仮面ライダーエターナル―NEVER SIDE STORY―   作:K/K

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Mの剛力/堂本剛三の章その1

 途切れることなく流れ続けていく川の中で絶え間なく水泡が生まれ、弾けては消え、弾けては消えていく。ゆらゆらと揺れていく川、そのすぐ側にはコンクリートで固められた足場があった。

 そこには三人の男性が立っており、皆が揃って同じ黒のスーツを身に纏っていた。

 一人は三十代ぐらいの男性、毛髪一本もないほどに丁寧に剃り上げられたスキンヘッドが目立ち、空を見上げながら煙草を吹かしていた。

 もう一人は煙草を吸っている男性と同じぐらいの年齢で、ただジッと海面をつまらなさそうに見ていた。そして、最後の一人は一番若く二十代半ばといったぐらいの年齢で双眼鏡を構えて、ある一点を見続けていた。 三人ともが全く別々の行動をとっており、双眼鏡を覗いている男性を除き、他の男性には覇気が感じられず気だるそうな雰囲気を滲ませていた。

 

「あー、まだ来ないかー」

 

 海面を見ていた男が退屈そうな口調で、顎に生えた無精髭を撫でながら双眼鏡を覗いている男性に聞く。

 

「あー、まだです」

 

 若い男は双眼鏡を覗いたまま、素っ気なく答える。

 無精髭の男は、ハァと溜め息を吐いて腕時計を見ると再び溜め息を吐いた。

 

「おせぇなおい……本当に来るのか……なぁ、来るのか?」

 

「知りませんよ……情報持ってきたのは貴方でしょうが……」

 

 無精髭の男の問いに若い男は呆れたような口調で返した。

 

「偵察専門の奴らから聞いた確かな情報なんだがな……こうも遅いと心配にならねえか?」

 

「そりゃ分かりますが、だったら最初に言ったみたいにうちの連中を使って逐一連絡する方法をとっていいたら……」

 

「あー、ダメダメ」

 

 若い男の言葉を手を振りながら即座に却下する。

 

「マスカレードの連中なんてすぐ死んで消え失せていくのがオチだよ。所詮数合わせみたいなのが仕事みたいな奴らだし」

 

 無精髭の男は、今ここにいない人物たちに向けた、容赦の無い辛辣な言葉。

 

「今回の被害を知ってるか? 製品のガイアメモリの使用を許可されている奴らが六人、マスカレードの連中はその数倍だぞ? 墓石と墓穴がいくつあっても足らねぇよ」

 

「だが、死んだ後には塵一つ残らず消えるのが一番の長所だ」

 

 処理が楽で済む、と今まで会話に入ってこなかったスキンヘッドの男がボソリと呟くように言う。

 

「まあ、確かに」

 

 スキンヘッドの男の言葉に同意して、無精髭の男は愉快そうに笑った。

 

「……あいつらが聞いたら泣くな……」

 

 溜め息を吐きながら、双眼鏡を覗き続ける若い男。

 

「……あ」

 

 若い男が小さく声を洩らすと、少し間を置いた後に鼓膜を震わすような爆発音が、三人の耳に届く。音自体は大きなものではなく、遠く離れた場所で爆発したのが分かる程の音量だが、双眼鏡を覗いている男以外の視線を向けさせるには十分であった。

 

「どうなってる?」

 

 先程まで浮かべていた笑みはなりを潜め、変わりに眼光鋭い仕事をする男の表情が浮かぶ。スキンヘッドの男も吸っていたタバコを捨て足で揉み消して、双眼鏡を覗いている男に注目する。

 

「情報通りに来ましたよ。数は二人。一人はドーパント──あいつらの一人が変わったものだと思われます──そしてもう一人は、やはり情報通り仮面ライダーです」

 

「はっ! この街の噂のヒーローさんの登場か、こりゃ仕事が無くなるかもな」

 

 若い男の言葉を聞き、楽しげな口調で冗談ぽく言うが、言った本人の目は一切笑っていない。

 

「あっ! 一人増えましたよ。バンダナを巻いた男です」

 

 若い男は、自分の見ている光景を逐一、報告する。

 双眼鏡の向こうでは、黒のジャケットを身に纏い、頭にバンダナを巻いた筋肉質な男が、自分の背丈程ある棍を振り回して、左右二色のヒーローに襲い掛かっていた。

 

