仮面ライダーエターナル―NEVER SIDE STORY―   作:K/K

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Hの灼熱/羽原レイカの章その2

 激しく唸るエンジンの音、曲がる度に磨耗して黒い線を残していくタイヤ、人気の無い倉庫街にもかかわらず、そこでは生死を賭けたバイクチェイスが行われていた。

 狭い道をマスカレードドーパントたちの四台の黒いバイクが疾走し、その後をレイカの乗った赤のバイクが追う。両者ともヘルメットなど着けておらず、事故を起こせば只では済まないスピードで駆けていた。

 マスカレードドーパントたちは何度も振り向きながらレイカとの距離を見る。最初は大分離れていたにもかかわらず、今ではレイカのとの距離の差も五メートル程しかなかった。何故両者の距離が縮まったのか。それは次の曲がり角で明らかになる。マスカレードドーパントたちが曲がり角に差し掛かるとブレーキを使い、速度を緩め曲がれる速度にまで落として曲がるが、レイカの場合、ブレーキを殆ど掛けず、体ごとバイクを倒し速度を維持したまま曲がり角に入っていった。

 常人が見れば命知らずの方法である。しかし、その命知らずの方法を規格外の身体能力で確実な方法へと昇華させるのが羽原レイカであり、NEVERである。

 この曲がり角を曲がったとき、最後尾を走っていたマスカレードドーパントと遂に並ぶ。隣を走るレイカに向けてマスカレードドーパントの裏拳が放たれるが、レイカはあっさりと片手でそれを防ぐ。顔面、肩、腹など狙う場所を変えて次々に攻撃を繰り出すマスカレードドーパント、しかし、それを片手で軽々といなしていくレイカ。両者とも片手運転という不安定な状況の中で激しい攻防が続くが、終始レイカに分があった。

 数度目の拳がレイカの顔を狙うとき、レイカは防ぐのではなく、マスカレードドーパントの振るわれた拳の手首を逆に殴り返す。

 

「何度も女の顔を狙うもんじゃないよ」

 

 その反撃に思わずバイクのハンドルの操作が狂い、バイクが大きくバランスを崩す。バランスを崩したバイクは倉庫の壁際付近まで近くが接触するかしないかの瀬戸際で何とかバランスを戻した。が――

 

「お返し」

 

 レイカの声がマスカレードドーパントに届いた瞬間、レイカの靴底がマスカレードドーパントの顔の側面を踏みつけ、高速で動いていく壁に叩きつけた。

 

「あがががががががが!」

 

 まともな悲鳴すら上げることも出来ず、マスカレードドーパントの顔面がすりおろされていく。

 やがて壁面に押し付けられたマスカレードドーパントの体から力が抜け始めてきたとき、レイカは突き飛ばすようして足を放す。放されたマスカレードドーパントはすぐにバイクのバランスを崩し、今度はバイクごと壁面に叩きつけられことで限界を向かえたマスカレードドーパントは塵となり、主を失ったバイクはそのまま横転、派手な火花を上げながらレイカの後方へと滑っていった。

 その光景を見ていたマスカレードドーパントの一人は怒りの咆哮を上げ、拳銃を取り出すと後ろを走っているレイカに向けて発砲。

 

「おおおおおおおお!」

 

 自らの怒気を弾丸に込めたかのように、一気に銃弾を打ち続ける。

 不安定な体勢で撃たれた銃弾はレイカに体に着弾することはなく、レイカも当たる可能性が低いと見たのかアクセルを開き更に加速、銃弾の発射されているなか一気に距離を縮めていく。

 マスカレードドーパントとの距離が五メートルを切ろうとしたとき、レイカは弾かれたように顔を右に傾ける。闇雲に撃っていた銃弾の一発が丁度レイカの顔の中央目掛け飛んできたのに気づいたからである。

 超人的な反射神経によって直撃は避けたものの完全に回避することは出来ず、頬をかすめ赤い筋を残していった。

 

「また顔……やってくれたね」

 

