仮面ライダーエターナル―NEVER SIDE STORY―   作:K/K

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Eの開戦/大道克己の章その1

 一人の男の足音がアスファルトの上をコツコツと一定のリズムを刻み鳴り響く。

 周りには年季の入ったビルが建ち並ぶため、太陽の光が当たり難く薄暗い場所になっている。

 陽の光が当たらないため、やや湿気の帯びた空気の中、男は淀み無く歩き続ける。

 男は、赤のラインが入った黒の革製のジャケットと、同じく黒のズボンを身に纏い、そして先程からアスファルトを叩く靴は、市販されているものではなく、靴底に鉄板が入っているような、装飾を一切省き、機能のみを重視した革靴を履いている。また頭髪の一部を青く染め上げ、特徴的なものとなっている。

 そして、最も目につくのはジャケットと左胸と背中に描かれた紋章である。そこには、林檎を突き刺した剣、それを取り巻く四匹の蛇があった。

 男は、どんどんと人気の無い方へと足を進めていく。薄暗い道を抜けた先にあったのは、開けた空間と朽ちた建物があった。かつては工場だったのであろう、そういったものを連想させるような残骸があちらこちらに置かれていた。

 大きく開かれたシャッターの奥には、かつては使われていただろうと思われる資材、塵や埃にまみれたガラス窓やそれが砕けたガラス片が散り、もう何年も人が使用していなかったことが一目で分かる。

 男は、躊躇うことなく廃工場の中へと入っていた。

 破れた天井からは幾筋の光が射し込み、工場内に舞い上がっている埃を浮かび上がらせている。

 工場内の中心に当たる、広がった空間に差し掛かったとき男の歩みは止まる。

 その瞬間、工場内に無数の人間が一気に駆け込んできた。年齢はバラバラだが全員が黒のスーツで統一した格好をしている。

 男達は、一糸乱れぬ動きで、先に工場内に入った男を包囲する。その数二十人以上。

 

「よお、随分と豪勢に歓迎してくれるな。さすが、自分たちの庭なだけはあって行動が早いな」

 

 大勢の人間が自分を囲んでいるという状況にも関わらず、男は知人にでも話し掛けるかのような軽い挨拶する。しかし、言葉とは裏腹にその表情は、口の端を吊り上げた不敵な笑みを浮かべ、間違っても知り合いに向けるような顔ではなかった。

 

「大道克己だな……」

 

 囲んでいる黒服達の中から少し離れた場所にいる、三人の男うち、真ん中にいる男が表情に不快感を表し、苦り切った口調で言う。

 

「来た早々、随分と派手な真似をしてくれたな……」

 

 二十人を越える殺気に満ちた視線が大道克己と呼ばれた男に集中するが、当の本人は全くといって言い程に動じた様子も無く、涼しげな態度をとっている。

 

「死に損ないの傭兵風情が、あれは我々ミュージアム相手に挑発のつもりか……」

 

 自分たちをミュージアムと呼ぶ黒服の男達のリーダー格に当たる男の怒りを滲ませた声。それに対して克己は──―

 

「お前はパーティーを始める前に何をする?」

 

「……何だと?」

 

 突然関係の無い話を振られ、リーダー格の男の疑問の声が洩れる。

 

「パーティーを始める前にすることだよ」

 

 口の端を吊り上げた皮肉に満ちた笑みを浮かべる克己。男達は、相手の意図が分からず互いに顔を見合わせる。その様子に克己はやれやれ、といった感じで肩を竦める。

 

「パーティーを始めるには、いつだってクラッカーを鳴らして祝うもんだろ?」

 

 克己の言葉を聞いた瞬間、リーダー格の男の額に青筋が浮かぶ。

 

「貴様は……あのヘリの爆破が……それだと言うつもりか……!」

 

「まあ、あれは少し予想外だったがな。もっと別の方法で派手にいきたかったんだが……あれじゃ始まりを祝うには少々地味過ぎる」

 

 怒りに満ちた言葉に、困った困った、といった感じ返す克己。火に油を注ぐような言葉に、リーダー格の男を含め、黒服達のボルテージが一気に上昇する。

 

「これ以上の会話は不要だな!」

 

 男の言葉を合図に、克己を囲む黒服達は、懐から一斉に共通した物体を取り出す。長さは数センチ程度の長方形の形をし、パソコンなどで用いられるUSBメモリに酷似しているが、ケースは骨のような装飾が施され、中心には仮面の形を使って『M』の文字が描かれている。

