仮面ライダーエターナル―NEVER SIDE STORY― 作:K/K
いくつもの足音が一人の標的に向かって鳴り響く。
その距離約十五メートル、だがその標的は動かない。
殺気をたぎらせ自分たちを鼓舞するかのように猛々しい叫びを上げ標的に迫る。
その距離約十メートル、標的は未だに動く気配は無い。
もしかしたら、一斉に攻めてきたせいで相手は反撃する態勢が整っていないのでは? という楽観的な考えが脳裏に浮かぶ。
標的との距離約七メートル、標的は微動だにしない。
何故動かない、その考えが動揺と焦りを生むが、今更足を止めることは出来ない。一斉に襲いかかれば、と考えたとき。
軽い破裂音とともに仲間の一人の上半身が消失する。
「な……?」
間の抜けたような声が口から溢れる。何故ならさっきまで七メートルほど先にいた標的が目の前に立っているのだから。
「よお」
仮面ライダーエターナルによる蹂躙が今始まる。
◇
先程までの克己の拳の一撃が銃弾だとしたら、エターナルの放つ拳の一撃は爆弾のような威力を秘めていた。エターナルの拳を受け、吹き飛んだマスカレードドーパントの上半身が数メートル離れた場所に落下した。
唖然としているもう一人のマスカレードドーパントに向けエターナルは薙ぐ様な中段蹴りを放つ。白い軌跡が弧を描きマスカレードドーパントの胴体に吸い込まれるように当たると、マスカレードドーパントの体は一気に変形する。くの字を通り越して頭と足が接触するのではないかと思う程に二つ折りになり、ちょうど平仮名の「つ」という字と似たような形になったまま塵となっていった。
エターナルは二体のマスカレードドーパントを葬ると直ぐ様、次の標的を決めすかさず行動に移る。
地面を蹴ると同時に数メートル離れた距離を一瞬にして零にし、雷の如き早さで繰り出された右肘がマスカレードドーパントの顔面の中央に突き刺さった。顔の中心は陥没し、受けた攻撃の勢いのまま体全体がその場で一回転し、顔面から地面へと勢いを殺さぬまま叩きつけられて塵とかした。
再び狙いをつけ動こうとしたとき、エターナルは後方から迫る気配に咄嗟に左腕をつきだす。
鈍い音とともに衝撃がエターナルの左腕全体に広がる。
「そこまでにしてもらおうか!」
背後から攻撃を放ったのは、トリロバイトドーパントであった。トリロバイトドーパントは、頭を軽く振りそれを合図にマスカレードドーパントたちを後ろに下がっていく。
光沢を放つ黒茶色の鎧のような甲殻を身体中に張り巡らせ、両腕は盾のように幅広い甲殻を纏っている。盾のような甲殻が付いた左腕はエターナルの左腕と交差し力の押し合いを行っていた。
「フッ!」
短く息を吐くと同時に直ぐ様体を反転させ、そのままの勢いで右足の回し蹴りを放つエターナル。
避ける暇すらなくトリロバイトドーパントの脇腹に命中。金属に金属を叩きつけるような音が響くが、攻撃を受けたトリロバイトドーパントは微動だにせず、すかさず先程までぶつかり合っていたエターナルの左腕を掴み取る。
「むず痒いな」
マスカレードドーパントの胴体を一撃で粉砕する威力を秘めたエターナルの蹴りを受け、笑いすら溢す余裕を見せるトリロバイトドーパント。
左腕を掴まれたエターナルであったが、すかさず右拳が白い閃光となってトリロバイトドーパントの胸に突き刺さると金属音が数回鳴り響く。
一瞬の間に数発の拳を叩き込まれたが、蹴りのときと同様にトリロバイトドーパントからダメージを受けた気配は無い。エターナルの腕を掴む力は緩むことは無かった。
トリロバイトドーパントの口周辺に円形に並んだ歯牙状の器官が開く、何かを仕掛けてくる前にエターナルは動く。身に纏ったローブの端を掴み、それをエターナルとトリロバイトドーパントの前に翳した。
次の瞬間、開いた牙の奥から光が溢れ、トリロバイトドーパントの口から光弾が放たれた。
ほとんど距離の無い位置から放たれたバスケットボール程の大きさの光弾、エターナルの前に翳されたローブに接触すると爆音とともに白煙が巻き起こる。
「おお!」
アンモナイトドーパントが歓声を上げる。並のドーパントでも致命傷を免れることは出来ない距離で放たれた攻撃。そのままトリロバイトドーパントに近寄ろうとし──―
「来るな!」
──―トリロバイトドーパントからの怒声に足を止めてしまった。
「まだだ……まだこいつは……!」
白煙が徐々に薄れていくなか、トリロバイトドーパントは見た。白煙の中で弱まることなく爛々と輝く黄色の妖眼を。
再びトリロバイトドーパントの口の奥が光を放ち始めるが、それよりも早くエターナルの右の掌底がトリロバイトドーパントの顎を打ち上げる。
「がっ!」