 静かな怒りを込めた言葉を吐くとバイクの運転の中、右足に手を伸ばす。右手の先に在るのは足にくくりつけられたホルスター、その中に収められた拳銃を引き抜く。

 握った拳銃をマスカレードドーパントに向ける。その構えはバイクの運転中という状況にもかかわらず、一切のブレが無く、銃口は空中に停止しているかのように動かなかった。

 レイカは引き金を引く。炸裂音が響くと同時に銃弾は拳銃から飛び出し、同じく薬莢も吐き出される。目視出来ない速度で空気の壁を突き破りながら狙った先にいるマスカレードドーパント、その銃を握る腕に潜り込んでいった。

 肉を軽々と抉り、潰し、穿つ。そして、その先にある骨を砕き割り、腕としての機能を奪う。

 弾丸の蹂躙を受けたマスカレードドーパントは絶叫し、その手に持った拳銃を落とす。

 落とした後も叫び続けるマスカレードドーパント。だが、その叫びも二度目の炸裂音によって消え去り、すぐそのあとに重々しい落下音と衝突音が鳴るのだった。

 

「ちっ!」

 

 残ったマスカレードドーパントの屈辱と怒りに満ちた舌打ち。しかし、マスカレードドーパントたちは振り替えることも攻撃を与えることもせずにただ前を見てバイクを走らせる。ここで足を止め、レイカに対して攻撃をすることは悪手であり、一刻も早く仲間と合流することが最善の手であることがわかっているからだ。

 策も無く一時の感情のみで動くことは暴走に等しく、無謀なことでしかない。今の屈辱と怒りを成功の糧にするためにマスカレードドーパントたちは走る。――が、自分の考えることが相手も考える分けがないという思考は結局の所は詰めの甘さに過ぎず、また羽原レイカという存在への認識の甘さであった。

 マスカレードドーパントたちがバイクを全開にして走らせようとしたときには、既に銃口は前方に向いていた。

 バイクが加速する瞬間、続けざまに鳴る二発の銃声。一発はマスカレードドーパントの左肩に命中、二発目はもう一人のマスカレードドーパントの乗るバイクの後輪に命中した。

 

「ぐあっ!?」

 

「なあ!?」

 

 その結果、右手がアクセルを開いた瞬間、負傷した左手では抑えることが出来ず、バイクから投げ出されるようにして転倒。もう一人は一気に加速したためパンクしたタイヤがバイクのバランスを崩させる。バイクは左右にグラグラと激しく揺れ、そのまま壁に激突していった。

 

「くっ……うう……」

 

 撃たれた肩を抑え、震える手を地面につけ体を起こそうとするマスカレードドーパント。しかし、撃たれた痛みとバイクから落ちた衝撃で僅かに上半身を持ち上げることしか出来ない。

 

「その高さ、ちょうどいいね」

 

 頭上から聞こえるレイカの声。マスカレードドーパントは首だけを声が聞こえる方向へと向けた。

 

「バイバイ」

 

 そんな彼の目に映るのは、眼前に迫る黒い影。

 それが靴の爪先であることに気付いたのは、顔面を頭部ごと蹴り砕かれた瞬間であった。

 その光景を見ていたもう一人のマスカレードドーパント。彼は幸いにも軽傷で済み、自力で立ち上がることができ、そして今の光景を見ていた。そんな彼の胸中によぎるもの、それは仲間を殺された怒りでは無く、失った悲しみでは無く、羽原レイカに対する恐怖では無く、ただ単純な諦めであった。

 逃げる手段もなく、勝てる実力もない、十中八九自分はここで死ぬ。確信に満ちたネガティブな答えが既に彼の中にあった。

 それゆえに彼はレイカに向けて歩み寄っていく。どうせ死ぬなら一矢報いるために。

人の歩みを止めるものは諦め、などという言葉があるが、諦めも極致に至れば人を動かす力となる。ただし、進む方向に生は無いが。

 顔が覆面に覆われているため彼が今どのような表情をしているかは相手には分からない。もし、それが無かったのであれば相手は、彼の死人のように色々なものが抜け落ちた顔を見ていただろう。

躊躇いも無く進む足はやがてレイカを前にして止まる。その距離約二メートル。その位置でマスカレードドーパントは構える。両手を顎の高さまで上げ、左手は引き右手は前に出すボクシングのような構えであった。

