仮面ライダーエターナル―NEVER SIDE STORY― 作:K/K
ルナドーパントの鞭のようにしなる腕が、ヒートドーパントの無防備な背中を引き裂こうと勢いよく振り下ろされる。しかし――
「バレバレだよ」
ヒートドーパントが一言、それと同じタイミングで、軽く上げた右足を水の張られた地面に踏み降ろした。
その瞬間起こったのは強烈な水蒸気の発生。むせ返るような潮の香りと高熱を含んだ水蒸気は爆発したかのように一気に拡散し、ルナドーパントへと襲いかかる。
ルナドーパントは両腕を顔の前に交差して熱に耐えようとするが、それでも持ちこたえることが出来ず、たまらず水蒸気の熱が届かない場所まで退避した。
水蒸気の爆発は、ルナドーパントを後退させるだけではなく、周りに立ち込めていた煙幕も一気に吹き飛ばし、視界を正常に戻した。
「あーあ、道理で静かなわけだ」
納得といった様子で呟くヒートドーパント、その視線の先にあるのは二メートル程の高さの水柱。その水柱の中で、先程ヒートドーパントのすぐ近くにいた筈のルナドーパントが手をばたつかせ、水泡を出しながらもがいていた。
「ゴボ! ゴボボボ! ゴボボボボボ!」
ヒートドーパントと目が合うと助けてくれと言わんばかりに水泡を更に激しく出す。
「分かったよ」
ヒートドーパントの掲げた指先に火が灯ると、瞬時に数十センチ台の大きさの火球となった。そして、ヒートドーパントはそれを躊躇いなくルナドーパントを捕らえている水柱に放った。
水柱と火球が接触した瞬間、鼓膜を激しく震わす轟音とともに白い蒸気が大量に発生。
「い、やーん!」
ルナドーパントの悲鳴が聞こえたと思えば、蒸気の中から飛び出して、そのまま顔面から地面へと突っ込んで倒れ伏せた。
「痛い!」
「まあ、本物が出てきたわけだし、そろそろ正体でも見せたら」
倒れ伏せたルナドーパントは無視し、少し離れた場所にいるもう一人のルナドーパントにヒートドーパントは喋りかける。
「何? 何! イヤだ、わたしがもう一人いる!」
ガバッ、と地面に倒れ伏せていたルナドーパントが上体を起こし、もう一人のルナドーパントの姿に驚愕する。
「誰、誰なの! どう見てもわたしだけど、どう見てもわたしだけど! でも一体誰なの! 誰? と言っても見た目は完全にわたしだけど! 一応、誰ヘボ!」
勢いよく捲し立てるルナドーパントの様子に話が進まないと判断したのか、ヒートドーパントがルナドーパントの後頭部を踏みつけ、海水の張った地面へと顔を無理矢理押し付けて強制的に黙らせた。
「姿は完全に再現したはずたが、どこか落ち度があったか……」
もう一人のルナドーパントが声を出すと、それを合図にルナドーパントの全身が波打つかのように震え、金色の体色も色褪せていくかのように変化し始める。
体の震えが止まったときには体色は金から灰色へと変化し、体型もまた著しく変化していた。
筒のような頭部は大きく膨らみ、逆さにした瓢箪のような形状へと変わり、また、人間でいう顎の辺りからは腕ぐらいの太さがある吸盤のついた触手が四本生えており、長さが一メートル以上ある触手を髭のように垂らしていた。
両腕は鞭のような形から五指の揃った人間の手に近い形になったが、触手と同じく吸盤が隙間無くついていた。両脚も同じく吸盤があり、太股の付け根にまで生えている。
生物でいう蛸の姿をしたドーパントがルナドーパントの姿を捨て、二人の前に本来の姿で現れた。
「へぇ……それがアンタの姿ね……物真似しなくても結構アンタに似てるね」
踏みつけていたルナドーパントに声をかけると、ヒートドーパントの足を押し退け、再び上体を起こす。
「失礼しちゃう! 私の方が腰の周りがくびれているわ!」
喚くルナドーパントを放ってヒートドーパントは軽く肩を竦める。
