仮面ライダーエターナル―NEVER SIDE STORY―   作:K/K

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Eの開戦/大道克己の章その4

 見上げる程の巨体をもつトリロバイトドーパントがエターナルに目掛け、エターナルの存在全てを粉砕せんといわんばかりの勢いで頭から突っ込んでくる。大型トラックを上回る体からは想像できないような速さで複数の足を動かし、それが驚異的なスピードを生み出す。

 自らの体を武器にしての攻撃。しかし、エターナルの姿に怯えも動揺もなく一分も無駄のない構えを取り、それを迎え撃つ。

 巨大トリロバイトドーパントの頭部がエターナルに接触するかしないかの瞬間、エターナルの体が一瞬霞む程の速さのサイドステップで回避、そのまま相手の速さを利用し、頭部の側面にエターナルエッジを突き立てる。ガガガガという凄まじい音と火花を散らし、頭部から胴体まで、一気にエターナルエッジで斬りつけた。しかし、エターナルエッジから伝わってくる感触にエターナルは短く舌打ちする。巨大トリロバイトドーパントの甲殻を斬りつけたが、返ってきたのは甲殻の表面を浅く削った程度の手応えしかなかったからだ。

 エターナルエッジの切れ味を持ってしても、巨大トリロバイトドーパントの甲殻に刃を突き立てることは出来なかった。

 突進をかわされた巨大トリロバイトドーパントは、そのままの勢いのまま壁に向かって一直線に駆け抜けていく。

 誰もがそのまま壁に衝突し、壁に大穴を開けるものだと思っていたが、ここで予想外のことが起きた。

 壁が迫ってきたとき、巨大トリロバイトドーパントは上半身を一気に持ち上げ壁にいくつもの足を突き立て、勢いを殺さぬまま壁を垂直に駆け昇る。

 

「なっ!?」

 

 巨体に似合わない器用な動きにミュージアムの誰かが驚きの声を挙げる。しかし、それを誰も咎めない。巨大トリロバイトドーパントが地面と変わらない速さで壁を這う姿は余りに衝撃的で、他のメンバーも声を出さないだけで、その心中は驚愕に染まっていた。

 壁に張り付く巨大な三葉虫の姿、まともな神経の持ち主ならばそれに生理的な嫌悪感を覚えるだろう。身体中に鳥肌を立ててもおかしくない光景であった。

 壁に張り付いた巨大トリロバイトドーパントは、ある程度の高さまで昇ると、巨体の上半分の足を壁から放し、後ろに反らせる。

 上下逆さまの状態の巨大トリロバイトドーパントの複眼がエターナルを見る。

 

「ギアアアアアア!!」

 

 巨体を震わせ、建物全体が揺れる程の音量で鳴き声をあげる巨大トリロバイトドーパント。巨大化前はまだ人間の声であったが、今のトリロバイトドーパントの鳴き声は、生物の鳴き声にガラスを引っ掻いた音を足したような、酷く不快感を与えるものであった。

 鳴き声が終わると今度は、エターナルに向けて巨大光弾を吐き出す。すでに光弾の速さを放たれるタイミングを覚えたのか、エターナルは光弾が放たれときには移動しており、さっきまでいた場所から数歩先に立っていた。だが巨大トリロバイトドーパントは、すぐにエターナルのいる位置に目掛け、次の光弾を吐き出す。それも避けるエターナルであったが、別の位置に移動した次の瞬間には、また新たな光弾がエターナルに迫っていた。

 再び光弾を回避するが、今度は立ち止まらずに、巨大トリロバイトドーパントに向かって駆け出す。

 遠距離用の攻撃を回避し続け、チャンスを狙うことよりも、あえて危険を覚悟して巨大トリロバイトドーパントの懐に潜り込むことを選んだのである。

 しかし、巨大トリロバイトドーパントも相手の狙いがわかったのか、それともただの本能に従った行動なのかはわからないが、上体を仰け反らせたまま壁に張り付いた下半分の足が高速で動き、壁を平行に移動し始めた。