 対するレイカは構えことはしなかったが、僅かに両足の踵を浮かせ、いつでも相手の攻撃に対処出来る状態となっていた。

 相手の出方を見ているのかお互いに動かず静寂が場を支配する。

 自らの心臓の音が相手に聞こえるのではないかと錯覚してしまう程の沈黙を破ったのはマスカレードドーパントの地を蹴る音であった。

 地面を蹴って前に出ると同時に引いていた左手が最短の距離をなぞるようにして放たれる。レイカの顔に向かって迫る拳、それを顔だけを動かし難なく回避する。しかし、それだけでマスカレードドーパントの攻撃は止まず二撃、三撃と左拳が続けざまに放たれた。

 だがそれもレイカには通じず簡単に回避されてしまう。四撃目、それが再度レイカの顔面に迫ってくる。再び避けようとするが、突然、拳の軌道が変わり顔面では無くレイカの肩に当たる。思わぬ一撃にレイカの体制が揺らいだ。こん瞬間、地面を震わすように踏み込み、温存していた右拳がバネのように収縮していた力とともに繰り出される。左手を上回る力を秘め右手の一発。

 当たれば只では済まないこの拳がレイカの顔面を砕けろと言わんばかりに襲いかかる。

 迫る拳がレイカの前髪に触れ、そのままその奥にあるものまで一気に突き破る――がそこにある筈の頭部はなく空を切り裂く感触だけがマスカレードドーパントの右拳に残った。

 そんな拳を下から見上げるレイカ。当たる瞬間に上体を反らし攻撃を回避したのだ。

 

「うっ!」

 

 それと同時にマスカレードドーパントの呻く声。思わず激痛の走る場所に視線を向けてしまう。痛みのあったのは踏み込んだ足、マスカレードドーパントの目に入ったのはその踏み込んだ足の脛に突き刺さるレイカの爪先であった。回避したと同時に追撃が出来ないように足を潰されたのである。

 マスカレードドーパントがそれを理解したときには全てが終わっていた。視線を下に向いたのが分かるとレイカは蹴りつけた足を戻し体勢も整える。

 マスカレードドーパントの視線がレイカへと戻ったときには振り上げた右足が吸い込まれるようにマスカレードドーパントの首筋に叩き込まれ、若木の折れるような音を響かせながら、ぐるりと体が百八十度回転し頭から地面叩きつけられていた。

 哀しいかな決死の覚悟をし、刺し違える覚悟をもして一の力を二倍にも三倍にも高めて挑んだマスカレードドーパントであったが、結局のところ一が二や三になっても百には遠く及ばなかった。

 マスカレードドーパントたちを全滅させたレイカ、すると突然背後からパチパチ拍手の音が鳴る。

 振り向くレイカの先にいたのは、自分の赤のバイクのシートに足を組んで座っている茶髪の男、うつむいていたため表情を見ることが出来なかった。

 うつむいたままその両手だけが機械のように一定の間隔で叩かれ続けており、その姿は不気味さすら感じるものだった。

 

「さすがだね……さすがレイカちゃん。惚れ惚れするような手際だったよ」

 

 初対面の相手に馴れ馴れしい呼び方に不快感を覚えたのか、レイカの眉間に皺が寄る。

 

「誰?」

 

 刺々しいレイカの口調に男は拍手を止め、代わりに肩を震わせ始める。どうやら笑っているらしい。

 

「あー俺ね、俺はさっきまでそこにいた人達の上司みたいなもんだよ。あっ、正確に言えば元がつくけど」

 

 男は転がっているマスカレードドーパントたちのバイクを指差して言った。

 

「部下がみーんな居なくなったら上司も何もあったもんじゃないしね」

 

 笑いを含んだ口調で話す男の言葉にレイカは微かに怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「『あと五人いたはずでは?』何て考えているね? レイカちゃん。大丈夫、俺の言っていることに間違いはないよ」

 

 そこで男はうつむいていた顔を上げ、初めてレイカに顔を見せた。

 そこに浮かんでいるのは、晴れ晴れとした曇り一つの無い笑顔であった。長年の難問に苦悩していた学者が、その難問を解いたような素面の大人には出来ない清々しいまでにスッキリとした顔。しかし、少し視点を変えれば底を見せない狂気的な側面を垣間見るかのような二面性を感じる笑顔であった。