「まあ、こんな一秒でも黙っていられない奴が、何も言わずに立ってるわけないでしょ?」
「成る程、確かに失敗したな」
ヒートドーパントの答えに納得がいったという様子で肩を揺らし、軽く笑う。
「やーれやれ。不意討ちなんてもんは中々成功しないもんだな……」
ヒートドーパントたちの背後から聞こえる別の男性の声。目の前にいる蛸のドーパントを警戒しつつ背後にと目を向ける。
張っていた海水が盛り上がり、二メートルぐらいの高さまで上がると水柱が弾け、中からもう一体のドーパントが現れた。
水色の半透明の体に深い青色の目、鎧を彷彿させるような装飾が施され、魚類の尾のような後頭部は束ねた髪のように後ろへ垂れ下がっている。その手には黄金の三ツ又の槍が握られ、肩に担ぐようにして持っていた。
「あらあら、そんなに簡単に姿を見せて良いの?」
いつの間にか、自分の世界から戻ってきたルナドーパントが立ち上がりながら半透明のドーパントに問う。
「はっ! 一回失敗したら二度目も上手くいかない、っていうのが俺の持論だからな、二度目の奇襲なんてしたら痛い目に合いそうなんでね」
そう言うと肩に担いでいた槍を器用に回し、ルナドーパントたちに突き出すようにして構える。
「ここからは正々堂々、正面から力押しでやらせて貰うか!」
構えた槍を地面に向けて一閃。すると斬られた海水は一気に隆起し、津波となってルナドーパントたちを呑み込まんとする勢いで覆い被さるようにして降り注いできた。
それに合わせて蛸のドーパントも行動に移る。体を震わせたかと思うと、そのまま足元の海水へと飛び込む。足首まで浸かる程の深さにも関わらず、飛び込んだ瞬間にドーパントの姿は消え、後には波紋だけが残っていた。
襲いくる海水の壁に向けてヒートドーパントの手を掲げ、そこに火球を生み出す。生み出された火球は周囲の酸素を一気に取り込み、数十センチの大きさまでになると、ヒートドーパントはそれを海水の壁目掛けて放った。
海水の壁に接触すると、水蒸気と一緒に壁を構築していた海水も弾け飛び、海水の壁を縦に引き裂いた。
相手の攻撃を防いだと思った矢先、ヒートドーパントの目は海水の壁の向こうへ見る。先程までいたドーパントの姿はそこにはいない。
何処だと周り一気に見渡すヒートドーパント。探すヒートドーパントの背後、先程引き裂かれた海水の壁から突如として黄金の槍がヒートドーパントへと突き出される。
不意討ちに気付かないヒートドーパントに対し、それを見ることの出来る位置にいたルナドーパントが咄嗟に声を出す。
「避けなさい!」
ルナドーパントの声に反応し、ヒートドーパントは殆ど直感といった様子で地面を蹴り真横へと回避する。
黄金の槍は直撃出来なかったものの、ヒートドーパントの脇腹を掠り、小さいながらもダメージを負わせた。
致命傷は避けられた、僅かに安堵するルナドーパントの足を水面から現れた四本の触手が絡めとり、地面へと引き摺り倒す。
「あふん!」
水面から浮き出てくるかのように姿を現した蛸のドーパントは、ルナドーパントの両足に絡めた触手を上に上げると、ルナドーパントの体も持ち上げられ、高々と上げた状態から勢い良く触手を降り下ろし、ルナドーパントを地面へと叩きつけ派手な水しぶきを上げさせた。
「あうん!」
苦鳴を洩らすルナドーパントをもう一度持ち上げ、再度叩きつけようとするが、そうはさせまいとルナドーパントが両腕を蛸のドーパントに向けると、両腕が矢のように宙を駆け抜け、蛸のドーパントの鳩尾にめり込み、体をくの字に曲げさせる。
「ぐっ!」
体内から息を吐き出させられ、その結果ルナドーパントを掴んでいた触手の動きが止まる。その隙に長く伸ばされたルナドーパントの腕が掴む触手を上から断つように降り下ろされた。