 下半分の足だけにもかかわらず、その速度はエターナルの走るスピードを上回っており、エターナルは巨大トリロバイトドーパントとの距離を縮めることが出来ない。

 壁を砕きながら走る巨大トリロバイトドーパント、距離がある程度空いたならば、直ぐ様仰け反らせた状態の上半分の口から光弾を吐き出し続ける。前後左右へ素早く移動することが出来るエターナルの能力と克己自身が持つ高い身体能力によって、光弾は直撃することはなかったが、エターナル自身の攻撃も届かせることが出来ず膠着状態となっていた。

 何発目かの光弾を回避したときに、エターナルの視界にあるものが映る。

 それは、今や完全に傍観者となっていたマンモスドーパントたちの姿であった。

 その姿を見たときに、エターナルは何かを思いつき、仮面の下で口の端を吊り上げ、誰にもわからない冷たい笑みを浮かべる。

 巨大トリロバイトドーパントの光弾を回避したと同時に巨大トリロバイトドーパントに背を向け、一気に駆け出すエターナル。目指す先にあるのは、マンモスドーパントたち。

 

 

 ◇

 

 

 巨体からは想像も出来ない程の速度で動き、絶えず攻撃を繰り出し続ける巨大トリロバイトドーパント。そのトリロバイトドーパントの攻撃を回避し続け、いまだに無傷の状態であるエターナル。文字通り人外同士の戦いに、マンモスドーパントたちは手を出すことが出来ず、ただ見ていることだけしか出来なかった。

 エターナルは勿論のことだが、仲間だった筈のトリロバイトドーパントに恐怖の感情を覚えてしまったからだ。自分たちの目の前で仲間であった筈のアンモナイトドーパントを同じく仲間であったトリロバイトドーパントが貪り喰う。マンモスドーパントたちの精神に多大な衝撃を与えるには十分過ぎる程の光景であった。

 恐怖と圧倒的な実力差によって動けないのは、マスカレードドーパントたちだけではなく、一見平静を保っているマンモスドーパントも同じであり、心の中は焦りと混乱に満ちていた。

 マンモスドーパントは今の状況を必死になって冷静を装いながら考える。敵であるエターナルは、今巨大トリロバイトドーパントの相手に集中しており、今なら不意討ちを成功させる可能性が高い。しかし、今戦っている巨大トリロバイトドーパントもほとんど敵のような状態となっている。

 今、手を出せば必ずどちらかの攻撃をされる可能性が高く、最悪の場合両方を敵に回してしまう可能性もある。

 下手に手を出したならば火傷ではすまない、それこそアンモナイトドーパントの二の舞になってしまう。

 マンモスドーパントの選択肢の中に逃走という言葉が浮かぶ、だがここで逃げたのならば、ミュージアムの中でのマンモスドーパントの地位は確実に落ちる。

 今まで築き上げてきたものを自らの手で壊す。ある意味では死を選ぶよりも困難な選択である。

 煮え切らないマンモスドーパントの思考。それを笑うかのように現状は悪化していく。

 エターナルが巨大トリロバイトドーパントの攻撃を回避すると、自分たちに向かって走り始めた。そうそう簡単には、自分の思惑通りにはいかないことは百も承知であるが、いかにして自分にとって有利な状況へと持ち込むか、エターナルがこちらに向かってくる短い時間の間、焦燥にかられながら必死になって頭を働かせる。

 それと同時に、エターナルが自分から離れていっているのに気付いた巨大トリロバイトドーパントは、後ろに反らせた上半身を更に反らせ、二つ折りのような状態になると一気に上半身を戻し壁に叩きつける。

 建物全体が揺れる程の衝撃が走ると同時に壁に叩きつけた反動の勢いで巨大トリロバイトドーパントの巨体が、壁に当たったスーパーボールのように飛ぶ。その大きな体を球体のように丸め、自らの体を武器にしてエターナルを狙う。マンモスドーパントたちに向かってくるエターナル、更にそのエターナルに向かってくる巨大トリロバイトドーパント。

 マスカレードドーパントたちは慌てて逃げようとするが間に合わない。そしてマンモスドーパントは、二つのうちどちらかに決断をしなくてはならない。しかし、その猶予は最早残ってはいなかった。

