問しますか?」
「無視かよ!しかも俺だけ答えんのかよ!」
「じゃ、はーい。何でぼーっとしてたの?」
「その理由は黒蛛病や「赤い雨」と関係がありますか?」
「「赤い雨」見たことある?あと、これから行く極東支部ってどんなとこ?」
「なぜあんな動きができる?」
「ここに来る前は何をしていた?」
「いっぺんに聞くなよ訳わかんねぇわ!」
レイは思わず怒鳴った。
突然の質問攻め、しかも一気に。
これでは答えるものも答えられない。
「わーった、わーったから!1個ずつ!順番に!……はぁ、もう、聞くなら今な。後で聞かれても答えねぇからな……ったく」
盛大に溜息を溜息をつく。
気分は良くないが、素直に答えるしかないだろう。
「頼むから1人ずつにして。俺の耳はそこまで万能じゃないの。今更聞き分ける練習とかしたくない」
「では、ロミオからにしましょう。そもそも質問をしたのはロミオです」
シエルは、ロミオを指名した。
そもそも、最初に質問をしたのはロミオで、それを聞いてなかったレイが事の発端なのである。
「あ、そうなの。なんだっけ」
「あ、「赤い雨」見たことあるか聞いたんだよ。ほら、お前極東出身だろ?」
「ああ……「赤い雨」の流れね……。あるある、見たことあるって言うか、半年くらい前くらいからかなぁ、しょっちゅう降ってたぞ。えーと、本当に真っ赤。そうだなぁ、血よりも鮮やかな赤かな。不気味っちゃ不気味だけど、慣れたら余裕」
「お、おう……」
「意外とあっさり答えるんだな」
「いやだって、知らばっくれても仕方ねぇし」
ここにいる皆が、もっと渋るかと思っていたが、意外とレイはあっさり答えた。
「はい、次ー。次は?」
「はーい。なんでぼーっとしてたのー?」
「その理由は、「赤い雨」や黒蛛病と関係がありますか?」
次の質問者は、ナナとシエルだった。
レイは、OKと返事をする。
「それ、一個の質問として受け取るからな。えーとな、ちょっと昔のこと思い出しててぼーっとしてたってだけかな。で、シエルはなんでそうも察しがいいのかね。全くもって大正解。さっきシエルが言ったの聞いて、そういや知り合いやらが黒蛛病になって苦しんでバタバタ死んでったなって思い出してただけだよ」
「そーゆーのは、だけって言わないんじゃ……」
「そうかぁ?ま、いいや、はい次!」
まだ二つ程にしか答えていないのだが、レイは既に面倒くさくなってきていた。
あまりいい気分はしないので、早く終わって欲しい。
「じゃあ、これから行く極東支部ってどんなとこ?」
「え?あー、うーん。俺はアナグラ……ああ、あっちじゃあの支部をアナグラって言ったりするんだけど、その近くの未保護集落に住んでたってだけだからなぁ……、もうアラガミの襲撃が酷くなって綺麗さっぱり無くなったけど。強いて言うなら、強いアラガミの巣窟?みたいな感じかな。とりあえず向こう行ったらミッションの依頼数すっげー上がると思うぜ。あの、グレム局長がアラガミの動物園って言ってたろ?あれ、あながち間違ってないぜ」
「では、お前の前職は?」
「ジュリウスも聞いてくんのね……んー、はっきりとした職についてた訳じゃねぇからなぁ。無職ってことで。入れていいなら傭兵?用心棒?みたいなこと。おかげでもうほんといろいろ覚えたぜ、周囲の気配の探り方、数多の武器の使い方、投擲術、喧嘩とか」
「それであんなに対人戦に強いのか。ところで、なんであんな動きができる?」
「ギルもか……うーん、なんでだろうね?」
ここまで素直に答えてきたのに、突然レイは質問で返した。
ギルの顔が目に見えて歪み、イラついているのがわかった。
「ちょっと待て、怒んなって。それに関しちゃ、俺自身良く分かってねぇんだよ。一応、説明はするからさぁ……」
少々焦りながら、レイは説明を始める。
まさか、キレられるとは思っていなかった。
「んーとだなぁ、確か……6歳の時だったかな?そん時にアラガミに食われかけたことがあってさ、助けに来たゴッドイーターにこの怪我はヤバイってことで、アナグラに担ぎ込まれた事があるんだ。どんな規模だったっけ、確か……こう、後ろからガブッといかれてさ、背中の肉を結構持ってかれたらしい。あとあちこちボロボロだったかなんかだったような気がする」