湿った打撃音、蛸のドーパントの掴んでいた触手は地に叩き伏せられ、ルナドーパントは両足の自由を取り戻す。拘束から解除され地面へと落ちていくルナドーパントは、手を地面へと着け勢いをつけて放し、その姿からは想像出来ない程軽々とした動作で後方へ宙返りをし、蛸のドーパントとの距離をとった。ルナドーパントが、再度その腕を鞭のように振るおうとするよりも早く、蛸のドーパントは触手を叩き伏せられたことでうつ向かせていた頭を起こし、触手の隙間からルナドーパントへ何かを吐き出した。
ルナドーパントは、咄嗟にそれを左手で弾く。パチャリと液体のこぼれたような音と共にルナドーパントの金色をした左手が黒く染まる。
それは、粘性を帯びた黒い液体――蛸のスミであった。
「イヤだ! 私、汚されちゃう!」
叫ぶルナドーパント。しかし、蛸のドーパントは容赦なくスミを吐いた。ルナドーパントは、また左手で防ごうと腕を振るおうとするが、ルナドーパントの意思に反し腕が動かない。
「あら?」
キョトンとしたような態度のルナドーパントにスミの塊は待つはずもなく、ルナドーパントを黒く染めようと迫る。
「何ボーっとしてるんだよ」
当たる直前、真横から現れた火球によりスミの塊は相殺され、跡形もなく消え去った。
ルナドーパントの隣にヒートドーパントが並び立つ。先程の攻撃で脇腹には裂傷があったが、押さえたり痛がったりするような動作は見せず、毅然とした態度をとっていた。
「あら、ありがとう。ついでにもう一つお願い出来る?」
「何?」
ルナドーパントの言葉を聞きながらヒートドーパントは蛸のドーパントへ牽制の火球を放ち続けていた。
「こーこから先、切ってくれない?」
ルナドーパントがすんなりと衝撃的な言葉を出しながら、だらりと垂れ下がった左手のスミが付着していない半ば辺りに右手を当て、鋸を引くようなジェスチャーをする。
「毒でもあった?」
特に驚く様子もなく、蛸のドーパントと姿を隠したもう一体のドーパントを警戒しながら視線僅かにルナドーパントの左手に向ける。
「スンゴイ痺れてるわぁ! もうビリビリよビッリビリ! しかもどんどん上に上がってきちゃってるし!」
早口で言葉を吐き続けるルナドーパントに、ヒートドーパントは、ふーん、と納得するとヒートドーパントの右足が赤熱し、躊躇することなくルナドーパントの左手を蹴り上げた。
高熱を帯びた脚から繰り出される蹴りは、ルナドーパントの腕を易々と焼き切り、宙へと舞い上がらせた。
「ああ! これでスッキリ!」
片腕を無くしたにもかかわらず、いつも通りの態度をとるルナドーパント。だが、ルナドーパントが軽く左手を振るうとまるで手品のように切断された筈の箇所が現れ元通りの状態になった。
「うへぇ……トカゲの尻尾もビックリだな」
呆れと驚嘆を含んだ声を出しながら、水面から半透明のドーパントが姿を見せ、蛸のドーパントの隣に立つ。
「あんたさっき一度失敗したことは二度目も上手くいかないだの、正々堂々なんて言った割には、すぐに不意打ちしてくるなんて良い度胸してるね」
「ああ、あれ? 信じちゃった? 意外とピュアだね」
ヒートドーパントの棘を含んだ言葉を小馬鹿にしたような態度で返す半透明のドーパント。その言葉でヒートドーパントの纏う熱気と殺気が濃さを増す。
「まあ、ちまちま手足を潰しても無駄みたいだし、ここは全身まるごと逝って貰おうとするかね」
半透明のドーパントが片手を水面へと浸ける。すると手首から先が水面に溶けるようにして消える。
「こいつはどうだぁ!」
片手を持ち上げた瞬間、浸かっていた水面の周囲が丸ごと持ち上げられ、人の身長よりも遥かに巨大な手が海水によって造られていた。