「なんか生身で仮面ライダーと戦っているんですけど……人間ですかね?」

 

「知らねぇ。一応生体改造に近い処理を受けている連中らしいが……」

 

 双眼鏡の向こう側の光景に、何とも言えない表情を浮かべる。

 

「あ……投げられた」

 

「死んだか?」

 

 無精髭の男の言葉に首を左右に振って否定する。

 

「生きてますが……何か変な方向向いていた腕を無理矢理治してました」

 

「さっすが! 不死身の傭兵部隊と呼ばれることはあるな、タフだ」

 

「そういう問題じゃ……あ」

 

 若い男の間の抜けた声に、無精髭の男は片眉を上げる。

 

「どうした?」

 

「え〜と……その……あの……」

 

 しどろもどろになっている若い男。双眼鏡を覗いたまま言葉を必死に選んでいた。

 バンダナの男が地面から何かを拾ったかと思えば、いきなりジャケットを脱ぎ、上半身を晒したかと思えば、その全身に鈍色の光が覆い尽くすと、鉄片のような物体が周囲に現れ、男にと張り付いていく。

 全て張り付き終わると、そこには鋼鉄の彷彿とさせる外見の鈍色の異形が立っていた。楕円状の顔は左右非対称になっており、右半分のみにある目が紅く輝いていた。

 バンダナの男がドーパントへと変貌したことに驚きを隠せない若い男であったが、更に別の場所から突然、もう一体のドーパントが現れた。

 

「あの……バンダナの男がドーパントになりました……あともう一人金色の火星人みたいなドーパントも現れました……」

 

「ああ、そりゃまた」

 

「大盤振る舞いだな」

 

 無精髭の言葉の後を継ぐようにスキンヘッドの男が言葉をかぶせる。

 

「いやいや、そんな落ち着いている場合じゃないでしょ」

 

 若干焦ったように言う若い男。実際彼が聞いた情報には、この二名のことは含まれていなかった。

 

「いやー、組織といってもうちの情報網も結構ザルだな」

 

「これといって情報戦を行う相手がいないからな。その辺の人材はまだまだ何だろう」

 

「まあ、あいつらをうちらの庭の中に入れちまった時点でアウトか。とりあえずこの情報くれた奴には後で灸をすえないとなあ?」

 

「ある程度は加減しろ。死んだら二度手間だ。あと多目に見てやれ、こちらの情報網の狭さも問題だ」

 

 焦っている若い男とは逆に、二人の男は余裕のある態度で淡々と会話をしている。

 

「あの……いいんですか? 当初の予定じゃ、戦って弱ったところを一対三で倒すはずだったはずですけど……このままだと三対三の戦いになりますよ」

 

「仮面ライダーの様子は?」

 

「三対一で押されてます」

 

 そうか、と呟くと無精髭の男はおもむろに立ち上がり、双眼鏡を覗いている男の隣へと並ぶ。

 

「やることは変更なし。このまま、まとめてあいつらを殺るぞ」

 

「勝算は?」

 

「ないな、まあある程度は何とかなるだろ」

 

 無精髭の男の言葉に若い男はガックリと肩を落とす。

 

「貴方のそういうポジティブな所は尊敬しますよ……絶対に見習いたくはありませんが」

 

「だが、指をくわえて見ている訳にもいかない」

 

 いつの間にかスキンヘッドの男も隣へと並んでいる。

 

「ミュージアムに対して奴らは少人数で挑んできた。普通ならば自殺行為だ。だが、この街での奴らの行動には妙な自信のようなものを感じる」

 

「自信……ですか?」

 

 神妙な若い男の声にスキンヘッドの男は頷く。

 

「奴らは俺達〈ミュージアム〉に対抗出来る手段があるかもな……あくまで勘だがな」

 

「勘ですか……」

 

 双眼鏡を覗いたままの状態で、スキンヘッドの男の言葉を噛み締めるようにして呟く若い男。

 スキンヘッドの男に何かを言おうと口を開きかけたとき、双眼鏡の向こうで、飛び上がった仮面ライダーが、金色のドーパントの長く伸びた腕に叩き落とされた所を赤い女性型のドーパントの放った炎によって吹き飛ばされ宙にと舞っていく。

