仮面ライダーエターナル―NEVER SIDE STORY―   作:K/K

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Lの抱擁/泉京水の章その1

 人通りが疎らな道沿いにあるオープンカフェ。

 テーブルが十個程並び、それに合わせて観葉植物が囲むようにして置かれている。テーブルの半分に客が座っており、まずまずの賑わいを見せている。一つ一つテーブルの近くに大きめの観葉植物たちが置かれているのは、お客に対してささやかな心配りなのか、それともただ単純に店側の趣味のどちらかであろう。

 誰もがこの時間、テーブルの上に置かれたサンドイッチやケーキ、紅茶などを楽しんでいるはずなのだが椅子に座っている誰もが手を止めて、ある一点を見つめている。

 その視線の先にあるのはオープンカフェの端にあるテーブル、正確に言えばそのテーブルで食事を摂っている人物が周囲の視線を集めていた。

 まず気になるのは、その人物の服装。全身を上下ともに黒一色に統一し、背中にはでかでかと危なげな印象を与えるマークが刻んである。どう見てもカフェで食事を摂るような恰好ではなかった。

 次に気になるのは容姿。テーブルに座っているのは大柄な男性である。ただ大きいだけではなく腕や脚や背中など男が着ているジャケット越しに素人が見ても鍛え上げた肉体をしていることがよくわかる。また頭髪は短く切り揃えてあり、顔立ちはやや細めだが鋭さ感じさせる目、整えられた顎髭など気の弱い人ならば萎縮してしまうかもしれない強面である。女性客ばかりいるこのカフェには確かに場違いかもしれないが、客たちの最も注目している点はそこではない。客たちが最も注目している点、それは男の挙動にあった。

 男の挙動を一言で言えば「変」その一言に尽きる。

 テーブルの上に置かれたティーカップの取っ手を小指を真っ直ぐ立てながら掴み、中にある紅茶を飲んだならば「おいし」と一言いった後に同じく小指を立てた手で紙ナプキンを使って口を拭う。

 仕草の一つ一つが妙に女性的であり呟いた声も不自然に甲高い。見た目とのギャップが有りすぎるせいで、その男の一挙一動に妙に注目してしまう。客たちは、内心、他人を注視するのは失礼だと思いつつも、やはり目線は奇妙なインパクトを持った男に向けてしまっていた。

 気にならない方が無理のあるような存在感を男は出しながら、テーブルに置かれたケーキや紅茶を実に機嫌良さそうに食べていった。目の前に置かれた数種類のスイーツに舌鼓を打ちながらもその手は休むことなく動き続け、数分後には全て空になり、最後に残った紅茶を飲み干した。

 

「はぁ〜満足、満足!」

 

 実に嬉しそうに言う男であったがすぐにその表情は曇る。

 

「それにしても、ぜ〜んぜん見つからないわね。こっちの方の筈なんだけど」

 

 頬に手を当て本当に困ったという態度をとる男。誰かに聞かせているかのような独り言である。

 

「アレが落ちていったときは、『間違いなくあそこよ!』って思ったんだけどね〜」

 

「『アレ』と言うのがお前の探しているものか。『アレ』とは何だ?」

 

「『アレ』っていったら『アレ』に決まってるじゃない……あら?」

 

 男の独り言に突如として割り込んできたもう一人の男、黒のスーツを纏い、髪を後ろになでつけたオールバック、どこか神経質そうな顔立ちをしている。

 オールバックの男は席に座っている男の断りも得ずに同じ席の真正面に座った。

 

「どうどうと―――」

 

「もう!『アレ』って言ったら『アレ』じゃない! ず〜と探しているのに全然見つからないからイヤになっちゃうわ!方角はあってる筈なのに!もう疲れちゃって仕方ないから、休憩とストレス発散にここでヤケ食いしちゃったんだから!……あ! でも太っちゃったらどうしましょ……」

 

「…………」

 

 何かを言おうとしたオールバックの男の言葉を遮って、マシンガンのように一気に自分のことを喋る男。目の前に座ったオールバックの男に何の動揺も見せず、いたってマイペースであった。

 

「ああ! このまま見つからなかったらどうしましょ! 克己ちゃんに迷惑かけちゃう! あっ! でも克己ちゃんの言葉を信じるならいずれ出会えるはずよね! あっ!? もうあたしのバカ! 『信じるなら』って! あたしはいつでも克己ちゃんのこと信じているじゃない! あたしのお馬鹿さん! そしてファイトあたし!」

 

「…………おい」

 

 話が途切れることの無い男にオールバックの男はコメカミをひくつかせ、苛立ちの混じった声を出す。

 