持ち上げられた手は、そのまま振り下ろされ、ヒートドーパントの頭上から迫り来る。
「長い戦いになりそうだね」
「もう! 早く克己ちゃんの所に行きたいのに! もう! 克己ちゃーん!」
ヒートドーパントは炎を起こし、ルナドーパントは鞭のように両腕を振るう。
隔離された空間の中、蛸のドーパント――オクトパスドーパントと半透明の姿をしたドーパント――シードーパントとの戦いはより一層の激しさを増す。
◇
ルナドーパントたちがいる場所より少し離れた所にある倉庫内でもまた二体の異形が戦いを繰り広げていた
「うおりゃああああ!」
雄叫びと共に振り下ろされたメタルドーパントの左拳が、クラブドーパントの右肩に命中。その鎧のような甲殻にヒビをいれ、拳の形が残る程に陥没させる。
しかし、クラブドーパントは声一つ漏らさず、めり込む腕を掴むと、メタルドーパントの空いた脇腹に向かってハサミを振るう。
「しゃらくせぇ!」
振るわれたハサミに向けて右肘を上から叩きこみ、直撃を防ぐ。
「おらぁ!」
「ぐっ!」
クラブドーパントの顔面に鉄槌のようにメタルドーパントの頭突きが入ると、たまらず掴んでいた手を放し、後ろに二、三歩後退してしまう。
衝撃で焦点が合わないのか、目線が定まらないクラブドーパントにメタルドーパントは一気に近づくと、右手に持った両端に直刃のついた鉤爪を肩に食い込ませると反対の脇腹にまで刃を走らせ火花を散らす。
「ちぃ!」
が、切り裂かれたクラブドーパントの体には二本の裂傷がついたものの致命傷には程遠く、メタルドーパントは不満げに舌打ちする。
反撃とばかりにクラブドーパントはハサミを振り上げ、メタルドーパントに振り下ろそうとするが、メタルドーパントは避ける素振りは見せず、逆に左手を下に引き攻撃の構えをとる。
両者ほぼ同時に攻撃を繰り出すが、一瞬早くクラブドーパントの巨大なハサミがメタルドーパントの右肩に食らいつく。倉庫内に反響する金属音、音の大きさが物語るその威力は、メタルドーパントの足元に蜘蛛の巣状のヒビを入れ、その膝をも僅かに沈ませる。
だが、その一撃を持ってしてもメタルドーパントの闘志は衰えず、逆に激しく燃え上がる。
燃え盛る感情を拳に乗せ、下から突き上げられた拳がクラブドーパントの胴体を叩き割る。
「でいああああああ!」
溢れる闘志を叫びに変えて、メタルドーパントの拳はそのまま振り抜かれた。
胴体を覆う殻の破片を撒き散らしながら地面を飛び石のように跳ねていくクラブドーパント。
第三者から見ればメタルドーパントの勝利に見える。しかし、当の本人には勝利を喜んでいるような様子はなく、何故か苛立っている様子であった。
メタルドーパントが走り出す。走る先に居るのは仰向けに倒れたクラブドーパントの姿。
しかし、クラブドーパントはすぐに上体を起こすと、その口からシャボン玉のように空中を浮遊する泡をメタルドーパントに向けて無数に吐き出した。
「くっ!」
スピードをつけて走っていたメタルドーパントは、その場で急停止すると、足元目掛け拳を突き立てた。
メタルドーパントの拳で地面を覆うコンクリートが砕ける。メタルドーパントはその砕けたコンクリートの破片を鷲掴みにし、握力で粉々にすると自分に迫る泡の群れに対し、無数の破片を撒いた。
小さくなった破片が一番手前にある泡に触れた瞬間、轟音と共に泡は爆発、爆炎と衝撃を辺りに撒き散らす。一つの爆発では留まらず、爆炎によって他の泡が割れると更に爆発、衝撃で飛ばされた泡同士が接触することで更に爆発。連鎖的に起こる爆発によってメタルドーパントは無理矢理後退させられてしまう。
メタルドーパントはすぐにクラブドーパントの姿を探すが、爆発による煙によって短時間ではあるが視界を遮られ見失ってしまった。
「くそ! 鬱陶しいことしやがって!」