 

「全員俺が殺したからね」

 

 まるで何気ない日常会話のようにサラリと自らの行った凶行を話す男。それに対してレイカは呆気にとられてしまい、「はぁ?」という間の抜けた声を出してしまった。

 

「そのまーんまの意味。俺が残りの五人を始末した。それだけだよ」

 

「一体何のつもり?」

 

 レイカは、男の言葉に疑問を感じるしかない。

 

「まあ、何と言うか……俺は頭がおかしくなっちゃったらしいね。気付いたらこの手で皆殺しだよ。ほーんと、あの時は驚いた」

 

 そう言うと座っていたレイカのバイクから降り、スタスタとレイカへと歩み寄っていく。

 

「何が驚いたかって、自分の部下殺したのに、全く罪悪感が湧かないことなんだよねぇ。名前は全員知っていたし、一緒にメシを食った奴もいたのにさ、何だかんだあったけど、それなりに信頼関係はあった筈なんだよ。それなのにさ……これってやっぱおかしいよな?」

 

 早口でまくし立てながらレイカに近寄っていくが、ある一定の距離まで行くと男の足が止まった。

 

「でもね、居なくなってから気付いたんだよ。ああ、やっぱこいつら邪魔だった、ということに――だって、こんなにも頭の中がスッとしてるし」

 

 指先でこめかみを叩いて笑う。男の止まった場所はギリギリ、レイカの攻撃の届かない絶妙な位置であった。偶然かはたまた意図的にか、危なかしい男の言葉よりも、まだ見ぬ男の技量にレイカは警戒を強くした。

 

「何かをするにも立場ってやつが付きまとってきたり、部下の連中の面倒も見なきゃいけない。これも仕事だからと割り切っていたつもりなんだけどね……やっぱ心のどこかじゃ疎ましく思ったのかも――」

 

 レイカは、自らの心の内を独語する男の言葉を無視するかのように一歩踏み出すとその顔目掛け、蹴りを放った。当たれば首の根元から持っていかれそうな威力を秘めた上段回し蹴りに対し、男は間一髪直撃を避けるが、僅かにかすったのか頬の皮がめくれ血が滲み出す。

 

「おいおい、最後まで聞いくれてもバチは当たらないぜ?」

 

「お喋りな男は嫌いだよ」

 

 男の言葉を冷たく切り捨てると今度は男の胴体を下から掬うように蹴り上げる。しかし、それもレイカの攻撃に合わせて後方へと曲芸のように宙返りをしながら回避する。だが今度も完全に回避は出来ておらず、黒のスーツの下に着たシャツを切り裂き、破片を宙に撒く。後方へと跳んだ男はそのまま後ろ向きに走り、レイカとの距離をとった。

 

「ふぅ、危ない危ない。見ていたのと、自分が喰らうのとじゃ早さもキレも全然違うな」

 

 そう言いながらも楽しくて仕方ないといった笑みを浮かべながら頬から流れる血を拭う。

 

「思ってたよりやるね」

 

「これでも結構武闘派なんでね」

 

 機嫌良さそうにレイカの声に答える男は、そのままスーツの懐に手を入れる。その瞬間、レイカの手もホルスターに伸びるが、それを見て男は「違う、違う」と言い苦笑を浮かべる。しかし、それでもレイカの手はホルスターの中にある拳銃からは離れない。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫、ただのプレゼントだよ」

 

 男が懐から取り出したのは二本のメモリ。ミュージアム製のガイアメモリ、もう片方はレイカが探していた特別製のガイアメモリ、T2ガイアメモリであった。

 男はその内の片方、T2ガイアメモリを躊躇いもなくレイカに向けて放り投げる。突然の行動に驚くレイカであったがつい反射的に受け止めてしまった。

 

「あんた……一体どういうつもり?」

 

 相手の心裏が読めず、咎めるような口調で話すレイカに対し、男は大したことでもないように「あげる」と一言。さすがにレイカも呆気にとられてしまう。

 