 

 

 ◇

 

 

 巨大な塊が地に衝突するとともに、地面が一気に捲り上がる。地面を覆うコンクリートは粉砕され、その下にある土砂が噴出する。

 エターナルに狙いを定めた巨大トリロバイトドーパントの体ごと使った一撃により残り少ないマスカレードドーパントも巻き添えをくらう。着弾のすぐ近くにいたマスカレードドーパントは、トリロバイトドーパントの体から生まれた衝撃に体全てが吹き飛び、自らが死んだことに気付かぬまま塵と化し、それよりも離れた位置に立っていたマスカレードドーパントもその余波によって、突風の中を舞う木の葉のように飛ばされ壁に激突、そのまま息絶えた。

 巨大トリロバイトドーパントがいる場所からちょうど真正面にあたる位置にマンモスドーパントが仰向けに倒れている。頭の先から爪先までピクリとも動かずまるで死体のような姿でそこにいた。

 土煙がまだ舞い続ける中、球体の状態から戻った巨大トリロバイトドーパントの複眼が有るものを捉える。

 それは、エターナルが身に付けていた黒のローブ。ローブ越しから見て分かる凹凸、それは人一人がローブの下にいることを証明していた。

 そのローブに近寄っていく巨大トリロバイトドーパント。巨大トリロバイトドーパントがすぐ側まで来たとき、ローブが僅かに動き、ローブの端から震える指先が現れた。

 それを見た瞬間、巨大トリロバイトドーパントの上半身が大きく持ち上げられ弓なりの状態となると、戻す勢いのまま大槌のように振るった頭部をローブの上越しにエターナルへと叩きつけた。

 建物全体が震えたかのような錯覚を覚える程の揺れ、例え耳を塞いだとしても脳髄を揺さぶるのではないかと思える程の破砕音、巨大トリロバイトドーパントの渾身の一撃は事情を知らない人間が建物の近くを通ったならば一種の天災が起こったと思わせる威力であった。

 降り下ろした頭部を持ち上げる巨大トリロバイトドーパント。持ち上げた下にあるのは凹凸が無くなり、巨大トリロバイトドーパントの頭部によって無理やり平面にされたエターナルのローブがあった。

 巨大トリロバイトドーパントの円形に並んだ牙がカシャカシャと音をたてる、それはまるで笑っているかのような光景であった。

 

「どうした? 随分楽しそうだな」

 

 歓喜を凍てつかせるかのように巨大トリロバイトドーパントの頭上から響く声。それと同時に白い影が巨大トリロバイトドーパントの頭の上に降り立つ。

 

「俺にも教えてくれないか? 何が面白かったのか」

 

 巨大トリロバイトドーパントの頭上に降り立ったのは、先程巨大トリロバイトドーパントの一撃で葬られたかと思われたエターナルであった。ただ前の姿とは少し違い身に纏っていたローブは無く、全身に巻き付けてあるコンバットベルトがあらわになった姿をしていた。

 

「ああ……もしかしたら自分のお仲間を潰したのが面白かったのか? 中々、いい趣味をしているな」

 

 エターナルが巨大トリロバイトドーパントから姿を隠した方法はいたって単純な方法である。背を向けて、マンモスドーパントたちに向かったあと、エターナルが巨大トリロバイトドーパントの全身を使った体当たりを避けると同時に近くにいたマスカレードドーパントに飛び掛かり、死なない程度の勢いで頭を地面に叩きつけながら押し倒し、まともに動けない状態にする。その後、身に纏ったローブを被せ巨大トリロバイトドーパントの視界に入る位置に適当に放っておき、相手の視線が囮に釘付けになっているうちに相手の頭上へと飛び上がる、いたって単純な策であるが、殆ど本能で動いている巨大トリロバイトドーパントには十分な策であった。

 頭の上に飛び乗ったエターナルを必死になって振り払おうと、巨大トリロバイトドーパントは頭部を左右に大きく振るう。

 

「おっと」

 