戦いの中、何度か使用された為、嫌でも理解した泡の特性を知っていた上で、使った回避策であったが、直撃によるダメージは避けたものの相手を見失ったことで結局は敵の思惑通りになってしまったことに、メタルドーパントは更なる苛立ちを募らせる。煙が収まり視界が良好になると、メタルドーパントはさっきまでクラブドーパントが倒れていた場所を見る。そこにクラブドーパントの姿はなく、どこに行ったのか探そうとしたとき。
「ここですよ」
相手から声を掛けられた。声のした方向を見ると、倒れていた場所から十数メートル離れた場所にクラブドーパントが立っていたが、その姿は倒れていたときとは違う点があった。
全身が紅色をしていたはずだが、今のクラブドーパントの体色は色素が抜け落ちたかのような白く変色していた。
「またそれか……!」
苛立ちの言葉を吐き捨て舌打ちをするメタルドーパント。
「すみませんね。こういう能力なので」
しれっとした態度でクラブドーパントが返すと、おもむろに頭頂部を掴み、一気に引っ張った。
布の裂けるような音を出しながら、クラブドーパントの全身に纏う白は引き剥がされ、その下から元の紅色の姿を現す。元に戻ったのは色だけではなく、メタルドーパントの殴打によって砕かれた甲殻も傷一つ無い状態に戻っていた。
「それじゃあ続きといきますか」
傷を完全に回復させたクラブドーパントがメタルドーパント挑発な言葉を送った後に構える。
メタルドーパントの喉の奥から獣のような唸り声を出しながらクラブドーパントを睨み付けた。
戦いが始まってから、今ので四回目となるクラブドーパントの脱皮による完全回復、この能力のせいでメタルドーパントは徐々にではあるが不利な状況へと追い込まれていた。
傷一つ無いクラブドーパントに対し、メタルドーパントの体には幾つもの傷が目立っていた。ハサミによってつけられた切り傷、泡の爆発によってつけられた煤けた跡に小さいながらも抉れた箇所。傷の一つ一つは大きくはないが、このまま長期戦となればどちらが危うくなるか明白である。
どうにかしてあの能力を使用させないように何度か速攻を仕掛けてみたが、クラブドーパントは、ほんの少しでも危ういと感じるとすぐに大きく後退してメタルドーパントとの距離を取り、爆発する泡によって時間を稼ぐという行動にでる。
近距離を得意とするメタルドーパントにとって、離れた場所から攻撃出来る、メタルドーパントの攻撃に耐えられる程の防御力を持っている、自己回復能力を持つなど、かなり相性の悪い相手である。
相手を倒す決定的な術は、今のところメタルドーパントには無い。
だが、躊躇うことなくメタルドーパントは、両足に力を込めると足の裏から溜めた力を一気に放ち、クラブドーパントへと迫る。
確実な方法は無い、有効な手段も無い、ならばメタルドーパントは何をするべきか。
答えは一つしかない。
「でぃやあああああ!」
己の積み重ねてきた力を余すことなく振い活路を抉じ開ける。それがメタルドーパント――堂本剛三の生き方であり、戦い方であった。
横殴りに振るった鉤爪がクラブドーパントの首を狙う。クラブドーパントはそれを閉じたハサミを盾のように防ぐ。
火花を散らし止められるが、メタルドーパントは鉤爪を押し当てたまま、クラブドーパントの肩を空いている手で掴み、引き寄せると膝を腹部に叩きつけた。全身を鋼鉄で覆うメタルドーパントの膝は破砕槌のようにクラブドーパントの腹部の甲殻を砕き、軋ませる。
しかし、クラブドーパントも黙って攻撃を食らってばかりではなく、鉤爪を押し当てられていたハサミを振るい、鉤爪を持つ手を弾き上げる。クラブドーパントは、ハサミを開くと弾き上げられた腕を挟み、万力のような力で締め上げる。
「ぐっ! このやろう!」