 

「殺れ!」

 

『MASQUERADE』

 

 金属端子付近にあるスイッチを指で押すと共に発せられる電子音声、と同時に男達は一斉にそれを首筋に押し当てる。

 押し当てられたメモリは、溶け込むように肉体へと吸収され、男達の肉体を変化させる。

 顔から頭部にかけて覆うように黒く仮面のように変化し、顔の中心には背骨のようなラインが走り、それを中心に幾筋の白い骨のような線が装飾のように顔全体に施されている。

 人間から怪人へと変化した黒服達。しかし、克己の余裕に満ちた態度は崩れない。

 

「早速、ガイアメモリを使ったか。いいだろう、相手をしてやる」

 

 挑発的な言葉と共に、ジャケットの内から一本のナイフを取り出す。

 取り出されたナイフは刃渡り15センチ程、装飾など一切無い、実戦を想定して作られた両刃のダガーナイフである。

 

「来い、せめて退屈だけはさせないでくれよ?」

 

 右手にはナイフを持ち、左手は挑発するように手招きをする。完全に相手を見下した行為、マスカレードたちは殺気を一層強め、両足に力を込め一気に克己に襲い掛かった。

 全方向から迫るマスカレード。最初の一撃は、克己の正面から来る。通常の人間よりも優れた肉体から繰り出されるマスカレードの右ストレート。克己の顔面目掛け繰り出されるが──―

 

「はっ!」

 

 捉えたと思えた一撃は、克己の頭があった場所を通過していた。既に克己は頭のみを傾け、回避をしていた。そのまま、反撃の一発が克己の左手から放たれる。拳が唸りを上げるような勢いのまま、マスカレードの脇腹を直撃。若枝が折れるような音とともにマスカレードの体はくの字に折れる。

 悲鳴すらあげられないまま倒れこむが、トドメを刺す前に、別のマスカレードの蹴りが克己を狙う。が、殴ったままの姿勢から放たれた克己の横蹴りが、マスカレードの胸部にめり込み後ろへと吹っ飛んでいった。

 息つく暇もなく背後から襲うマスカレードたちがチャンスだと言わんばかりに迫る。その数四人。

 前方に意識が向いているうちに攻撃を与えようと拳を振り上げるが──―

 

「遅い」

 

 放つよりも先に克己の振り向きざまに出されたナイフの刃がマスカレードの首筋に刺し、そのまま引き抜く。

 

「……! っ……!」

 

 喉をやられ、溺れている人間のように手をバタつかせ崩れ落ちる。仲間がやられたのにもかかわらず、それを無視しマスカレードたちは克己を襲うが、飛び掛かってきた一人の顎を鞭のようにしなる左のバックブローが捉え、直撃すると同時に殴られた勢いのまま地面のコンクリートに頭から叩きつけられる。

 克己は地を蹴り、マスカレードの一人を襲う。マスカレードを越える身体能力から生まれる脚力は、マスカレードに防御の暇すら与えず、懐に簡単に入らせてしまう。勢いを殺さぬまま克己のナイフがマスカレードの心臓を貫き、ナイフを引き抜くとそのまま近くにいたマスカレードの喉を切り裂き、血の華を咲かせる。致命傷を受け絶命するマスカレードたち。すると突然、体が内側から爆破されたかのように弾け飛び、塵芥も残さずに消え失せた。

 克己の視界の端にあるものが入る。拳銃を構え、こちらを狙うマスカレードたちの姿。

 銃弾が放たれる直前、最初にあばら骨をへし折られ、地面で痙攣を起こしていたマスカレードの襟首を掴み上げ、拳銃の射線上に突き出す。

 マスカレードたちの放った弾丸は、克己に盾にされた同じマスカレードの体に命中。弾丸が体内に入る度にマスカレードの体はビクン、と跳ね上がり、そのまま倒れてしまいそうになるがマスカレードの襟首を持つ手は緩まず、それを許さなかった。