 しかし、巨大トリロバイトドーパントの抵抗をエターナルは巨大トリロバイトドーパントの頭部に生えた触覚を片手で掴み、落とされないようにする。

 それでも巨大トリロバイトドーパントは動くのを止めない。必死になってエターナルを振り払おうとする。

 

「やれやれ、大人しくしてくれよ」

 

 余った片方の手に握られたエターナルエッジが光を反射し、銀色に輝く。

 

「なあ?」

 

 頭部と胴体の中心、繋ぎ目に位置する甲殻と甲殻の僅かな隙間の部分にエターナルエッジの刃が滑り込む。刃が深々と入ると共に黄土色の体液が噴出する。

 

「ギアアアアアアアア!」

 

 巨大トリロバイトドーパントの苦痛に満ちた絶叫が響く。巨大な体を激しく震わせ、痛みを生み出す原因となったエターナルを必死になって振り落とそうとするが、しっかりと触角を掴んだエターナルの手は離れず、また柄元まで巨大トリロバイトドーパントの体内に突き刺さったエターナルエッジも抜けず、巨大トリロバイトドーパントが身を捻らせる度に更に傷を深く抉っていく。

 

「フン!」

 

 激しい抵抗の中でもエターナルは、突き刺したエターナルエッジを引き抜くともう一度同じ場所にと突き刺す。

 再度上がる巨大トリロバイトドーパントの絶叫。その中には、痛みによる苦痛だけではなくもっと切実な感情、いわゆる恐怖の色が混じっていた。一度はエターナルに再起不能寸前にまで追い詰められたトリロバイトドーパント、そのときの記憶が今甦り始めているのかも知れない。

 

「さて、もう暴れ続けるのも疲れただろ?」

 

 エターナルが突き刺さったエターナルエッジの柄を一気に捻る。粘着質な音が鳴り、巨大トリロバイトドーパントの体液がより一層強く噴き出す。

 その傷を抉られる行為に巨大トリロバイトドーパントは絶叫を上げ、背を大きく仰け反らせ、一瞬動きが止まる。

 

「ゆっくりと休め」

 

 柄から手を放し、大きく振りかぶると手の五指を軽く曲げる。

 

「永遠にな」

 

 引き絞られた弓の弦が矢を放つように、腕に溜め込まれた力が一気に放出、白い影の軌跡を描く。

 振り下ろされた位置にあるのは突き刺さったエターナルエッジの柄、その柄頭に掌底が叩き込まれる。その一撃によってエターナルエッジ全体が巨大トリロバイトドーパントの中に侵入する。

 肉を裂き、体液を掻き分け、その先にあるものを断ち切ったとき巨大トリロバイトドーパントの体が一瞬震えた。

 巨大トリロバイトドーパントの絶叫はもう建物の中で響くことはなかった。

 

 

 ◇

 

 

「う……うああ……」

 

 体中を走る鈍い痛みとともにマンモスドーパントは気絶から目を覚ます。強い衝撃を頭にも受けたので、いまだ覚醒仕切っていない頭を軽く振りながら立ち上がった。

 どこか腑抜けたような様子で周りに目を向けるマンモスドーパント。もうマスカレードドーパントたちの姿はない。

 気絶する前とは違い、静か過ぎる建物に不安を感じながら目線を動かしたとき、ソイツはいた。

 気絶前とは違って身に纏ったローブは無く、白い背中をマンモスドーパントに向けて立つエターナル。 そして、その足元でうつ伏せになって倒れている黒いスーツの男。

 マンモスドーパントの心臓が跳ね上がる。その黒いスーツの男には嫌という程に見覚えがあるからだ。

 マンモスドーパントの部下にしてトリロバイトメモリの力に呑まれ暴走していた筈だった男。

 

「お目覚めか?」

 

 エターナルが背後のマンモスドーパントに気付いたのか最初から分かっていたのかは分からないが、マンモスドーパントがトリロバイトドーパントだった男を見つけたと同時に声をかける。

 振り返るエターナル、その手の中には何かが握られていた。

 

「そ、それは……!」

 