 

「仮面ライダーがピンチみたいですね。どのタイミングで行き──」

 

「今から。お前アイツらを惹き付けておけよ」

 

「──は?」

 

 このとき初めて双眼鏡を覗くのを止め、どういうことかと無精髭の男に尋ねようとしたが、時既に遅し。

 二人の男はガイアメモリを取り出すと、それを起動させると同時に走り出し、無精髭の男は、右コメカミに設けられた生体コネクタに差し込み、スキンヘッドの男は喉元にある生体コネクタに差し込むと、そのまま水の中に飛び込み姿を消した。残ったのは双眼鏡を片手に、男二人が盛大に上げた水しぶきのせいでズブ濡れになった若い男の呆然とした姿のみ。

 若い男は数秒ほど魂の抜けたような状態になっていたが、意識を取り戻すと長く重い溜め息を一つ吐き、スーツの内ポケットから紅色のガイアメモリを取り出した。

 

「……とりあえず行くか」

 

 はあ、ともう一度溜め息を吐くとガイアメモリを起動スイッチを押し、右手の中央に刻まれた生体コネクタに差し込みながら、水面へと飛び出していった。

 

 

 ◇

 

 

「あ〜、いっちゃった……」

 

 金色の軟体生物のような姿をしたドーパント──ルナドーパントの変身者である泉京水は、大空を飛んでいく自然現象ではまずありえない小規模かつ局地的に発生した翡翠色の竜巻を見ながら残念そうに呟く。

 

「ったく、どうなってんだよ」

 

 鈍色の体を持ったドーパントが、不満を漏らすと光が体を包み、それが消えると人間の姿へと戻っていた。

 

「せっかくメモリを手に入れたっていうのによぉ、これじゃあ収まりがつかねえぜ」

 

 手に持ったモノ──T2ガイアメモリを握りしめ、不完全燃焼だったと言わんばかりの表情を浮かべる。

 

「まあ、いいんじゃない。うちらの目的のモノも手に入れられたし、倒すよりもそっちが重要でしょ、剛三?」

 

 真紅の炎のような印象を与える赤のドーパント──ヒートドーパントも男と同様に変身を解き、長髪の若い女性──羽原レイカの姿へと戻った。

 剛三と呼ばれたバンダナの筋骨隆々とした男──堂本剛三は、レイカの言葉に「分かってはいるんだがな……」と返すが、やはり表情から不満の色は消えない。

 

「もう! 仕方ない子ね剛三は! ならその不満アタシが解消してあ・げ・る!」

 

 いつの間にか変身を解除したルナドーパントが本来の人間の姿になって後ろから剛三の両肩に手を置いた。

 

「だぁー! 離せ京水! お前が言うと何か変な感じになるだろうが!」

 

 勢いよく両肩を上げると肩に手を置いた男──泉京水は、剛三にやや劣るも立派な体格を女性的にクネらせながら、いやん、と言いながら手を離す。

 

「変な感じって、どんな感じ! どんな感じ! さあ、言って見なさい! アタシをどう感じたのか言葉で言って見てちょうだい!」

 

 興奮したかのように言葉を捲し立てる京水に、剛三は呆れと疲れを混ぜたような表情を浮かべ、レイカは溜め息を吐く。

 

「何言ってんだか……克己を待たせているんだからとっと行くよ、オッサン」

 

 レイカの言葉が京水の耳に入った瞬間、京水の首だけが、凄まじい早さでレイカに向けられる。

 

「ム、ム、ムキィィィ! 言ったわね! 純情なる乙女に対してタブーを言ったわね!」

 

 レイカの発言が心底気に触ったのか、顔を真っ赤に染めて抗議する──がレイカは馴れているのか、そんな京水の怒りもどこ吹く風といった様子で軽く流す。

 

「はいはい、悪かったねオッサンたち。じゃあ克己のとこに早く行くよ」

 

「また言ったわね! また言ったわね! 純情で華麗でどこに出しても恥ずかしくない乙女に向かって──」

 

「俺も入れるな! あと京水! いい加減黙ってろ!」

 