「あら! どうしたのそんな怖い顔しちゃって! 何かを嫌なことでもあったの! 言っちゃいなさい!言っちゃいなさい! 少しの間だけだったら相談にのってあげるわよあたし!」

 

 再び喋り続け始める男を無視し、オールバックの男は懐から数枚の写真を取り出し、テーブルの上に置く。その写真には、四人の男性と一人の女性がそれぞれ写っていた。写っている四人の男性のうちの一人は、今オールバックの男の前に座っている男であった。

 

「傭兵集団『NEVER』の副隊長、泉京水。お前にいくつか聞きたいことがある。無駄な会話は止めて、大人しくこちらの質問に答えて貰おうか」

 

 先程まで喋り続けていた男、泉京水は高圧的な態度で言うオールバックの男に対して、さっきまでと変わらない笑みを浮かべる。

 

「え〜! 何! 何! 何が知りたいの!」

 

「お前が言っていた『アレ』というモノについての詳細。そして、他のメンバーの居場所を教えて貰おうか」

 

「それはダーメ」

 

オールバック男の質問をあっさりと拒否する京水。

 

「ほお……拒否するか……」

 

 京水の即答に対し目を細め、冷たい殺気を込めた言葉を放つオールバックの男。

 

「『アレ』は私たちの目的のために必要なモノなの。だ・か・ら! 何があっても絶対に教えてあーげない! あっ、あと克己ちゃんたちのこともね!」

 

 頬に手を当てマイペースに言う京水であったが、その言葉には強固な意志が含まれていた。

 

「何があってもか……?」

 

「そう! ナニがあっても!」

 

「例え死んでもか……?」

 

「そう! 死ん」

 

 最後まで言うよりも早く、オールバックの男が懐から拳銃を取り出し、銃声を響かせる。

 京水の額に一センチ程の穴が開くと同時に後頭部から赤い華を咲かせ頭を後ろに仰け反らせた。

 

「なら死ね」

 

 白昼堂々と銃を発砲するオールバックの男。しかし、それに対しての悲鳴、パニックは起こることはなかった。何故ならば、今この場所には京水とオールバックの男しかおらず、先程までオープンカフェ内部にいた客、及び歩道にも人一人おらずゴーストタウンような状態になっていた。

 オールバックの男の銃声が静寂の中を木霊のように響き、その余韻が消えた一瞬の沈黙。

 

「もう! いきなりなんてびっくりするじゃない!」

 

 その沈黙を破ったのは、銃弾によって頭を撃ち抜かれたはずの京水であった。

 仰け反らせた頭部を跳ね上がるように戻し何事もなかったかのように撃った張本人に喋りかける。

 

「イヤねもう! そんな危ないモノを私の中に撃ち込むなんて! 頭を撃ち抜かれたのは久しぶりだったから意識が飛んじゃいそうになっちゃったじゃない! もう! でもその大胆さ嫌いじゃないわ!」

 

 喋りながらも頭に空いた穴は塞がっていき、ほんの数秒ほどで完治してしまい。最初から何もなかったかのような傷痕一つない綺麗な状態へとなっていた。

 

「情報通り……いや、それ以上の再生速度の速さだな……頭を撃ち抜かれても死なないか……」

 

ケロリとした京水の状態に苦々しげな表情を浮かべるオールバックの男。

 

「どうやら頭を完全に粉砕しなければならないようだな、貴様は」

 

 今度は京水の額に直接銃口を突きつけようとする。が京水は特に抵抗する様子なくすんなりと銃口を突きつけさせた。

 

「あらやだ! 今私に固いモノが当たってる! すんごく固くて熱いモノが当たってる!」

 

 銃口を突きつけられた状態でも態度は変わらず、むしろ余裕しか感じられない程の態度であった。

 

「この変態が……!」

 

 オールバックの男は奥歯を噛み締めながら殺気しかない言葉を吐き捨て、引き金を引こうとする。

 

「こういうのは嫌いじゃないけど、今はだ〜め!」

 

 引き金が引かれるよりも早く、京水の体がイスごと後ろに傾ける。そして、次の瞬間、テーブルがロケットのように真上に飛び上がり、拳銃を持ったオールバックの腕に直撃し鈍い音をたてる。その衝撃のせいでオールバックの男は持っていた拳銃を落としてしまう。

 

「ぐああああ!」

 

 大人が二人がかりで持ち上げなければ動きそうもないテーブルが飛び上がるという予想外の一撃。ましてや腕に重大なダメージを与える程の勢いで。

 オールバックの男は痛む腕を抑えながら、京水を見る。そこにはイスに座り、右足だけを水平に上げた京水の姿があった。

 