 エターナルの手の中に握られているモノに気付きマンモスドーパントは動揺の声を上げる。それはトリロバイトドーパントが使っていたガイアメモリだった。

 ドーパントと同化したガイアメモリを強制的に体内から排出する方法は限られている。一つは『マキシマドライヴ』と呼ばれるガイアメモリの力を倍以上に引き出し、その威力を相手に叩きつける方法であるが、これは仮面ライダーと呼ばれる人物たちしか使えない。またこの攻撃を受けるとガイアメモリは破壊されてしまう。エターナルは原型を保った状態のガイアメモリを持っているのでこの方法を行ってはいない。ドーパントからガイアメモリを取り出すもう一つの方法、それは使用者が死亡した場合である。

 ガイアメモリは基本的には、使用する前に使用者の体に使用するガイアメモリの登録を行うコネクター処置がある。これにより使用するガイアメモリは専用のコネクター以外では使用出来なくなる。

 そのため、万が一使用者が死んだ場合自動的に登録は解除され、また新しい使用者が使えるようするシステムが組み込まれている。

 故にエターナルの手に握られたトリロバイトのガイアメモリは、エターナルの足元で倒れている男がどうなっているのかを示す答えとなっていた。パキリという音が鳴り、エターナルの手に握られたガイアメモリが砕かれ、手からガイアメモリの残骸が溢れ落ちる。

 

「く……くそ……」

 

 エターナルがマンモスドーパントに向かって一歩一歩近寄ってくる。マンモスドーパントは呻くように言葉を洩らしながら、エターナルへ対する恐怖を無理矢理心の奥底に押さえつけ身構える。

 

「そんなに必死になって構えるなよ。今、お前が俺にびびっているのが透けて見えるぞ」

 

 構えるマンモスドーパントに嘲笑を混ぜたエターナルの言葉を浴びせる。

 

「だ……黙れ!」

 

「図星か?」

 

 マンモスドーパントの怒声を再度嘲笑で返すエターナル。

 

「貴様に……貴様なんぞにぃぃぃ!」

 

 咆哮のような声とともにマンモスドーパントはエターナル目掛け突進する。

 

「おおおおおおおお!」

 

 大きく振り上げた拳がエターナルの顔面に向けて放たれる。しかし──―

 

「フッ!」

 

 それが届くよりも早く、膝を軽く曲げ身を低くした姿勢のエターナルが前に踏み出す。繰り出された拳はエターナルの頭上を通過して回避される。パンチを避けられたことにより、前のめりの体勢になったマンモスドーパントの鳩尾にエターナルの膝が突き刺さる。

 

「ッ!?」

 

 マンモスドーパントの体が折れ曲がり、声無き悲鳴と肺の中の酸素が吐き出させられる。しかし、エターナルの攻撃は止まらない。直ぐ様、下から突き上げる掌底がマンモスドーパントの顎を跳ね上げ、無理矢理姿勢を真っ直ぐにさせると、脇腹にエターナルのミドルキックが叩き込まれる。肉が潰れるような鈍い音、マンモスドーパントは激しい痛みの中、反射的に蹴られた場所に手を当ててしまう。

 それすらもエターナルは許さないのか脇腹に手を当てた方の肩に手刀を叩きつける。エターナルの手刀によって湿り気を帯びた破砕音のあとに脇腹に当てていた手が力なく垂れ下がる。

 

「うぐあああ!」

 

 苦鳴を上げるマンモスドーパント。だがエターナルは一切の迷いも無く先程蹴りを当てた脇腹にエターナルエッジを突き刺し、そこから肩にかけて斜めに切り上げた。

 

「う……あああ……」

 

 立て続けの攻撃にマンモスドーパントの足は力を失い、その場に正座のような形で座りこんでしまう。

 エターナルが左手を握り締めると、描かれた青い炎の紋様が具現化したかのように燃え立つような蒼炎と酷似した力が生み出され、エターナルはそれを左拳に纏わせたまま、座り込むマンモスドーパントの顔面に放った。

 砕け散る残りの牙と血の軌跡を描きながら、マンモスドーパントの体が宙を舞う。

 

「それじゃあ、これで幕引きとするか」

 