 互いに文句を言いながら、一先ずこの場を後にしようとする一行。そのとき、三人の背後でパシャリと水気を含んだような音が鳴る。

 音が鳴った瞬間、騒いでいた三人は電光石火の早さで背後に振り返り、各々が持つ武器を構える。

 レイカは、右足を半歩踏み出し、踵を浮かした状態でいかなる敵にも対応出来るように構え、京水は何処から出したのか、黒の革で造られた鞭をその手に握りしめ、剛三は手に持っていた棍を突き出すように構えていた。

 

「ああ、気持ちわる……」

 

 三人の前にいたのはずぶ濡れのスーツから水を滴らせ、気だるげな表情を浮かべた二十代ぐらいの男性。

 

「あら、意外と好みの顔かも、嫌い? 嫌いじゃない? むしろ嫌いじゃないわ!」

 

「どうもみなさん」

 

 騒ぐ京水を無視して若い男は、三人に対して普通に挨拶をする。

 

「誰だ、てめえ」

 

 棍を構えたまま警戒を解くことなく睨み付けながら問う剛三。

 

「まあ、何となくは察しがついていると思いますが、ミュージアムの者です」

 

 事も無げにさらりと返答する男。

 

「しつこいね、あんた達は何人消えればあきらめるんだろうね」

 

「まあ、敵を排除するまでは続くと思いますよ」

 

 相手の敵意ある言葉に淡々と答えるが、男の言葉にも隠しきれない敵意の色が滲み出ていた

 

「名前は! お名前は! 可愛い顔が濡れているのが、とてもそそるわ!」

 

「すいませんプライベートなことは勘弁して下さい。本当勘弁して下さい」

 

 京水の個性には流石に動じたのか顔ごと視線を逸らして答えていた。

 

「はっ! まあいい、出てきたんだからやることは一つだよな?」

 

 剛三はおもむろにジャケットを脱ぎ捨て、鍛え上げた上半身を晒す、それに伴い京水とレイカもT2ガイアメモリを取り出す。

 

「ええ、こちらもそのつもりです」

 

 男もまたガイアメモリを取り出す。紅色のケースに中央には「C」の文字。

 そして、男はガイアメモリを起動させ、右手に差し込もとするが、何かを思い出したのかようにその動きが止まる。

 

「ああ、いい忘れていましたが、別に一対三でやるつもりはありませんから」

 

 その言葉が切っ掛けとなって、剛三たちの足元が急激に震え始める。

 立っていられない程の震動。だが、数メートル先にいる男は微動だにしていない。

 

「何しやがった!」

 

 吼える剛三に男は微かに笑みを浮かべる。

 

「何もしてませんよ。これから何かが起こるんです」

 

 ピシリ、と剛三たちの周りの何か所か亀裂が入る。

 それが何かと疑問に思った時には更なる変化が剛三たちを襲う。

 ゴォォ、という轟音が響くと亀裂が更に大きく裂け、そこから天に向かって水が昇っていった。

 高さは数十メートル、幅は少なくとも人間が余裕で入る程の大きさの水柱、それが三人を囲んでいくつもある。

 

「ちぃ! やっぱり何かしてるじゃねえか!」

 

 そう言い男に向かって疾走する剛三、だがそこに京水鋭い声がした。

 

「駄目! 避けて!」

 

 京水の声が剛三の耳に入る。それと動じに感じる右側面から迫る悪寒。剛三は反射的に棍で防御の姿勢をとっていた。

 構えた剛三に迫る悪寒の正体は、いまだ噴出し続ける水柱の側面から新たに噴射された大量の水。

 鉄砲水のように何百リットルの水が剛三に圧力となって呑み込もうとした。

 

「ぐっ! らあああ!」

 

 両腕にかかる骨が押し潰されそうな力、両脚にかかるどんなに力を込めても嘲笑うかのように後退させていく、歯を食い縛り、その圧力に膝を屈しないように必死に耐える。しかし──

 

「我慢比べはそこまでですよ」

 

『CRAB』

 