思わず口から苦鳴を洩らす、後頭部を覆う甲殻と背中に生やした甲殻が激しくぶつかり合う。頑強な甲殻の下にあるトリロバイトドーパントの首を支える骨が軋み、衝撃が頭の内部まで響く程の威力を秘めていた。
激しく脳を揺さぶられ、その結果、エターナルの左腕を掴んでいた力が僅かに弛む。その隙をエターナルは見逃さず、トリロバイトドーパントの首にエターナルの上段蹴りが叩き込まれる。
先程までのダメージが残っているうちに更なる追撃を喰らわされ、たまらずエターナルを掴んでいた手を放してしまう。
左腕の自由を取り戻し、ダメージを抜けきれていないトリロバイトドーパントに追い討ちをかけようとしたとき──―
「むっ!」
今度は右腕に何かが絡みつき、強い力で引き寄せる。エターナルの視線に映ったのは、子供の腕くらいの太さを持った何本もの白い触手。その先には、それを伸ばすアンモナイトドーパントの姿があった。
「はあああ!」
雄叫びとともにアンモナイトドーパントが触手を振り回す。それに合わせてエターナルの体が宙を舞う。
ハンマー投げのように体を回転させ、勢いをつけたままエターナルの体を壁目掛けて放り投げる。
壁目掛け、矢のような早さで飛んでいくエターナル。背中から壁に衝突するかと思われた瞬間。
「ハッ!」
咄嗟に体を縦に回転させ、両足で壁に着地。そのまま何事も無かったかのように地に降り立つ。
「まだだ!」
アンモナイトドーパントとトリロバイトドーパントがともに並び立つ。口の周りに生やした触手が広がり、奥にある口から、巨大な水の塊が砲弾のように発射、それに合わせてトリロバイトドーパントが光弾を放つ。
エターナルに向けて放たれた攻撃。しかし、エターナルから逃げる素振り微塵も感じない。
迫る水弾と光弾。
エターナルは直撃する直前、体ごと身に着けたローブを振るった。
振るわれたローブに着弾すると、その流れと同調するかのように、二つの攻撃は軌道を逸らされ、地面を破壊し消失した。あまりに呆気なく自分たちの攻撃を無力化されたことに思わず呆然とする二人。そんな二人と同じように周囲も静まりかえる。
「一人だろうが、二人だろうが何人だろうが関係ない」
そんな連中を見たエターナルの確信に満ちた言葉。
「メモリの格が違う」
沈黙の中、その声はよく響く。
「呆けている場合か!」
怒声とともに、何本もの鉄骨がエターナル目掛け、目にも止まらぬ早さで迫るが、エターナルはその場で跳躍し、それを避ける。
目標を見失った鉄骨は、壁に勢いよく突き刺さり、その衝撃で建物全体が揺れ、天井から埃が落ちてくる。
「ハッ! 威勢がいいな」
「ほざけ、死に損ないが」
突き刺さった鉄骨の上に音も無く着地するエターナル、それに強烈な敵意の視線を向けるマンモスドーパント。二人の間で見えざる火花が衝突し、闘争の炎を燃やす。
「お前ら、相手に恐れを感じている場合か!」
マンモスドーパントは視線を向けずに声だけを周りにいるドーパントたちに向ける。
「ミュージアムの一員として逃げることは許されん! 死んでも逃げるな! 死ぬなら相手に一矢報いてから死ね!」
叱咤するマンモスドーパントの言葉。思い遣りも情けも何も無い言葉。
『う……う……おおおおお!』
しかし、ミュージアムという組織に所属している人間を動かし、奮い立たせるには十分な威力であった。
マンモス、トリロバイト、アンモナイトの三体のドーパントに残りのマスカレードドーパントたちが今まで以上の覇気を持ってエターナルに向かっていく。
「命を懸けて……か」
迫るドーパントたちに向けて、嘲笑とも感心とも取れるような正と負の二つの感情が入り交じった言葉をエターナルが呟く。
「なら、お前たちの命がどれ程の見せて貰おうか」
ヒュンヒュンと空気を切り裂く音とともにローブの下から鈍色の光を放つ一振りのナイフが右手の中で回されながら取り出される。暖かな日の光を反射するだけで冷たい光へと変えてしまう鈍色の刀身、やや弧を描いた柄、その柄元にはベルトと同様にメモリを差し込むためのスロットが設けられている。
「来い」
エターナルの専用武器、エターナルエッジを突き付け静かに言葉を放った。
少し離れた位置でマスカレードドーパントたちは一斉に拳銃を取り出し構える。
先程、自分たちの拳銃よりも遥かに強力な攻撃を防いだエターナルには意味の無い行為である。しかし、マスカレードドーパントたちは構わず引き金を引いた。
一斉に鳴り響く銃声。しかし、エターナルは自らに降り注ぐ銃弾の雨の中を疾走する。
いくつもの弾丸がエターナルのローブに命中する度に力をローブに吸い取られたかのように勢いを殺され地面へと落下。
いくつも弾丸が鈍く輝くエターナルエッジが軌跡を描く度に分割され、無力化されていった。
走るエターナルの刃がマスカレードドーパントたちに届く距離まで来たとき、突然エターナルは後方へと飛ぶ。