メタルドーパントの鋼鉄の肉体により切断まではいかないものの、ハサミはメタルドーパントの腕の肉を少しずつ潰しながら食い込む。腕に力を入れて抵抗するが、それすら些細な抵抗と笑うように相手はギリギリとメタルドーパントの腕を両刃で締め続ける。
「ならよぉ!」
メタルドーパントの右足がクラブドーパントの足首を払うと、僅かの間クラブドーパントの体が宙へと浮く。
「しっかり掴んでろよ!」
掴まれた腕を無理矢理捻る。捻ってことで挟まれた腕は抉れていくが、メタルドーパントは躊躇をしない。クラブドーパントは宙へ浮いた不安定な状態から掴んでいた腕が捻られたことで体勢が反転、頭が地面へと向けられた状態になる。
「うおらあああ!」
ありったけの力を乗せ、杭でも打ち込むかのようにクラブドーパントを頭から叩きつけ、地面を粉砕し破片を散らす。
「ッ!」
流石のクラブドーパントも無事では済まないのか、メタルドーパントを掴んでいたハサミが離れ、また衝撃で息の塊を吐き出したっきり声すら出すこともできない様子であった。
地面に倒れたクラブドーパントの首を掴むと、その体を持ち上げる。
鉤爪を構え、クラブドーパントの頭へ狙いを絞る。短時間で傷を修復しようとも頭を潰されれば終わりだと判断しての行動。
ダラリと力無く四肢を垂らしているクラブドーパントに抵抗する意思は見えない。この機械を逃す筈もなくクラブドーパントの頭へ鉤爪突き出した。
キィィィィィィン
「なにぃ!」
突き出した鉤爪を左右から挟みこむようにして止める二本の爪のような物体。それはクラブドーパントの脇腹から生えている。
「蟹の足って何本か知っています?」
今まで沈黙していたクラブドーパントが言葉を発すると更に両脇腹から一本ずつ蟹の足が生え、メタルドーパントを捕えるとクラブドーパントに密着するように引き寄せた。
「ぬお! 離せ! この野郎!」
「すぐに離れますよ」
クラブドーパントの体が一瞬で白く変色。そして、背中を突き破り、真新しい状態のクラブドーパントが姿を現す。
「このぉ!」
捕まえようと必死に手を伸ばすが、僅かに指先が触れる程度で捕まえることは出来なかった。
「!」
「これでどうです?」
完全に脱皮をし終わると同時にメタルドーパントに向けて放たれた無数の泡。身動きを封じられ、自由に動けないメタルドーパントに避ける手段は無く、泡が触れたとき爆発がメタルドーパントを包み込んだ。
室内になる爆音。
音の余韻がまだ残る中、爆発の影響で地面は陥没し、土煙が舞い上がっていたが、それも次第に収まり爆発の中心に影が現れる。
「ってぇなあ!」
「本当にタフですね、あなたは……どうすればそんなに頑丈になれるのだか……」
煙から姿を現したメタルドーパントにクラブドーパントは呆れ混じりで愚痴るように言う。
しかし、メタルドーパントは五体満足ではあるが、金属が溶けたような傷や深く抉れた傷が何ヵ所も有り無事とは言えない状態であった。
メタルドーパントは爆発する直前に全身に力を込めることで硬直させ、相手の攻撃を受けきるように守りを固めた結果である。しかし、まだドーパントの能力を得て数十分しか経ってないメタルドーパントは自分の能力を完全には把握しておらず耐えきれるかどうか分からない殆ど賭けのような行動であった
首を軽く回して鳴らし、メタルドーパントは未だに萎えない闘志を全身から滲ませ構える。
クラブドーパントも傷付いたメタルドーパントに対しても甘く見ることなく半身に構え攻防どちらにも対応出来るハサミを前方に出し隙の無い体勢を造る
「へっ! なげぇ戦いになりそうだぜ」
奇しくもここと離れた場所にいる仲間と同じ言葉を呟くとメタルドーパントは地を踏みしめ、一切の躊躇いも迷いも無く駆け出していった。