 剛三の背後から聞こえた囁く声と電子音声。

 次に感じたのは、胴体を突き抜けていく衝撃。そちらに意識が向いてしまったことで僅かに水流を防いでいた剛三の棍握る手が緩む。

 その隙を逃さないかのように水の圧力は剛三の手から棍を無理矢理引き離し、何処かへと飛ばしてしまった。

 剛三の視線が飛ばされた棍に追う前に根のように踏み締めていた足が地面から離れていくのを感じ、視界が百八十度反転したかと思えば、近くの建物の壁を突き破って中を転がっていた。

 しかし、すぐさま立ち上がり構えたが、一瞬顔をしかめ口から何かを吐き捨てた。

 

「塩辛ぇ……こいつは海水か……」

 

 口の中をヒリつかせる塩気と濡れた体から漂う潮の香り。あの巨大な水柱は全て海水だったらしい。

 

「あー、ピンピンしてますね……離れた所から見ていましたが、本当に頑丈ですね」

 

 感心した言葉を言いながら、一体の怪人が剛三の前に姿を現す。

 その姿は甲殻類の蟹と酷似していた。

 赤銅色の甲殻で覆われた全身は、生物特有の無骨があり鎧を彷彿とさせ、右手は手首から先が大きく変化しており、地面に擦れる程の長さと大きさを持ったハサミとなっていた。

 頭部からは、触角のような器官が生えており、両目もゴーグル状に変わっており、生物と非生物のような特徴的な外見をしていた。

 

「へっ! たかが一発喰らったぐらいでどうにかなるとでも思ったか、この蟹野郎」

 

「他の二人と離れさすのが本来の狙いでしたが……お望みならどうにかなるまで攻撃してあげましょうか?」

 

 剛三の挑発に同じく挑発で返す異形──クラブドーパント。

 剛三は、ハッと笑うと手に持ったT2ガイアメモリのを起動させる。

 

『METAL』

 

「やってみろ、俺に殻ごとぶっ潰される覚悟があるならなぁ!」

 

 手に持ったガイアメモリを放ると、見えない力に操られ剛三の背中に刻まれた生体コネクタへと吸い込まれる。

 

「しゃああああああ!」

 

 咆哮とともに、その肉体は文字通り鋼の肉体へと変化。

 鋼鉄と闘士の記憶から生み出された怪人──メタルドーパントは力強く拳を握りしめると、大きく振りかぶるとクラブドーパントに一直線に飛び掛かった。

 

 

 ◇

 

 

 新たな変化が起きたのは、敵によって剛三の姿が視界から消えたときに起こった。

 京水たちが剛三の後を追うよりも先に、京水たちを囲むように地面に亀裂が入り、そこから再び水が噴き上げた。

 

「今度は何?」

 

「あら?」

 

 異変を察知し、ただちにこの場から離脱しようとするが、水柱から飛び出してくる水がそれを拒み、足止めをする。

 今度は水柱のような状態ではなく幕のように薄く、向こう側が透けて見えるほどであったが、噴き上げた水は落ちることなくどんどん上昇していき、ある高さまでいくと空を囲み、ドーム状になり完全に外と隔離された状態へとなった。

 それ合わせて今まで轟音を上げていた水柱は消え、後には二人の脛辺りまでを浸すほどの水を残していった。

 大きな音が消えたことによって、周囲がやけに静かに感じてしまう。

 

『HEAT』

 

『LUNA』

 

 メモリを挿し込みドーパントへとその身を変える二人。姿を見せない人物が放つ肌を粟立たせるような感覚が、静寂した空間に満ちているからこその行動。

 

 フシュウウウウ

 

 前触れもなく、何もなかった筈の水面から突如として黒い煙のようなものが噴き出して二人を覆い尽くした。

 

「……毒ではないね」

 

 視界が悪くはなったが、息苦しくはなく、普段通りに呼吸が出来る。ただ、この黒い煙は何故か生臭い匂いを含み、それが鼻につく。

 

「!」

 

 背後から来た気配に咄嗟にヒートドーパントは振り替えるが、だがそこに立っていたのは腕を震わせているルナドーパント。

 

「……紛らわしいからジッとしてなよ。京水」

 

 呆れた声を出してヒートドーパントは、前に向き直る。

 それを見たルナドーパントは鞭のような腕を振り上げると、ヒートドーパントの背中目掛け無言で振り下ろした。

 

 


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