「ごめんなさ〜い! 私足癖が悪いみたい」

 

 オールバックの男は京水の言葉で理解する。かなりの重量のあるテーブルを京水の右足一本だけで蹴り上げられたことに。そして同時に今まで散々ふざけた態度をとっていた目の前の存在は、今ここで排除しなければならない存在であることに。

 

「チッ! それが死亡確定個体複還術の力か……この化物が!」

 

 吐き捨てるように言うオールバックの男に京水はニンマリと笑う。

 

「化物だなんて失礼しちゃうわね! あたしたちは死を乗り越えることで生まれた新しい人類。これからの世界の中心になって、世界を変えていく存在よ!」

 

 自らの存在を悲観することなく、むしろ誇りにすら感じている京水。そんな京水を心底気に入らないといった様子でオールバックの男は睨み付ける。

 

「ふざけるなよ……! この死に損ないのゾンビが……! 世界の中心……イヤ! この地球の中心にいるべき存在は我々ミュージアムだ! 断じて貴様のような存在ではない!」

 

 感情のままに京水を罵倒すると、スーツの懐に手を伸ばし、そこから十センチ程の大きさの長方形の形をしたモノを取り出した。

 

「あら! それって……」

 

 京水はオールバックの男が取り出したモノに気付き、少々驚いた顔をする。オールバックの男が取り出したモノ、それはパソコンなどで使用するUSBメモリに酷似したモノであり、ケースの中心にはアルファベットの『B』の文字が描かれていた。

 

「本来、ミュージアムの構成員が使えるガイアメモリは限られているが、非常時の場合、上位の構成員のみ個々の判断でそれ以外のガイアメモリを使用することが出来る。今は非常時、そして俺はその上位の構成員の立場にある。後はわかるな?」

 

『BEAN』

 

 ガイアメモリと呼ばれたそれの端子の上部にあるスイッチを押すと共に電子音声が鳴る。

オールバックの男は左腕の袖を捲り、手首と肘との中間にある回路のような痣にそれの端子部分を突き刺した。

 突き刺したガイアメモリはそのままオールバックの男の腕の中に吸い込まれていく。全てが吸い込まれたときオールバックの男の全身を深緑の光が包み込んだ。

数秒間、光続けそれが収まったときその場にはオールバックの男はなく、替わりに異形の怪人が立っていた。

 全身は緑色の蔦が絡みあって人の形にしたかのような姿をしており、足の先から手の指先まで全て蔦によって形にされていた。頭部も何十もの蔦が絡みあって球状になったかのようであり、眼にあたる位置は縦長の隙間が有り、そこから赤い眼らしきモノが輝いていた。そして身体中の至るところに豆の莢を吊るしており、それが一層不気味さに拍車をかけていた。

 

「さて、この姿になったからには、万が一にも貴様の勝機はない。挽き肉以下の生ゴミになる前にもう一度聞こう。『アレ』について」

 

 ボイスチェンジャーにかけられたかのような変換された声で問う元オールバックの男。

 それに対する京水の答えは。

 

「イヤよ」

 

 何の躊躇いも無い拒絶であった。

 その答えに緑色の怪人は肩を震わせる。表情が無いために分かりにくいがどうやら笑っているようであった。

 

「せっかく楽に死ねるチャンスをくれてやったのに……どうやら本物のバカのようだな。たかがゾンビ如きがドーパントに勝てると思っているのか?」

 

 自信に満ちた様子で自らをドーパントと呼ぶ元オールバックの男もといビーンドーパント。

 ビーンドーパントの挑発的な言葉に京水は答えかのように口の端を吊り上げ笑みを作る。しかし、その笑みは先程まで浮かべていた笑みとは違い、好戦的な笑みであった。

 

「あなたこそあたしたちのことを見くびってない? 『NEVER』の実力、その体で知りたい?」

 

 頬に手を当て、ビーンドーパントと同じく挑発的な言葉をぶつける京水。その言葉にビーンドーパントは肩を震わせるのを止め、京水を見据える。

 

「なら教えて貰うじゃないか」

 

 だらりと両手を下げながら、爛々と赤く輝く眼で射殺すかのように睨み付けるビーンドーパント。

 

「ええ! たっぷり体で教えてあ・げ・る!」

 

 左手を腰に当て、右手で手招きをして挑発する京水。

 この瞬間、不死身の傭兵集団『NEVER』副隊長泉京水と『BEAN』の記憶をその身に宿したビーンドーパントとの戦いの火蓋は切って落とされた。

 


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