「いらないからあげるよソレ、俺には使えないし。それにねソイツがギャアギャア喚くのさ、君のところに行きたいってね」

 

「あんた……バカだね」

 

 心の底から感じたことを口にするが、相手は傷付いた様子は無い。

 

「まあ、いろいろ言いたいことがあるかもしれないけど、使うんでしょソレ? まあ嫌でも使って貰うけど」

 

 男はスーツの袖を捲り上げる。肌をさらす男、その肘には生体コネクタが刻まれている。

 

「怪物同士の戦い……想像するだけでワクワクするねぇ。レイカちゃんはどうだい?」

 

「興味ないね」

 

 つれないねぇ、とぼやく男を尻目にレイカは着ている黒のジャケットのファスナーを下ろす。それによって露になる胸元、そこには男と同じく生体コネクタが刻まれていた。

 

「まあ、やる気はあるみたいだし。それじゃあ一つ楽しむとしようじゃないか!」

 

『DOG』

 

 手に持ったガイアメモリのスイッチを押したことによって響くガイアウィスパーがガイアメモリの起動を知らせる。

 

『HEAT』

 

 同じくT2ガイアメモリを起動させガイアウィスパーを響かせるレイカ。

 男はドッグメモリを肘に付けられた生体コネクタに挿入、体内へと吸収する。

 レイカは起動させると同時に手に持ったT2ガイアメモリを前方にと放る。放ったT2ガイアメモリは、空中を舞っているとそのまま何も無い位置で停止、そして時間を逆行させたかのようにレイカへと向かっていき胸元の左側に刻まれた生体コネクタへと吸い込まれていった。

 両者ともガイアメモリを体内に挿入したことにより変化が起きる。茶髪の男は全身を白い光で包み込まれ、その光の中で体型が変わっていく。口は前に突き出すように伸びていき、腕や足は細くなっていくがその代わりに長さは倍近く程になっていた。また指や足の先からは鉤爪のよう物体が生えてくる。

レイカは男とは違い赤い光に包まれ、その光からは地面を融解させる程の高熱が発せられ周囲の光景を熱によって歪ませていた。

 やがて光は消え、その中から二体の怪人が姿を見せる。

 『犬の記憶』によって変身したドーパント、ドッグドーパントは、全身を針金のような硬質な白い体毛で覆い尽くした人型の獣。低く唸り、吊り上げた口の中には鋭い犬歯が並んでいた。

 そして、焼き尽くすような灼熱の中から現れたのは、透き通ったレンズのように変化した眼の奥に炎をたぎらせ、全身を赤く染め上げた異形。人だった頃の名残が顔の下半分に残っているのか病的なまでに白い肌に真紅の唇が対称的な印象を与える。

 『熱き記憶』のガイアメモリによって生み出されたヒートドーパントが熱とともに姿を現す。

 

「へぇ……」

 

 変化した自分の体に何か思うことがあるのか、ヒートドーパントは赤く染まり変化した手をまじまじと見つめる。

 

「なかなかいい格好じゃないか、俺も燃えてくるね」

 

 ドッグドーパントは軽口を叩きながら、細く長い両手を地面に着け片足を後ろに引き、短距離走のクラウチングスタートのような構えをとる。

 

「さあ……いくぜ?」

 

 ドッグドーパントの四肢が同時に地面を蹴りつけたとき、コンクリートの砕けた音とともにヒートドーパントの視界から消える。

 次に音が聞こえた場所はヒートドーパントの背後、倉庫の壁に両足を着け再び蹴りつける。

壁に大きな亀裂が入る程の力で踏み出したことで驚異的なスピードで空中を疾走、そのままの勢いでヒートドーパント目掛け、鈍い輝きを放つ爪を生やした右足から突っ込んでいく。

 しかし、ヒートドーパントも振り返ると同時に燃え上がる右足からの後ろ回し蹴りを放つ。

 ぶつかり合う互いの蹴り、衝撃と炎が吹き荒れる。

 

「さあ、一緒に楽しいことしようぜ?」

 

「後悔するよ?」

 

ドッグドーパントは犬歯を剥き出しにして笑うとヒートドーパントも唇の端を上げ初めて笑みを浮かべた。

 

 


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