一秒も満たない間の後に、高々と飛び上がっていたマンモスドーパントの太い鞭のような鼻が地面へと叩きつけられた。
地面を覆う周囲一帯のコンクリートに蜘蛛の巣状のヒビが入り、振り下ろされた鼻も地面深くに潜り込んでいる。
「おおおお!」
マンモスドーパントが雄叫びを上げるやいなや、地面にめり込んでいた鼻を引き抜くのではなく、周りのコンクリートごとそのまま持ち上げられる。
幅が二メートル以上、厚みも数十センチ以上あるコンクリートの塊をエターナル目掛け投げ飛ばす。
エターナルと同じくらいの大きさの物体が、常人では反応出来ない早さでエターナルに迫る。
しかし、エターナルの右手が霞み、銀の光が一瞬煌めく。と同時に目の前の巨大な塊に縦の線が走る。
当たる直前、コンクリートの塊は二つに分断されて、エターナルを避けるようにして、壁に直撃し大穴をあけた。
瞬時にコンクリートの塊を両断したエターナル、しかし休む暇無く、エターナルの顔面目掛け何かが飛来する。
反射的に左手の甲でそれを払う。軽い衝撃が走るが、ダメージという程の破壊力はない。ただし、あくまでエターナルにとってはと付け加える必要があるが。
払った左手を見ると、微かに濡れている。
この攻撃を行った者が誰だか容易に想像でき、それに視線を向けたとき、先程の小さな水弾が数百の礫となってエターナルに迫っていた。
攻撃を行っているのはアンモナイトドーパント。口から水の礫を絶えず吐き続ける。最初にエターナルに放った水弾がバズーカだとすれば今の攻撃は機関銃のような攻撃である威力は落ちるが、その分を圧倒的な連射力でカバーしている。
「チッ」
舌打ちをするとともに、エターナルは身に纏ったローブを掴み、盾のようにして自分の前に翳す。
水弾の一発一発の威力は低いが、決して無視できるような威力ではない。
確実に防ぐ為にローブを使用することを選択した。
無数の水の礫が、ローブに当たり、そのまま飛散して唯の水へと戻っていく、エターナルのローブが全ての水弾を弾き飛ばしたとき、構えを解く。
構えを解いたエターナルの眼に写ったのは、視界一杯に迫るトリロバイトドーパントの拳。
マンモス、アンモナイト、マスカレードの攻撃全てはこれに繋ぐ為の牽制であった。
唸る拳がエターナルの顔面を捉える直前、パシンという乾いた音とともにトリロバイトドーパントの拳の軌道が逸れる。
見れば、エターナルの左手の甲がトリロバイトドーパントの腕にあてられており、それによってトリロバイトドーパントの拳の軌道を無理矢理変えさせられたのである。
攻撃が外れると同時に、エターナルの左手がトリロバイトドーパントの腕を掴み、素早く背後に回り込むと、そのままトリロバイトドーパントの腕を鉤状に曲げ、背中に押し付けて関節を極める。
「ガアアアア!」
曲げられない方向に力尽くで関節を曲げられているトリロバイトドーパントは苦鳴を上げ、拘束から逃げ出そうとするが、両膝の裏を蹴りつけられると、ガクンと膝から力が抜け、地面に跪いてしまい、そのままの体勢で無理矢理マンモスドーパントたちのいる方向へと体を向けさせられる。
「放せ……! 放せ……!」
なおも必死になって自由な方の腕で抵抗するトリロバイトドーパント、しかし──―
「まあ、落ち着けよ」
エターナルの言葉の後に、右手に持ったエターナルエッジがヒュンヒュンという音を鳴らし、逆手に持ち替えられる。
「何だ! 何をするつもりだ!」
本能的に危険を感じたのか、焦りを帯びたトリロバイトドーパントの声。
「なあに、大したことじゃない。……ただお前に地獄を楽しませてやるだけさ」
振り下ろしたエターナルエッジの刃が、トリロバイトドーパントの腕の甲殻と肩の甲殻を繋ぐ僅かな隙間に潜り込み、外の甲殻よりも遥かに柔らかい肉を切り裂き、骨を抉る。
「アアアアアアアアアアア!!」
絶叫。
恥の外聞も無い心の底からの絶叫。
肺の中にある酸素を全て声に変えても足らないほどトリロバイトドーパントは叫ぶ。
そんな、トリロバイトドーパントの悲鳴を無視するかのように、今度はトリロバイトドーパントの腕の関節を極めている左手に力が籠る。
ミシミシと自らの内部に響く音にトリロバイトドーパントは恐怖し、許しを請う声を上げる
「やめろ! やめてくれぇぇぇ!」
関節の可動域を越えたとき、ゴキリという生々しい音とともにトリロバイトドーパントの腕の関節は完全に破壊された。
エターナルがそのままエターナルエッジを抜き、手を放すと、そのまま前のめりに力なく倒れる。うつ伏せの状態で小刻みに痙攣を続けたままで、起きる気配はなかった。
「次は誰がこうなりたい?」
マンモスドーパントたちに向かって、エターナルは嘲笑った。