 エターナルはロストドライバーのスロットに差し込まれたエターナルメモリを引き抜くと、エターナルエッジに設置されたもう一つのスロットに差し込み、指先でスロットのスイッチを起動。

 

『ETERNAL MAXIMAM DRIVE』

 

「さあ、地獄を楽しみな」

 

 エターナルメモリが生み出す全てのガイアメモリを支配する力が、エターナルエッジを通じてエターナルへと流れ込む。

 流れ込んできた力を純粋な破壊の力へと変換し、エターナルの右足へと収束されていく。と同時にエターナルは飛び上がり、マンモスドーパントを穿つ凶器へとその身を変える。

 宙を舞うマンモスドーパントが放たれたソレ回避出来る筈もなく、マキシマムドライヴによって生まれた力の余波が青の螺旋を創り出し、捻じり込むよう突き刺さるエターナルの右足に込められたエターナルメモリの力がマンモスドーパントを襲ったとき、建物の内部全体を照らす青の閃光が走った。

 

 

 ◇

 

 

「う……う……」

 

 先程までマンモスドーパントだった男は呻き声を上げながら倒れている。その顔は病人のように青ざめ、目の下には重度の不眠症患者のような隈が出来ていた。

 男のすぐ側には男が使用していたガイアメモリが砕けて残骸となって落ちていた。

 

「さてと」

 

 呻く男の状態を無視し、男の首を掴みそのまま持ち上げる克己。既にエターナルの変身は解かれ、元の大道克己の姿となっていた。

 

「こいつの慣らし運転には丁度いい手応えだったな、お前たちは」

 

 そう男に笑いかけながらも徐々に首を締め上げていく克己。男も力無い手で克己の手を離そうと試みるが全く成果は無い。血走った目を克己に向けながら口をパクパクと動かす。

 

「ぐ……ごがが……!」

 

「何だ? 何か言いたそうだな。聞いてやる、言って見ろ」

 

 男の首を締め上げていた手の力を緩め、男の言葉に耳を傾ける克己。

 

「じ……地獄に……地獄に堕ちろ……!」

 

 ありったけの恨みと呪いを込めた男の言葉。それを聞いた克己は──―

 

「く……くくく……は、あっははははははははははははははは!」

 

 心底面白くて仕方ないと感じさせるほど笑った。建物に響くほど大きく笑い続ける。それに比例するかのように男の首を締める手に再び力が込められていく。

 

「ぐあ……あああ……」

 

「ははは、くくく……俺に地獄に堕ちろか……生憎だが」

 

 克己は見下すように男を見た。その表情に冷たい笑みを貼り付けたまま。

 

「そんなものとっくの昔に堕ちているさ」

 

 その言葉の後に克己は腕に一気に力を込める。首を締められた男の眼から光が消え、腕は垂れ下がる命が消えるとともに男の体から全ての力を抜けていった。

 男が絶命したと分かると克己は手を放す。男はその場に倒れるのを見ると、その姿を鼻で笑い、もはや何の興味も無いといった様子で背を向け、建物の出口に向けて歩み始めた。

 歩いている途中、何かに気付きその場に立ち止まり、ポケットに手を伸ばすと中から手の平に収まるほどの大きさの通信機が取り出す。

 

「俺だ」

 

 通信機に耳を当てる克己。通信機の向こうから誰かが喋る。

 

「ああ、そうか成る程。構わない。そのまま接触してくれ」

 

 克己は口の端を吊り上げて笑う。

 

「ああ、奴等にもメモリ集めの手伝いをして貰おう。……ああ、大丈夫だろう。一応探偵なんていう肩書きを持っているからな。探し物は得意だろ?」

 

 皮肉気に笑う克己。

 通信機の先の誰かが二、三言喋る。

 

「ああ、頼むよ。プロフェッサー・マリア」

 

 その言葉を最後に通信機を切り、ポケットに仕舞う。

 再び歩み始める克己。今の彼の歩みを止める者は誰もいない。

 大道克己は進み続ける、自らの野望(ゆめ)を成し遂げるその瞬間まで。

 

 




これにて克己編は終了です。
次の章の主役は、一躍注目を集めたあの人が主役です。

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