 無数の弾丸を浴び、今にも他の死体と同様に塵になって消えて無くなる直前、克己の右足がマスカレードの背中を蹴り飛ばす。

 重力を無視したかのような地面と水平な軌道を描き、銃弾を撃ち続けているマスカレードたちに向かって飛んで行き、マスカレードたちと接触した直後、その体を爆散させた。

 同じマスカレードの爆発により、思わず両腕で交差しし顔を覆うようにしてそれを防ぐ。がそれにより克己の姿を視界から外してしまう。

 慌てて克己の方を見るマスカレードたちだが、先程まで克己のいた場所には姿が見当たらなかった。

 

「上だ!」

 

 リーダー格の男の取り巻きの一人の怒鳴り声に反射的に上を向くマスカレードたち、しかし──―

 

 果実が潰れたような音。

 

 マスカレードたちの一人の顔面を靴底で踏みしめ地面に叩きつけると同時に砕きながら克己は着地する。

 克己は、拳銃を持ったマスカレードたちが目を外した瞬間、マスカレードたちの頭上へと跳躍、そのままの流れで一人始末したのである。

 着地したのと同時に直ぐ隣にいたマスカレードの心臓に逆手に持ったナイフを突き立てる。一瞬にして二人のマスカレードを始末する。

 残る一人を始末しようとしたとき、何処からか発せられた銃声とともに克己の体が一瞬震えた。

 少し離れた場所で地面に座った状態から拳銃を構えたマスカレードの姿があった。

 克己のジャケットの左胸には空いた穴、始末しようとしたマスカレードが放った銃弾が命中した証拠であった。常人ならば死んでもおかしくない状態。

 

「残念だな。心臓はもう少し右側だ」

 

 しかし克己は、何事も無かったかのようにマスカレードの方に顔を向け、ニヤリと笑いながら指先で撃たれた箇所をトントンと叩く。

 慌てて次の弾を撃とうとするマスカレード。だが──―

 

「ガァッ!?」

 

「覚えておけ。そこが心臓の位置だ」

 

 ──―引き金を引くよりも早く、克己の投擲したナイフがマスカレードの左胸を貫いていた。

 

「チッ! この死に損ないめ……」

 

 マスカレードたちが次々と殺られていく光景に舌打ちと共に、呪詛のような言葉がリーダー格の男の口から洩れる。

 戦闘が始まってほんの数分足らずで、初めにいたマスカレードの約三分の一が克己の手によって葬られていた。

 

「……あまりコレは使いたくは無かったんだが……仕方ない」

 

 リーダー格の男がそう呟くと左右にいる取り巻き二人に視線を送る。その視線の意味を理解したのか二人は無言で頷く。

 三人はそれぞれスーツのポケットからマスカレードたちが使用したガイアメモリと同型のモノを取り出す。形は似ているがマスカレードたちの使用したモノとは少し違い、マスカレードのガイアメモリはケースの中央に仮面の形を使って『M』の文字を現していたが、三人のメモリはそれぞれ異なる生物が『M』『A』『T』の文字を現していた。

 

『MAMMOTH』

 

『AMMONITE』

 

『TRILOBITE』

 

 ガイアメモリ下部に設置されているスイッチを押すことで発せられる電子音声。そしてそのまま三人は、右首筋に浮かび上がる回路図のような痣に差し込む。

 体内へ吸い込まれていくガイアメモリ。

 地球の記憶から作り出されたガイアメモリは、その内部に蓄えた情報を放出し、人間を越えた存在、ドーパントへと変化させる。

 三人の全身を光の膜のようなものが包み込み、それが消えたとき三体の異形がそこにいた。取り巻きのうちの一人は、半月状の頭部に触覚を生やし、全身を分割するような甲殻で覆った三葉虫に酷似した姿になり、もう一人は、体の半分以上が中心に向かい螺旋を描く貝の殻のように変化し、人間でいう腹部の辺りに何十本の触手と眼球がある。古代に生息したアンモナイトという生物に手と足を無理矢理付け加えたような外見をしていた。

 リーダー格の男は、全身を赤茶色の長い体毛で覆われ、腕や足が人間だったときの二倍程の太さとなり、顔の中央からは地面に着いてしまいそうなほどに長く伸びた鼻、その付け根の辺りからは弧を描く白い牙を伸ばしている。その姿は古代に生息し、既に絶滅したマンモスそのものだった。

 

「貴様を排除するのに製品版のガイアメモリの使用を許可されている。死人は大人しく土に還るんだな」

 

 くもぐったような声で話すリーダー格の男改めマンモスドーパント。その言葉の中には優越感のような響きがあった。

 