「よく生きてたなお前」
「マジで奇跡だって騒がれたよ。で、メディカルチェックの結果どーたらこーたらをなんか難しい事を眼鏡かけた博士?らしき人に延々説明されたんだけども、それが嫌で嫌でしょーがなくて、スキ見て脱走したんだよね」
ははは、とレイは苦笑した。
今となっては笑い話だが、きっとアナグラの中では大騒動になったのではなかろうか。
「おかげでほっとんど理解してないんだわ。ひとまず、未保護集落まで逃げ帰って、いろいろ変化が出だしたんだったかな。元々6歳の割には人より動ける方だったけど、化物並みの身体能力になってから、もうね、本当にこれ扱うの大変だったんだぞ。あ、言っとくけど眼と耳の良さは生まれつきだからな」
腕を組み、説明しながら、昔のことを思い出す。
これのせいで一時期住処が廃墟になったのはいい思い出だ。
「だが、フライアのメディカルチェックでは、お前の視力などの数値は普通だったはずだが?」
「だって、変な数値出したらまためんどくさい事になんだろ?そんなのはゴメンだね」
レイはニヤリと笑いながら答えた。
ジュリウスもつられて苦笑する。
「なんとか使いまくってコントロール覚えて、今に至るって訳。これでいい?もういい?」
「家族はいるのー?」
「まだあんの?もう皆死んでるよ。俺が怪我した日にみーんな食われちまった。だから今身内は0……あ、違うわ、ユウがいたわ」
「なになに、兄弟がいるの?」
「血はつながってないぞ?たまたま孤児2人、つるんだ相手が1つ年上だったってだけ。因みにユウもゴッドイーターで、俺より3年早くなってさ。今欧州に遠征に行ってるとかなんとか言ってた気がする」
確かそんなことを言っていた筈だ。
なにしろ、端末に届くユウの文は訳の分からない雑談やらお節介でほとんど構成されており、読み取るのが大変なのである。
「そのユウさんも、君のような動きができるのですか?」
「できるんじゃね?俺よりも変化は小さかったのに、組み手でも勝ったことないし、多分だけど。今思ったらあいつも何だかんだ俺と並んでたからなぁ、今どうなってんのか全くわかんねぇ」
「すごい兄弟だねぇ」
「まったくだ。担ぎ込まれた時にサンプル取られて、結果的にそれでゴッドイーターになれてるんだろうから、まあいろいろ良かったんだろ」
レイは笑いながら言った。
レイにとってあの日は、きっと忌むべき日なのだろうが、その結果こうして笑っていられるのだ。
今ではいい思い出になっているのだから不思議だし、レイの中ではいい思い出というよりも笑い話になっている。
その認識が変わることは今後絶対に無いだろう。
「な、面白くはなかったろ?もういい?」
レイが皆に聞いた瞬間、ピピピ、とジュリウスの端末が鳴った。
ジュリウスがすぐに電話にでる。
「……はい。……了解しました、失礼します」
短い応答をした後、電話を切りジュリウスが立ち上がった。
レイは、さっきまでの穏やかな雰囲気とはまるで別の雰囲気を感じ取る。
どうやら、質問タイムは終了のようだ。
「質問タイム強制終了ってね。なんだって?」
「グレム局長から呼び出しがかかった。ラケル博士からきいていたが、神機兵の試験運用の件だ。レイ、シエル、行くぞ」
今回はただ書きたかったことを書きました。
主人公に関する設定を、だいたい吐き出せて良かったです。
改めてこいつ化物だな。
さて、今回ユウという名前が出て来ましたが、神薙ユウ、ではないです。
彼はそのうち書こうと思っていますリザレクション編での主人公、名前は霧黒羽ユウの予定(ほぼ確定)です。
本作主人公のレイ、出てきましたユウの二人の名前は、私が個人的に好きなのでつけました。
結果神薙ユウ君と名前がかぶってしまったと。
だからといって変える予定はありませんけどもね。
この2人のクロスオーバー編、早く書いてみたいなぁ。
1話1話がだんだん長くなるのは仕方ない。
感想、お待ちしています。