「ようやく本腰を入れてきたか……」

 

 三体の異形に対し鋭い目線を送る克己。先程まで浮かんでいた笑みは消え失せ、戦う者としての表情が浮かんでいた。

 

「例え『NEVER』でもドーパントには勝てない。それはお前自身が分かっている筈だが?」

 

「確かにな……」

 

 マンモスドーパントの挑発的な言葉に対して意外なことに肯定で返す克己。

 

「だが……」

 

 言葉と同時に左手を懐に伸ばし、中から何かを取り出した。

 

「ただの『NEVER』だったらの話だ」

 

 懐から出したそれは、一見すればバックルのようにも見えたが、機械的なフォルムをし、中央の右側だけにL字状の挿し込み口を付けられた左右非対称の物体である。しかし、それを見たマンモスドーパントから驚愕に満ちた声が漏れる。

 

「バカな……!? ロストドライバーだと!? 何故だ! 何故『NEVER』のお前がそれを持っている!」

 

 ロストドライバーと呼ばれたそれを腹部に当てると右端からベルトが表れ、ぐるりと一周し固定する。

 

「答える義理も義務も無いな。だが一つだけ教えてやる」

 

 克己の右手には、いつ出したのか白色のケースに『E』の文字が刻まれたガイアメモリらしきものがあった。ミュージアムたちが使用したガイアメモリとは違い、ケースには骨のような装飾が無いシンプルで洗練されたものになっており、金属端子部分もマスカレードたちやマンモスドーパントたちとは違い、青い金属で出来ていた。

 

「ガイアメモリもだと……!?」

 

 呻くように呟くマンモスドーパント。

 

「今の俺は『NEVER』でもあり、そして……」

 

『ETERNAL』

 

「仮面ライダーだ」

 

 ガイアメモリのスイッチを押すとともに鳴り響く声。

 

「変身」

 

 ロストドライバーのスロットに挿し込み、右手で払うようにして右側に倒す。

 全身を青い電流のような力が駆け巡ると同時に克己の体は作り替えられていく。全身を穢れ一つ無い純白の装甲のような姿へと変えられていき、額には山形の触覚が王冠のように創られている。

 白の装甲の上には、ガイアメモリを挿し込む為に造られたコンバットベルトが右胸と左胸、右腕、左脚に身に付け、更にその上に黒のローブを身に纏っている。

 眼は黄色の複眼へと変化、目頭の繋がった複眼は単眼にも双眼にも見え、妖しい輝きを放つ。

 大道克己の全てが変わったとき、変身によって生まれた力の余波が風を作り、黒のローブをなびかせる。

 

「仮面……ライダーだと……!?」

 

「そうだ。仮面ライダーエターナル。……それが俺の新しい名だ」

 

 誇るように自らの名を名乗る大道克己あらため仮面ライダーエターナル。

 そのとき、ううう、と呻くような声とともにマスカレードドーパントが頭を押さえフラフラとエターナルの方へと歩み寄っていった。

 それは、克己が最初の方で胸部を蹴り飛ばしたマスカレードドーパントであった。蹴られた勢いで地面に強く頭を打ち付け、今まで気絶をしていたのが今になって目を覚ましたのである。

 しかし、頭部への衝撃のせいで意識の方はハッキリとしないのか足取りはおぼつかなく、自分が何処に向かっているのかすら分かっていない様子である。

 

「おい! そいつに近づくな!」

 

 トリロバイトドーパントの荒げた声にマスカレードドーパントの足が止まる。

 

「え?」

 

 声の方に体を向けようとした瞬間、エターナルの右腕が一瞬消えた。

 消えたと同時にパァン、と弾ける音と一緒にマスカレードドーパントの頭部は消失、そのまま体も連鎖的に弾け飛んだ。

 目視出来ない程の早さで振るわれたエターナルの拳がマスカレードドーパントの頭部を砕き散らしたのである。

 その光景にマンモスドーパントたちは思わず息を呑む。

 エターナルはそのままマスカレードドーパントを瞬殺した右拳をマンモスドーパントたちに向ける。

 指先から肘まで青く燃える炎のような紋様を描かれた右拳は──―

 

「さあ、ミュージアムの諸君」

 

 ──―天に向かって親指を突き出す形となり。

 

「地獄を楽しみな!」

 

 宣戦布告とともに一気に下へと向けられた。

 

 


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